WHITE★CANDY
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#768 [ぎぶそん]
横山だった。
教室にいる皆の視線が彼に向けられる。
私は慌てて彼の元に行った。
「ちょっと、そんな大きな声で呼ばないでよ。皆の迷惑でしょ」
「例のあれ、桜井君にばっちり渡したけん」
横山が大きな目を細めてにんまりと笑う。
「桜井君、今週の日曜なら予定空いとうって。俺、彼のメールアドレスもゲットしちゃった」
彼が満面の笑みで自分のケータイをちらつかせる。
「何でそんなに嬉しそうなのよ」
私は彼を疑問視した。
「だって、俺ゲイやもん」
「え?そうなの?」
彼の意外な告白に、私は目を丸くした。
「嘘に決まっとうやろ、ヘテロや。でも、雨宮みたいな背の高い女はあんま好みやないっちゃけどな」
そう言い残すと、彼は大笑いをしながら教室を去っていった。
なかなか癖のある人物だけど、いい友達にはなれそうだ。
:12/05/05 02:47
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#769 [ぎぶそん]
その日の夜、部屋で本を読んでいるとケータイの着信音が鳴った。
相手が「もしもし?」と遠慮がちに話す。
優平だった。
「今日、横山って人から突然映画のチケット渡されたんだけど…」
彼が戸惑った声を出す。
私は咄嗟にところどころ嘘を交えながら彼に経緯を話した。
横山と親しくなり、偶然同じ映画の前売り券を持っていたのでそのまま意気投合したと。
七瀬玲央奈たちを避けたかったという話は、かえって彼に気を遣わせることになりそうなので言わなかった。
「直接渡してくれたら良かったのに」
「ああ。えーっと、今日は何か忙しくて……」
彼の純粋な問い掛けに、やや冷や汗が出る。
「分かった。じゃあ、また日曜日な」
その後お互い「おやすみ」と言い合った後、私たちは電話を切った。
久しぶりに優平と電話出来て嬉しかったな。
でもF組の女子を敵に回したくないし、しばらくは学校で会えそうにないな。
:12/05/05 03:15
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:PQ0W3.s6
#770 [ぎぶそん]
水曜日。リビングでテレビを観ていると、父のケータイが鳴る。
いつもみたいに会社からかなと思い、そのまま気にせずテレビを観続ける。
「はい、そうです。えっ……本当ですか!」
父の嬉しそうな声が聞こえ、思わずそちらに目をやる。
「真希、例の『パリの祝日』のイベントに当選したって!」
父が通話中のケータイを離し、私に声を掛ける。
「えっ!?本当に?」
あまりの驚きで一瞬、自分の中の時が止まる。
きっと、宝くじに当たった時ってこんな気持ちになるのだろうと思った。
父はそれから相手の話を従順に聞くと、深々と頭を下げながら丁寧に電話を切った。
「今週の土曜日、とりあえず衣装の寸法計りたいからスタジオに来てって」
相手に言われたことを私に説明する。
日曜日じゃなくて良かった、と一先ず安心した。
それからずっと、毎週欠かさず観てるテレビ番組の内容も全然頭に入らないくらい混乱していた。
:12/05/05 03:40
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#771 [ぎぶそん]
土曜日の昼前。衛星放送の会社の本拠地となるビルを目指して、父の運転で車を飛ばす。
あまり行きなれない土地だからか、父はカーナビの指示にも四苦八苦していた。
一時間ほどでビルに到着すると、エレベーターで七階まで上がる。
七階に着き、私たちはどこに行けばいいのか分からずにいた。
「あの、『パリの祝日』のイベントで来たんですけど…」
父がその辺にいた関係者らしき男性に尋ねると、その男性が快く説明をしてくれた。
そこから数十メートル先にある「第三会議室」という部屋に入ると、目の前に長机が広がり、既に来ていた他の参加者らが鉄パイプの椅子に座っていた。
私たち親子も空いてる席に腰掛けた。
机の上には人数分のペットボトルのお茶が置かれており、喉もひどく渇いていたのでさっそく開けて飲んだ。
そのまま手持ちぶさたで過ごすと、参加者となる残り二組の親子らも入ってくる。
:12/05/06 05:47
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#772 [ぎぶそん]
約束の一時を過ぎた頃、IDカードをぶら下げた三十代後半くらいの男性が入って来た。
窓際の席に座ると、手に持っていたプリントを私たち参加者に回す。
「参加者の皆さん、まず、当選おめでとうございます。そして、この度はわざわざ遠い所からお越しいただき有難うございました。私、この企画のプロデューサーを務める森部と言います」
その男性が、参加者に向かってはきはきと話し始める。
左手の結婚指輪はくすみがかっていて、着ているチェックのシャツもよれている。
まさしく“仕事人間”だと思った。
森部さんがこれからの説明をする為に、プリントに書かれてある内容を音読する。
今日は身体のサイズを計るだけで、イベントはまた一週後に行われる。
この場所に来るのにかかった交通費も全額支給するので、父親の皆さんには別の用紙に住所と近くの駅名を書いて欲しいとのこと。
:12/05/06 06:14
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:VESz4iG2
#773 [ぎぶそん]
森部さんの説明がだいたい終わると、今度は名字のアイウエオ順で寸法をとることになった。
一番最初は、「雨宮」の私たち親子。
隣の部屋に行かされ、そこにいた若い女性らに誘導されるがまま、まずは身長を計った。
次に、少しぽっちゃりとした女性が慣れた手つきで胸囲を計る。
お腹回りにメジャーが巻きつかれた時思わず凹ませたくなったが、衣装がきつくなると大変なので我慢した。
無言だったその女性が「お父さん、若いね。お兄さんみたい」とぽつりと口にした。
社交辞令かも知れないが、父の自慢はたまに二十代に思われることだ。
でも本人も気にするほどの薄毛だし、そのうち頭部全体が光沢を増すだろうなと思っている。
:12/05/06 06:39
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#774 [ぎぶそん]
作業は瞬く間に終わった。
「お疲れ様でした。では、出来上がった衣装を楽しみにしていて下さい」
スタッフの女性に扉を開けられ、その部屋を出る。
隣の部屋に戻り父が書類を書いた後、呆気ない気持ちを残したままビルを後にした。
「どんな衣装が出来るのか楽しみだなあ。しかし、今日は色んな親子がいたな。五歳くらいの娘さんもいたし、七十代くらいのお父さんもいた」
帰りの車内で、運転席の父がうきうきと会話を弾ませる。
その後近くの駅に車を止めると、駅の中の定食屋で昼食を取った。
東吾兄が来てから親子二人で外食する機会はなかったので、何だか懐かしくも感じた。
注文が来るまで、父と話し込んだ。
「城だけに、ジョージ国王だな」
「何のこと?」
「『パリの祝日』の父親の名前。父さんの名前と似てる」
父が誇らしげに語る。そう言えば、と今になって気づいた。
「父さんがもしあの映画のジョージ国王だとしても、娘の為なら職務ほっぽり出してでもパリの街を見せるだろうな」
「どうして?」
「娘のわがままには弱いからさ。あの映画、よく悲しい物語と言われるけど父さんはそうは思わない。あの親子にとっては国王としての地位より月並みな自由の方が幸せだろうから」
月並みな自由。私たちは当たり前のように色んな場所に行ったり遊んだり出来る。
そんな当たり前と思っていること、もっと幸せに感じたい。
:12/05/06 07:19
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#775 [ぎぶそん]
次の日の午後。以前、東吾兄と来たショッピングモールに来ていた。
今日は優平と横山と三人で映画を観る日。昨日横山からメールで指定された集合場所の広場で、二人が来るのを待つ。
「おーっす。雨宮」
約束の時刻の五分前に、横山が現れた。
初めて見る彼の私服は、シャツにジーンズとラフな格好だった。
日本人離れした体格には、高校生ながらもサングラスが良く似合っていた。
「ごめん、待った?」
そのすぐ後に優平がやって来た。
カーキ色のジャケットに黒いズボンと、すっきりとした身のこなしをしていた。
何気なく思える衣服も、きっと全部ブランド物なんだろうなと思った。
「ほんなら、行きましょか」
横山の先導で、モール内の二階にある映画館を目指す。
:12/05/06 07:44
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#776 [ぎぶそん]
映画館に入り、窓口で前売り券を渡す。
横山がトイレに行ってる間、優平が売店でコーラを買ってくれた。
「一番右の席は雨宮で、その隣桜井君な」
三人で上映前の劇場内に入り、横山の支持どおりに席に座る。
きっと、彼なりに気を利かせてくれたのだろう。
優平が隣に座った時、彼の服の匂いがふわっと香った。
「これ、どんな映画?続編らしいけど、全然観たことなくても理解出来るかな?」
隣にいる優平が話しかけてきた。
このくらいの距離で彼と話したことは沢山あるのに、場内が暗いせいかいつにも増して緊張する。
「あ、多分大丈夫。『サンシャイン』って言う謎の組織があって、世界各地で次々とテロを起こすの。それをミーナ扮する特殊隊員のジェシカが食い止めるって話」
「へえ、面白そう」
「敵はたいてい合成獣とかゾンビとかだから、ちょっとおぞましいかも」
「え、そうなんだ……」
一瞬にして彼の顔の血の気が引く。
映画が始まるまで、私と優平は横山そっちのけでお喋りしていた。
:12/05/06 08:24
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#777 [ぎぶそん]
そして、映画が上映された。
シリーズ六作目となるこの映画は、前情報で日本が舞台と聞いていたがそれは最初の二十分だけだった。
スクリーンに映るミーナが、様々な武器や武術を駆使して敵に挑む。
優平がどんな様子で観ているのか気になったので、時々隣をちらちらと確認していた。
上映前は不安そうにしていたけど、真面目な顔で鑑賞していた。
二時間ほどで映画を観終えた後、三人でモール内のファストフード店に入った。
さっき飲んだコーラでお腹が膨れていたので、横山の分のフライドポテトをつまむ。
「桜井君面白かったと?」
「面白かった。前のシリーズも観てみようかな」
「だってよ、雨宮。一緒に観てやれ」
「え?」
横山の言葉に驚いて、私はポテトを喉に詰まらせそうになった。
「あ……、お願いします」
優平もまんざらではない様子で、私に頼んできた。
「うん。じゃあ今度ね……」
恥ずかしさで、私の話す声の大きさが徐々に小さくなる。
:12/05/06 08:51
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