WHITE★CANDY
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#180 [Gibson]
次の授業が始まり、教壇に立つ先生が、頭の血管が切れそうな位、熱く生徒たちに教える。
その言葉も上の空で、先程の自分の行動を思い返す。
優平に悪いことをしてしまった、という気持ちの他に、言葉に表せない何かがある。
昨日から、彼の安心しきった寝顔が焼きついたままだ。
昨日の彼の訪問は、少なくとも私にとって、特別な時間と呼べていた。
:09/01/24 22:23 :SH705i :rMw4yosg
#181 [Gibson]
昼食時間、弁当を食べながら、エリにこの胸のわだかまりを打ち明けてみることにした。
「ま、真希…!それって…!」
目を大きく見開き、あんぐりとした口で固まったままのエリ。
「何!?何なの?」と、私は話の続きを催促した。
「ううん、何でもない!
まあ、答えはいつも自分の中にあるから!」
私の気持ちとは裏腹に、彼女は言葉を濁した。
:09/01/24 22:49 :SH705i :rMw4yosg
#182 [Gibson]
「でも、真希のお父さんと優平って似てるよねー!
いつも子供の世話するみたいに、『真希、真希』ってさー!
真希ももうちっちゃくないのに。」
ケラケラと笑うエリ。
「…。」
言われてみればそうかも―
:09/01/24 22:58 :SH705i :rMw4yosg
#183 [Gibson]
掃除時間も、午後の授業の時も、エリが言った台詞の続きを考えていた。
そして放課後。
パンクしそうな頭を一旦冷やす為、ジュースを買うことにした。
自販機に向かい廊下を歩いていると、後ろから誰かに腕をぐいと引っ張られた。
「あ…、もしかして怒ってる?
昨日は結局、中途半端な見舞いしちゃったから。」
優平だった。
:09/01/24 23:07 :SH705i :rMw4yosg
#184 [Gibson]
「…今日、一緒に帰ろ。」
彼の言葉をまたもや無視し、私はこんなことを言った。
私から何かを誘うのは、今までなかった。
「ん!?いいけど、俺部活で遅くなるよ?」
「平気、待ってる。」
:09/01/24 23:18 :SH705i :rMw4yosg
#185 [Gibson]
今日は図書館で勉強するから、門限より少し遅くなると父に連絡を入れておいた。
校門の前で、ひたすら優平を待つ。
次第に辺りがどんどんと暗くなる。
「答え、答え…。」
彼が来るまでに、見つけようと頑張ってみる。
「うーん…。やっぱりわかんないや…。」
:09/01/25 02:33 :SH705i :arpSz.qI
#186 [Gibson]
「お待たせ。」
8時過ぎ、息を切らしながら、部活を終えた優平が現れた。
彼はいつもは、同じ部活仲間の元基と帰宅しているとのことだが、今日は二人で帰りたいと私が要求した。
親しい間柄ではあるが、慣れないシチュエーションに、新鮮味を覚える。
:09/01/25 02:39 :SH705i :arpSz.qI
#187 [Gibson]
同じ帰り道の、小洒落た大通りを歩く。
ぽつぽつと立つ街灯のオレンジが、淡く街を照らす。
沈黙の雰囲気の中、私たちの目の前を、小さな女の子を母親が手を引いて歩いていた。
通り過ぎる瞬間、「お兄ちゃん、ばいばい。」と、女の子が優平に手を振った。
「おう。」と、手を振って返す優平。
ちらりと見た横顔は、混じり気のない笑顔をしていた。
:09/01/25 02:51 :SH705i :arpSz.qI
#188 [Gibson]
トクン、トクン、トクン―
昨日、彼の寝顔を見た後と、同じ鼓動が押し寄せる。
『恋する機会ってね、誰の前でも現れてくれると思う。
でも、それは本当に突然の出来事なんだ。』
以前、ますちゃんがこんなことを言っていたのを、突然思い出した。
…―
:09/01/25 03:04 :SH705i :arpSz.qI
#189 [Gibson]
「そういえば、今日誘ったのって何か用事あったからとか?
もしかして、嫌な事でもあった!?」
優平が、不思議そうな心配そうな顔をして言う。
「えっ…。えっと…。」
私、何であの時、一緒に帰ろうって言ったんだろう。
何か、気がついたら言葉が出てた―
:09/01/25 03:13 :SH705i :arpSz.qI
#190 [Gibson]
『「会いたい」って気持ち!これが恋よ!』
エリが前に言ってた台詞が、脳裏に反響する。
私は、優平と話がしたかった。
私は、優平の笑顔が見たかった。
私は、優平に会いたかった。
口には出さずとも、頭の中では、色んな欲望が交錯しているのを隠せなかった。
トクン、トクン、トクン…―
:09/01/25 03:23 :SH705i :arpSz.qI
#191 [Gibson]
ふと歩く先に、ベーカリー屋が見えた。
店の前で立ち止まり、店内を見渡す私。
閉店間際とあってか、ほとんどの種類のパンが売り切れてた。
2・3個まで残っている、好物のメロンパンを眺める。
「どうした?」と、優平が尋ねてきた。
:09/01/25 03:33 :SH705i :arpSz.qI
#192 [Gibson]
「…優平って、メロンパンに似てるよね。」
「へ!?」
「時々苦いの。」
「何だそれ?」
私はキョトンとしている彼の目を見て、この上なく微笑んだ。
父にも見せたことがない、とびきりの笑顔を見せたと思う。
:09/01/25 03:37 :SH705i :arpSz.qI
#193 [Gibson]
恋という感情。
それは、一言でも四百字の原稿でも、上手く表現しきれないもの。
…そうなんじゃないかな?
そして、その答えや結論は人それぞれ。
雨宮真希、17歳。
これから私なりの恋愛論というものを、ゆっくりと見つけていきます。
…少し前の自分よりは、見つかりそうな気がします。
Chapter02 END.―
:09/01/25 03:49 :SH705i :arpSz.qI
#194 [Gibson]
Chapter03
「居候」
:09/01/26 00:05 :SH705i :keS1jVx2
#195 [Gibson]
青葉が生い茂り、カラッと晴れた天候が続く。
帰路の坂道を上りながら、滴り落ちる汗をハンカチで拭う。
夏の日射しが、容赦なく全身をうだらせる。
7月初旬。
後一ヶ月も経たない内に、夏休みが始まる。
今年は一体、どんな思い出が作れるかな―
:09/01/26 00:15 :SH705i :keS1jVx2
#196 [Gibson]
学校から帰宅すると、玄関先にダンボールが2・3箱積まれてるのに気づく。
父が珍しく通販でも頼んだのかなと、特に気に止めなかった。
次に廊下を歩くと、今度はドアの隙間から、リビングの明かりが漏れていた。
父がつけっぱなしのまま、会社に行ったのだろうか。
無用心だ。
:09/01/26 00:32 :SH705i :keS1jVx2
#197 [Gibson]
リビングに近づいてみると、明かりだけではなく何か音も聞こえる。
おかしさと不自然さが、今日の家には漂う。
慎重にドアを開けて、恐る恐る室内に入ってみる。
そこには見たことのない20代位の若い男が、TVゲームをしていた。
この辺は住宅地が密集している。
新手の空き巣だろうか!?
恐怖で頭の中が混乱する。
:09/01/26 00:45 :SH705i :keS1jVx2
#198 [Gibson]
その時、空の空き缶が入った袋に、無意識に当たって軽く蹴ってしまった。
その音で、男が私の気配に気づく。
しまった、と思った。
「あ、おかえり!」
自分の家であるかのように、馴れ馴れしく挨拶する男。
その上、屈託のない表情をしている。
「…どっ、泥棒!!」
何をされるか分からない、ぶるぶると震える全身。
:09/01/26 01:02 :SH705i :keS1jVx2
#199 [Gibson]
「ただいまー!
おっ真希、今日は早いな。」
スーパーの袋を両手いっぱいに掲げた父が、そこでタイミング良く帰宅してきた。
そういえば今日の朝、有給休暇が取れたって言っていたのを、寝ぼけたままの頭で聞いたような。
「お父さん、変な男が家に…!」
我が家でくつろぐ男を指差す。
:09/01/26 01:16 :SH705i :keS1jVx2
#200 [Gibson]
―
「…と言うことで、しばらくウチで預かることになった、古沢東吾くんだ!
ハハハ、驚かせてすまん。
知らせるのは、真希が帰ってからにしようと思って。」
「よろしく、真希ちゃん!
何も盗ったりしないから!」
さっきの私の取り戻し様が可笑しかったのか、二人がげらげらと笑う。
父と二人暮らしだった家に、突然降ったように現れた居候。
これからどうなるのやら…―
:09/01/26 01:32 :SH705i :keS1jVx2
#201 [Gibson]
父の話によると、同じ会社に、海外で生計を立てるのを長年夢としていた人がいて、そして今日、夫妻で異国の地に旅立った。
非常にお世話になった先輩らしいので、率先して一人息子さんの面倒を、自分が引き受けたらしい。
そんなことで、今日から一緒に住むことになった東吾さんは、私立大学の一年生。
薄い顔に、茶髪の短い髪。
へらへらとした表情が、きっと賑やかな人だと想像させる。
:09/01/26 01:50 :SH705i :keS1jVx2
#202 [Gibson]
「よーし、今日は東吾くんの歓迎を祝って焼き肉だ!
奮発していい肉買ってきたぞー!」
鼻歌まじりにエプロンを身につけ、キッチンに立つ父。
居候がやって来たという環境に、子供のようにワクワクしているみたいだ。
その居候はというと、テーブルの上の袋菓子をつまみながら、ゲームの続きに熱中する。
初めてこの家に来たにしては、少々くつろぎ過ぎではないかと心の中でツッコミを入れた。
:09/01/26 02:07 :SH705i :keS1jVx2
#203 [Gibson]
三人で囲む夕飯の席。
居候一人の存在で、取り留めのないことも大きく違ってみえる。
「お父さん、おかわりお願いします!」
元気よく東吾さんが、空にした茶碗を父に差し出す。
私は、焦げ付かないように、プレートの上の肉を数枚ひっくり返している。
「何だか、真希にお兄ちゃんが出来たみたいだなぁ!」
ご飯を入れた茶碗を東吾さんに渡すと、父が私に明るい声で話し掛ける。
:09/01/26 02:24 :SH705i :keS1jVx2
#204 [Gibson]
お兄ちゃん、か。
父は今まで極力、私に寂しい思いをさせないように務めていた。
今回東吾さんを迎え入れたのも、きっとそういう意図も含めてのことだろう。
しばらくは家族同然の付き合いをするのだから、敬語は遣わなくていいよ、と続けて東吾さんに言われた。
その言葉に甘え、これから"東吾兄"と呼ぶことにした。
:09/01/26 15:45 :SH705i :keS1jVx2
#205 [Gibson]
一階にある空き部屋が、東吾兄の部屋となった。
晩御飯を食べ終えてから、その部屋を覗いてみると、引っ越しの荷物がまだ無造作に置かれていた。
和室に不似合いの、インテリアなテーブルや棚が部屋を飾っている。
たった一日だけで、人気がするようになったこの部屋を、不思議な気持ちで見ていた。
:09/01/26 18:37 :SH705i :keS1jVx2
#206 [Gibson]
次の日の朝、いつもの様に制服に着替えてから、リビングで朝食を取る。
トーストをかじりながら、TVのニュースに目をやる。
人の命に関わらない出来事を見ない日はないな、と感じる。
CMに入った時、タタタッと素足でフローリングを駆ける音が聞こえた。
「マキロン、トイレどこだっけ!?」
:09/01/26 18:44 :SH705i :keS1jVx2
#207 [Gibson]
東吾兄か、と軽い気持ちで声のする方に姿勢を向ける。
"マキロン"とは、彼が私につけたあだ名だ。
しかし、振り向き様に思わず、「きゃあっ!」と叫んでしまった。
目に映ったのは、トランクス一枚で下半身を押さえながら立っている、東吾兄の姿だった。
「あ、ごめんごめん!
昨日の夜、暑くてさー。」
:09/01/26 18:54 :SH705i :keS1jVx2
#208 [Gibson]
「…トイレは廊下を出たすぐ目の前。」
彼を見ず、場所の方向を指差した。
「サンキュー!」
再び素足で駆ける東吾兄。
何と言うか、家だというのに気を許せないな―
苦笑しながら、コップの牛乳を飲む。
:09/01/26 19:07 :SH705i :keS1jVx2
#209 [Gibson]
その後学校の休み時間の間に、早速エリたちに居候と暮らすことになったことを報告する。
ベランダの柵を掴みながら、私・エリ・元基・優平の順で並ぶ。
「真希のお父さんも、思い切ったことするよねー。」
紙パックのジュースを飲みながら言うエリ。
「それは楽しくなりそうだな!」と、脳天気な感想を述べる優平。
その紳士的な笑みが、今日は少し憎い。
:09/01/26 21:08 :SH705i :keS1jVx2
#210 [Gibson]
優平も、家では下着姿でうろついたりするのだろうか、と一瞬妙なことを想像してしまった。
彼を異性として意識しだしてからの自分は、どうも変だ。
一つだけ言えるのは、恋をすると、人は平常心を保てなくなる。
恋って不思議。
:09/01/26 22:17 :SH705i :keS1jVx2
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