WHITE★CANDY
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#710 [ぎぶそん]
私たちは舞台袖に移動すると、先にパフォーマンスをする男子たちにそれぞれ声援を送った。
暗がりの中、彼らがステージ上でスタンバイを始める。
「頼むよー、男子たち」
エリが祈るように両手を合わせる。
私も心の中で「頑張れ!」ともう一度彼らにエールを送る。
幕が全て上がったとそろで、ターミナルの「サマータイムウェーブ」という歌が流れ始めた。
イントロ部分でメンバー全員が横一列になって波打つようにウェーブをするが特徴で、ターミナルといえばこのパフォーマンスと連想する人も多い。
他二曲の「バーニングファイヤー」、「ドゥユーアンダースタンド?」も息の合ったダンスが繰り広げられて、あっという間に三曲が終わった。
彼らが踊り終わるとステージの照明が落ち、観客席から拍手が聞こえた。
遂に、私たち女子の出番になった。
:12/04/15 05:43
:Android
:qfyaBuEI
#711 [ぎぶそん]
男子と入れ替わりになるように、暗闇の中足音を立てずに足早にステージ上に移動する。
私が最初にいるべき場所は、前から二番目の列の左から二番目に位置するところだ。
体勢を低くし、息を呑んで待機する。
そして、真上にあるどきつい明かりが再びついた。
場内に聴き慣れた「フルメタル・ラブ」の曲が流れる。
最前列中央にいる村山弥生ちゃんが手に持ったマイクで歌い始める。
彼女は戦ガーで一番人気を誇り常にセンターを務める島田優奈の役だ。
弥生ちゃんは背丈や髪の長さ、何より顔のパーツのバランスが島田優奈と似ているということが決め手で役に抜擢された。
歌やダンスの飲み込みも他の人より早くて、練習でもいつも完璧に演じきっていた。
そんな彼女がいるから、私たち後ろ組も後に続きやすい。
:12/04/15 22:52
:Android
:qfyaBuEI
#712 [ぎぶそん]
この曲では私のパートは皆で一緒に歌うサビくらいしかない。
「フルメタル・ラブ」がリリースした頃梅原春佳はまだ新しく加入したばかりで、露出も特になくあまり目立っていなかった。
観客席からも今の私の存在はほとんど見えていないと思う。
それでも今までの練習の成果を発揮しようと必死に踊った。
もしかしたら…優平が私のことを見てくれているかも知れないし。
弥生ちゃんがラストのフレーズを歌い上げ、終わりのイントロが流れ、音に合わせて軽やかに踊る。
曲の終わりと同時に瞬時に全員が立ったまま手を広げ後ろを向く。
一曲目が終わった。少し息が切れそうだ。
:12/04/15 23:07
:Android
:qfyaBuEI
#713 [ぎぶそん]
次の「セミオートキス」が流れる。
この曲はクールな戦ガーには珍しく全体的にポップで可愛らしい曲となっている。
この曲のテーマはタイトルどおり「キス」で、歌詞の内容は言わずもがな、まずイントロ部分で一列に並び、左端の子から順番にリレー式で隣の子の頬にキスをする。
私は練習と同じく弥生ちゃんにキスをされ寺川さんにキスをした。
それから、この曲には終わりのサビで皆にそれぞれワンフレーズをソロパートで歌う役割がある。
まずは弥生ちゃん。「早く見つけて」と歌い右手で投げキスをする。
次に真鍋さん。「追いかけて」と歌い両手で投げキス。
その次に私。前列中央まで移動し「捕まえて!」と歌った後、身体を乗り出して目を閉じ、正面に向かってキスするポーズをする。
照れ臭さを隠せず、途中で顔が笑ってしまった。
客席に変な風に思われてないといいけど…。
:12/04/15 23:43
:Android
:qfyaBuEI
#714 [ぎぶそん]
最後に皆でエリを中心に囲って二曲目が終わった。
本来なら弥生ちゃんがエリのいる位置にいるはずなのだが、センター役をしたがってたエリに気をきかせ彼女が譲ってくれたのだった。
真っ暗な観客席から、女子生徒の「可愛いー」という声援がはっきりと聞こえた。
その声に続いてか男子生徒の勇ましい声で「頑張れー!」という声援も聞こえた。
最後の曲「恋はライフル」が流れ始める。
この曲は人気ナンバー3の三人にあたる、弥生ちゃんと真鍋さん、そして私がメインとなる。
ステージ上の邪魔にならないところに置いておいたライフルのモデルガンを手に取る。
弥生ちゃんと真鍋さんも同じものを手にしている。
それは私の部屋に飾っておいたもので、私が二人に貸したのだ。
まさかこんなところで役に立つとは。
この曲はイントロ部分が長い。
その間にモデルガンを使ったダンスパフォーマンスを行う。
それは練習で一番苦戦した箇所でもある。何かを持ちながら踊り続けるのは大変だ。その大変さを微塵も感じさせないプロの凄さを思い知らされた。
:12/04/16 00:06
:Android
:luIItkuA
#715 [ぎぶそん]
この曲のメインは三人といっても、梅原春佳メインの歌唱パートはほんの一部だけである。
彼女は歌唱力に乏しいことで有名で、それは彼女自身も自覚はしているみたいらしい。
今ほど有名になる前に、地方の公演でお客さんに「下手くそ!」とヤジを飛ばされた以来落ち込み、歌うことを極力避けているのではないかという噂があるのだ。
その出来事とは関係なくとも、彼女もよく歌うことより踊ることが好きと公言している。
まあ、今はファンからの熱い要望で彼女が歌う機会も少しずつ増えてるみたいだけど。
従って、この曲は弥生ちゃんと真鍋さんの二人で主に成り立ってると言ってもいい。
真鍋さんは二番人気の越谷まりもの役で、見た目が似てる部分はないけど、放課後ダンスレッスンに通ってるようでダンスが出来るという理由で役に選ばれた。
確か一年の頃から付き合ってる、今三年生の彼氏がいるんじゃなかったかな。
真鍋さんは全身汗だくになっていて、ステージ上で彼女の光る汗が飛ぶ。
:12/04/16 00:32
:Android
:luIItkuA
#716 [ぎぶそん]
一番が終わり、二番に入る。
二番のAメロは私の最後の出番であり一番の出番だ。
三歩で一番前の中央まで歩く。
正面から右の方へ視線を逸らし、左手で髪をかきあげる。
「どうかお願い あなたの銃で私を撃ち抜いて」と歌った後左手を下ろし、「色っぽさ」を意識しながらもう一度観客席を見つめた。
そして、次に正面で歌う弥生ちゃんと変わりばんこで三歩後ろに下がる。
曲の終わりと合わせて身体をしゃがませ、三曲目が終了した。
パフォーマンスを全て終え、最後に女子皆で一列になって観客席に一礼をした。
客席のあたたかい拍手と共にゆっくりと幕が下りる。
終わった…やる前は少し抵抗があったけど、大勢の人に見られながら舞台で踊るのは気持ちのいいものだった。
:12/04/16 21:20
:Android
:luIItkuA
#717 [ぎぶそん]
「雨宮さん!なかなか良かったよ!」
ステージ隅まで戻ると、その場で女子の踊りを見ていたらしきますちゃんに労いの言葉をもらう。
「有難う。男子こそ凄いパフォーマンスだったじゃん」
ますちゃんと一緒にそのまま準備室まで歩く。
「いや、僕は後ろの方だったし。
…さっきの踊りで、思わず桜井君もドキッとしたかもね!」
「えっ…!?」
そう言い残して、ますちゃんは着替えの為に準備室に入ってしまった。
男子が着替え終わった後女子が準備室に入り、皆でさきほどの感想を言い合いながら制服に着替えた。
再び観客席に戻ると、既に四番目に発表のH組の出し物が行われていた。
シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」の演劇で、ジュリエット役に美人で評判の香山さんという女子が熱演していた。
:12/04/16 21:59
:Android
:luIItkuA
#718 [ぎぶそん]
H組の演劇が終わって少しの休憩を挟んだ後、次は元基のいるC組の発表となった。
C組はアメリカのホームコメディドラマをモチーフとした演劇で、ステージのセットも洋風のリビングみたいに施されていた。
父親役らしき元基が、コミカルな言動で客席の笑いを誘う。
私も隣に座るエリも、人目も気にせず大声で笑う。
最後にクラス全員でミュージカル風味のダンスを踊り、最初から最後までにぎやかなままC組の発表は終了した。
舞台で笑いを取ることは涙を誘うことより難しいと聞いたことがある。
それをこんな大人数の中いとも簡単にやってのけた元基に一つの才能を感じた。
将来はお笑い芸人っていうのも良さそう。
:12/04/18 22:56
:Android
:cCLZ7M/U
#719 [ぎぶそん]
六番目に発表のA組の時代劇も真面目に鑑賞し、いよいよ優平のいるF組の発表となった。
私が密かにこの日で一番楽しみにしていたもの。
「優平たち何やるの?」
休憩の間、エリが鞄から取り出した飴を舐めながら私に尋ねる。
「『星くずロック』っていう漫画の劇だって」
「あ!だから昨日本屋で表紙を見てたのねー!」
エリが瞬時ににやつく。続けて、
「私その漫画ちょっと読んだことあるけど、主人公って不良っぽいし優平とは正反対の性格だよ。あのお坊っちゃんがどんな演技するか見物ね。」
と言い足した。
そうなんだ、と彼女に返したところで観客席の明かりが消され、幕が上がり始める。
:12/04/18 23:22
:Android
:cCLZ7M/U
#720 [ぎぶそん]
教室をシチュエーションとしたセットの中央で一人、主人公役の優平が頬杖をついて気だるそうに席に座っている。
この学校の制服ではない学ランを着ていて、いくつかボタンが空いていた。
右手に持つ鉛筆を小刻みなリズムで動かしながら、机の上を小突く。
「星井!補習のプリントは全部やったのか!?」
教師役と思われる男子が上手から颯爽と現れた。
丸い眼鏡に少しだぼついた黄土色のスーツが、F組のクラスの吉川先生を彷彿とさせる。
「……まだっす。もう帰っていいっすか?観たいテレビあるんで」
優平が鞄を持って席を立ち上がった。
「ダメだ!全部終わるまで学校はおろか一歩も教室から出ちゃいかんからな!」
教師役の男子が怒り狂う様子で彼を取り押さえる。
舌打ちをし、観念した感じで彼が再び座った。
まだ数分しか経っていないのに優平のいつもと全然違う雰囲気、態度、言葉遣いに演技と分かりつつ私は混乱する。
:12/04/18 23:51
:Android
:cCLZ7M/U
#721 [ぎぶそん]
教師役が去り舞台の照明が落ちると、優平だけにスポットライトが照らされた。
―「俺の名前は星井龍河、高校二年生。本来なら春から三年に上がるはずだったのだが、間抜けな俺はあろうことか留年してしまった。
やりたくもない補習をやらされたり、うだつの上がらない日々を過ごしている」
予め録音していたのか、彼のやや棒読みの語りが会場に流れ始めた。
その間、彼は舞台の上で時間が止まっているよう頬杖をついたまま硬直していた。
再び照明が点くと、今度はセーラー服を着た女子が上手からやって来た。昨日F組の前で優平といた時に彼を囲んでいた女子の一人だった子だ。
スカートが普段の時と同じでやけに短く、雰囲気もいつもと変わらず派手だ。
歩く振動で、彼女の巻き髪が小さく揺れる。
「星井、それ手伝ってあげよっか」
彼女が彼の席の前に立つ。
「桜子」と、彼が呼ぶ。
:12/04/19 00:16
:Android
:ivn.nX26
#722 [ぎぶそん]
彼が彼女に机の上のプリントを渡し、彼女が彼の隣の席に座る。彼女が机の上に携帯電話を置いた。
「……このクラス、皆あんたのことを怖がってるよ」
彼女がペンを動かしながら彼に話しかける。
「別に気にしねぇ」
不機嫌そうに答える彼。
その直後、彼女の携帯から着信音が流れる。
ぎこちない少年の声とあまり上手くない演奏が混じるロックテイストなナンバーだった。
「聴き慣れない歌だな、それ」
「アタシが中学の時付き合ってた彼氏の曲。中学三年の時交通事故で死んじゃってもういないけどね。この曲を聴くと隣で歌ってくれてる気がして、いまだに着信音にしてる」
彼女が携帯を胸元で抱きしめる。
彼女の演技力もあいまって、フィクションと思いつつも少し胸が切なくなった。
:12/04/19 00:39
:Android
:ivn.nX26
#723 [ぎぶそん]
「……アタシが何であんたによく話し掛けたりしてると思う?」
ペンを動かすのを止め、彼女が彼の顔を見ながら尋ねる。
「そうだなあ……、かっこいいから?」
冗談半分で答える彼。
「……馬鹿。あんたって、その死んだ彼に少し似てるの。だからあんたを彼と重ねて見てしまう自分がいて……でももうそんなことしない。あ、この話は全部忘れて。じゃあね」
彼女がプリントを渡し、立ち上がるや否や駆け足で教室を出た。
舞台から消えるまでその様子を彼が見つめる。
「彼と似てる、か……」
顔を仰ぎ、彼が溜め息混じりに呟く。
おそらくこの物語のヒロインはさっきの彼女で、主人公は彼女に恋を寄せてるのだろうと私は推測した。
そして二度目の舞台の暗転となった。
:12/04/19 22:38
:Android
:ivn.nX26
#724 [ぎぶそん]
数分も経たぬうちに照明が点く。
教室にはたくさんの生徒役の人たちがいて、席に座っていたり立っていたりしている。
下手側にあるダンボールで作ったと思われる簡易な背景のセットが、先程の夕方から朝の景色に変わっていた。細部までの細かい演出に粋を感じた。
上手から星井役の優平が教室に入ると、突然机の上に立つ。
「ジャジャーン!」
黄色いエレキギターを掲げて、陽気に踊り始めた。
生徒役の子たちが唖然とする。
観客席では少し嘲笑気味の笑いが聞こえ、
私も同じように可笑しさを感じて笑ってしまった。
さきほどの女子生徒役の子が再び現れる。
「星井、どうしたのそのギター!?」
仰天した様子で彼の元に寄る。
「桜子。俺、今日から音楽やることにした」
物語が中枢部に突入しだした。
:12/04/19 23:05
:Android
:ivn.nX26
#725 [ぎぶそん]
「音楽やるって言っても……うちの学校に軽音楽部はないわよ」
彼女が不安そうな表情で彼を見つめる。
「そんなもんなくてもどうにかなるさ。って言うか、俺が作る」
そして、彼は机から飛び降りた。
「なあっ!誰か俺と一緒にバンド組まねえか?」
教室中の生徒にこう呼び掛ける彼。
しかしその声に耳を傾ける者は一人もおらず、嫌そうな目つきで彼を見る。
実年齢が彼より一つ年下に当たるクラスの子らは、彼の存在を煙たく感じているようだ。
「星井!学校にギターなんか持ってくるんじゃない!」
そこで登場した教師役の男子が彼を怒鳴りつけ、持っていた名簿表で彼の頭を叩いた。
痛々しい音が聞こえると同時に、彼が苦痛そうに顔を歪める。本気で叩かれたのだろうか。
この教師役の男子、F組一の熱演かも知れない。
:12/04/20 23:46
:Android
:SolPToBg
#726 [ぎぶそん]
三度目の場面転換。
背景が夕方に変わっていて、教室では優平の他に素行の悪そうな男子生徒が二人席に座っていた。
一人はガムをクチャクチャさせながら退屈そうに、もう一人は携帯電話に夢中になっている。
背が高くて白衣を着た教師役の男子が入ってきた。
プリントを配ると、彼らの席の周りを徘徊しながら話はじめる。
「今年は例年になく留年した生徒が三人、か……。本当にお前らはクズだなあ。あまり先生らに無駄な手を掛けさせないでくれよ」
冷酷
「ああっ!何だと!?」
ガムを食べていた男子が立ち上がり、教師の近くに寄ると彼の胸ぐらを掴む。
「どうした?殴るのか?私を殴れば君は停学処分のみでは済まないぞ。クズは所詮、何をしてもクズのままなのさ」
教師役の男子が冷酷な笑みを浮かべる。
生徒役の男子が、悔しそうな顔を浮かべながら掴んでいた両手を離す。
ドラマではたまにいたりするけど、こんな非道な先生って実際にいるのかなあ、いたら怖いなと私は恐ろしさを感じた。
:12/04/21 00:13
:Android
:z8kxVQLg
#727 [ぎぶそん]
白衣の教師が立ち去ると、優平がエレキギターを手にした。
教室でジャカジャカと渇いた音が小さく響く。
その姿をさっき教師に突っかかっていた生徒が哀愁漂う瞳で眺める。
「ギター、か……中学の時女にモテたくて手ェ出したけど三日坊主だったな。本当、クソみたいな俺の人生……」
生徒役の男子がやりきれないと言わんばかりの表情をする。
「だったら俺とバンド組まん?」
声高らかに優平が彼に問いかける。
「えー……。今さら面倒くせえ……」
生徒役が渋る。
「あんた、今のままでいいのか?このままクソみたいな毎日で高校生活が終わっても」
「……」
優平のまっすぐな問いに、黙りこくる生徒役。
そして数秒ほどして、「分かった。やるよ」とぶっきらぼうに応えた。
:12/04/23 21:34
:Android
:7x9WV.0o
#728 [ぎぶそん]
「そっちの人は?」
優平がもう一人いた生徒に投げかけた。
その彼が携帯を動かす手を止める。
「あんたも、俺らと一緒にバンドやらん?」
優平がもう一度彼に問いかける。
「……」
おどおどして黙りこくる生徒。気弱で物静かな性格のようだ。
「んじゃ、やるってことで決まり。じゃあバンド名決めようぜ」
優平が半ば強引に物事を進める。
その後、優平を中心とした話し合いが始まる。
三人共に落ちこぼれということからバンド名は「ハイスクールダスト」に決定した。
教師に生徒の役名は、荻野篤弘。短気を起こしやすい性格の半面、不正は許さない正義感の持ち主。留年経験は二度目で、今年19歳になる。
もう一人の生徒は、川島洋一郎。内気で友達がおらず、携帯のアプリゲームが趣味。病気がちで入退院を繰り返し、出席日数が足らず今年三度目の留年となった。今年20歳とこの中では最年長となる。
:12/04/23 22:01
:Android
:7x9WV.0o
#729 [ぎぶそん]
舞台が暗転し、二度目の優平の語りが流れる。
―「こうして俺と篤弘と洋一郎の三人は放課後速やかに補習を済ませ、人が来る気配がほとんどない空き教室で毎日練習に明け暮れた」
再び舞台が明るくなると、薄汚れた教室で三人が楽器を手にしていた。
優平と篤弘役の男子がジャ、ジャと不慣れな感じでギターの音を出す。
洋一郎役の男子は経験者なのか器用な性格なのか、可もなく不可もなくベースの音を出していた。
「……後はドラムだけか。龍河、広報活動はばっちりなんだろうな!?」
篤弘役の男子が野太い声で優平に尋ねる。
「大丈夫。学校のいたるところにドラマー募集のポスター貼ってきたから」
優平が能天気そうな顔をして笑う。
「それ、先公に見つかったらまずいんじゃあねーのか!?この学校に軽音楽部があったら今頃のびのび出来たのになあ……」
落胆する篤弘役。
:12/04/24 21:18
:Android
:of5PljLQ
#730 [ぎぶそん]
「あの……」
その時、教室に一人の男子生徒が入ってきた。
小柄で眼鏡を掛けていて、身体は前屈み気味で小心者そうなタイプだ。
「僕、『ハイスクールダスト』のドラムやりたいんですけど、まだ募集してますか?」
その生徒が低姿勢で尋ねてくる。
三人が慌ててその生徒の元に駆け寄ってきた。
「うんしてるしてる!え、君ドラムやってくれんの?」
優平が落ちつきない態度で尋ね返す。
「僕、小学生の頃からドラムやってるから。この学校でバンド組めるなんて本当に嬉しい。あ、名前は工藤匠って言います。学年は一年です」
物腰の柔らかい匠役が、三人に握手を求めた。
このバンドに最年少のメンバーが加入した。
:12/04/24 21:32
:Android
:of5PljLQ
#731 [ぎぶそん]
―「うわっ、すげー!」
場面転換の後教室にドラムが登場すると、匠役が軟弱そうな見た目と打って変わって豪快な手つきでドラムを叩き始めた。
他の三人がその腕さばきに見とれ続ける。
観客席も感心を寄せる声でざわめいていた。
「お前ら、こんな所で何をしている!」
突然、補習の時にいた白衣を着た教師役が立ち入ってきた。
辺りを目配りして、気づいたように匠役に目にやる。
「君は、一年の工藤匠じゃないか。君みたいな成績優秀な生徒がどうしてこんな奴らとつるんでいるんだ!」
呆れた様子で匠役を怒鳴りつける教師役。
「隠れて練習をしていたのは謝ります。でも先生、僕たちの活動を認めて下さい!」
匠役がイスから立ち上がり、強気な声で哀願をする。
「そ、そうだよ!別に俺ら何も悪いことしてねーじゃん!補習だって最近真面目にやってるだろ?認めろよ!」
篤弘役も反論に出た。
「先生よお……俺、知ってるんだぜ?あんたが五組の田辺と恋仲だってこと。他の先生方が知ったらどう思うかなあ」
優平が教師役の周辺を回り、冷たい声と表情で物申す。
「わ、私をゆする気か!?」
動揺を隠しきれない教師役。
「安心しなよ、黙ってやるから。ただし、二度と俺らのやることに文句をつけるな。それから正式な部を作ることを許可しろ」
優平が教師役を指差しながら、力強い声で喋りあげる。
:12/04/24 22:09
:Android
:of5PljLQ
#732 [ぎぶそん]
「優平、かっこいい!……教師の方は性格悪い上にロリコンだなんて最悪ね」
隣で見ていたエリが耳元で囁いてきた。演劇の内容に専念しているようだ。
私自身も始めは感情移入出来ずにいたものの、舞台上の優平の役柄にすっかり虜になってしまった。
「……分かった、二度と君たちの活動にケチはつけない。でも、正式な部として公認は出来ない。」
変わり果てた姿の教師役が弱々しい声で話しはじめる。
「何でだよ?」
戸惑う篤弘役。
「この学校の決まりなんだ。新しい部活を作るとなると、まず全校生徒と先生方の審査を受けなければならない。そこで過半数の指示を得れば、正式に部として認められる。だから僕に権限はない。許してくれ」
教師役が頭を下げる。
「どうする?龍河」
篤弘役がその場で慌てふためく。
「……分かった。その審査を受ける」
優平が納得した顔で頷いた。
:12/04/24 22:34
:Android
:of5PljLQ
#733 [ぎぶそん]
優平のその台詞の後、舞台が暗黒に染まった。
―「その後、俺たちの審査を受ける日時が決まった。約一ヶ月後、体育館で行われる全校集会の後ステージ上でバンド演奏をする。足りない時間の中、俺たちは必死で練習を繰り返した」
優平の語りが聞こえた後舞台が明るくなると、四人がそれぞれ自分の楽器を練習をしていた。
「星井、聞いたよ。今度審査受けるんだって」
桜子役の子がやって来た。彼女はヒロインに相応しい華やかさがある。同性の私でも思わず釘付けになるほどだ。
彼女が優平の近くにある机の上に身を乗せた。
「あまりにも下手っぴな演奏だったら、アタシ投票してやんないよ。じゃ、練習頑張って」
彼女がすぐに机から下り、教室から出ようとする。
背を向ける彼女に、優平が重々しい声で「桜子」と呼び止めた。
その声に振り返る彼女。
「俺、審査の時はお前の為に歌うから」
何か言いたげそうな顔を見せつつも、彼女は無言のまま立ち去った。
:12/04/24 23:05
:Android
:of5PljLQ
#734 [ぎぶそん]
「お前がバンドやろうって言い出したのは、あの子の為?」
桜子役がいなくなって、篤弘役が優平に問いかけた。
「ああ。中学の時に死んだバンドマンの彼氏が忘れられんのだと。だから俺がその記憶塗り替えてやろうと思って」
優平が哀しげに自分のギターを見つめる。
「俺、このメンバーでバンド出来たこと誇りに思うよ。最近身体の調子もいいんだ」
これまで目立った出番がほとんどなかった洋一郎役が口を開いた。
「洋一郎は見た目ワルそうなのに超いい奴だよな」
篤弘役がそう言うと、三人が洋一郎の姿をまじまじと見つめる。
茶色がかった髪の色に、開けられた学ランのボタン。その学ランも、喧嘩でもしたかのようにひどく古びている。
「あ、この髪の色は生まれつきなんだ。ボタンを開けてるのは息が苦しいから。学ラン!?四年も着てればボロボロになるよ!」
洋一郎役のひょうきんな声と仕草で説明をするので、三人に大きな笑いが起こった。
笑いを取ったのが嬉しいのか洋一郎役も続けて笑う。
:12/04/24 23:25
:Android
:of5PljLQ
#735 [ぎぶそん]
匠役も学業ばかりの毎日から抜け出し、自分の好きなことをのびのびとやれる今が楽しいと感想を述べた。
四人が改めて友情を確かめあったところで、舞台の照明が落ちた。
―「そして、審査の日がやって来た」
間もなくして優平の語りが入り、舞台が光に照らされる。
舞台の真ん中には教卓たけがぽつんとあり、そこには朱色のスーツを着た男子生徒が立っていた。
頭に白髪のかつらを被り、口には長い白髭を装飾しており、おそらく校長先生の役かなと思った。
「……えー、私からの話は以上になります。この後皆さんには審査による新部活動発足の是非を決めてもらいます。審査が終わった後、教室に戻ってから所定の用紙に賛成か反対かを記入してください。結果は後日、各ホームルームでお知らせします」
その先生役はしゃがれた声で説明をし終えると、ゆっくりと上手まで立ち退く。
代わる代わるで今度は優平たちがマイクや楽器、音響道具などを持って登場した。
それぞれバンド形式となるように用具をセットし始める。
その間、会場全体に長い沈黙が走る。
:12/04/25 23:57
:Android
:HUwdFZW2
#736 [ぎぶそん]
四人が各々自分の楽器の調子を一通り確認した後、ステージ中央に立つ優平がスタンドマイク越しに口を開いた。
「えっと、俺らは新しく軽音楽部設立を希望する者たちです。俺の名前は星井龍河、今年進級出来ず二度目の二年生をやっています。ギターの荻野篤弘も二度、ベースの川島洋一郎も三度この学校を留年しています。
俺らは皆さんから見たらひどい落ちこぼれだと思います。でも、そんな俺らも音楽を通して自分の生き甲斐を感じることが出来ました。ドラムの工藤匠は俺ら三人と違って真面目だけど、音楽やってる今がすごく楽しいと言っています。
この中でも音楽やりたくても部がないからって断念してる人、いると思うんです。この学校には音楽が必要だと思います。
最後に先生方、今まで様々な迷惑を掛けてすみませんでした。俺ら三人、真面目に心を入れかえてこの学校をきちんと卒業します」
今までで一番長い台詞を、感情込めて丁寧に述べる。
皆の心に何か訴えかけてくるようで、彼の思いがこちらにしんみりと伝わってくる。
今またに、優平と役である星井龍河の気持ちが一つになったのだと感じた。
:12/04/26 00:19
:Android
:ku3uq8vw
#737 [ぎぶそん]
「それでは聴いて下さい。ハイスクールダストで『サクラプソディー』」
紹介を全て言い終えた後、優平がギターを手に取る。
ドラムの匠役がスティックを叩きながら、「ワン、ツー、」とカウントを取り出した。
「スリー」の声に合わせて、四人が演奏を始める。
「君の好きな季節が 今年もやって来たのに
うかない顔して 涙ぐんで
今でも アイツのことを忘れられないの?
今という現実が美しく淡く燃えている
だからもう 振り返らないで前を見て
君の涙が渇く理由を 僕が見つける だから
この世界が桜色に染まる頃には 僕のところへおいでよ
僕のところへおいでよ」
優平がギターの押さえる指を時々確認しながら、観客席に向かって歌う。
きっと、四人で数えきれない位練習したんだろうなと痛感した。
彼の中性的でまっすぐな歌声が、会場全体を柔らかく包み込む。
前の席に座っている人の中でこの曲を知っているのか自然とそうなっているのか、身体でリズムを取っている人が何人かいた。
隣で見ているエリも、わくわくした表情で曲に合わせて口ずさんでいた。
私も彼らの歌を身体全体で感じる。
:12/04/27 00:02
:Android
:Mg0JTWgc
#738 [ぎぶそん]
四人の演奏が終わると、観客席で大きな拍手が起こった。
私も賞賛の意を込めて彼らに手を叩いた。
優平が「有難うございました」と一言添え、四人が小さく頭を下げたところで舞台が暗くなる。
朱色をした照明が舞台を照らすと、夕方の背景をした教室の真ん中に優平と桜子役の子の二人だけがいた。
「星井、良かったね。部活認めてもらえて」
机にもたれかかった桜子役が、足をばたつかせて彼に話しかける。
話の流れではどうやら審査に無事受かったようだ。
「これからはもっと部員集めないとなあ。……で、俺の歌どうだった?」
姿勢を正し、彼が緊張の面持ちで彼女に問いかける。
「うーん、普通?」
あっさりと答え、けらけらと笑う彼女に彼が落胆する。
「嘘だよ、ウ・ソ。すごく良かった。携帯の着信音にしたいから、今度生演奏録音させて?」
彼女がポケットから携帯電話を取りだし、彼に見せる。
そして、二人が至近距離で見つめあう。
彼が切ない声で「桜子……」と呼び、彼女を抱き締めた。
その気持ちに応えるように彼女も「星井……」と呼び、細い腕を強く回した。
:12/04/27 00:40
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#739 [ぎぶそん]
二人が現実に戻ったかのように身体を離すと、F組の生徒全員がステージにやって来た。
一列になり皆で「有難うございました!」と張り上げた声で言い深く頭を下げると、観客席でもう一度彼らに割れんばかりの拍手が沸き起こった。
私も目一杯の力で拍手をしつつも、心の中では複雑な感情を消しきれないでいた。
役の為とは言えども、最後に優平と抱き合った桜子役の女子に嫉妬心が芽生えてしまったのだ。
小学校低学年の時、よく一緒に遊んでいた同じクラスの女の子がいた。その子を家に連れてきたら父がいつも「かわいいかわいい」と褒めていて、私はそこで生まれて初めて焼きもちを妬いたのを覚えている。
あの時依頼だ。こんな気持ちになるなんて。
自分を恥ずかしく思う。たけど、私は本当に彼が好きなんだなと実感する。
:12/04/27 01:02
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#740 [ぎぶそん]
最後のG組のステージ発表の内容もあまり印象に残らないまま終わり、全てのクラスの発表及び今年の文化祭が終わった。
翌日、朝のホームルームでステージ発表の結果が言い渡された。
優勝は優平のいるF組。圧勝と言ってもいいほど票が入っていたという。
二位は、何と私たちB組。準優勝の表彰状が担任の手から委員長の篠崎君に渡された。
元基のいるC組は六位と、箸にも棒にも掛からない結果で終わった。
一限目の体育に合わせて、エリと一緒に体育館まで話しながら移動をする。
「二位になれたのは嬉しいけど、やっぱり優勝じゃないなんて悔しいー!
きっと優平目当ての女子共がF組に票を入れたに違いないわ!」
ステージ発表の結果を悔しがるエリ。
「ううん、私もF組のステージ発表が一番素晴らしかったと思うよ。皆熱演だったしセットも演出も細かく作ってあったし。
何より、主人公とヒロインが物語を通して『成長』していたのが良かった。」
主人公は不真面目な自分を、ヒロインは過去を忘れられない自分を変えたのが後味の良さを覚えた。
:12/04/27 01:30
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