WHITE★CANDY
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#751 [ぎぶそん]
「大体、あんたと桜井君じゃ釣り合わないのよ!」
演劇での役柄とは全然違い、彼女がきつい言葉を放ってくる。
私は戦慄を覚え思わず首をすくめた。

「……あら、劇でたかだか桜井君と両思いを演じたからって現実でも彼女気取りなあなたの方が、アタシにはよっぽど調子に乗ってるように見えるけど?」
私の窮地を気付いたのか、弥生ちゃんが間に入ってくれた。
「何ですって!B組ってうざったいのばっか!皆、行こう!」
彼女が捨て台詞を吐くと、その女子たちは向こうに去っていった。 

「助けてくれて有難う」
私は一先ず弥生ちゃんに感謝をした。
「別に、馬鹿馬鹿しくて見ていられなかったから一言言ってやっただけ。あんなくだらないの、気にしなくていいから」
つっけんどんに返されたけど、私は彼女の優しさを感じた。

⏰:12/04/28 01:49 📱:Android 🆔:t4h2WC2g


#752 [ぎぶそん]
文化祭によって注目を浴びたり逆に批判されたりで、暫くは落ち着かない日々が続きそうである。

しかし、そんなことも気にしていられない位私には待ちわびているある出来事がある。
アメリカの映画女優、ミーナ・ハレルソンが新作映画の宣伝の為近々日本に来日するというのだ。

私は無類の映画好きであり、映画を観る数は年間で三百作は優に越える。
最新作から昔の白黒映画や無声映画も観るし、内容のジャンルも問わず同級生の女子たちが毛嫌いするホラーやスプラッターも大好物である。

私はその中でも、この十年間変わらず第一線で女優業を活躍するミーナ・ハレルソンの大ファンなのだ。
彼女は現在三十四歳。男性にも劣らない華麗なアクションが彼女の持ち味であり、スタント無しで危険な役に挑む彼女の意欲に私は中学の時惹かれた。

⏰:12/04/28 02:20 📱:Android 🆔:t4h2WC2g


#753 [ぎぶそん]
それから、もう一つ気になっている出来事がある。
主に洋画を取り扱っている衛星放送の企画で、五十年代の不朽の名作映画「パリの祝日」になぞらえた衣装を着て写真撮影をするというものだ。

その映画の内容は、某国のエマ王女と父親のジョージ国王がこっそり職務を抜け出して滞在先のパリを観光するというものだ。
ラストは二人が罪に問われ国から追放されるという哀しい内容なのだが、親子間の純粋なやり取り、エマ王女を演じたジュリア・ドレイファスの世界でも類を見ない圧倒的な美しさを含めて、六十年以上経った今も尚数多くの人々に愛されている。

その企画に応募したが抽選で親子二組十名のみの為、まず当たりはしないだろうとあまり期待をしないで待っている。
父と二人、貴重な体験が出来るいい機会なんだけどな、と私は瞑想した。

⏰:12/04/28 02:54 📱:Android 🆔:t4h2WC2g


#754 [ぎぶそん]
その週の日曜日。家で昼食を済ませた後、私は東吾兄と一緒に街のショッピングモールの中にある映画館に足を運んだ。
目的は「午後二時の名作劇場」という、その映画館が毎日決まった時間に昔の映画作品を上映する機会を設けているからだ。
学生は五百円で鑑賞出来るというのもあり、これは映画ファンにとってはたまらないサービスなのである。

薄暗い館内に入り、販売で東吾兄から買ってもらったコーラを片手に座席に座る。
新作映画と比べると客数は少なく、私たちの他に中年の男性客がぽつぽつといるだけだった。

この日は一九七五年のアメリカ映画、「カーターvsウェイン」を上映していた。
主人公のジョセフ・カーターが男手一つで幼い娘を育てていた矢先に、「その娘の本当の父親は私だ!」とマイケル・ウェインという男が現れる。やがて裁判となり、二人が法廷で争うといった内容だ。
裁判はマイケルが勝ち娘を引き取ることになるのだが、娘の頑なな拒絶で結局ジョセフの元に返すという結果で終わる。

片親の私は娘の気持ちになってずっと映画を観ていた。もしこの映画のように実の父と名乗る人物が現れたとしても、私も娘のように絶対に今の父の元から離れないと思う。
まあ、私たちは正真正銘本当の親子なんだけどね。

⏰:12/04/29 22:56 📱:Android 🆔:gV/bURdI


#755 [ぎぶそん]
「昔の映画も悪くないな」
館内を出て、東吾兄が第一声にこう述べた。
「真の名作は時代を越えても愛されるからね」
私は最善と思った言葉を返した。

今も面白い映画はあるけれど、私は昔の映画の方が好きだ。近年の映画の画面は人物のアップが多いし、場面が頻繁に変わるから観ていて少し疲れるのが本音である。

「因みに、さっきの映画で主人公やってた人、すごく有名な俳優だよ。知ってる?デイビット・ホックマン」
私は彼に尋ねてみた。
「うーん、知らないなあ」
私の質問に無関心そうな顔をして欠伸をする彼。
「彼の出演する名作が多いの。サヴァン症候群を演じた『スノーマン』も良かったし、それから『入学』の時は……」
彼が聞いているかはお構い無しに、私は延々と映画に関する話を続けた。

⏰:12/04/29 23:24 📱:Android 🆔:gV/bURdI


#756 [ぎぶそん]
二人でショッピングモールを出て、そこから歩いて五分のところにあるレンタルビデオ店に入った。
学校からも近く他のビデオ店より安い値段でレンタル出来るので、私は週に三回はこの場所を訪れる。

「何かおすすめの映画ある?お色気シーン満載のでお願い」
東吾兄がへらへら笑って聞いてきた。
私はそれを軽蔑の眼差しで見た。
「そうだなあ、私が好きなのは……」
店内をうろうろとし、ヒューマンのコーナーにあった「イアン・ウィリアムズ」という題名のパッケージを手に取る。

英国に実在したと言われる伝説の義賊、イアン・ウィリアムズの人生をフィクションを交えて映画化した内容のもの。
イアンを演じたライアン・ウッドの独特の重圧的な存在感が、暑苦しくて男臭いこの映画に非常にマッチしているのだ。
イアンを題材とした映画は多いけど、私は十年前に公開されたこの作品が一番好きである。
余談だがこの映画に女性はほとんど登場せず、東吾兄の求めるお色気シーンとやらは皆無である。

「あっ、この女の人今度来日するんでしょ?」
彼が新作コーナーに陳列してあったミーナ・ハレルソンが大きく載ってあるパッケージを指差す。
「うーん、美人っちゃ美人だけど貧乳で色気がないなあ」
パッケージを手に取り、彼がミーナに対して難癖を付ける。
その言葉に苛立った私は彼の頬をつねった。

⏰:12/04/30 00:05 📱:Android 🆔:KtkA0HNM


#757 [ぎぶそん]
翌日。昼休み、私は一人図書館に来ていた。

カウンターにいる図書委員と数人の生徒しかいない静かな一室で、前から読みたかった日本映画界の巨匠、故・白木清三郎監督の伝記を立ち読みする。

白木監督は昭和を代表する映画界の立役者の一人で、没するまで様々な名作を世に生み出してきた。
その本の中には、監督の映画に対するこだわりや思い、苦悩などが作家の手によって淡々と書かれていた。
監督に影響を受けた映画監督は世界中にいて、その数の多さは監督の偉大さを顕著としてると言えよう。
私も白木監督の作品はいくつか鑑賞したことがあるが、あれほど人の心に強く訴える作品を作れる人は他にいないだろうと思っている。

監督の映画は白黒画面が多くて若者は避けたがるかも知れないが、若者こそすすんで観るべきだと思う。日本人として忘れてはならない誇り、武士道とは何かと描かれているからだ。

⏰:12/05/01 22:31 📱:Android 🆔:swH1Ej9U


#758 [ぎぶそん]
毎日同じような日々が過ぎるとやがて金曜日になり、ミーナが日本にやって来る日が翌日に迫った。
明日、遂に憧れのミーナを間近で見れるのだ。

夜、居ても立っても居られず明日に備えてリビングで準備をし始めた。
「もしかしたらサインしてもらえるかも知れないから、明日はペンとノートでも持っていったらどうだ?」
リュックサックにカメラを入れていると、風呂上がりの父が髪をタオルで拭きながら提案してきた。
名案と判断した私は、サインペンとミーナ主演映画のDVDを持っていくことにした。

寝る前、目覚まし時計をセットし普段より早い時間に布団の中に入る。
明日はどれ位の距離と時間、ミーナが見れるのだろうか。サインをしてもらえたらすごくラッキーだなあ。そのサインはどう頼めばいいのか。ペンを差し出せば分かるか……――

私は頭の中で明日のシミュレーションを何度も行った。

⏰:12/05/01 22:57 📱:Android 🆔:swH1Ej9U


#759 [ぎぶそん]
次の日。昼前、私・父・東吾兄の三人は父の車でミーナが現れるという空港まで高速道路で向かった。

空港に着き中に入って、ロビーにいた女性にどこでミーナが見れるのかを訊いてみた。
女性の詳しい説明を受けゲート前へと移動すると、青い紐で出来た仕切りの前で数十人の人が待っていた。
待っている人は主に若い女性が多く、携帯電話を片手に一緒に来た知人と話し込んでいた。
私たち三人はその集団の後ろとなる三列目に並んだ。
列の一番左端で、私はリュックサックからカメラを取り出し、レンズ越しからミーナが良く映る絶好の位置を探す。

「真希、サインは父さんに任せろ」
隣の隣にいた父に声を掛けられ、すかさず私はペンとDVDを父に渡した。
三人の中で一際背の高い父なら、前の方に少し手を伸ばせばこの不便な場所からでもサインをしてもらえる可能性はあるかも知れない。

そのまま同じ体勢のまま一時間ほど、真横にいる東吾とお喋りをしながら過ごした。
「ねえ、来たんじゃない?」
東吾兄との会話が盛り上がっているところで、前にいた女性が隣の女性に呟いたのを耳にした。
会話を止め、私は視線をゲートへと移した。

一時間、

⏰:12/05/01 23:57 📱:Android 🆔:swH1Ej9U


#760 [ぎぶそん]
関係者に囲われ、大きめの黒いサングラスを掛けたミーナがやって来た。
口元を緩ませ、こちら側に手を振る。
彼女と一緒に新作映画に出演するニタ・クルスとウェリントン・スミスもサングラス姿で現れた。

私たちのいる方は携帯で彼女らを撮ったり、二枚目俳優ウェリントンに対する黄色い声援が飛び交う。
彼女たちが現れたせいか後ろの人たちがどっと押し寄せて来て、私は列の中で圧迫しそうになった。

その中で根気強く体勢を保ち、私も彼女に向かって「ミーナ!」と叫んだ。
つま先立ちをしレンズを除き、ミーナが中心に映ったところでカメラのシャッターを押した。

終始ミーナたちはこちら側に近寄ることもなく、たちまち出口へと行ってしまった。
しばらくの間、私は彼女を生で見れた興奮が覚めないでいた。

⏰:12/05/02 00:23 📱:Android 🆔:kEs1dhPg


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