電 波 少 女
最新 最初 全 🆕
#1 [萌子◆Hi9o8eIXuA]




初恋の人は電波少女でした。




⏰:09/01/18 03:43 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#2 [萌子◆Hi9o8eIXuA]




1 幼い頃の約束



⏰:09/01/18 03:47 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#3 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


あの子がこの町にやってきたのは、六年前の夏だった。

蝉が鳴き始め向日葵(ひまわり)が花開く頃には、ぼくのクラスはもうすぐやってくる転校生の話題で持ちきりだった。

転校してきた日、先生の合図であの子は堂々と胸をはり教室に足を踏み入れた。


「東京からやってきました、竹之内千鶴(たけのうちちずる)といいます。よろしくお願いします。」


自己紹介の時、千鶴は細くやわらかい髪を高い位置で二つにくくって、えくぼのある笑顔を向けていた。

⏰:09/01/18 04:02 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#4 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


明るくて人懐っこい千鶴は、すぐにクラスに打ち解け友人もたくさんできた。

最初ははきはきとしていた標準語で話していたが、やがてこちらの方言がうつった。

町の大人達にも顔を覚えてもらえ、ビニール袋いっぱいの野菜を抱えて喜んでいることもあった。

千鶴はみるみるうちにこの町、学校に馴染んでいった。

それからだろうか、千鶴は味をしめたように様々なことに挑戦し参加し始めた。

⏰:09/01/18 04:03 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#5 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


下校の際には僕ら男子や仲のよい女子と道草をしたり、駄菓子屋に入り浸ってお小遣いを消費してみたり、何でもした。

そのくせ気立てがよくていつも笑顔ときたから、千鶴は人気者で引っ張りだこだった。

その頃、僕も話してみたいとぼんやり願っていたのを覚えている。

それから間もなくして、千鶴は僕によく話しかけてくるようになった。

最初こそは軽くたわいもない話題で盛り上がるだけだったが、しばらくして状況は変わった。


⏰:09/01/18 04:04 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#6 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


片時も離れず僕の回りをうろついて、自分をかまってくれとねだり始めたのだ。

クラスメイトに冷やかされても、千鶴は笑ってやり過ごしていた。

まわりの目を気にして避けつつも、ぼくは本気で千鶴を突き放せずにいた。

僕が怒ると、千鶴はくるっとした大きな瞳に涙をためて抱きついてきた。

⏰:09/01/18 11:39 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#7 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


いつも抵抗はしなかった。

その時、僕はもう竹之内千鶴に恋心を抱いていたのだ。

感情を露(あらわ)にして、笑顔ですりよってくる千鶴のことを考えると、おかしいくらい切なくなった。

⏰:09/01/18 11:40 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#8 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


ある日、僕は千鶴と二人で遊んでいた。

蝉とひぐらしが大合唱を始め、太陽はこれでもかと照りつけていた。

蜃気楼が漂うほど熱したアスファルトでサンダルが溶けてしまわないか心配だった。

千鶴はコサージュのついた麦わら帽子を深く被って、長い髪を風になびかせていた。

⏰:09/01/18 11:42 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#9 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


繊細なそれからはよい香りが漂ってきて、僕はそっと触れたが、千鶴は気づかなかった。

いつも通り駄菓子屋で手頃な価格のバニラバーを買って、それを削りながら学校裏にある林で涼んでいた。

林の中心には大きな樹があり、そこに生徒は登って普段見ることのできない景色を楽しんだ。

僕たちもそこに登り、並んで町を眺めた。

⏰:09/01/18 11:45 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#10 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


見渡す限りの田んぼと、どこまでも連なる山々が僕たちを迎えた。

木陰で冷やされた風が下から吹きつけ、僕たちの汗をぬぐい去るように撫でて冷やした。

バニラバーをようやく食べ終えた千鶴は木べらを投げ捨て、足を揺らしながら言った。

⏰:09/01/18 11:48 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#11 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「ねぇ。わたしね、伊織(いおり)くんのこと、好きなのかもしれないよ。
伊織くんを見るとね、胸が苦しくなる。ずっと側にいたいって思っちゃうんだ。」


千鶴はそっぽを向いて顔を赤らめていた。


「だけど、伊織くん、わたしのこと嫌そうに避けるじゃない。」


千鶴は唇をつんと尖らせて、僕の方を向いた。

⏰:09/01/18 11:49 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#12 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


そして続けた。


「やっぱり伊織くんはわたしのこと好きじゃないのかな。」


僕も千鶴と同じくらい赤くなっていたに違いなかった。

千鶴が自分に好意を寄せていたことは薄々感ずいていたが、いざ本人から言われると情けないくらい心臓が高鳴って緊張した。

⏰:09/01/18 11:52 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#13 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


千鶴のふわふわした薄いワンピースが、僕の返事を急かすように早く揺れていた。

僕はきつく唇をつぐんで、太ももの陰で汗のにじんだこぶしを強く握りしめた。

頭は真っ白だった。

⏰:09/01/18 11:53 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#14 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「好きだよ。」


僕はそれだけ言ってから、逃げるように樹をすべり降りた。

いくつか足に切り傷ができてしまったが、痛くはなかった。

痛みを感じるべき脳は千鶴で煮詰まっていたからだ。

⏰:09/01/18 11:54 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#15 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「じゃあさ、約束してよ。大人になったら、わたしをお嫁さんにしてくれるって。」


無邪気な笑顔を見せる千鶴を、僕は見上げた。


「なにそれ。」


僕は言った。


「結婚して、っていう意味だよ。嫌なの?」


⏰:09/01/18 12:01 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#16 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「結婚なんてまだ先の話なのに、なに言ってんの千鶴。」


僕はおかしくなって笑って言うと、千鶴は、

「だから、大人なったらって言ってるじゃない。」

と頬を膨らませて怒った。

⏰:09/01/18 13:42 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#17 [雪華結晶]
話自体は、面白いです�x
でも、字の色を黒くしていただきたいです。少し読みにくいので�ホ
ワガママ言ってすみませんでした。

⏰:09/01/18 13:52 📱:W61T 🆔:5MIcy9Yw


#18 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


>>17 雪華結晶さん

ワガママだなんて、めっそうもないです!

早速字の色を黒に戻したいと思います

貴重なご意見ありがとうございました(^ω^)

⏰:09/01/18 14:01 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#19 [我輩は匿名である]
頑張れーっ!
気になるから
一気に完結まで
読みたい勢いです

⏰:09/01/18 14:09 📱:P905i 🆔:rV3UpT0Q


#20 [雪華結晶]
有難うございます�~
これからも、応援してます�。

⏰:09/01/18 14:14 📱:W61T 🆔:5MIcy9Yw


#21 [萌子◆Hi9o8eIXuA]

>>19 匿名さん

ありがとうございます(・∀・)

完結までお付き合いいただければ嬉しいです!


>>20 雪華結晶さん

指摘本当にありがとうございました!

応援よろしくです^^

⏰:09/01/18 14:26 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#22 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


足をばたつかせた拍子に、向日葵の飾りがついたサンダルが二足落ちてきた。

間髪入れずに、千鶴も落ちてきた。

枯れ葉の山に着地して、ワンピースに枯れ葉をくっつけた千鶴はぽかんと僕を見て目を丸くしていた。

運悪く足をひねってしまい、僕が家までおぶっていくことになった。

⏰:09/01/18 14:26 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#23 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


痛みで涙ぐみながら、

「ひねってよかった。」

なんて言った千鶴が、可愛くて仕方なかった。


「約束、覚えててね。伊織くんってば、大切なことはすぐに忘れちゃうから。」


僕の背中に顔を埋めてくぐもった声で千鶴が言った。

⏰:09/01/18 14:28 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#24 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「失礼だな。」


千鶴は笑った。


「約束だからね。」


茜に染まった空を見ながら歩く帰り道は、強く頭に焼きついている。

⏰:09/01/18 14:34 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#25 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


それから僕たちは小学校を卒業するまでの間、遊んで過ごした。

鬼ごっこにかくれんぼにおはじき遊び、蝉採りや川遊び、
駄菓子屋びたりにもますます拍車がかかった。

考えつく限り、出来る限りのことをした。

毎日夏の香りと泥にまみれて楽しんだ。

⏰:09/01/18 14:34 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#26 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


卒業式の時には中学校でもよろしくな、と小さなパーティーを開いて慣れ親しんだ校舎への別れを惜しんだ。

これからも楽しい日々が続いていく。

そう思っていた。

しかしある日突然、なんの連絡もなしに千鶴が引っ越した。

誰にも伝えず、ひっそりと。

⏰:09/01/18 14:35 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#27 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


僕が母に聞いた時にはもう、千鶴の家には家具一つ残ってはいなかった。

僕に黙って発つなんて信じられなくて、眠れない夜が続いた。

約束をさせたのは千鶴なのに、破ったのは千鶴、君じゃないか。

混乱はいつしか怒りに変わった。

⏰:09/01/18 14:36 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#28 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


愛しい相手を憎むという矛盾は、僕の心をますますおかしな方向に歪ませていった。


「約束だよ。」


いつしか千鶴が言った言葉を思い出すたび、どうしようもない悲しみにくれた。

⏰:09/01/18 14:37 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#29 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


あれから六年たった。

僕は地元の高校に入学して一年目を迎えた。

当然、それまでにたくさんの悲しいことや嬉しいことがあったが、その横に千鶴はいなかった。

千鶴は今、この日本のどこかで幸せに暮らしているのだろうか。

笑顔でいるのだろうか。

⏰:09/01/18 14:38 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#30 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


そう考えていると、千鶴に対する怒りは消えて、ただ切なさだけが残った。

僕は鞄を背負い直して、再び歩き始めた。

蝉の鳴き声にどこまでも透明な空、綺麗な空気に楽しそうな笑い声。

アスファルトをと肌を焦がすさんさんと照りつける太陽の光。

⏰:09/01/18 14:39 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#31 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


この町はあの頃と何一つ変わっていない。

ただ一つ、千鶴がいないだけだ。

僕は真っ直ぐ続く道路から外れて、小さな空き地に入った。

中央にはひしゃげた空き缶や泥だんごが散乱していた。

⏰:09/01/18 14:41 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#32 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


よく見ると、バニラバーの木べらもいくつか落ちていた。

千鶴が好きだったやつだ。

当たりが出た時、バニラバーと交換せず嬉しそうにポケットにしまって大切にしていた。

木べらだけじゃない。

⏰:09/01/18 14:42 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#33 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


空き缶も、泥だんごにも、全部に千鶴との思い出があった。

僕はふとした時、あるいはあの夏を彷彿とさせる物を見ると、千鶴を思い出した。

僕の悪い癖だった。

⏰:09/01/18 14:43 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#34 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


時々こうして、千鶴との思い出深い場所に足を運んだ。

もしかしたら千鶴がいるかもしれないと考えていたからだ。

僕は自分が考えているよりももっと強く、千鶴との再会を願っていた。

⏰:09/01/18 14:44 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#35 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


六年たった今でも、みっともないくらい千鶴を好きでいるのだ。

会いたい。

忘れてしまった千鶴の髪の香り、大きな瞳の色、優しい声は思い出したかった。

そんな切実な願いが叶うことになったのは、それからしばらくのことだった。

⏰:09/01/18 14:46 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#36 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


ここで区切ります

感想板をつくりましたので、ぜひご活用ください

bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4182/

⏰:09/01/18 14:55 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#37 [萌子◆Hi9o8eIXuA]
<Div Align="center">



2 再会



</Font>

⏰:09/01/18 15:02 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#38 [萌子◆Hi9o8eIXuA]




2 再会



⏰:09/01/18 15:03 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#39 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


夏休みの終業式の日、僕のクラスに編入生がやってきた。

女子だというので男子は過剰な期待を膨らませていたが、僕は興味がなかった。

終業式が終わり、ホームルームが始まると、担任はざわめく生徒をたしなめて教室に編入生を招き入れた。

⏰:09/01/18 15:04 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#40 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


入ってきたのは、やけに蒼白い肌をした子だった。

大きな瞳に長い睫毛(まつげ)、均等にちりばめられたそばかす。

黒髪のショートカットに、制服からすらりと伸びた細い手足をもっていた。

可愛いというより綺麗といったほうがしっくりくる整った美しい顔立ち。

⏰:09/01/18 15:05 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#41 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


顔の構造が千鶴とよく似ていた。


「東京からやってきました、竹之内千鶴といいます。よろしくお願いします。」


彼女は淡々と言った。

担任はそれに続き黒板に大きく竹之内千鶴、と書いてみせた。

⏰:09/01/18 15:05 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#42 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


まさか、と思った。

心臓がぎゅっと、わしづかみにされたように痛み、早鐘を鳴らし始めた。

僕は彼女から視線が外せなくなった。

⏰:09/01/18 15:11 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#43 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


担任が席を指定して座らせると、クラスメイトが彼女を囲んだ。

彼らの彼女に注ぐ視線からは、以前のことを一つ残らず聞き出してみたいという意志が感じられた。

何度か近寄ってみたが、千鶴はアドレス交換や話に忙しく取り入る隙がなかった。

僕は諦めて、おとなしく下校した。

⏰:09/01/18 15:54 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#44 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


それにどうせ、話しかけるチャンスがめぐってきたいたとしても、何も言えずじまいだっただろう。

僕は小さなため息をついた。

校門をぬけたところで、誰かが僕の肩に手をかけた。

振り向くと、そこには竹之内千鶴が立っていた。

⏰:09/01/18 15:54 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#45 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


顔が半分埋もれてしまうほどマフラーをしっかり巻いて、白いダッフルコートを着ていた。

僕はとても驚いてはいたが、なるべく平然を装おって、言った。


「何か用。」


自分が発したとは思えない、低くて冷たい声だった。

⏰:09/01/18 15:55 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#46 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


千鶴は少し眉を上げて目を見開き驚いた顔をしたが、すぐに何かを企んだような、意味ありげな笑みに変わった。

くすくすと笑い声をたてて笑う千鶴。

笑い声をたてるたびに、千鶴の細い髪は頬の横でさらさらと揺れた。

その絹のような柔らかいものが指の間をすり抜けてゆく感触を、僕は遠い昔から知っている。

⏰:09/01/18 15:58 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#47 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


華奢な体に、くっきりした顔立ち、明るい笑顔。

千鶴は六年前と何一つ変わってはいなかった。


「約束、覚える?」


白い息を出して千鶴が言った。

⏰:09/01/18 15:59 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#48 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


約束。

六年前の夏、千鶴が引越す前に交わした、幼い約束。

覚えているもなにも、今まで忘れたくてもしっかりと記憶に焼きついてしまった。

一日だって忘れたことはなかった。

⏰:09/01/18 16:02 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#49 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


身体に染み着いてしまったきつい香りの香水のように、それは甘くいつも褪せることなく香っていた。

身体のどこかでずっと。

けれど、知らせもせず突然姿を消した千鶴がその言葉を使うのはいささか自分勝手だと思った。

つまらない怒りが僕の中で渦巻く。

⏰:09/01/18 16:03 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#50 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


口から出たのは、会いたかったの一言ではなく、無情に鋭く尖った刃の一言だった。


「覚えてない。」


それだけ言い残して立ち去ろうとすると、千鶴が僕の手を強く握った。

それは、やわらかくて、熱をもっていた。

⏰:09/01/18 16:04 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#51 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「嘘つき。」


うつ向いていて顔は見えないが、千鶴が小さな声でぼそっとつぶやいた。

顔を上げた。

困ったように口をへの字にして、水分を含んだ瞳で僕を見上げていた。

⏰:09/01/18 16:05 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#52 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


僕の良心がちくりと傷んだ。


「嘘じゃないよ。」


僕は言った。


「嘘。本当は覚えてるくせに。わたしが黙って引越したのを怒ってて、ひねくれてるだけだよ、伊織くんは。

それにわたしのことそこまで怒ってはない。怒っていたら、わたしのこと嫌だったら、この手を振り払うはずだもん。」


⏰:09/01/18 16:06 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#53 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


千鶴の言うことはかなり的を射ていた。

図星、というよりも自分自身でも分からなかったことを当てられて驚いていた。

千鶴に握られた僕の手に汗がにじむのを感じた。

言葉の中に気になるものがあったので訊こうとした時、僕と千鶴の間に人が割り込んできた。

⏰:09/01/18 16:09 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#54 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


クラスメイトの天川つばさだった。

ブラウスの第一ボタンまできちんと締めて、真新しい光沢のあるローファーを履いていた。

胸元には僕と同じく生徒会の印であるワッペンの校章がついている。

⏰:09/01/18 16:09 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#55 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


息を切らしていた。

苦しいのを隠すように無理矢理ぎこちない笑みをつくっていた。


「堤(つつみ)くん。先生が呼んでるよ。どうしても今日伝えておかなきゃいけないことなんだって。」


彼女は深呼吸してからもう一度続けた。

⏰:09/01/18 16:10 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#56 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「間に合って良かった。」


天川つばさは胸を撫で下ろす仕草をした。

彼女は普段から感情表現を身体いっぱい使って表す明るい子だった。

そのため、生徒会では堅苦しい雰囲気を吹き飛ばすムードメーカー的存在でもある。

⏰:09/01/18 16:11 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#57 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


彼女は千鶴の方を向いて、やや早口で言った。


「話途中なのに、ごめんね、竹之内さん。早く行こう。堤くん。先生が待ってるよ。」


千鶴は返事をすることなく、黙って僕たちに背を向けて歩いていった。

⏰:09/01/18 16:13 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#58 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


細い身体が頼りない足取りで進んでいくのは見ていて心が傷んだが、今はあえて切り捨てるよう努力した。

僕だってどうにかなりそうなほど心が乱れていたからだ。

天川つばさと担任のところへ向かった。

⏰:09/01/18 16:14 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#59 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


今日の更新は区切りがいいここまでにします

もしよろしければ、ご感想やご意見などよろしくお願いします

電波少女 感想板
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4182/

⏰:09/01/18 16:17 📱:L704i 🆔:aevGBrVE


#60 [萌子◆Hi9o8eIXuA]

*訂正のお知らせ

文中に以下の間違いないがありました

「1幼い頃の約束」の文中の中では

×六年
○五年

に訂正お願いします。

「2再会」の文中では、

×夏休み
○冬休み

と訂正お願いします。

知らせてくださった、しさん、本当にありがとうございました!

⏰:09/01/19 16:09 📱:L704i 🆔:xKrAffx2


#61 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


担任のいる職員室に入ろうとすると、天川つばさがか弱い声で僕を呼び止めた。


「堤くん、ずいぶんと竹之内さんと打ち解けたみたいだね。もしかして、知り合いだったり、する?」

「そうだけど、どうして。」


僕は言った。

⏰:09/01/19 16:10 📱:L704i 🆔:xKrAffx2


#62 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


すると彼女は難題を突きつけられたような難しい顔をして首を傾げた。

癖なのか、長く編まれたおさげを指先で摘まむようにしていじっている。


「特に理由はないの。ただ、なんとなく訊いてみただけだから、気にしないでね。」

「そう。」


⏰:09/01/19 16:22 📱:L704i 🆔:xKrAffx2


#63 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


職員室に入ると、担任が椅子を用意して僕を座らせた。

深刻げな顔をしていた。

担任は少しばかり前のめりになって僕の目を真っ直ぐ見た。

⏰:09/01/19 16:23 📱:L704i 🆔:xKrAffx2


#64 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「わざわざお前を呼んだのは、竹之内のことなんだけどな。」


千鶴のこと。

先ほどの歩き去る千鶴の悲しげな横顔が、ふっと頭に過った。

担任は周りを気にしてか、声の調子を落としてささやきながら言った。

⏰:09/01/19 17:56 📱:L704i 🆔:xKrAffx2


#65 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「実はあの子、ちょっとやっかいな問題を抱えていてな。前の高校でもそれが原因で、こっちに編入してきたらしいんだ。

明るく笑ってるからそうは見えないんだけどな、先生も意外だった。」


「問題って何ですか。」


僕はたまらず訊いた。

⏰:09/01/19 18:47 📱:L704i 🆔:xKrAffx2


#66 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「軽い引きこもりなんだと。

詳しいことはご両親もお話されなかったし、先生も追求はしなかったけどな。

と、まあ、そこでだ。」


担任は僕の肩をばん、と叩いた。

⏰:09/01/19 18:52 📱:L704i 🆔:xKrAffx2


#67 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「これは竹之内のご両親からの情報なんだが。お前、昔竹之内と仲が良かったらしいじゃないか。

うん、いいことだな。

いざとなったら竹之内の助けになってやってくれないか。

一言かけるだけでも、メールを一通送るだけでもいいんだ。」

そして、最後の一言。


「先生はお前を心底頼りにしてるんだ、頼むぞ。」


⏰:09/01/19 18:54 📱:L704i 🆔:xKrAffx2


#68 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


僕は担任から預かった大きめの茶封筒を持って、職員室をあとにした。

暖房の効いていた職員室とはうってかわり、夕刻を迎えた廊下の温度は身にきんと染みた。

僕は身を震わせた。

夕陽が校舎内に入り込み、廊下を茜色に染めている。

⏰:09/01/19 21:47 📱:L704i 🆔:xKrAffx2


#69 [萌子◆Hi9o8eIXuA]

今日の更新はここまでにします

ご意見やご感想などありましたら気軽にどうぞ


電波少女 感想板
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4182/

⏰:09/01/19 21:50 📱:L704i 🆔:xKrAffx2


#70 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


どこか遠くから、いくつもの鴉の鳴き声が聞こえた。

茶封筒の中には千鶴用の冬休みの宿題が入っていて、僕は担任に近いうち渡すよう頼まれた。

どうして僕が、よりによって千鶴にこんなものを渡さなければならないのか。

⏰:09/01/20 11:07 📱:L704i 🆔:bWkGpjU.


#71 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


千鶴の家の住所が記された紙切れを眺めながら、僕は心中で毒づいた。

担任に上手く丸め込まれたのが少し気に入らないが、もともと頼まれたら断れない性格だから素直に諦めておいた。

⏰:09/01/20 11:08 📱:L704i 🆔:bWkGpjU.


#72 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


帰り道の電車の中で、僕は千鶴の抱える問題についてぼんやり考えた。

軽い引きこもり、ということだが、それは一体どういうものなのだろう。

心の病気についての知識が浅い僕にはよく分からない。

⏰:09/01/20 15:00 📱:L704i 🆔:bWkGpjU.


#73 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


引きこもりの原因が強いショックやストレスだとしたら、と考えたら僕は心配になった。

もしも、千鶴が笑顔の下に深い心の傷を抱えていたら、僕は千鶴になにをしてあげられるのだろう。

癒してあげられるのだろうか。

たくさんの人と悩みを乗せた電車に揺られながら、僕は目を閉じた。

すこし、眠りたい。

⏰:09/01/20 15:04 📱:L704i 🆔:bWkGpjU.


#74 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


翌日の学校帰りに、僕は竹之内宅に訪れた。

辺りはもう暗い。

おしゃれな外灯に照らされて、竹之内と彫られた表札がスポットライトにあてられた女優のように目立っていた。

⏰:09/01/20 15:47 📱:L704i 🆔:bWkGpjU.


#75 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


僕は担任からもらった竹之内宅の簡単な地図をもう一度よく見直した。

確かにここで間違いない。

ここに千鶴がいる。

ただ、インターホンを押す勇気がなかった。

⏰:09/01/20 15:48 📱:L704i 🆔:bWkGpjU.


#76 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


何度もインターホンに指を伸ばしたが、それは役割を果たすことなくすぐに引っ込められた。

千鶴は今日、学校を休んだ。

担任には茶封筒を渡すついでに、ちょこっと話をしてこい、と頼まれていたが、どうやら役目を果たせそうにない。

⏰:09/01/20 15:49 📱:L704i 🆔:bWkGpjU.


#77 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「うちになにか、ご用ですか。」


玄関前でうじうじしていると、怪訝そうな声が僕に尋ねた。

僕は、はっとした。

長い髪を後ろできつくしばって、両手に中身の詰まったスーパーの袋を持って、僕を見る中年の女性がいた。

⏰:09/01/20 15:49 📱:L704i 🆔:bWkGpjU.


#78 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


真っ赤な口紅のひかれた唇は、緊張したように真っ直ぐで固まっていた。

明らかに彼女は僕を警戒している。

僕が千鶴と同じ学校の制服を着ていなければ、話しかけるより真っ先に警察に通報されていたかもしれなかった。

⏰:09/01/20 15:53 📱:L704i 🆔:bWkGpjU.


#79 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


最近は子供が人を殺すニュースが絶えず報道されていた。

親だって平気で殺す。

子供だからといって、今の世の中、油断はできないということだ。

⏰:09/01/20 15:57 📱:L704i 🆔:bWkGpjU.


#80 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「僕は怪しい者じゃありません。」


悲しいくらい説得力がなかった。

僕は続ける。


「竹之内さんのお宅に用事があってきたんです。」


⏰:09/01/20 15:59 📱:L704i 🆔:bWkGpjU.


#81 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「竹之内は、私の家ですけれど。」


千鶴の母親だった。

記憶の中の若い彼女と、目の前の彼女を照らし合わせて、懐かしさが込み上げた。

幼い頃、千鶴の家に遊びにくるたびに、スイカや珍しいアイスを笑顔でご馳走してくれた。

⏰:09/01/20 16:00 📱:L704i 🆔:bWkGpjU.


#82 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


すこし頬がこけて、肩が細くなって、あの頃と比べて痩せたかもしれない。


「僕です。東京に引っ越す前に千鶴さんとよく遊んでいた、堤伊織です。覚えていますか。」


僕は言った。

早く彼女に、僕を思い出して欲しかった。

⏰:09/01/20 16:01 📱:L704i 🆔:bWkGpjU.


#83 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


彼女は僕の顔をまじまじと眺めて、やがて目を丸く大きくして「ああ!」と小さく叫んだ。


「堤伊織くんって、あなた、あの伊織くん? 千鶴と一緒にやんちゃばっかりしてた、あの、伊織くんなの?」

「たぶん、その子です。」


⏰:09/01/20 16:03 📱:L704i 🆔:bWkGpjU.


#84 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「やだぁ、それならそうと、初めから言いなさいよ。おばさん、びっくりしちゃったじゃないの。ほんとに。」


「すみません。」


「相変わらず、謙虚ねぇ。……それにしても、あの伊織くんがこんなに立派にかっこよく育ったなんて、おばさん信じられない。
テレビに映ってる若いイケメン俳優さんみたい。千鶴も驚いたんでしょうね。」


⏰:09/01/20 16:05 📱:L704i 🆔:bWkGpjU.


#85 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「どうでしょう。」


しばらく、僕たちは井戸端会議を続けていたが、おばさんがなにかを思い出したように手をぽんと合わせた。


「あなた、用事があるって言ってたわよね。すっかり忘れてた。」


⏰:09/01/20 16:06 📱:L704i 🆔:bWkGpjU.


#86 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


僕も忘れていた。

おばさんに預けようと、鞄から茶封筒を取り出した。

おばさんに手渡した。

中身を確認しようとする彼女に、中身は、担任からことづけられた千鶴の冬休みの宿題だと伝えた。

⏰:09/01/20 16:07 📱:L704i 🆔:bWkGpjU.


#87 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


「まぁ、わざわざありがとうね伊織くん。千鶴と話していくんでしょ? ついでに夕飯ご馳走するわよ。」


おばさんは嬉しそうに言った。


「いえ、僕はもうこれで失礼します。千鶴によろしくお願いします。」

「そう言わずに。」

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⏰:09/01/20 23:38 📱:L704i 🆔:bWkGpjU.


#88 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


結局、僕はおばさんに説得されて夕飯をご馳走されることになった。

千鶴に会ったら、なにを話せばいいのだろう。

僕は焦った。

⏰:09/01/21 07:22 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#89 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


玄関を抜けてリビングへ入ると、おじさんがソファーに深々と座り新聞を読んでいた。

僕に気づいたおじさんは、おばさん同様優しく接してくれた。

おばさんも混ざって、おじさんと僕はテレビを眺めながら、おばさんは料理をしながら三人でたくさん話をした。

⏰:09/01/21 11:45 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#90 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


学校のこと、家庭のこと、最近飼い始めたミニウサギのことも話した。

僕は話し手で、おじさんおばさんはやわらかな聞き手だった。

一生懸命話す僕に、うんうん頷いて時折笑って、すこしだけ話す。

⏰:09/01/21 11:46 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#91 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


久しぶりに感じる家庭のもつ幸福感に、僕は泣きそうになった。

二人だけではない、この家全体が住人の優しさやおおらかさを吸い込んで、壁や照明までも僕の静かな聞き手となった。

温かい家庭だな、と思った。

⏰:09/01/21 11:47 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#92 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「千鶴と話してきたら。」


僕が部屋の隅で丸まって寝ている猫にちょっかいをかけていると、おばさんが提案した。

ちょっと迷って、僕は頷いた。

⏰:09/01/21 12:11 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#93 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


千鶴の部屋は、二階の奥にある部屋だそうだ。

僕はゆったりとした螺旋階段を登って、奥の部屋へ向かった。

扉にはチズル、と書かれたプレートがかかっていた。

⏰:09/01/21 12:12 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#94 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


数回ノックした。


「誰なの。」


千鶴の暗い声が返ってきた。


「僕だ。伊織だよ。」


僕は言った。

⏰:09/01/21 12:13 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#95 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


怒って家から追い出されたらどうしよう、と心配だった。

それは十分あり得る。

部屋の中からフローリングを裸足で歩く、ひたひた、という足音が近づいてきた。

それは扉の前で止まった。

⏰:09/01/21 12:15 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#96 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「本当に伊織くん?」


千鶴は訊いた。


「本当だよ。」


僕は繰り返した。

⏰:09/01/21 12:16 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#97 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


千鶴は僕が扉の前にいると知って、どんな表情をしているんだろう。

無表情、困った顔、悲しい顔、もしかしたら怒った顔かもしれない。

扉がゆっくり、開いた。


bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4182/

⏰:09/01/21 12:18 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#98 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


目の前に、千鶴が立っていた。

白い厚手のセーターに、薄い黄色のスカート姿だった。

冬場としてはかなりの薄着だが、部屋内は暖房が効いているらしく、千鶴の頬はほんのり赤く染まっていた。

⏰:09/01/21 12:59 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#99 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


千鶴は不思議な表情をしていた。

驚いているようにも、喜んでいるようにもみえる、表情だった。

小猫のように瞳を大きく見開いて、呆然としてかすかに唇をあけていた。

⏰:09/01/21 13:01 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#100 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


しばらく僕たちは無言だった。

先に口を開いたのは、千鶴の方だった。


「夢みたい。目の前に伊織くんがいるなんて、そんなのあり得ないもの。」


うっとりと彼女は言った。

⏰:09/01/21 13:03 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#101 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「奇遇だね。僕もだよ。」


千鶴は僕の手を引っ張って部屋に入れた。

彼女につかまれた手首が、信じられないくらいに、熱い。

⏰:09/01/21 13:05 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#102 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


部屋の中は、むせかえるほどの千鶴の懐かしい匂いであふれていた。

僕は今、確かに千鶴の部屋にいることを、強烈に思いしらされた。

あまりにリアルすぎる。

⏰:09/01/21 13:08 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#103 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「紅茶入れてくるから、おとなしく待っててね伊織くん。」


僕は頷いた。

部屋に一人残された僕は、強すぎる暖房で赤くなった顔に手を当てながら、部屋を見回した。

⏰:09/01/21 13:09 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#104 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


あらためてじっくり見てみると、なんとも変わった部屋だった。

アニメのキャラクターが大きく載ったポスターが壁の至るところに飾られ、本棚は漫画であふれかえっていた。

時計に文房具、布団まで、部屋中がアニメキャラクターでうめつくされていた。

⏰:09/01/21 13:12 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#105 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


デスクはパソコンや関連機器に占領され、そこにあるべき教科書類は、すべてごみ箱の横に重ね合わせられていた。

ここまできっちり何から何まで揃えて完璧にされていると、驚きを越えて感動すら覚える。

これが、いわゆるオタク、というものなのだろうか。

身近にはそういう類の人間がいなかったため、非常に興味深かった。

⏰:09/01/21 13:13 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#106 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「お待たせ。」


千鶴がティーポット等をもってかえってきた。

彼女は真剣な顔でティーカップに紅茶を注いで、お菓子と一緒に僕に差し出した。

⏰:09/01/21 13:14 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#107 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「あまり紅茶の淹れ方上手くないけど、許してね。」


紅茶は僕の好きなダージリンで、お菓子はバター味のシンプルなクッキーだった。

千鶴の手作りらしい。

⏰:09/01/21 16:41 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#108 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


シンプルな味だからこそ、香りたかいダージリンによく合った。

素直に美味しい、と褒めると、千鶴はとても嬉しそうにした。

僕も嬉しくなった。

⏰:09/01/21 16:43 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#109 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


僕は紅茶を飲みながら、何気なく部屋の至るところに出現するアニメキャラクターについて質問した。

すると千鶴は赤い頬をさらに赤くさせて、僕に幻滅したかと泣きそうに訊いてきた。

僕はそれを否定した。

他人の趣味に余計な口出しするほど、僕は野暮な人間ではない。

⏰:09/01/21 16:44 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#110 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


犯罪でないかぎり、趣味をもつということはとても良いことだ。

趣味は一生涯の生きがいにも繋がる、と祖母は刺繍をしながらいつも言っていた。

僕の意思を伝えると安心したのか、千鶴はアニメキャラクターについて熱く語りだした。

⏰:09/01/21 16:45 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#111 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



また更新します

bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4182/


⏰:09/01/21 16:48 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#112 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「男同士でいちゃつくなんて、信じられないよ。僕は嫌だ。絶対に、何があっても嫌だ。」


僕は言った。

さんざん千鶴に同性愛趣味の恐怖を植えつけられたあとだったので、語尾が強くなった。

⏰:09/01/21 18:36 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#113 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


僕の身体中に出た鳥肌がずっと引っ込まなかったらどうしようと心配になった。

千鶴はティーカップを片手に、のほほんと笑っていた。

さらに攻撃を続ける。

⏰:09/01/21 18:59 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#114 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


「伊織くんってば美少年だから、いつか汗だくのムサい男に襲われちゃったりして。」

「ない。」

「誰もいない廃墟に拉致監禁されて、クラスメイトの男子数人に飼われちゃったりして。」

「ない。」

⏰:09/01/21 19:00 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#115 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「担任のおじさんに補習のふりして押し倒されちゃったりして。」

「いい加減にしろ。」


僕はたまらず、千鶴の口を手でふさいだ。

小さく彼女はうめいた。

⏰:09/01/21 19:06 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#116 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


なにも言わずに黙って、きょとんとした目でこちらを見ている。

彼女の唇の感触を手のひらに感じて、あわてて手を話した。


「伊織くん。」


千鶴は静かに僕の手をとった。

⏰:09/01/21 19:07 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#117 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


僕はびくっとした。

彼女の陶磁器のように滑らかな手のひらと、つんと尖った指先が、僕の手を確かめるようにやわやわと触れた。

僕は千鶴の手を振りほどけない。

⏰:09/01/21 19:08 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#118 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


それを知った目つきで、身体を寄せて、僕の肩に顔を押しつけた。

まずい、と思った。


「伊織くん、いい匂いがするね。」


にっこり笑って、千鶴は言った。

⏰:09/01/21 19:08 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#119 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


そのあまりの笑顔の眩しさと雰囲気のもつ甘さにぐらっ、とした。


「約束、覚える?」


甘い声で千鶴がささやいた。

⏰:09/01/21 19:09 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#120 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


昨日、僕に訊いた質問と同じ内容なのに、言葉のもつ重さはまったくの別物だった。

死の選択を迫られているような、背徳に甘美を感じるような、そんなスリルのある緊張感があった。

⏰:09/01/21 19:10 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#121 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


千鶴は昔と変わっていなかった。

彼女の放つ言葉一つ一つには、今後を大きく左右する選択性がある。

安易(あんい)に返事ができない、なぜなら結果が見えているから、だからこそ怖い。

⏰:09/01/21 19:14 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#122 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


ここぞというときに強く僕を掴んで、けして放そうとしない。

野放しにすれば、ぱっと手を放して、なにも告げず自由にどこかへ歩き去ってしまう。

しかし気づけば、また僕にすりよってきて、優しく僕を抱きしめる。

気まぐれで自由奔放な、猫のようだった。

⏰:09/01/21 19:14 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#123 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


一旦休憩(・ω・)フゥ

結構文字がつまってるので改行をもっと入れたほうがいいでしょうか?

……(^ω^;)悩

bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4182/

⏰:09/01/21 19:17 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#124 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


またいつ僕を裏切るか分からない。

さよならも言わずに、僕の前から消えてしまうかもしれない。

だけど僕は、もう一度千鶴を信じることにした。

⏰:09/01/21 20:10 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#125 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


結局、僕は何回裏切られても、また千鶴を信じるのだろう。


「覚えてるよ。」


僕は言った。

千鶴は爽やかに笑った。

⏰:09/01/21 20:14 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#126 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「やっぱり伊織くんは嘘つきだったね。昨日は約束、覚えてないって言ったのに。」

「僕は嘘つきだね。だけど僕よりも千鶴のほうが、もっとたちの悪い嘘つきだよ。」


さらっと言った。

責めるつもりも、嫌みのつもりも毛頭なかった。

⏰:09/01/21 20:14 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#127 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「そうかな。昨日の伊織くんの冷たい一言も、わたし結構こたえた。」

「どうかな。五年前の千鶴のあれに比べたら、僕のほうがよっぽどマシだよ。天秤にかけた時の重さの差がありすぎる。」


僕がむきになったのが面白かったのか、千鶴はしばらく大笑いした。

僕もつられて笑った。

⏰:09/01/21 20:15 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#128 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


笑い終わった後、千鶴の目尻には涙がたまっていた。

笑いの余韻が残っているとき、唐突(とうとつ)に千鶴が僕に倒れるように抱きついてきた。

千鶴の匂いが、ぐっと近づく。

⏰:09/01/21 20:16 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#129 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


僕は彼女の肩をつかんで引きはなそうとしたけれど、彼女の肌の柔らかさと細さに驚き、たじろいた。

無邪気な確信犯は、白く尖った八重歯を見せて、僕を見上げた。


「伊織くん、どきどきしてる。」


⏰:09/01/21 20:17 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#130 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


彼女は僕の心臓部分に耳を当てて、嬉しげに微笑んでいた。

扉の向こうから、階段を登ってくる足音が近づいてきた。

⏰:09/01/21 20:19 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#131 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「五年前のわたしのしたあれと伊織くんの嘘が釣り合わないなら、足りないぶん、埋め合わせてあげるね。」


軽快な扉のノックの音と同時に、千鶴は僕にキスをした。

重なる吐息。

何が起きたのか咄嗟に理解できなくて、身体中が麻痺したように痺れた。

⏰:09/01/21 20:20 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#132 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


千鶴の華奢な手が、僕の頭を下りて背中の制服をぎゅっと握りしめた。

僕の見開いた目の前には、ただ、彼女の長く黒いまつ毛があるだけだった。


止まらない。


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⏰:09/01/21 20:22 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#133 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「千鶴、いないの?」


おばさんが困った声で扉の向こうから訊いた。

千鶴はお構い無しに、赤い舌を絡めようとしたが、僕は彼女をつよい力で押し退けた。

⏰:09/01/21 20:25 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#134 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


反動で千鶴は尻餅をつき、下着がまる見えになった。

その体制のまま、彼女は残念そうに、

「今行くよ。」

とおばさんに応えた。

⏰:09/01/21 20:26 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#135 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


納得したおばさんの足音が、部屋から遠ざかっていく。

僕はそれを確認してから千鶴に向かってほえた。

顔が火照っていた。

⏰:09/01/21 20:27 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#136 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「こんな埋め合わせするやつがあるか。」


尻餅をついたままでいる千鶴を無理矢理立たせた。


「本当は嬉しいくせに。」


千鶴は頬を膨らませた。

⏰:09/01/21 20:28 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#137 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


もう、なにこいつ。

僕は飲みかけの紅茶を一気に口に流し込むと、勢いあまり思い切りむせてしまった。

千鶴はカーディガンを羽織りながら、けらけらと笑った。

⏰:09/01/21 21:11 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#138 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「伊織くんって分かりやすいから弄りやすいんだよね、すっごく。」


千鶴は言った。

僕は絶句した。

⏰:09/01/21 21:13 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#139 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「やっぱり千鶴、お前確信犯だったのか。僕が反抗できない性格だって分かってて、さっきあんなことしたんだな。
この性悪、覚えてろよ。」

「覚えてろよって、なにかわたしにしてくれるんだね。楽しみだなぁ。」


千鶴は扉を開けて言った。

⏰:09/01/21 21:14 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#140 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


彼女は僕の前で歩いて、慣れた足取りでワックスのきいて艶のある螺旋階段を降りていく。

ご機嫌な様子だ。


「僕はそういうはしたないことを口走るやつが大嫌いなんだ。」


⏰:09/01/21 21:15 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#141 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


僕は千鶴に聞こえないように、小さな声でぼそっとつぶやいた。

本心からではないが、僕は負けず嫌いなので嫌みを言っておいた。


千鶴は立ち止まると、スカートをなびかせながら振り返り、輝く笑顔で言った。



「嘘つき。」



⏰:09/01/21 21:17 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#142 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



今日の更新はきりのいいここまでにします(^ω^)

ご感想等あればどうぞ

bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4182/


⏰:09/01/21 21:20 📱:L704i 🆔:50cOPzag


#143 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


夕飯をご馳走になってから、僕はすぐに帰ることにした。

おじさんおばさん、千鶴が揃って玄関に集まり、僕を見送ってくれた。

すこし、寂しい。

⏰:09/01/22 20:00 📱:L704i 🆔:KwDLMC6s


#144 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


外はすっかり夜の帳がおりていて真っ暗で肌寒く、心配した千鶴はマフラーを貸してくれた。

マフラーを僕に巻きながら、千鶴は小さな声で言った。

本当に聞き取りにくい小さな声だった。

⏰:09/01/22 22:04 📱:L704i 🆔:KwDLMC6s


#145 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


「わたし、明日からちゃんと毎日、学校に行く。」


千鶴は微笑んだ。

担任の気にしていた千鶴の引きこもり問題が、簡単に解消してしまった瞬間だった。

嬉しかった。

⏰:09/01/23 12:57 📱:L704i 🆔:z8io2z7s


#146 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「よく言ったな。毎日登校するときは、迎えにきてやるよ。下校するときは、もちろん送ってやる。」

「毎日だよ、できるの。」

「千鶴と違って、僕は約束を必ず守るんだ。三日坊主にはならないよ。」


また明日、と手を振って、僕は竹之内家の人々に別れをつげた。

⏰:09/01/23 19:38 📱:L704i 🆔:z8io2z7s


#147 [那谷真]
あげます

⏰:09/01/28 21:23 📱:P902iS 🆔:u6Kc.JY.


#148 [萌子◆Hi9o8eIXuA]

家に着くと、無駄に広い庭を抜けてマフラーを取り、玄関をあけた。


重苦しい沈黙の中、僕は暗く続く廊下を歩き、仏間へと向かった。


仏壇の前に座り、手慣れた手つきで蝋燭に火を灯し、お香をたいた。

⏰:09/01/30 00:03 📱:L704i 🆔:fc.9zuqE


#149 [萌子◆Hi9o8eIXuA]

蝋燭の灯が淡く手元を照らし、ゆらゆらと揺れていた。


お香の煙が立ち上ぼり、僕の身体に覆い被さるように迫ってきた。


あっという間に仏間は濃いお香の香りでいっぱいになった。

⏰:09/01/30 00:04 📱:L704i 🆔:fc.9zuqE


#150 [萌子◆Hi9o8eIXuA]

ぐっ、と虚しさや孤独感という、どうしようもない負の感情が込み上げてきた。

胸がせつくなる。



「ただいま。」



ぼそっとつぶやいた。

⏰:09/01/30 07:40 📱:L704i 🆔:fc.9zuqE


#151 [萌子◆Hi9o8eIXuA]

朝学校に行く前、帰ってきた時に仏壇の前に座ることは、祖父母が亡くなって以来の習慣だった。


長い間こうして祖父母に向かって手を合わせているが、いまだに祖父母が死んでしまったことにくっきりとした実感がもてない。


まだこの世界のどこかでひっそりと暮らしている気がしてならなかった。

⏰:09/01/30 08:26 📱:L704i 🆔:fc.9zuqE


#152 [萌子◆Hi9o8eIXuA]

長い時が無かったように突然ひょっこりと帰ってくるかもしれない。


がらんとした広い家の中で、僕はいつも祖父母の見えない姿を追っていた。


つかんでも消える。


それは、つかみ所のない霧を相手にした、ひとりぼっちの鬼ごっこだった。

⏰:09/01/30 17:47 📱:L704i 🆔:fc.9zuqE


#153 [萌子◆Hi9o8eIXuA]

そろそろ追いかけるのは疲れた。


終わりが欲しい。


僕の願いはむなしく、ただ冷たい夜は過ぎていく。

⏰:09/01/31 10:50 📱:L704i 🆔:oTWyxxmg


#154 [萌子◆Hi9o8eIXuA]

明日は必ずいい日になる。


明日こそは必ず、暗い影からぬけだせるし、祖父母の死をきちんと受け止められる。


信じよう。


明日を、自分を。

⏰:09/01/31 10:52 📱:L704i 🆔:oTWyxxmg


#155 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


「おやすみ。」



僕は言った。

千鶴の笑顔を思い浮かべながら、僕は眠りについた。

⏰:09/01/31 10:57 📱:L704i 🆔:oTWyxxmg


#156 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


今朝はよく冷え込んでいた。


屋根に積もった雪が豪快に地面に落ちる音で、僕は目が覚めた。


障子をあけて日の光を身に浴びて、窓をあけて、外の冷えて新鮮な空気を部屋に入れた。

⏰:09/01/31 21:26 📱:L704i 🆔:oTWyxxmg


#157 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


窓から見える庭は白いシーツをかぶったように真っ白で、日の光を受けてまぶしく光り輝いていた。


生前、祖母がなにより綺麗だと愛した光景だった。


僕もそう思う。

⏰:09/01/31 21:34 📱:L704i 🆔:oTWyxxmg


#158 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


登校の準備ができて外に出ると、一夜にしてつくられた白銀の光景がどこまでも広がっていた。


冷たく清らかな空気が肺に深く染み込んで、頭の中の霞を取り払った。


僕は鞄を背負い直し、歩き始めた。

⏰:09/02/01 12:48 📱:L704i 🆔:UL4dNols


#159 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


最初はまぶしくて目を細めていた雪景色も、しばらくすると目が慣れてしまった。


どんなに綺麗で美しいものも、見慣れれば初見の感動は薄れていく。


慣れというものはありがたくもあるが、こういう面では遠ざけたい。

⏰:09/02/02 18:54 📱:L704i 🆔:U1xJXynQ


#160 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


なにも知らない幼い頃は、どんなものもきらきらと輝いて見えていた。


家事をする母親の横顔、初めて見る校舎の大きさ、梅雨がついて頭(こうべ)を垂れる稲穂のきらめき、他にもたくさんあった。


慣れさえなければ、綺麗なものも、楽しいことも、いつも初々しいまま感じることができたのに、と僕は悔やんだ。

⏰:09/02/03 18:03 📱:L704i 🆔:FZwoDb5w


#161 [我輩は匿名である]
あげます
頑張って下さい

⏰:09/02/08 08:11 📱:P902iS 🆔:UOYqaHV2


#162 [我輩は匿名である]
あげ
頑張って

⏰:09/02/08 09:41 📱:SH902i 🆔:XXIja6LY


#163 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


千鶴の家に着くと、玄関に千鶴が立っていた。


足元に鞄を置いて、夢中でハードカバーの小説を読んでいた。


僕の存在に気がつくと、彼女は笑顔でこちらに駆けてきた。

⏰:09/02/08 10:01 📱:L704i 🆔:IbDJ8bBE


#164 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


軽いあいさつをかわし、横にならんで歩き始めた。


僕の方が歩幅が大きいので、千鶴は時折急ぎ足で僕にならんだ。


本人は必死なので口には出さないが、まるで親について歩くアヒルの親子みたいだと思い、僕はちょっと笑った。

⏰:09/02/10 07:36 📱:L704i 🆔:CSxJpIno


#165 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「ねぇ、伊織くんってさ。おとなしくて、よく気が利いて、料理が得意で、スカートの似合う女の子が好きなの?」


唐突に千鶴は言った。

なにやら、期待を含んだ好奇心旺盛な目で、僕を覗き込んでいた。

千鶴の白い頬が、寒さですこし赤に染まっている。

⏰:09/02/10 19:30 📱:L704i 🆔:CSxJpIno


#166 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「変な質問だね。」


僕は鼻で笑った。


「真面目に答えてよ。」


千鶴は声を強めて言った。


bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4182/

⏰:09/02/10 19:32 📱:L704i 🆔:CSxJpIno


#167 [我輩は匿名である]
電波的彼女っていうラノベに似てる気がする…

⏰:09/02/10 19:35 📱:SH706i 🆔:f1btnBQc


#168 [我輩は匿名である]
そうか? 全く違うと思うが

⏰:09/02/10 20:13 📱:P902iS 🆔:m8QI17Lg


#169 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


>>167

うおおマジですか(゚Д゚)

まさか内容までかぶってないか心配です(^ω^;)

⏰:09/02/10 20:32 📱:L704i 🆔:CSxJpIno


#170 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


身をよじらせた、その拍子に、彼女の手に持っていた小説の表紙が見えた。


表紙には確かに、男の子の好みがわかる本、と書いてあった。


てっきり小説と思っていたが違ったようだ。

⏰:09/02/10 20:35 📱:L704i 🆔:CSxJpIno


#171 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


僕はいよいよ可笑しくなり、千鶴の顔を見て声をあげて笑った。


「人の好みは人それぞれだよ。大まかには当てはまるかもしれないけど、細かくはわからないって。」


僕は言って、千鶴の肩についた雪をはらってやった。

⏰:09/02/11 20:24 📱:L704i 🆔:Qb7u9U2I


#172 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「えー。」


つまらなさそうに、拗ねたように唇をとがらせる、千鶴。


彼女は諦めて、本を目の前に持ってきて、パラパラとめくった。

⏰:09/02/11 20:25 📱:L704i 🆔:Qb7u9U2I


#173 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


よく見ると、本の背表紙に図書館のバーコードが貼られていた。


目当ての小説を借りるさい、偶然この本を見つけて、興味本意で借りてみたのだという。


期待がはずれて、千鶴は本当に残念そうに、しぶしぶと本を鞄にしまった。


僕の心の中を探る前に、後ろ髪の寝ぐせを直すほうが先だろうに、愉快なやつだった。

⏰:09/02/12 07:15 📱:L704i 🆔:LKgWHMY.


#174 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


第一、異性の心の内が気になるなら本人にさりげなく訊けばいいのに、千鶴を含め女の子は不思議な生き物だった。


やたらと秘密をつくりたがる。


女性の中にはわざと秘密があることをほのめかして、男性にわずらわしさを覚えさせる、というテクニックを使う人もいるらしい。

⏰:09/02/15 09:39 📱:L704i 🆔:atk9.jU.


#175 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


僕はありのままを見せてくれたほうが嬉しいし、魅力を感じるから、よく分からなかった。


だからこそ、無防備に僕に接する千鶴には好感が持てた。


男女関わらず自分を偽るこの社会の波にのまれずナチュラルな彼女に、僕は心救われていた。

⏰:09/02/15 09:39 📱:L704i 🆔:atk9.jU.


#176 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



「放課後、予定空いてる?」


授業が始まる前、千鶴が訊いた。


特にめぼしい予定もないので、僕が頷くと、彼女は喜んで花が咲くように笑った。


可愛い、と思った。

⏰:09/02/15 20:05 📱:L704i 🆔:atk9.jU.


#177 [萌子◆Hi9o8eIXuA]


彼女の放つ透き通る透明なオーラに、思わず吸い込まれそうになる。


僕は書きかけの学級日誌をしまって、彼女に放課後なにをするのか訊いてみた。


「よかった。ここに、伊織くんと行ってみたくって、誘ってみたの。」


そう言って、千鶴は一枚のチラシをひろげた。

⏰:09/02/15 20:41 📱:L704i 🆔:atk9.jU.


#178 [萌子◆Hi9o8eIXuA]



テスト期間中なので、しばらく更新が遅れます。


ご了承ください(・ω・)


⏰:09/02/20 18:21 📱:L704i 🆔:eRYL2ljk


#179 [藍猫]



あげ〜\ω/


⏰:09/03/14 12:56 📱:W53K 🆔:Xdr5u4PM


#180 [藍猫]



書かないんですか??

⏰:09/03/18 21:25 📱:W53K 🆔:QC.7bDns


#181 [マナミ]
>>180
主にもいろいろ事情があると思いますから、気長に待ちましょう^^

⏰:09/03/19 13:17 📱:W53CA 🆔:pXkogi.c


#182 [萌子◆Hi9o8eIXuA]
機種が変わりましたが、主の萌子です。


一ヶ月近く小説を放置していてすませんでしたm(__)m

定期テストあとも何かと忙しく、執筆するヒマがなかなか見つかりませんでした。

来月もスケジュールがいっぱいで、更新もまちまちになると思いますが、

そこをご理解いただけるととても助かります

⏰:09/03/21 20:40 📱:N03A 🆔:f8JTxAL2


#183 [我輩は匿名である]
>>70-120
>>121-180

⏰:09/03/21 21:02 📱:W53H 🆔:iL7tdGoA


#184 [萌子◆Hi9o8eIXuA]
チラシの大部分を、中世ヨーロッパを彷彿とさせる衣装をした女性がしめていた。

分かりやすく言えば、いわゆるゴスロリ、というやつ。

フリルがどっさり、リボンがぎっしり、見ていて重くないんだろうかと心配になる。

こんなケッタイな服を着たモデルを載せるとは、どんな内容のチラシなのか。

僕はそれを手に取り、説明文に目をやった。

⏰:09/03/21 22:00 📱:N03A 🆔:f8JTxAL2


#185 [萌子◆Hi9o8eIXuA]
僕はぎょっとした。


そこにはメイドカフェとあったのだ。



『お帰りなさいませご主人様。ファン待望の、地方開店。
オープン記念に、只今スペシャルご奉仕実施中。カップル来店限定ご奉仕です!』



僕は黙ってチラシを机に置いた。


嫌な予感がした。

⏰:09/03/22 12:12 📱:N03A 🆔:vtAjbYow


#186 [萌子◆Hi9o8eIXuA]
まさか千鶴は僕をここへ連れていこうとしているのだろうか。


千鶴をみる。


どこか期待を孕んだ目をきらきらさせて、僕とチラシを交互に見つめていた。


目は口よりものを言う。


僕はため息をついた。


「行ってみない?」


さらっと千鶴が訊いた。


やっぱり、と思った。

⏰:09/03/25 09:12 📱:N03A 🆔:LLrr/MeE


#187 [萌子◆Hi9o8eIXuA]
「どうして僕なんかも」


「カップル来店限定のサービスがあるみたいだから。行こうよ。メイドカフェなんて、珍しくて、面白そうでしょ?」


すこしの沈黙。

本当に困った。


安易に断って機嫌を損ねられても、誘いを受けても、どっちに転んでもとても困る。


返事をしぶっていくうちに、千鶴の表情にみるみる陰がさしていった。

⏰:09/03/28 12:14 📱:N03A 🆔:YRzdtQ42


#188 [萌子◆Hi9o8eIXuA]
「やっぱり、だめ?」


悲しそうに千鶴が言った。


かるく噛み締めた唇に重ねた両手をそえて、瞳を涙ぐましていた。


そんな表情をされると、こちらが悪いことを持ちかけているみたいだ。


結局、最終的には僕がおれるしかないのだろう。

⏰:09/03/30 09:00 📱:N03A 🆔:inZdbM2g


#189 [萌子◆Hi9o8eIXuA]
仕方ない。


僕はチラシをもう一度眺めた。


「いいよ。行く。」


僕は言った。


「えっ。」


千鶴はぱっと顔を上げて、驚いたように目を丸くしていた。


くるくる表情が変わって、本当にわかりやすいやつだ。

⏰:09/03/30 09:00 📱:N03A 🆔:inZdbM2g


#190 [萌子◆Hi9o8eIXuA]
それから僕たちはいつも通りに退屈な授業をいくつか受けて、やがて放課後をむかえた。


あとはホームルームを受けるだけだ。


僕は眼鏡を外して、こった肩を片手でゆっくりと労って揉みほぐした。


「だから、行こうよ。」


僕のすぐ隣にいる女子が、楽しく陽気に友達たちに言った。

⏰:09/04/03 14:12 📱:N03A 🆔:QGPfObRw


#191 [萌子◆Hi9o8eIXuA]
「駅前に可愛くてスイーツの美味しいカフェができたんだって。放課後、暇ならどう。」


「本当に美味しいのかな。」


次々と美味しい誘いに賛成していく友達たち。


そうそう。

お金を持ち合わせていない人がいるから、私とあなたでワリカンね。


私クリームがたくさん入ったチョコレートパフェがいい。


あ、わたしは大きいプリンがのったアラモード。

⏰:09/04/03 17:23 📱:N03A 🆔:QGPfObRw


#192 [萌子◆Hi9o8eIXuA]
彼女らが、あんまり女子高生らしい会話をするので、ほほえましかった。


僕もぜひそのスタンダードな格好をしたウェイトレスのいるカフェに立ち寄りたいものだ。


ふと、千鶴を見た。


教室の窓ガラスから射し込む夕陽が、彼女のやわらかな髪や頬の産毛を、うっすらと橙色に染めていた。


思わずみとれた。

えくぼのある笑顔と、彼女の放つオーラがとても堂々と、明るくきらきらとしていたから。

⏰:09/04/03 19:25 📱:N03A 🆔:QGPfObRw


#193 [萌子◆Hi9o8eIXuA]
わずかにひらかれた潤いのある唇。


肩でゆれる髪が、水分を含んだようにしっとりとした光沢を放っていた。


なにやら窓の外を、興味深そうに、じっと見つめていた。


なんだろう。


千鶴のいたずらを考えるときの昔からの癖で、口の端をすこしつり上げて瞳を輝せていたので、僕はあとで何かされるのか心配になった。

⏰:09/04/03 19:27 📱:N03A 🆔:QGPfObRw


#194 []
気になります

⏰:10/01/23 19:10 📱:SH01B 🆔:jklFL0cQ


#195 [わをん◇◇]
(´∀`∩)↑age↑

⏰:22/11/21 19:02 📱:Android 🆔:.FGKzkPw


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