漆黒の夜に君と。[BL]
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#534 [ちか]
突然の問いかけに俺は少し考え込んだ。
「英才教育の一貫…とか?」
暫くして、俺は浮かんできた答えの中で一番もっともらしい答えを口にする。
しかしそれはハズレだったようで、恭弥は首を横に振った。
そして言ったんだ。
「優里はね、病気なんだ」
:09/03/10 17:33 :P906i :iBV6D6kI
#535 [ちか]
「え…?」
“病気”と言う単語がリアルに感じるのは、きっと恭弥の表情(カオ)が暗いから。
「病気って言っても、癌みたいなものじゃないんだ。
優里には生まれつき心臓に小さな腫瘍があってね。
普段は普通の人と何も変わりないんだけど、その腫瘍のせいでいつ発作が起こるか分からないんだ。
言うならば、心臓に爆弾を抱えてるようなもので…」
恭弥の顔から作り笑いすら消えていく。
:09/03/10 17:41 :P906i :iBV6D6kI
#536 [ちか]
「カナダに心臓外科の名医が居るんだ。
その先生に診てもらう為に優里は五歳の時、日本の病院からカナダの病院に移されてそこに住んでる。だから、僕と優里は物心ついた頃から離ればなれだったんだ。
今はまだ手術に耐えられる歳じゃないから、進行を遅らせる事しか出来なくて…」
俺はただ黙々と恭弥の話を聞いた。
だけどどこかに『まさか』『あれで本当に病気?』って思ってしまう自分が居る。
:09/03/10 18:29 :P906i :iBV6D6kI
#537 [ちか]
「優里のあの口調と派手な見た目はね、優里なりの強がりなんだ。
『病気で可哀想』、『親兄弟と会えなくて可哀想』、『病院暮らしで可哀想』…。
とにかく他人に可哀想な目で見られたくないみたい。
だから派手にして、『自分は全然辛くなんかない』ってそう他人に見せつけてた。
案の定、同年代の子はみんな優里を怖がって離れていっちゃった…」
:09/03/10 18:38 :P906i :iBV6D6kI
#538 [ちか]
「優里は辛いとか寂しいなんて一言も言った事ないけど、小さい頃、隅っこで泣いてるのをよく見たよ。
だから、僕は決めてるんだ。滅多に会えない分、会った時はどんな優里でも、誰よりも理解して守ってあげようって。
それが兄として、優里にしてやれる精一杯の事だと思うから…」
兄として精一杯してやれる事‥‥―――
恭弥はいつからそれを決めてたんだろう。
子供の頃からそんな事を思えるのは、きっと…――
:09/03/10 18:55 :P906i :iBV6D6kI
#539 [ちか]
「だからこんな血の気の多い場所、いつ発作が起こるか分からないのに連れていけないよ。
大切な‥‥弟だから。」
呟く声がやけにか弱くて。
「恭弥は優しいね。」
俺はそう言って手を握った。
:09/03/10 19:40 :P906i :iBV6D6kI
#540 [ちか]
「ありがとう。」
あぁ。
良かった‥――
やっと笑ってくれた。
俺もその笑顔に安心して、笑顔を溢した。
やがて静かに車は停まり、俺はそこから降りた。
:09/03/10 19:57 :P906i :iBV6D6kI
#541 [ちか]
「じゃ、また後で迎えに来るね。」
「うん、じゃあね。」
俺は車を視界から消えるまで見送ったあと、店のドアノブに手をかけた。
しかしなかなか回す事が出来ない。
いきなりなんの挨拶もお礼も無し辞めちゃって、半ば勢いでここまで来たけど、店長達に合わせる顔が…
:09/03/10 20:05 :P906i :iBV6D6kI
#542 [ちか]
「あれ、日下?!」
後ろから急に名前を呼ばれ、俺の身体はビクリと跳ねた。
振り返るとそこには、
「崎田さん…」
一緒に働いていた先輩が居た。
:09/03/10 20:08 :P906i :iBV6D6kI
#543 [ちか]
「久しぶりだなっ!!」
崎田さんは俺より7つ年上でよく面倒みてもらっていた。
なおさら合わせる顔が無い。
「急に辞めたから驚いたわ!!!」
「すいません…」
:09/03/10 20:11 :P906i :iBV6D6kI
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