クソガキジジイと少年。みそ汁編
最新 最初 全
#1 [ザセツポンジュ]
:09/02/04 04:45 :W61S :wM/brRX.
#2 [ザセツポンジュ]
私の名前は
三ツ八 九。
ミツヤ キュウと
読むのですが
昔、近所に住んでた
同級生の木田トミオ君に
『ミツバチキュウちゃん』
と呼ばれてから
“ミツヤさん”とは
呼ばれなくなりました。
:09/02/04 04:55 :W61S :wM/brRX.
#3 [ザセツポンジュ]
その木田トミオくんの友達に、
鈴木ジョウジロウくんてのが
いまして
私はその二人に
また会える時が来たら
ありったけの
ありがとうを
どうやったら伝えられるかと
考えていますが
いい案が思いつきません。
:09/02/05 07:53 :W61S :WCm6wMQw
#4 [ザセツポンジュ]
_____
キュウは
当時マンションに住んでいた。
その向かいに並んだ
二軒の家に
たいそう変わった
ジジイが二人、生息していた。
右斜め向かいの一軒家で
暮らすジジイ。
その名を木田シゲルと言い
きーさんと呼ばれていた。
:09/02/12 03:05 :W61S :xfEO8M/w
#5 [ザセツポンジュ]
このジジイの日課は
毎朝掃き掃除をする事。
『キュウちゃん。おはよう。』
『おはよう。きーさん。』
4歳だったキュウでも
きーさんが
真面目に
“掃き掃除”を
しているのでは
ない。
と言う事は分かっていた。
:09/02/12 03:07 :W61S :xfEO8M/w
#6 [ザセツポンジュ]
これまた涼しい顔で
枯葉やゴミを
移動させているだけだったのだ。
きーさんは
絶対にちりとりを
持たない。
:09/02/12 03:09 :W61S :xfEO8M/w
#7 [ザセツポンジュ]
『キュウ!おまえ早くしろ!今日こそは乗れるようにしてやるぞ!ジョウジロウちゃんも呼ばなくちゃ!ジョージロちゃーん!』
そう言って
大げさにダッシュする
ヤンチャぼうずは
木田トミオ。
通称トミー。
きーさんの孫だ。
キュウは補助輪を外した
自転車を押しながら
トミーを追いかける。
:09/02/12 03:12 :W61S :xfEO8M/w
#8 [ザセツポンジュ]
木田家の隣に住む老人を
鈴木ひとしと言い、
すーさんと呼ばれている。
このジジイは
変態の上に変人で有名であり
一歩間違えれば逮捕なのだが
そこをなんとか切り抜けて
この町で生活できているのだ。
:09/02/12 03:15 :W61S :xfEO8M/w
#9 [ザセツポンジュ]
『キュウちゃん。おっぱいよう。』
『。。。うん。おはようすーさん。』
幼少期のキュウでも
すーさんには
冷たい目線を送らなければ
ならないと言う事は
分かっていた。
すーさんはキュウを
大人にしたのだ。
:09/02/12 03:17 :W61S :xfEO8M/w
#10 [ザセツポンジュ]
『ジョウジロウちゃん!すいとう持ったか?今日はオレ、ムシトリアミ係で、キュウはおにぎり係だったろ!』
『持ったよー。氷も入れたよ。』
シャンシャン。と
すいとうをふる男の子の名を
西村ジョウジロウ。
通称ジョウジロウちゃん。
:09/02/12 03:20 :W61S :xfEO8M/w
#11 [ザセツポンジュ]
すーさんの孫とは
到底想像もつかないほど
優しくて
どちらかと言えば
大人しい子供だ。
ジョウジロウちゃんちの
表札には
“西村・鈴木”
と記されていた。
それはただ単に
ジョウジロウちゃんちの
お父さんが
マスオさん状態だった
だけの事なのだが
子供達は
そんな事知るよしもない。
:09/02/12 03:23 :W61S :xfEO8M/w
#12 [ザセツポンジュ]
『おぉおい!なんじゃこのゴミは!きーさん!朝から何の騒ぎじゃ!』
キュウ、トミー、ジョウジロウちゃんの三人は
すーさんと
きーさんの間に挟まれ
立ち止まる。
『すーさん。おはよう。いやぁ。朝からいい事をすると気持ちがいいね。』
:09/02/12 03:28 :W61S :xfEO8M/w
#13 [ザセツポンジュ]
そう言いながら
得意気にほうきを持って
見せるきーさん。
『きーさんのは嫌がらせと言うんじゃよ。』
すーさんは
きーさんがまとめた
枯葉とゴミを
蹴っ飛ばした。
『あぁ!枯葉せっかんじゃ!おい孫共!よく見ろ。あれが枯葉せっかんじゃ。』
:09/02/12 03:31 :W61S :xfEO8M/w
#14 [ザセツポンジュ]
三人は
すーさんをまじまじと
見つめる。
『枯葉せっかんてなぁに?すーさん。』
トミーは
すーさんに尋ねた。
『エッチな事じゃ。』
『キャハハハハ。』
子供達は
何にでも反応する。
おもちゃみたいだ。
:09/02/12 03:33 :W61S :xfEO8M/w
#15 [ザセツポンジュ]
『枯葉をいじめる事じゃよ。せっかんと言うのは意地悪に叩いたりする事じゃ。お前ら、ひとつかしこくなったぞ。よし、遊びに行け。』
満足そうに笑うきーさん。
:09/02/12 03:36 :W61S :xfEO8M/w
#16 [ザセツポンジュ]
『おい待てチビ共!こういうな、楽しそうに嫌がらせをするジジイを見つけたらすぐ交番のおじちゃんに言いつけろ!分かったか!』
:09/02/12 03:40 :W61S :xfEO8M/w
#17 [ザセツポンジュ]
『あっ!ちょうちょ!』
興味がいっぱいのキュウに
ハナクソをほじるトミー。
シャンシャンと
氷の音を確かめる
ジョウジロウちゃん。
すーさんの話は
割りとどうでもいいようだ。
:09/02/12 03:41 :W61S :xfEO8M/w
#18 [ザセツポンジュ]
そんな事はさておき
この物語は
クソガキみたいなジジイ二人と
とても仲良しな少年二人の
お話です。
:09/02/12 03:42 :W61S :xfEO8M/w
#19 [ザセツポンジュ]
:09/02/12 03:46 :W61S :xfEO8M/w
#20 [りさ]
頑張って
:09/02/15 23:06 :SH906i :i1d89mvg
#21 [ちぃ]
応援してますxx
頑張ってネ
:09/02/18 00:41 :W51S :.wkcmxaw
#22 [ザセツポンジュ]
田畑の目立つのどかな田舎。
そこに海につながった
1本の長い土手があり
その道を通ると
稲穂が風になびき
草木は順々に揺れる。
見上げれば水色の澄んだ空が
一人一人を出迎えてくれるのだ。
:09/02/18 01:25 :W61S :QP.UDvFQ
#23 [ザセツポンジュ]
田畑にかこわれた中に
家がポツポツと立ち並び
その中に4階立ての
白くて古いマンションが
ひょっこり飛び抜けている。
:09/02/18 01:29 :W61S :QP.UDvFQ
#24 [ザセツポンジュ]
そこの1階に
マンションの管理人の
おじいちゃんと、
おばあちゃん。
お父さんに、
看護婦のお母さん。
そして幼き日の
三ツ八 九は
5人で暮らしていた。
:09/02/18 01:35 :W61S :QP.UDvFQ
#25 [ザセツポンジュ]
しかしキュウの父親は
東京の親戚の家に
出稼ぎに行って
あまりに帰って来なかったため
実際は4人で暮らしているようなものだ。
どこに行くにも何をするにも
キュウはおじいちゃんに
引っ付きまわって生活していた。
:09/02/18 01:39 :W61S :QP.UDvFQ
#26 [ザセツポンジュ]
そんなキュウに突然不安な予感が頭をよぎった。
いつも通りの朝
じぃちゃんの朝ご飯を食べて、カバンを持って、じぃちゃんの車に乗って保育園に行く。
何も変わらない朝だった。
家を出て車に乗った瞬間
キュウは突然思ったのだ。
『きょうおかあさんはかえってこない』
:09/02/18 01:46 :W61S :QP.UDvFQ
#27 [ザセツポンジュ]
なぜかそう思ったけれど
じぃちゃんには言わず
保育園に着いたのだった。
そわそわして
早くオウチに帰りたいキュウ。
:09/02/18 01:47 :W61S :QP.UDvFQ
#28 [ザセツポンジュ]
1日中何も手につかず
やっとじぃちゃんがお迎えに来て自分んちのマンションへ帰るのだった。
『きょうおかあさんかえってくる??』
何回も
何回も
キュウは
じぃちゃんに聞いた。
ばぁちゃんにも聞いた。
:09/02/18 01:52 :W61S :QP.UDvFQ
#29 [ザセツポンジュ]
『おかあさんは??おかあさんかえってくる??』
時間はどんどんたちます。
『もうすぐ帰ってくるよ。』
そう言ってキュウをなだめるが
日は暮れる。
星も出る。
『なんでおかあさんかえってこないの??』
キュウは泣いた。
:09/02/18 02:00 :W61S :QP.UDvFQ
#30 [ザセツポンジュ]
何回も
何回も
何百回も
何千回も
お母さんはどこにいるのか
いつ帰ってくるのか
みんなに聞いて回るのだった。
『帰ってくるよ。』
そう言いながら
泣いている、ばぁちゃん。
:09/02/18 02:02 :W61S :QP.UDvFQ
#31 [ザセツポンジュ]
帰ってくるよ
と言うくせに
泣く祖母の姿を見て
キュウは余計に
泣くのだった。
:09/02/18 02:03 :W61S :QP.UDvFQ
#32 [ザセツポンジュ]
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
キュウ、トミー、ジョウジロウちゃん達の住む家のすぐそばに土手がある。
その土手を挟んだ反対側には
広場やお墓、
雑木林や川があった。
:09/02/18 02:09 :W61S :QP.UDvFQ
#33 [ザセツポンジュ]
シャンシャン。
シャンシャン。
『キュウ!今日は乗れるようになるといいね。』
ジョウジロウちゃんは
すいとうの中の
氷の音がお気に入りの様子。
『うん!今日乗れるようになる!』
かごに入れたおにぎりを気にかけながら補助無し自転車を押す。
:09/02/18 02:12 :W61S :QP.UDvFQ
#34 [ザセツポンジュ]
『オレも補助無し乗りたーい!』
トミーはムシトリアミを
ブンブン振り回す。
『ボクこわーい。』
:09/02/18 02:13 :W61S :QP.UDvFQ
#35 [ザセツポンジュ]
補助無し自転車に乗りたいが
なかなか許可がおりない
トミーと
別に今乗れなくてもいいと
少しコワガリなジョウジロウちゃん。
そして、どうしても
今乗れるようにならなければならないキュウ。
:09/02/18 02:15 :W61S :QP.UDvFQ
#36 [ザセツポンジュ]
広場についた3人は
並んで石段の階段に座り
ひとやすみ。
12時ピッタリに鳴る
お昼のサイレンが
ちょうど聞こえてきた。
『今日のおにぎり誰が作ったのー?』
ジョウジロウちゃんは
すいとうのフタをまわし
お茶の準備。
:09/02/18 02:17 :W61S :QP.UDvFQ
#37 [ザセツポンジュ]
『ばぁちゃん。。。』
少し寂しそうなキュウ。
『何入りのオニギリかな!!ジョウジロウちゃんあとで氷ちょうだいね!!』
トミーはキュウがお弁当箱をあけるのを間近で見つめる。
『わー!シャケ!!オレシャケ!』
『ボク、コンブにする!』
『あたしのりたま!!』
:09/02/18 02:20 :W61S :QP.UDvFQ
#38 [ザセツポンジュ]
トミーは息を吸った。
『みーなーさん手を合わせましょう!いーたーだーきーます!』
。。。必要以上に大声だがまぁいい。
『いーたーだーきーます!』
保育園でいつも言うセリフだ。
:09/02/18 02:23 :W61S :QP.UDvFQ
#39 [ザセツポンジュ]
腹ごしらえを終えた3人は
それぞれの行動を開始する。
トミーはムシトリアミを持って雑木林へ。
ジョウジロウちゃんは
キュウの自転車の後ろを持って練習に付き合った。
:09/02/18 02:25 :W61S :QP.UDvFQ
#40 [ザセツポンジュ]
『ジョウジロウちゃん!ムシカゴ忘れちゃった!』
トミーはさっそく何かを捕まえ
虫が逃げないように
網の部分をギュッと握る。
『えー。じゃあ虫とってもダメじゃん。』
:09/02/18 02:27 :W61S :QP.UDvFQ
#41 [ザセツポンジュ]
『なんでだよ!ムシトリアミは虫をとるためにあるんじゃん!なぁキュウ!』
キュウはユラユラと
自転車のペダルをこぐ。
『うーん!ムシとるアミー!』
キュウにとって
この時、ムシトリアミなんざ
どうでも良かった。
『ジョウジロウ見て!これナニ虫?』
:09/02/18 02:30 :W61S :QP.UDvFQ
#42 [ザセツポンジュ]
ジョウジロウちゃんは
自転車を持っていた手を離し
ムシトリアミに近づいた。
『これカメムシだよ。くさいの。』
『え?くさいの?ん?くさくないよう。』
ガッシャーン。
『いてー!!』
キュウはコケた。
:09/02/18 02:33 :W61S :QP.UDvFQ
#43 [ザセツポンジュ]
足や腕には
いくつものスリ傷が出来ていた。
『ダイジョーブー!?』
トミーとジョウジロウちゃんはかけよる。
『またカットバン増えるねえ。』
ジョウジロウちゃんはキュウの足についた砂を優しくはらう。
:09/02/18 02:35 :W61S :QP.UDvFQ
#44 [ザセツポンジュ]
『カットバンおばけ!キャーハハハハ。』
トミーは網を
握ったまんま笑った。
『いいもん!お母さんが帰って来たら、お母さんがなおしてくれるもん!』
おや?
ジョウジロウが眉間に
シワを寄せる。
『クサーイ。』
みんなで鼻をつまんだ。
:09/02/18 02:38 :W61S :QP.UDvFQ
#45 [ザセツポンジュ]
『トミーがいじわるするから!』
ジョウジロウちゃんは
トミーの虫とりあみを
指差す。
『わー!カメムシがプーした!』
トミーはムシトリアミを
放り投げた。
:09/02/18 02:40 :W61S :QP.UDvFQ
#46 [ザセツポンジュ]
すいとうの中の氷も
すっかり溶けてなくなった頃
辺りは茜色に染まっていた。
広場まで迎えに来たのは
トミーのじいちゃん。
きーさんだった。
『おーい!もう帰ってこーい!』
トミーと
ジョウジロウちゃんは
きーさんにかけよった。
:09/02/18 02:43 :W61S :QP.UDvFQ
#47 [ザセツポンジュ]
『じいちゃん見て!オレのバッタ!』
『きーさん!ボクもバッタとった!』
『ほうほう。すごいすごい。いい緑色をしておる。』
ガッシャーン。
『またぁ。』
この日何回目だろうか。
キュウの足から
血が流れ出てしまった。
『うー。。。』
:09/02/18 02:46 :W61S :QP.UDvFQ
#48 [ザセツポンジュ]
キュウは泣くのをグッとこらえた。
きーさんはキュウを抱っこする。
『キュウちゃん。今日はもうオウチ帰ろう。』
『いやだー!』
目にたくさんの、涙をためて。
『キュウ。もう帰ろうよ。ボクがまた明日、持っててあげるから。』
『オレも一緒に来るから帰ろうよー。』
:09/02/18 02:50 :W61S :QP.UDvFQ
#49 [ザセツポンジュ]
きーさんに抱っこされた
キュウを二人は見上げた。
『いやだ!自転車乗りたい!』
きーさんの抱っこを
嫌がるように暴れだす。
ひき止めるきーさんの手を
はらいのけ、
鼻先が真っ赤なキュウ。
『お母さんが帰って来たら見せるもん!』
:09/02/18 02:52 :W61S :QP.UDvFQ
#50 [ザセツポンジュ]
きーさんは
カットバンだらけの
キュウの足を見て
キュウの両手をつかんだ。
『キュウのお母さんは、もう帰って来んのじゃよ。』
:09/02/18 02:53 :W61S :QP.UDvFQ
#51 [ザセツポンジュ]
キュウは
今まで溜めていた涙が
こぼれ落ちた。
大きな口を開けて
目を
鼻を
真っ赤にさせて。
『きーさんのうそつき!うわーん!』
きーさんは
キュウの背中を優しく撫でた。
『ほんとうじゃ。キュウ。』
:09/02/18 02:56 :W61S :QP.UDvFQ
#52 [ザセツポンジュ]
きーさんは
知っていたのだ。
きーさんだけではない。
大人達は
みんな知っていたのだ。
キュウのお母さんは
この先ずっと
マンションには
絶対に帰って来ないと言う事を。
:09/02/18 02:57 :W61S :QP.UDvFQ
#53 [ザセツポンジュ]
だけどキュウは
帰って来ると
信じていた。
待っても待っても
帰って来ない
お母さんを
来る日も来る日も
待っていたのだ。
:09/02/18 02:58 :W61S :QP.UDvFQ
#54 [ザセツポンジュ]
その間に出来る事を。
お母さんにほめてもらいたい
全ての事を。
キュウは小さいながらに
一生懸命やったのだった。
:09/02/18 02:59 :W61S :QP.UDvFQ
#55 [ザセツポンジュ]
『お母さんが帰って来たらね、お母さんの名前書いてあげる!』
ひらがなの読み書きを。
『お母さんが帰って来たらね、今何時か教えてあげる!』
時計のお勉強を。
『お母さんが帰って来たらね。。。』
:09/02/18 03:02 :W61S :QP.UDvFQ
#56 [ザセツポンジュ]
『自転車に乗れるとこ見せてあげる!』
補助無し自転車に乗る練習を。
:09/02/18 03:03 :W61S :QP.UDvFQ
#57 [ザセツポンジュ]
お母さんは
もう帰って来ない。
お母さんは
もう見てくれない。
お母さんは
もうほめてくれない。
それを幼い子供は
受け入れなければ
ならなかった。
:09/02/18 03:05 :W61S :QP.UDvFQ
#58 [ザセツポンジュ]
キュウに
突然おとずれた予感は
あたってしまったのだ。
キュウは
漠然とあんな事を思ったから
いけなかったんだ
と思ったのだった。
それを口に出して
おじいちゃんに
問わなかった自分を
責めていた。
:09/02/18 03:27 :W61S :QP.UDvFQ
#59 [ザセツポンジュ]
お母さんは
どこに行ったのかたずねる
キュウに
おじいちゃんは
『おでかけだよ。』
と言って
頭をなでるので
キュウはそれを
無理矢理信じていた。
:09/02/18 03:28 :W61S :QP.UDvFQ
#60 [ザセツポンジュ]
実際のところ
祖父にベッタリと
くっついて暮らしていた
キュウは
母親との会話はあまり
無かった。
一緒にお風呂に入ろうものなら
『後ろを向いててね。』
と、言われ
何のために裸で
お風呂に入っているのかも
分からず
部屋には鍵がかけられていて
お母さんの部屋の中に
入れなかった。
:09/02/18 03:29 :W61S :QP.UDvFQ
#61 [ザセツポンジュ]
キュウが
結局すがりつくところは
おじいちゃんのところだった。
しかし
いざお母さんが
帰ってこないと
寂しかったのだ。
:09/02/18 03:30 :W61S :QP.UDvFQ
#62 [ザセツポンジュ]
物静な母親だったが
出稼ぎに行く夫が
家にいない間
その夫の親と暮らし
おじいちゃん、
おばあちゃんの部屋に
いりびたる娘との生活は
さぞ肩身が狭かった事だろう。
東京から帰って来るなり
毎回夫婦ゲンカをしていたのだった。
:09/02/18 03:33 :W61S :QP.UDvFQ
#63 [ザセツポンジュ]
『えーん。』
今度はジョウジロウまで
ポロポロ泣き出してしまった。
『おい!ジョウジロウちゃん!アンタ一体何が悲しかったんじゃ!』
きーさんはキュウを抱きかかえ
しゃがみこんだ。
『わかりませーん!うわーん!』
『。。。分からないなら泣くな、アホか。』
:09/02/18 03:35 :W61S :QP.UDvFQ
#64 [ザセツポンジュ]
続いてトミーまで
目をおさえて
鼻をシュンシュン
言わせている。
『トミオ!次はどうしたんじゃ。わかりませんはナシだぞ。』
『うぅ…ひっく…ううう…。』
きーさんは二人を
自分のもとへ寄せた。
:09/02/18 03:37 :W61S :QP.UDvFQ
#65 [ザセツポンジュ]
『あぁあぁ。ワシがイタズラして泣かせたと思われるじゃろ!困ったなぁ。警察が来たら逮捕されてしまう。うーん。よし。』
きーさんは空を指差した。
『川までお散歩して、夕日が沈んだらおうちへ帰ろう。』
チビ共3人は
涙をゴシゴシふいて
近くの川まで歩いて行くのだった。
:09/02/18 03:40 :W61S :QP.UDvFQ
#66 [ザセツポンジュ]
『キュウ、きーさんの事、嫌いじゃろ?』
『きらーい。』
『フン。それはそうと鼻ちょうちんができておるぞ。ほれ。』
パチンッ。
『キャーハハハハ。』
夕日が沈むまでの間
きーさんは
子供達のご機嫌とりに
懸命に励むのであった。
:09/02/18 03:44 :W61S :QP.UDvFQ
#67 [ザセツポンジュ]
:09/02/18 03:48 :W61S :QP.UDvFQ
#68 [ザセツポンジュ]
トミーの家は
日本瓦のごくごく普通の一軒家。
トミーのパパは
ごくごく普通のサラリーマン。
ごくごく普通なのはここまでだ。
:09/03/04 05:58 :W61S :2upng3Ik
#69 [ザセツポンジュ]
トミーはクラブのママを務める
“ママ”の事が大好きである。
『ママはオレのだぞ!』
と、パパに詰め寄るほどだ。
しかし、ママはいつも夜は仕事でいない。
トミーは保育園に行くのを
とてつもなく嫌がっていた。
:09/03/04 06:01 :W61S :2upng3Ik
#70 [ザセツポンジュ]
『ママと遊びたいのにー!保育園行くのいやだー!』
そしてこの町では変わった人として有名な意地悪ジジイのきーさんに、ダダをこねてはゲンコツを食らわされ、泣きわめく始末だ。
:09/03/04 06:04 :W61S :2upng3Ik
#71 [ザセツポンジュ]
『オレがね、保育園から帰るまでは絶対にオウチにいてね、ママ。』
『わかった。ご飯作って待ってるからね、トミオちゃん。』
いいニオイのするママはトミーの涙をふいてゲンコツされた頭をなでてくれる。
:09/03/04 06:05 :W61S :2upng3Ik
#72 [ザセツポンジュ]
『今日は早くむかえに来いよ、クソジジイ!』
『なんじゃと?もっぺん言ってみろクソガキ!』
きーさんは拳を抱えて、なかなか言う事を聞かないトミーを追いかけ回す日々は続いた。
:09/03/04 06:08 :W61S :2upng3Ik
#73 [ザセツポンジュ]
『ねぇねぇ、じぃちゃん。ママはお出かけしたら帰って来なくなるの?』
トミーはキュウんちのお母さんが“お出かけに行った”まんま帰って来なくなったと言う事実に不安を抱いていた。
それ以来、ママが出かけるのを嫌がって甘えてばかりいるのだった。
:09/03/04 06:13 :W61S :2upng3Ik
#74 [ザセツポンジュ]
保育園が無い日の昼間
きーさんは
春の日を浴びながら
暴れん坊将軍を見ていた。
そんな気持ちのいい午後、
クソガキの話などどうでも良かったが、不安そうな我が孫の顔を見て、ジジイは考える。
『今のトミオに話して、意味が分かるとは思えん。すまんが、その話はできん。クソガキには。』
:09/03/04 06:16 :W61S :2upng3Ik
#75 [ザセツポンジュ]
『なんでー!教えてじぃちゃん。』
トミーには珍しく
あまりの不安感からか、
きーさんにまとわりついた。
『おい、トミオ。ガムいるか?』
きーさんは、10枚入りのガムを、ひとつだけ飛び出させてトミーに差し出した。
『いーるー!』
:09/03/04 06:20 :W61S :2upng3Ik
#76 [ザセツポンジュ]
バチン!
『いてー!!』
きーさんが差し出したのはパッチンガム。100円のドッキリおもちゃだ。
素直にガムを抜いたトミーは
バチンと指を挟まれてしまった。
『やーいやーい。トミオよ、お前はまだ子供なんじゃ。だから教えられん。』
:09/03/04 06:23 :W61S :2upng3Ik
#77 [ザセツポンジュ]
『クッソー!クッソジジイ!』
トミーは挟んだ指を痛そうに握ってきーさんを思いきり蹴った。
『おーおー。かゆいかゆい。トミオ、そのキックの素晴らしさゆえ、一個だけ教えてやろう。』
きーさんは、トミーを正面に座らせた。
:09/03/04 06:27 :W61S :2upng3Ik
#78 [ザセツポンジュ]
『寂しい思いをせずには生きて行けんのじゃ。トミオだって、寂しい思いをすることがこの先あるかもしれないけど、それはそれでいいんじゃよ。悪い事じゃないとワシは思う。』
トミーはまじまじときーさんを見つめた。
『ママがいなくなるっていい事なの?』
:09/03/04 06:31 :W61S :2upng3Ik
#79 [ザセツポンジュ]
『あぁあ。めんどくさいなぁもう。そうとは言っとらん。トミオ、じぃちゃんは今何が言いたいか分かるか?』
きーさんは、正面に座るトミーを横にずらした。
『わかりませーん。』
『フン。ワシは今テレビが見たいんじゃ。男ならそれくらいの事把握しておけ。』
:09/03/04 06:34 :W61S :2upng3Ik
#80 [ザセツポンジュ]
トミーはきーさんと討論するのはやめた。
まだ指がジンジンと痛む。
『じぃちゃん。オレ、キュウんち遊びに行ってくる。』
『おう、じゃあな。』
きーさんはコマーシャルになったと同時に立ち上がり、台所へ移動した。
トミーは金魚のフンのようにきーさんに付いていく。
:09/03/04 06:39 :W61S :2upng3Ik
#81 [ザセツポンジュ]
『なにかしら、トミオちゃん。おじいちゃんに何か用でも?お前も飲むか?』
きーさんはコップにカルピスの原液を注ぐ。
『いらない。ねぇ、あのね。ママがお出かけしないように見張っててね。』
『おう、じゃあな。了解なまこん。』
:09/03/04 06:43 :W61S :2upng3Ik
#82 [ザセツポンジュ]
信用ならないふざけたジジイを前に、トミーはなかなか玄関まで踏み出せないでいた。
『うん、うまい。なんじゃ?トミオまだいたのか。お前も一口飲んでみろ、カルピス。よく見ろ、ワシが口をつけたのはココじゃ。ココ以外で飲め。』
『いーいらない!ねぇママがね…』
:09/03/04 06:46 :W61S :2upng3Ik
#83 [ザセツポンジュ]
『うぁああ。分かった分かった。了解なまこん!おいトミオ!ひとつ言うがしつこい男は嫌われるぞ!早く、キュウちゃんち行って来い、チビ!』
トミーはきーさんの手に噛みつき、やっと玄関を飛び出した。
:09/03/04 06:49 :W61S :2upng3Ik
#84 [ザセツポンジュ]
『キュウーちゃん!あーそーぼー!』
『いーやーよー!』
『おじゃましまーす!』
キュウの家には
“ツインファミコン”があった。ディスクを挿入できる、すなわちマリオ2ができる本体だ。
片田舎にしては珍しい品だった。
:09/03/04 06:52 :W61S :2upng3Ik
#85 [ザセツポンジュ]
出稼ぎに行っている
キュウのお父さんからのみやげだ。
東京で珍しい物を見つけては
購入し、
田舎者を馬鹿にしたかのように
持って帰って来ては
キュウに渡すのだった。
キュウはお父さんの事を
“おみやげの人”と認識していた。
:09/03/04 06:56 :W61S :2upng3Ik
#86 [ザセツポンジュ]
『あれー。さーだは?』
さーだはキュウのじいちゃんの事だ。
きーさんやすーさんみたいに変人ではなく、普通の優しいじいちゃんだ。
『お買い物行ったよ。』
キュウの今のマイブームは
“コップに水を入れて並べる”事。
『ドーレーミー!』
:09/03/04 07:01 :W61S :2upng3Ik
#87 [ザセツポンジュ]
スプーンでコップを叩くと
調整して入れた水の具合によって様々な音を奏でる。
が、キュウの大きな声で
何がどうドレミなのかも
もはや分からなくなっていた。
『キュウーちゃん!あーそーぼー!』
『いーやーよー!』
『…入ってもいーい?』
今度はムシカゴ片手に
ジョウジロウちゃんがやって来た。
:09/03/04 07:05 :W61S :2upng3Ik
#88 [ザセツポンジュ]
『ジョウジロウちゃんいいところに来た!オレとゴエモンやろう!』
トミーはファミコンをセットする。
『う、うん。ねぇねぇ見て!チョウチョとったの!』
ジョウジロウちゃんは
ムシカゴを高くかかげた。
『すごおい!』
『キレーイ!』
ツンツン。
ツンツン。
:09/03/04 07:09 :W61S :2upng3Ik
#89 [ザセツポンジュ]
『ジョウジロウちゃん、このチョウチョ手でとったの?』
キュウはスプーンを手に持ったまんまでジョウジロウちゃんに問う。
『ムシトリアミだよ。』
『ムシトリアミって虫をとるアミじゃん!』
トミーはファミコンのコントローラーを握りしめたまんまムシカゴを覗き込む。
:09/03/04 07:12 :W61S :2upng3Ik
#90 [ザセツポンジュ]
『たまにはチョウチョとってもいいんだよー。』
いちばん嬉しそうなジョウジロウちゃんはチョウチョの羽の模様に見とれている。
そして3人はしばらく
テレビ画面の中の
ゴエモンとえびす丸を応援しながらファミコンに熱中するのだった。
:09/03/04 07:15 :W61S :2upng3Ik
#91 [ザセツポンジュ]
『ただいまー。』
『さーだが帰って来た!』
チビ達は玄関までダッシュして
さーだに飛び付いた。
『ほれ、ほれほれ。』
『うわーい。』
さーだはビニール袋から
子供の夢を取り出した。
マーブルチョコレート、ベビースターにウメトラ3兄弟。
:09/03/04 07:18 :W61S :2upng3Ik
#92 [ザセツポンジュ]
『マーブルマーブルマーブルマーブルマーブルチョコレイト〜マーブルマーブルマーブル…』
3人はピョンピョン跳び跳ねながらCMソングを歌う。
『そういや、トミオちゃん。さっきスーパーでママに会ったよ。』
:09/03/04 07:21 :W61S :2upng3Ik
#93 [ザセツポンジュ]
トミーはマーブルチョコレートの丸い筒を床に落とした。
『ヒ、ひぃぃい!オレ、帰る!』
トミーは一目散に
キュウの家から飛び出した。
『???トミーが帰っちゃった…』
:09/03/04 07:23 :W61S :2upng3Ik
#94 [ザセツポンジュ]
見張ってもらわなきゃ困る。
お出かけされちゃ困る。
ママがいなくなっちゃ困る。
寂しい思いはしたくない。
大好きな人が
どうか離れて行きませんように。
きーさんだけは信用するまいと心に誓ったトミオ少年だった。
:09/03/04 07:27 :W61S :2upng3Ik
#95 [ザセツポンジュ]
:09/03/04 07:30 :W61S :2upng3Ik
#96 [ザセツポンジュ]
『明日はね、ボクがおにぎり係だから母さんよろしくね。』
『はぁい。』
ジョウジロウちゃんの母さんは建築士、そして父さんは大工だ。
しかし暮らす家は
今にも倒れそうなボロ家。
建て直す計画もあるが
まだ実行されてはいない。
:09/03/08 00:34 :W61S :IR6AgnaY
#97 [ザセツポンジュ]
忙しい母さんは家事をおこたっていたが、トミーとキュウと3人で決めた約束ごとは守るようにしていた。
それはおにぎり係だ。
大工の父さんは仕事から帰るとジョウジロウの相手をした。
:09/03/08 00:36 :W61S :IR6AgnaY
#98 [ザセツポンジュ]
ジョウジロウには5つ年上の兄がいて、シンイチロウと言う。
ただのゲーマーだったために弟の相手はあまりせず、自分の興味のある事だけは集中してやりとげるような性格だ。
コントローラーの取り合いよりも、父さんと、歴史のお話をする事の方が自分の性にはあっていたジョウジロウちゃん。
:09/03/08 00:40 :W61S :IR6AgnaY
#99 [ザセツポンジュ]
『三國志のお話はこないだ終わったから、今日はロンドンのお話をしよう。』
父さんは60年代のロンドンの話をはじめた。
そうすると兄のシンイチロウも、あれだけ大好きなファミコンをやめて、自らロンドンの話に耳を傾けるのだった。
『おやすみなさい。』
:09/03/08 00:43 :W61S :IR6AgnaY
#100 [ザセツポンジュ]
ジョウジロウちゃんはロンドンを想像しながら布団に入り、眠りにつくのだった。
シンイチロウも、父さんの車の中で聴くビートルズを好きになっていくのであった。
目が覚めたジョウジロウちゃんは台所の戸を開けた。
『おっぱいよう。』
『じぃちゃんおはよう。』
:09/03/08 00:46 :W61S :IR6AgnaY
#101 [ザセツポンジュ]
忘れてはいけないのが
この家の変態ジジイ、鈴木ひとしの存在だ。
『ジョウジロウ、お前な、今からきーさんを読んで来い。』
すーさんはオセロをセットして正座していた。
『やだよー。ボク今日忙しいんだから。』
ジョウジロウちゃんは、机に置かれたお弁当箱を手に持った。
:09/03/08 00:48 :W61S :IR6AgnaY
★コメント★
←次 | 前→
トピック
C-BoX E194.194