先輩と旅立ちの唄
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#21 [あかり]
私はずっと
用紙から目を離さなかった。
途中までしか書いていなくて、
書き方も拙い内容だけれど、
私の中の作文コンクールで、
今まさに、一位に輝いた。
:08/10/27 06:05 :SH705i :JJ7BuDlA
#22 [あかり]
「先生、これ見て。」
私は文章の終わりの近くに
ぐじゃぐじゃと黒で塗り潰してある
毛虫みたいな落書きに気がついた。
「あいつ、提出になっても出さなかったけど、
何か書きたかったんだろうなあ…。」
先生が物寂しげにつぶやく。
書かなかった作文。
書けなかった作文か…。
:08/10/27 06:09 :SH705i :JJ7BuDlA
#23 [あかり]
それから私は、
志望校に合格した。
作文の人と同じ学校―
なんて思うこともないほど
嬉しさと楽しさでいっぱいで、
私は先生とのあのやり取りを、すっかり忘れていた。
ちなみに、先生は
あの作文を見せたのは
私が初めてだったと言う。
:08/10/27 06:13 :SH705i :JJ7BuDlA
#24 [あかり]
そして、今
私の目の前にいる人。
黒いニット帽を被っている。
帽子…
瞬時にあの時の先生の話を思い出した。
―この人が作文の人…!?―
:08/10/27 06:16 :SH705i :JJ7BuDlA
#25 [あかり]
先輩は、もう一人の人と
楽しそうに話しながら
渡り廊下を過ぎていった。
おそらく、教室のゴミ出し当番なのだろう。
先輩の姿が
ずっと脳裏に焼き付いていた。
:08/10/27 06:20 :SH705i :JJ7BuDlA
#26 [あかり]
小説を読む時、
登場人物を自分なりにイメージするように、
私も作品の人の人物像を
頭の中で作りあげていた。
なんとなく、身長は低くて、
がき大将みたいな感じを想像していた。
実際の先輩は、
高身長で、黒ぶち眼鏡をかけていて、
雰囲気も騒がしい感じではなかった。
:08/10/27 06:25 :SH705i :JJ7BuDlA
#27 [あかり]
それからは、
掃除時間にその先輩が通り過ぎるのを
楽しみにしながら、やり過ごしていた。
ごみ袋を片手に、
友達と話しながら歩く先輩の姿。
あの人は、どんな人なんだろうか?
私の中で興味が湧いた。
:08/10/27 06:30 :SH705i :JJ7BuDlA
#28 [あかり]
「あの帽子被ってる人、
いい匂いするよねぇ〜。」
先輩たちが消えて行った後、そう言い出すもう一人の子。
「うん、私も思った!」
同じ気持ちだったので、
笑顔で答えた。
渡り廊下には、まだ
先輩が身につけているであろう
香水の残り香が漂っていた。
:08/10/27 06:35 :SH705i :JJ7BuDlA
#29 [あかり]
向こうは私の存在を知らないが、
私は先輩のことを知っている。
先輩を初めて見た人は、
「あの人、何で帽子被っているんだろう?」
と、きっと疑問に思う所を、私は理由をだいたい把握している。
なんとも不思議な関係だった。
:08/10/27 06:47 :SH705i :JJ7BuDlA
#30 [あかり]
月も変わり、
掃除区域も変わった。
私のささやかな楽しみは、
区域移動とともになくなった。
「まあ、あの先輩が
作文の人って分かっただけでいいか。」
:08/10/27 22:43 :SH705i :JJ7BuDlA
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