言葉

あたしがいる階は､ほとんど耳が聞こえない人がいる｡

職員で耳が聞こえないのはあたしだけ｡

他の階には老人や､体が不自由な人が集まっている｡

あたしは耳が聞こえない人達と話をしたり､紙芝居を読んだり､時々ゲームをやったり過ごしている事をしゅうに教えた｡

｢｢すごいんだな｡｣｣

しゅうが言った｡

｢｢みんなといろんな話できるし､いい仕事だと思ってるよ｡｣｣

｢｢いいな｡｣｣

｢｢しゅうはやりたい仕事とかないの？｣｣

するとしゅうは､自分の頭に指さした｡

あたしは首を傾げた｡
頭？髪？…髪？

｢｢美容師!?｣｣

｢｢正解!｣

しゅうはニコッと笑った｡

｢｢俺､髪いじんの好きでさ｡友達のとかも時々切ってあげてんだぜ｡｣｣

こうやって､あたしはまたしゅうの事を知っている｡

あたしとしゅうの付き合いは順調だった｡

順調だった……｡

ある日の事だった｡
千尋から連絡がきた｡

【しゅう君とはラブラブ？】

ごく普通のメールだった｡

【仲良くやってるよ｡また3人で遊ぼうね】

千尋から会って話したいと言われ､あたしは千尋と会う事に｡

千尋は3年生になり､学校もちゃんと行ってるみたい｡

｢｢あたし､前より学校楽しくなったの｣｣

嬉しそうに言う千尋｡

｢｢イジメね､前よりは全然ヒドくなくて｡あたしが何か言われてる時､かばってくれる友達もできたんだ｡｣｣

その話を聞いて､あたしも嬉しくなった｡

｢｢もう全部しゅう君のおかげ｡｣｣

よかったと思ってる｡
でも今､しゅうのおかげって言ったよね｡

…どうゆう事？

｢｢結構しゅう君にメールで相談とかのってもらってるんだ｡｣｣

あぁ｡そうなんだ｡
全然知らなかった｡

あたしはちょっとショックだったな｡

しゅう､何も教えてくれなかった｡

あたしに千尋は何も相談してくれなかった｡

｢｢本当しゅう君っていい人だよね｡｣｣

なんだろう…
この先を聞くのが嫌だった｡

｢｢また3人で遊ぼうね｡｣｣

…あたしは少しホッとした｡
｢｢しゅう君の事が好き｣｣って言うのかと思ってたから｡

｢｢早くしろよー｡｣｣

この日はしゅうと出かける日｡

場所は動物園｡

しゅうが行った事ないって言うから行く事に｡

休みの日だから
親子､カップルなど多かった｡

あたし達は手を繋いで歩いた｡
何か話す時は手話をするため､繋いだ手を離す｡

｢｢ライオンでかくね？｣｣

｢｢しゅう､はしゃぎすぎ｡｣｣

しゅうは子供みたいにはしゃいでいた｡

あたしは気づいた｡
手話で話すあたし達をみんなが見ている｡

何？動物見なよ…
そんなに手話おかしい？

みんながジロジロ見ている事にしゅうは気づいてない｡

｢｢あのサル､お前みたいだな｡｣｣

しゅう…みんなが見てる｡
見ながら何か言ってるよ｡
何を言ってるのかわかんない｡

｢｢どうした？具合でも…｣｣

あたしはしゅうの手を止めた｡

あたしはノートを取り出し､【みんな見てる｡】って書いた｡

｢｢だからなんだよ｡｣｣

【みんなにジロジロ見られるの嫌だよ｡】

だって嫌じゃん｡
変な感じだよ…｡