微妙な10センチ。〜最終〜
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#207 [あき]
今日もまた、何もする事がなく、喫煙ルームに入っている。二本目の煙草に火をつけようとした時、懐かしい顔が覗かせた。

『…ご無沙汰してますっ〃』

『おーっ!あきぃ。元気っ!?』

彼女は、カチリと火をつけると、にこりと笑った。

『まあまあですかね〃』
目を合わせられず、私も二本目に火をつける。
新人の頃から、面倒かけっぱなしの、私が師匠と崇める大先輩。
彼女は、とうに違う部署へと移動して、なかなか顔を合わせなくなっていた。

⏰:09/08/07 03:44 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


#208 [あき]
『相変わらずのハチャメチャかぁ?』

『何言ってんですかっ〃最近は、かなり真面目にやってますよっ。ミスもしてませんってばっ!』

そんな私に、あははと笑うと、彼女は、そっかそっかと頷いた。

『順調っ?』

くりっとした大きな目で、私の小さな目を見つめる。その目は、何もかもを知っている目だった。

『さすがですねっ〃耳に入ってますか?』

悪戯な笑顔で答えてみたけれど。その目に見つめられ、今にも泣き出しそうだった。

⏰:09/08/07 03:49 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


#209 [あき]
『…なんだか、よくわかんないんですが、私、どうやら、只今、干されちゃってまぁすっ!!』

明るく声を出してみた。
片手を上げて、あははと笑ってみせる。
彼女は、そんな私に、バカだこいつと笑っていた。

『…何でなんですかね…?』

指に挟んだ二本目の煙草が、ジリリと音を立てて、灰皿に落ちた。
彼女は、ふうっと細く白い煙を吐き出すと、灰皿にくしゃりと押し込んだ。

⏰:09/08/07 03:54 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


#210 [あき]
『あきぃ?あんたの今の上司厳しい人よ?あの人は、ハッキリしてっからね。』

『わかります。丸か罰の人ですよね。で。私は罰が下された。…でも、身に覚えないです。』

そう答えた私に、彼女は、思いがけない事を言った。

『今、彼氏いる?』

突然の質問に、驚きながら、まさかと、苦笑いをしながら手を横に振った。

『…なら、○○の△△さんに心当たりは?』

(※○○→地方名
 ※△△→職種 )

⏰:09/08/07 04:01 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


#211 [あき]
○○地方の△△って言ったら、当てはまる人を知っている。

『…一人知ってます。』

でも、まさか、会社に知れてるはずはない。
勿論、うちの会社が、取引先の人との恋愛が御法度なのは、もう何年も前から熟知している事だ。
私は、会社絡みの誰一人にさえ、彼との事は話ていない。言えるはずがない。

…だから、知られてるはずはない。

『その人とは、どんな関係?』

『…確かに、プライベートで連絡取ってますけど…どうしてそれを?』

⏰:09/08/07 04:07 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


#212 [あき]
『バカだねぇ〃遊ぶんならバレないようにしなきゃっ!!うちの意味のわかんないこだわり、あきも知ってるでしょっ!!』

『…はぃ…だけど、どうして?』

西条さんとの事は、この春に寿退社したさえちゃん、そして、かつての仕事仲間であり、今やさえちゃんの愛する旦那様である、彼しか知らないはずだ。
まさか…この二人から…?

『噂が、彼女の耳に入ったんだろうねぇ。』

『だから…どうして、りょうこさんもご存知なんですかっ?』(※りょうこさん→先輩の名前)

⏰:09/08/07 04:13 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


#213 [あき]
『○○地方の人だからって、あきも気抜いたねっ…』

りょうこさんの話をまとめると。
私の後、別の部署の別の人が、彼の地方に同じく中期出張に出向いた。
同じ地方なだけに、パートナーになる会社も同じだ。そこで、聞いて来た。

《先月、おたくの会社から来た美人さんと、うちの会社の男前がいい雰囲気だ》《本人が、嬉しそうに話てた。》


思わぬ所からの漏洩だった…

⏰:09/08/07 04:21 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


#214 [あき]
『そんなの、出世を狙えば、いい蹴落とし材料じゃん。…にしても、まさか本人から漏れるとはねぇ。』

りょうこさんはため息をつきながら、二本目の煙草に火をつけた。
三本目を持つ指が震えているのを必死に抑える。

『…そんな、やましい関係じゃないですよ…ただ電話したり、メールしたり…』

『私は、いいと思うよ?ただね。仕事先ってのがマズいかった。あくまでも出張中に、出張先の相手だからさ。意味わかるよね?』

頷くしか出来なかった。

⏰:09/08/07 04:28 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


#215 [あき]
『とりあえず、相手とよく話しな?もちろん、相手は悪気があってした訳じゃないって事も、わかってあげんだよ?そもそも、うちの会社がさぁ〜…』

りょうこさんは、その後も、会社に対する不平不満を私に投げかけた。
私は、それに頷き、時折、相槌を打ったけれど、特に頭には残らなかった。
最後に

『その彼の事好きなら、挫けちゃだめ。仕事も恋愛も、挫けたら終わり!踏ん張るんだよっ!』

そう言って、私の背中をポンと二回叩いて、彼女は、またねと部屋を出て行った。私は、はいと小さく返事して、彼女の背中を追うように、部屋を後にして、地獄の部屋の扉を開けた。

⏰:09/08/07 04:40 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


#216 [あき]
定時になり、私はロッカールームの扉を開ける。
朝からの小雨は、とうとう本降りになったようだった。
私はシャツを脱ぎ、くるっと紙バックに入れた。
Tシャツをずぼりと頭からかぶり、続けて、脱いだスカートをハンガーに引っ掛ける。
デニムにずずっと足を入れて、足元をスニーカーに履き替えた。
最後にジッパーをさらりと羽織って。
バックから携帯電話を取り出し、画面を確認する。新着メール一件。

【お疲れ。終わったら、また電話します。西条】

絵文字が、にこにこと私を見ていた。
私は、黙ってそれを見つめ、携帯を閉じた。

⏰:09/08/07 04:51 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


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