微妙な10センチ。〜最終〜
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#1 [あき]
じゃぁね。と笑顔で、手を振ったのは

もうすぐ春の匂いがする暖かい昼下がり。


さよなら。
と冷たく言ったのは

もうすぐ、梅雨が明けようとした寒い雨の夜。

あきとなおちゃんが終わった日。

⏰:09/07/08 00:55 📱:W65T 🆔:Uanw3whY


#2 [あき]
―――――――

『じゃっ。』
―ピッ♪プーッ…プーッ…


雨が滴り落ちる、寒い夜。
オレンジ色のライトが、忙しそうに、行き交っている。
雨の日の夜の運転は見えないから嫌いだと、嘆く私に、笑ってくれてた優しい彼を思い出す。

前が見えない。
雨に光るフロントガラスに滲むライト。
私の世界が滲むのは。
古くなったワイパーが役に立たなくなったから?それとも…

⏰:09/07/08 01:03 📱:W65T 🆔:Uanw3whY


#3 [あき]
『呆気ないなぁ…』

そう、ふっと笑う。
握りしめた携帯電話を、ぽんと助手席に放り投げた。
両手でハンドルを握って、アクセルを踏み込む。
愛車は、ウウンッうねって、前へぐんっと伸びる。
先には青白く光る高速道の入り口看板。
彼が住む街までの道標。このまま突き進み、あれに乗って、彼の元まで行けば、何か変わる?また戻れる?あの冷たい声は嘘だと言ってくれる?

道標の下。
一瞬躊躇した。
だけど、結局、私はハンドル右に回し、道標を背中に向けて、闇を走り抜けた。

⏰:09/07/08 01:14 📱:W65T 🆔:Uanw3whY


#4 [あき]
何が私達をこうしたのか、わからない。
本当にわからない。

分かる事は。

私が、わからないから。
彼が、離れていった事。


そして。気付いていても、わからないから、どうもできなくて。いや…逃げてきて。まさかなんて言い聞かせて。

だけど、たった今。
それは、やっぱり現実で。

離れていった事が

わかった。

それだけだった。

⏰:09/07/08 01:21 📱:W65T 🆔:Uanw3whY


#5 [あき]
なおちゃんがいなくなった街は、とてもつまらない街だった。

毎日、毎日、仕事と自宅の往復。
朝から夜中まで、働いて、疲れて眠るだけの日々。

なおちゃんも、また、懐かしい街で、両親の支えになりながら。夏には着工する予定の新しい城に向けて、たった一人で、忙しい日々を過ごしている。

会えない日々も。
離れて暮らす私達にとっては、なんてない事。
今までにだって。

そんなの、私達には壁にすらならなかった。
そう思っていた。

⏰:09/07/08 01:28 📱:W65T 🆔:Uanw3whY


#6 [あき]
ちょうど、その頃。

私は、会社で、仕事で、抱えきれない程のストレス、不満、不信を抱えていた。

勤めて数年。
憧れから始まった仕事は、無我夢中で駆け抜けた年を終えて、現実として必死になった年も越えて。
見たくもない闇を突きつけられる年に到達。

人間の裏側。
組織の裏側。
いろんなものが見えてくる年。

それに、とてつもなく疲れていた。

⏰:09/07/08 01:35 📱:W65T 🆔:Uanw3whY


#7 [あき]
だけど、それを口には出さなかった。
それは、なんて事ない。

強くなった私

それを見せたかった。
ただそれだけ。

すぐに弱音を吐き捨てて。逃げ言葉を吐き捨てて。
泣きつく私から…

大丈夫だよ。
何とかなるよ。

そう笑って日々を生活する強くなった私。

それを見せたかっただけ。
強くなったな。
そう笑って言って欲しかった。
ただそれだけだった。

⏰:09/07/08 01:42 📱:W65T 🆔:Uanw3whY


#8 [あき]
ちょうどその頃。
彼もまた、抱えきれない程の、不安、不信、ストレスを抱えていたんだろう。

介護疲れしている母のフォローに。
彼自身の慣れない介護。
いちからやり直す、彼の城。それに基づく、桁違いの資金。

頭では彼の不安やストレスを理解していても。
昔のように気持ちが、彼に添えなかった。

私自身が、押し潰されそうな不安やストレスに、彼を支える力なんて残っていなかった。
また彼も私の思いに頭では理解していてくれても、自分自身が押し潰されそうで私を支えられる力を残してはいなかった。

結局、私達は昔のように優しく寄り添えなかったんだ。

⏰:09/07/08 01:51 📱:W65T 🆔:Uanw3whY


#9 [あき]
結局、互いに出てくる言葉は

大丈夫だよ。
元気にやってるよ。

なんて、笑いながら、精一杯の強がりを言うだけだった。

互いに、弱さに気付いているのに、その上辺だけの強さに、甘えて。逃げて。

私達は、いつしか、何も言わなくなっていった―…

⏰:09/07/08 01:54 📱:W65T 🆔:Uanw3whY


#10 [あき]
《…飯くった?》

『…まだ。』

《俺も。…腹減った?》

『うーん。とくに?今日も疲れた。』

《あっそ…。じゃ。寝るわ》

『うん。じゃっ。』


こんな会話を、冷たく交わす夜。
電話を切って思う。

苦しいよって泣けば。
逢いたいよって泣けば。

今すぐに会えるのかなって。

⏰:09/07/08 02:04 📱:W65T 🆔:Uanw3whY


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