微妙な10センチ。〜最終〜
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#321 [あき]
じっとりとした風が私達の間をすり抜けて、また厚い雲が、空を覆いだす頃、鉄の塊が駅へと入ってくる。いつの間にか増えた人が一斉に動き出したと同時に、別れを惜しむ人で、入り口付近が混雑した。スーツ姿のサラリーマンは迷惑そうな顔を向けながら、急ぎ足で次々に乗り込んでいく。私もまた、その迷惑そうな顔を向けられながら、ありきたりの言葉を交わし、いつまでも離れない手を握り、うんうんと返事しながら微笑む。
もう待てないぞと、最後の発車音がホームに鳴り響いて、私達の間に隔てられるドアがプシューと音を立て閉まった。
西条さんは、ドアの向こう側、手を挙げまたねと言って、私は大きく頷き、手を振る。
塊が動き出して、彼は遠く離れた向こう側へと帰って行った。
ある休日の昼下がり。
私達は、二度目の再会を終わらせて。
私は自分自身の何かを終わらせたー…
:09/08/17 00:39
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#322 [あき]
スーツ姿のサラリーマンは迷惑そうな顔を向けながら、急ぎ足で次々に乗り込んでいく。私もまた、その迷惑そうな顔を向けられながら、ありきたりの言葉を交わし、いつまでも離れない手を握り、うんうんと返事しながら微笑む。
もう待てないぞと、最後の発車音がホームに鳴り響いて、私達の間に隔てられるドアがプシューと音を立て閉まった。
西条さんは、ドアの向こう側、手を挙げまたねと言って、私は大きく頷き、手を振る。
塊が動き出して、彼は遠く離れた向こう側へと帰って行った。
ある休日の昼下がり。
私達は、二度目の再会を終わらせて。
私は自分自身の何かを終わらせたー…
:09/08/17 00:40
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#323 [あき]
愛車に乗り込み、ルームミラーで、ついさっき、つけてもらった首にかかったそれを見た。
自分が選んだ?だけあって、シンプルかつキラリと光るそれは可愛い代物。
だけど…正直気分は複雑。
(…今からの時期は苦手なんだよねっ…)
そう。私は突然の雨に降られる季節や、汗ばむ季節になると貴金属は一切しない。
雨に打たれたり、汗をかいた時に、あのアクセサリーがまとわりつく感が、とてもとてもとてもとても!!!気持ちがわるいのだ。(※かなり、しつこく声を大にして言わさせて頂きたい。)だけど、つけてもらった数分後に外すのは、やはりいくら何でも、申し訳ない。
それに…
やっぱり
なおちゃんネックレス。
小さなお土産屋に売っていた、真っ青な石のあのネックレス。
あのネックレスを外して、これをつけてしまった首には。
やっぱり多少の違和感と、言いようのない寂しさがあった。
:09/08/17 01:00
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#324 [あき]
鍵をさし車が唸る。
ハンドルを握る手を見る。
また指輪がきらりと光った。
(…つけちゃった…)
指輪を持っていない。
これは嘘じゃない。
私は、思春期を迎えた頃から自分の手が大嫌いだった。
父親に似てしまったこの手は、女の子らしさのかけらもなく、指は太く短いし、指先なんて丸くて平べったい。爪なんて弱くもろい性質で伸ばせた試しがない。だから、指輪なんて手が強調されるようなものなんて恐れ多い。マニキュアすら塗った事がないのだ。
そりゃ、一応女だし?憧れたりはしたけれど。
過去にも、一度たりともねだった事はなかった。
:09/08/17 01:14
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#325 [あき]
手、そして指は私の最大のコンプレックスだったのだ。
私が一生に一度だけ
唯一つけるとするならば。
それは。結婚指輪。その指輪しかしないと心に決めていた。
自分の左手薬指を見つめても、初めての指輪は、やっぱり女心をくすぐった。仲間入りをしたようで、嬉しかった。
だけど、やっぱり…
《あきが、俺を認めさせたら。よくやったって言わせたら…指輪買ってやるよっ!!》
はるか遥か、遠い昔。
酔っ払ったなおちゃんが
言ったあの言葉。(※一編参照)嬉しかった思い出。
果たせそうにない言葉。
それが胸に響いていた。
:09/08/17 01:26
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#326 [あき]
この指輪は私の決意だ。
私が西条さんのものになったという証。
未来を掴むんだと決めた。
だから、なおちゃんを…諦める。あの日、そう決意した、その証なのだ。
そっと指輪に触れてみる。
そして、私は前を見据えて強くハンドルを握った。
車を静かに発進させて、ゆっくりと前へ動かす。
駐車場を出て、流れゆく景色の中、私はただ車を前へと動かせた。ただ、ただ前進させたのだ。
そう決めたんだ。
自分で決めた…
何度も、そう言い聞かせながら、愛車を前へと進めていた…
:09/08/17 01:42
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#327 [あき]
―ピッ…プルル〜
《おうっ。》
相変わらずの愛想もない返事。
もっと違う言葉ないのかな。
『わたしっ。』
でも、私も私だ。
相変わらず可愛げのない言い方。いつからかな…こうなったの。
《んあ。てか、遅ぇよっ。昨日、かけ直すって言ったのはそっちだろ?俺、かなりご立腹なんだけど?》
怒られた。
なのに、これは昔から悪い気はしなかった。
『帰ったら電話するって言ったじゃんっ〃』
案の定小憎たらしい言い草。
自分でも笑っちゃう。
:09/08/17 19:06
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#328 [あき]
《んだそれっ。はい言い訳っ!!〃》
ああっ。
今日は機嫌良いんだ。
…良かった。
『うっせ!〃だから、電話したのっ。』
可愛くないなぁ…私。
これが。最後なのにっ。
たぶん…最後なのに…
《はぁ?なにっ。帰ってない訳っ?ますますウゼー〃》
冗談じゃないよ?
本気だよ。
…本気なの。
『あの彼と一緒だったっ。さっき帰ったけどっ?〃』
ねぇ。どう思った?
どう感じてくれた?
なんて言う…?
:09/08/17 22:28
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#329 [あき]
《…ふーん。そう。》
で…ですよねぇ〃
アナタは私に何の干渉もないものねっ。
私に幸せになって欲しいんだもんねっ。
そうだよねっ…
うん…やっぱりね…
そう言うと思った…
『………』
あれっ。
自分で言い出したのに。
解ってた答えなのに。
考えた小憎たらしい台詞。
出て来ないやっ…
《まっ、要件は昨日だったからっ、今日じゃ遅ぇしっ。と、いう事で。じゃっ!》
『うん…』
―プチッ。プー…プー…
私の返事を聞いたのか聞いてないのか。なおちゃんの電話は切れた。
:09/08/17 22:51
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#330 [あき]
ハンドルを握りしめて、流れる景色の前を見据える。
これでなおちゃんは、もうかけてこない。
そう感じた。
私もかける事はない。
そう決めた。
これでいい。
そう思った。
私は西条さんを選んだ。
不器用だけど、真っ直ぐな愛を向けてくれる彼を選んだんでしょ?
未来が欲しいんでしょ?
そう言い聞かせた。
なのに涙が溢れた−…
:09/08/17 23:08
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