微妙な10センチ。〜最終〜
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#432 [あき]
数頁前に戻り、そうだったと、さぁこれからだと、やっと本の世界に集中しだした頃、とんだ邪魔者が入る。
私は、活字を目で追いながらポケットに手を突っ込み、震える携帯電話を取り出した。

画面を見て
バクンと胸が鳴った。
まさかと思った。


―西条さん―

画面に記された活字に、心臓が縮む。
しばらく見つめて、そっと通話ボタンを押した。

⏰:09/09/15 04:04 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#433 [あき]
『…もしもしっ。お疲れ様ですっ。』

ついつい業界用語で挨拶をした。

《お疲れ様…。今、駅?》

『…はい。そーです。○×発ですから。』

《あー。そっか…》

ついつい敬語になる。
西条さんは、そんな私の言葉に、違和感なく話を進めていた。

⏰:09/09/15 04:09 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#434 [あき]
《今、大丈夫か?》

『はい。どうかされました?』

《………んだよそれ。》

私のよそよそしい返しに、西条さんは、そう呟くと、何も言わなくなった。
また私は彼を傷付けたんだ。そう痛感する。
なのに、私は言葉を発する事も、この無言の電話を切る事も出来ずに、ただ携帯電話を耳に当て続けた。
当て続けて数分。

《あきは…俺との事どう思ってんの?》

思いもよらない言葉が私の耳を抜ける。
意識で

自分が今、あの温かいなまりのある方言で、そう言われている。

そう理解するのに数秒かかった。

⏰:09/09/15 04:20 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#435 [あき]
『どうって……?』

一瞬にして、周囲の景色が白くなった。
誰の姿も目に入らない。ここが新幹線ホームの待合室だという事が、ウソのような感覚。


《……遊びだった?》

『……何を今更言ってんの?』


遊びか本気かなんてわからない。

ただ私は、あの時
西条さんとの未来を望んだだけだった。
終わりの来ない現実よりも、新しい未来を掴もうとしただけだった。

⏰:09/09/15 04:28 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#436 [あき]
《……俺の事、好きだと思ってくれてた?》

『………』


《…遊びだったのか?》

『………』


《……何も答えてはくれないんだな。》


溜め息まじりに聞こえる彼の声に、答えられないんじゃない。
どう答えていいかわからなかった。

⏰:09/09/15 04:33 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#437 [あき]
西条さんは、いつも答えを欲しがった。
いつも、いつも、私に愛を求めた。

だけど、私はそれに答えられなかった。

馬鹿な私は、彼が求める答えを出せなかったし、彼が求める愛の形がわからなかった。

どうしたら、彼が納得するのか。
どうしたら、彼が落ち着いてくれるのか。
どうしたら、彼が私を信じてくれるのか。

いつもわからなかった。
答えれば、答える程、彼を傷付けてしまった。
これ以上彼を傷付けたくなかった。
だから、彼が求める答えがわからず、私は何も言えなくなってしまったのだ。

⏰:09/09/15 04:39 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#438 [あき]
《…どうして黙る?……わかったよ…なら、その気がないのに、その気になるような事しといて、見事に、あきにハマってく俺を見て心の中で、笑ってたって事?》


また電話の向こうで、なんだか、声が聞こえる。さすがに、とても、酷い事を言われたような気がした。

自然と涙が溢れる。

溢れた涙が視界を現実に戻した。

突然泣き出したスーツ姿の若い女に周囲の人は驚いた顔で、私を見ている。
無邪気に母親にじゃれてた子供は、ピタリと固まり、私の顔を覗き込む。

そうだ。ここは新幹線ホームの待合室。

なのに涙が止まらなかった。

⏰:09/09/15 04:49 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#439 [あき]
『……馬鹿にしないでよっ。』


私が吐き出した言葉は、彼の心には届かなかった。

《ならどうだって言うんだ!?好きも嫌いも言えないんだろ!?馬鹿にしてんのは、どっちだっ!》

隣に座るサラリーマン風のおじさんは、電話口から漏れる彼の怒りの声に、少し顔をしかめた。
静かに新聞を折りたたみ、私の顔をちらりと横目で確認する。
公共の場所での
若い男女の痴話喧嘩。

いい迷惑な話だ。

サラリーマンはそう目で訴えてきた。

⏰:09/09/15 04:56 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#440 [あき]
『…とにかく、今は話できない。』

涙声が必死に彼を説得にかかる。

《…どうしてっ!》

『ホームにいるのっ…』

《だからっ!》

『…お願いだから、落ち着いてよ…』

周囲の人々は、やれやれと言った顔で、我関せずの体制に入った。

『…また帰ったら電話するから…』

⏰:09/09/15 04:59 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#441 [あき]
《待てない。今、聞きたい。……その新幹線乗る前に、はっきり決めてくれっ。》

彼は、そう言う。

『…何を決めろって言うの?』

落ちた涙も乾き、静かに私は聞いた。
まさかの彼の言葉。
にまた時間が止まる。




《あきと、やり直したい。……あきは?》

⏰:09/09/15 05:03 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


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