微妙な10センチ。〜最終〜
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#462 [あき]
そして、隅々まで車内を探した後、やはり、あるべき物が、忽然と消えた事を理解し。
バクバクした心臓が破裂せんばかりに、早く脈打って、身体中が、ワナワナと震えだし、グルグルと思考が回転し始める。
(…やばいっ…盗られたっ!!!!)
この一件が、私の
逃げられない
―今―
の始まりだった。
:09/09/16 03:15
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#463 [あき]
―――――――
『とにかく落ち着いて。珈琲飲んでみたら?』
珈琲の匂いが私の目の前で湯気立っている。
だけど、私は、震えたまま、訳の解らない言葉を繰り返し、話にならなかった。
『…会社に電話しなきゃ…番号…何番だっけ…やばい…どうしよう…』
さっきから、震える手で、お巡りさんに借りた電話を握りしめ
震える指で、番号を押してはみても、全く見ず知らずの場所へ繋がってしまう。
毎日毎日、嫌という程かけている番号がわからない。
:09/09/16 03:25
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#464 [あき]
『携帯も盗られちゃったし…わかんないよ…』
いい歳こいて、半べそでお巡りさんに訴える。
携帯電話が普及した今、簡単に互いの番号を登録出来てしまう。
今は番号を覚える事をしなくなったのだ。
携帯電話。
現代は、これが全ての情報基準だった。
『会社ならタウンページは?載ってるんじゃないの?貸してあげるからっ』
『…今は時間外だから。その番号は繋がりません…』
私はせっかくのお巡りさんのアドバイスも、震える声で、否定した。
:09/09/16 03:32
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#465 [あき]
だいたいの会社には、表番号と裏番号というのが存在する。
表番号というのは、タウンページに載るような、誰でも繋がる番号だ。ただし営業時間が過ぎると、たとえ、そこに人間がいようとも、だいたいが機械音に変わる。
だから、どこの会社にも、裏番号というのが存在していて、それは、勿論社員しかしらない番号であり、表番号がストップしても、直接繋がる番号なのだ。
『…わかんない…わかんないよ…どうしようっ…』
:09/09/16 03:38
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#466 [あき]
パニックに陥っている私は、その裏番号の番号が、思い出せない。
私達の会社は、日中でも、社員は裏番号に掛けるよう暗黙のルールがあった。
もう何年も毎日毎日、何度も掛け続けた番号なのに、掛ける度に、目にしていた番号なのに、いざとなると、出てこないのだ。
『…とにかく…会社に知らせなきゃ…どうしよう…』
盗られたバックには明日からの仕事の全てが詰まっている。
あのバックが無ければ、私は何も出来ないのだ。そんな事になれば、明日の仕事が駄目になる。
震える指で、必死に番号を押す。
けれども、何度押しても違うどこかへと繋がった。
:09/09/16 03:45
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#467 [あき]
『誰か会社関係の人とか…んー。もしくは友達とかは?わかる人いない?』
お巡りさんは、こんなパニックな人間を何百人と見て来たんだろう。優しい笑顔で、冷静にそう言った。
『会社の人なんて…全部携帯に入ってるし…友達も…番号わかんない…』
頭を抱えて、テーブルに伏せる。
とにかく、バックに入れたままの携帯電話まで盗られた事は、致命的だった。
あの小さな機械一つ無くすと、誰とも連絡を取れない事だったのかと痛感した。
:09/09/16 03:51
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#468 [あき]
『名刺は?持ってないの??』
お巡りさんは言う。
『…あっ!!!名刺っ!!!あるっ!!!』
私は、お巡りさんの一言で微かなに見えた光を見つける。
がばりと起き上がり、震える指で財布を開けた。
だけど、震える指では上手く、探せない。
『もうっ!!』
財布をひっくり返し、バラバラと中身をテーブルの上に散りばめた。お巡りさんは、目をパチクリさせて、私を見ていた。
:09/09/16 03:55
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#469 [あき]
『あったっ…もう一度電話貸して下さいっ…!』
もう、何年も前に貰って。古びてボロボロになって…
すごく大切だった。
私の―御守り―だった。
だけど、もう持ってる事をすっかり忘れてた。
数年前
初めての名刺を。
刷り卸したのその初めての一枚を。
照れ臭そうに渡されたその一枚を。
私は、ずっと持っていた。
…なおちゃんの名刺。
:09/09/16 04:02
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#470 [あき]
たった一枚。
この一枚だけは、財布に入れていた。
西条さんの名刺ですらカードケースに入れてたのに(※盗られたバックと共に紛失)
何故か、なおちゃんの名刺だけは、財布に入れてあった。
震える指で、携帯番号を押す。
久しぶりだとか、何だとか、すっかり忘れてた。
とにかく、助けて欲しかった。
:09/09/16 04:09
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#471 [あき]
―プッ…プルル〜…
《はいっ?もしもしっ》
震える体全身に響き渡る久しぶりの声。
知らない番号からの着信に、よそ行きの声で、様子を伺うように出た彼の声なのに。
すごく、すごく安心した。
そして、涙が出てきた。
『わ…わっ…わたしっ…!!』
:09/09/16 04:12
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