微妙な10センチ。〜最終〜
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#497 [あき]
『……せっかくだから…入る?』

私は玄関を指差し言った。

『……どちらでも。』

なおちゃんは、そう言いながら、愛車を眺めた。
本当は一人になんてなりたくない。
誰か傍にいて欲しい。
このままじゃ、またなおちゃんに甘えてしまう。
だけど…私の口からはそれが言えなかった。
たった一言のそれが。


『………』
『………』

無言のまま、生ぬるい風が私達の間をすり抜ける。
相変わらず、鍵穴を見つめ、ぶつぶつと、何かを呟いているなおちゃんの背中を見つめていると、突然へなへなと力が抜けた。
駐車場に座り込み、顔を両手で隠して。
また泣けてきた。

⏰:09/09/24 22:53 📱:W64S 🆔:RZFU4G8o


#498 [あき]
『なんだよっ…。ったく。』

『だって……どうしよう……』

職場に与える損害額。
それに基づく、私の行く末。
余りにものショック。
胸中はかきむしられる位の不安で不安で。
私の小さな小さな肝っ玉は破裂する。
また泣けてきた。

『…うぜーっ!〃』

なおちゃんは、駐車場に座り込む私の背中をパチンと叩く。

⏰:09/09/24 22:59 📱:W64S 🆔:RZFU4G8o


#499 [あき]
『仕方ないから、珈琲の一杯くらい付き合ってやるよ!ほら、立てっ!』

『……うんっ…』


なおちゃんは、慣れた手つきで、ポケットから合鍵を出した。
カチャンと鍵を開けると、慣れた手つきで電気をつける。
私は、呆然と、廊下を突き進みリビングの電気をつけた。
そんな私に、何も言わず、なおちゃんは、どかどかと部屋に上がると、キッチンに立った。
私はフラフラとソファーに座り込み、ただ、なおちゃんが立てる、インスタント珈琲の匂いに包まれていた。

⏰:09/09/24 23:04 📱:W64S 🆔:RZFU4G8o


#500 [あき]
ソファーに二人並び、無言で座る。
ポロポロ流れ出す涙を抑えられない。
そんな私に、なおちゃんは、ただ無言で、隣に座っていた。
どうしようもない悲しさと、どうしようもない不安だけなのに。
何故か暖かい時間が流れた。

『いつまで泣いてんだよっ!』

『…だってぇ…』

『泣いたって何も変わらないだろっ。』

『わかってるけどぉ…』

⏰:09/09/24 23:32 📱:W64S 🆔:RZFU4G8o


#501 [あき]
『あきが悪い!カバンなんて車に置くかぁ?相変わらず馬鹿なんだからっ。』

『…わかってるよぉ…』

『だーっ!!うぜーっ!〃』

口は悪い。
慰めたってくれたっていいじゃん。

大丈夫だよって、言ってくれてもいいじゃん。
優しい言葉なんて
何にも言わない。

言わないけど。

いつもいつも
私がピンチの時には、スーパーマンの様に現れて。

私が泣いてると
傍にいてくれる。

それが、なおちゃん。

⏰:09/09/24 23:37 📱:W64S 🆔:RZFU4G8o


#502 [あき]
そんな、なおちゃんの優しさが好きだった。
そんな、なおちゃんの全てが好きだった。
そんな、なおちゃんだって、わかってたのに。
なのに私は、求めるものが強すぎて。
そんな自分に負けた。

『てか、他に電話する所ないのか?会社は?もう大丈夫なのか?』

なおちゃんの言葉で、はたと思い出す。

⏰:09/09/24 23:43 📱:W64S 🆔:RZFU4G8o


#503 [あき]
『あ……やばい…』



西条さん。

最後に連絡をしたのは、もう何時間も前。
私は[一時間]という期限を切ったメールが最後だった。
あれから、私は、車上荒らしに合って、パニックになって、交番に連れてかれて、何時間も拘束されて……
そして、今、なおちゃんと二人で帰ってきた。


もう真夜中だ。

⏰:09/09/24 23:46 📱:W64S 🆔:RZFU4G8o


#504 [あき]
ソファーから起き上がると、バタバタと寝室に駆け込む。
引き出しを、ひっくり返して、書類を引っ張りだした。

『電話番号…電話番号……!!』


もちろん、携帯電話がない今、西条さんの番号すらわからない。
確か、この引き出しに入れたはずだと思えたボックスを漁ると、乱雑に折り曲げられた、書類が出てきた。

『あった!!』

彼の会社の番号。

ドタバタとリビングに戻って、なおちゃんの胸ぐらを掴む。

⏰:09/09/24 23:50 📱:W64S 🆔:RZFU4G8o


#505 [あき]
『ちょっ!!携帯!!貸してっ!!!』

私は、差し出された携帯に、彼の会社番号をプッシュする。
確か、前に聞いた事がある。夜勤の人がいるから、いつでも電話は繋がると。
祈るような思いで、私は携帯を握りしめた。

数回のコールで、夜勤の誰かに繋がる。

勿論、それは西条さんの声ではなかった。
名前を名乗り、西条さんの所在を尋ねる。
案の定、彼はとっくの前に帰社していた。

⏰:09/09/24 23:55 📱:W64S 🆔:RZFU4G8o


#506 [あき]
『恐れ入りますが、急用なので、連絡先を教えて下さい。』

そう伝える私に、電話の向こうの誰かは、簡単に、西条さんの携帯番号を並べてくれた。
お礼を言って、慌てて電話を切る。

直ぐ様、また、その11桁の番号をプッシュした。

これが、彼の天敵(勝手にそう思っている)なおちゃんの番号だとか、なんだとか、考えちゃいない。
とにかく、焦っていた。

⏰:09/09/24 23:59 📱:W64S 🆔:RZFU4G8o


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