微妙な10センチ。〜最終〜
最新 最初 全 
#541 [あき]
一息ついて、深呼吸して、扉の前に立つ。
窓ガラスの向こう。
皆が忙しそうにカチカチとパソコンと睨み合っていた。
ノブに手をかけて扉を開く。その扉はとても重かった。
静かに開いた扉。
一瞬、皆の視線が自分に向いた気がする。
びくりと体が強ばった。
それでも、私はデスクの間をすり抜けて、自分のデスクに座る。
カタカタカタカタ―…プルルプルルプルル―…
今まで何気なく聞いていた心地好い音。
それが今は
頭をガンガンと打ち付けていた。
:09/10/03 21:22
:W64S
:NSE6Ond6
#542 [あき]
―――――
『それでね…今日…』
真新しい携帯に掛かってきた、日常的な夜の恒例西条さん電話。
私は、今日のあの出来事を伝えようとした。
いや、聞いて欲しかったのかもしれない。
何時間も前からタイミングを見計らっていた。
そして今。
一方的に話続ける彼の話の中で、やっと見つけ出したタイミング。
思い切って、切り出した。
:09/10/03 21:36
:W64S
:NSE6Ond6
#543 [あき]
《んぁぁ?》
『今日、実はさ…』
《…あー!また明日俺、○×だしっ!》
『あ…そうなんだ!大変だねぇ〃』
西条さんは、私の声に返事をするや否や、被せるように、突然また自分の明日の仕事の話にすり替える。
いや、本人はすり替えたつもりはないんだろう。
いるよね?こうゆう人。基本、人の話聞かないってゆうか…。目に入ったもの。思い浮かんだもの。そのまま、突然に口に出す人。
彼もまたそのタイプだった。
:09/10/03 21:39
:W64S
:NSE6Ond6
#544 [あき]
また私の話は腰を折られた形になり…
彼の話の聞き役に回る。
『そっか…大変だねっ…。』
《ったく!人使い荒いって思わないか?》
『あはは…そだね〃』
ねぇ。西条さん。
気付いてよ。
私のこの気持ち。
今、私ね。
大好きな仕事で
大失敗してさ。
すごく落ち込んでるの。すごく悲しいの。
聞いて欲しいんだ…
私の話を…
:09/10/03 21:44
:W64S
:NSE6Ond6
#545 [あき]
《で?あきは?あれからどうなった?》
『あ…うん…。結構大変かもっ…。』
またこれも突然に、彼がそう言った言葉。
だけど、彼もまた、きちんと私の事を心配してくれている事が嬉しかった。
《話はついたの?》
『まだ…損害額が、まだ決まらないみたいでさ〃』
《そっか。》
:09/10/03 21:47
:W64S
:NSE6Ond6
#546 [あき]
《まぁ、仕方ないよな。じゃ、俺、そろそろ寝るわっ!》
『え…あ…うんっ。』
《あきも早く寝ろよ!携帯は耳元に置いとけよっ!》
『うん。わかってるって…』
《あきは、ほっといたらすぐ、遊びに行くから!あはは〃じゃ、また朝電話するなっ!おやすみ〃》
『うん。おやすみ。』
そう言って、一瞬にして電話は切れた。
私の話題は、たった三十秒。―仕方ない―
の一言で片付けられて。終わった。
:09/10/03 21:53
:W64S
:NSE6Ond6
#547 [あき]
切れた携帯電話を見つめて、深い溜め息をつく。
本当は、気付いていた。
彼と過ごす期間が長くなるにつれ。
彼が私に求める事と。
私が彼に求めるものは、大きく掛け離れていて…
だけど決して彼は私を離そうとはしなかったし。
私も一人になるのが怖かった。
未来が欲しかった。
だから。
私は私自身を圧し殺す事で、彼に愛され続ける事を選んだのに。
今更彼に何を求めたんだと。
そして、自分を恥じた。ふっと笑みすら零れる。
:09/10/03 22:05
:W64S
:NSE6Ond6
#548 [あき]
西条さんは。
初めからそう。
あの日―…
不安で泣いていた私に、言葉をかけるのではなく。電話が繋がらなかった事に怒り狂っていた。
泣いている私には気付きはしなかった。
そして、事態を理解した後も―…
私の先を案ずる事よりも。
無くした携帯電話。
明日からどう連絡を取るんだと。
そう案じたんだ。
私自身ではなく…
私との連絡を。
心配した。
:09/10/03 22:17
:W64S
:NSE6Ond6
#549 [あき]
いつしか彼にとって私は。
あきという[彼女]であり。
一人の人間[あき]ではなかった。
そう気付いていたのに。
私は。彼から離れられなかった。
愛情?
……
情?
……
違う。
孤独から。
私は彼を選んだ。
:09/10/03 22:21
:W64S
:NSE6Ond6
#550 [あき]
――
――――
翌日から、本当の私の戦いは始まった。
この部署に配属になって一年。
それなりに上手く付き合ってきた人達。
休憩時間にはくだらない話や、冗談を交えながら、談笑したものだ。
それがあれを切っ掛けに。一斉に手の平を返したように、冷たい目を私に向ける。
牙を向けられた小動物は。猛獣にじわじわと喰われていくのだ。
ジワリジワリと息の根を止められる。
過去に突然消えていった仲間達。
これだったのか。
そう思う。
:09/10/03 22:39
:W64S
:NSE6Ond6
★コメント★
←次 | 前→
トピック
C-BoX E194.194