微妙な10センチ。〜最終〜
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#547 [あき]
切れた携帯電話を見つめて、深い溜め息をつく。

本当は、気付いていた。
彼と過ごす期間が長くなるにつれ。
彼が私に求める事と。
私が彼に求めるものは、大きく掛け離れていて…
だけど決して彼は私を離そうとはしなかったし。
私も一人になるのが怖かった。
未来が欲しかった。
だから。
私は私自身を圧し殺す事で、彼に愛され続ける事を選んだのに。

今更彼に何を求めたんだと。
そして、自分を恥じた。ふっと笑みすら零れる。

⏰:09/10/03 22:05 📱:W64S 🆔:NSE6Ond6


#548 [あき]
西条さんは。
初めからそう。

あの日―…

不安で泣いていた私に、言葉をかけるのではなく。電話が繋がらなかった事に怒り狂っていた。
泣いている私には気付きはしなかった。

そして、事態を理解した後も―…

私の先を案ずる事よりも。
無くした携帯電話。
明日からどう連絡を取るんだと。
そう案じたんだ。

私自身ではなく…
私との連絡を。
心配した。

⏰:09/10/03 22:17 📱:W64S 🆔:NSE6Ond6


#549 [あき]
いつしか彼にとって私は。

あきという[彼女]であり。
一人の人間[あき]ではなかった。

そう気付いていたのに。
私は。彼から離れられなかった。
愛情?
……
情?
……
違う。
孤独から。

私は彼を選んだ。

⏰:09/10/03 22:21 📱:W64S 🆔:NSE6Ond6


#550 [あき]
――
――――

翌日から、本当の私の戦いは始まった。
この部署に配属になって一年。
それなりに上手く付き合ってきた人達。
休憩時間にはくだらない話や、冗談を交えながら、談笑したものだ。
それがあれを切っ掛けに。一斉に手の平を返したように、冷たい目を私に向ける。
牙を向けられた小動物は。猛獣にじわじわと喰われていくのだ。
ジワリジワリと息の根を止められる。

過去に突然消えていった仲間達。

これだったのか。

そう思う。

⏰:09/10/03 22:39 📱:W64S 🆔:NSE6Ond6


#551 [あき]
勤めて数年、この担当職に就いて数年が経とうとも。

私はまだまだ新人。駆け出しだ。
重々理解していた。

だからこそ、私は必死に働いた。お陰で担当も増えた。担当エリア広がった。
いや…
だからこそなのか。

社内では、最高部署だと言われている。
この部署に異例のスピードで配属になった。私が気に入らなかった。
……
………
私は、ここぞとばかりに叩かれ続ける。
地獄の日々だった。

⏰:09/10/03 23:10 📱:W64S 🆔:NSE6Ond6


#552 [あき]
『え?今更、何を言ってんの?』『何してんの?そんな事今までしてたの?』事ある事に、難癖をつけられた。
怒鳴りつけられる事も度々あった。

『ついでに、これもお願いね〃』
担当外までの押し付けられた雑務に雑用を、何度も休憩時間返上で、走り回った。そしてそれらを、珈琲ルームで談笑する人達に届けた。
だけど、こんなのは、気にもしなかった。いや、本当は、カッとなった。胸ぐらを掴んで怒鳴り返してやろうかとも思った。だけど、ガキ臭い奴等だと、相手にするなと、自分に言い聞かせ耐え続ける。

こんな事で、逃げ出したくない。
そう言い聞かせた。

この仕事が好きだった。

⏰:09/10/03 23:17 📱:W64S 🆔:NSE6Ond6


#553 [あき]
一向に、上からの、人事的処分通達は来ない。
毎日増え続ける仕事。
益々気にくわない猛獣達。
緊張に緊張を張り巡らす日中に、心労、ストレスは、図りしれない程の、数値になったに違いない。

そんな日中を過ごすに辺り、唯一の安らぎである夜。
見計らった様に、じゃんじゃん鳴る携帯電話に苦悩した。
それでも一回、一回きちんと対応する。
一度でも、出ないもんなら、大変な事態になり、更にストレスが加わるのだ。

案の定。


徐々に、私の身体が悲鳴を上げ始める―…

⏰:09/10/03 23:46 📱:W64S 🆔:NSE6Ond6


#554 [あき]
――――――

『いたっ…いたたた…』

朝目覚めると、いつもの偏頭痛。
私の病原であるストレスからくる偏頭痛は、最近痛みを増して頻度も増えた。
頭痛で目覚める程気分の悪いものはないが、最近ではもう慣れてしまった。
よろよろとベッドから立ち上がり、キッチンに立つ。
冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを取り出しグラスに一杯入れて、引き出しから、薬を出した。

プチンプチン。

小さな錠剤を二錠。
私は一気に飲み干した。

⏰:09/10/03 23:52 📱:W64S 🆔:NSE6Ond6


#555 [あき]
ずきずきする頭を首から上に乗せたまま。
洗面所に向かい、顔を洗って、顔面ペイントを施しスーツに身を通す。

ズキン…ズキン…

今日の頭痛はしつこいな。

そう思いながら、またキッチンに立った。
出勤前に、もう一杯、ミネラルウォーターを飲むのが、私の日課。
飲み干した途端に

『だめだっ…気持ち悪い……』

頭痛が酷い時は吐き気すら覚える。
咄嗟に、トイレに駆け込み、指を喉奥に突っ込む。

ミネラルウォーター二杯分を、トイレで吐き出した。

⏰:09/10/04 00:00 📱:W64S 🆔:.Nvju5zI


#556 [あき]
吐いてしまった為に頭痛は益々痛みを強めてしまう。
ミネラルウォーター三杯目をぐびぐびと飲み干しながらふと目に入った錠剤。
寝起きに飲んだ白い錠剤の残りは、あと四錠。
私はポケットにそれを押し込み、ヒールに足を入れた。

外に出て携帯電話を取り出す。
恒例なので、【仕事行ってきます】と片手で鍵を閉めながら、片手で文章を打ち込んで、簡単に送信クリック。

鍵が閉まったのを確認して、地獄へとまた私は歩き出す。

今朝は、いい天気だった。

⏰:09/10/04 00:14 📱:W64S 🆔:.Nvju5zI


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