微妙な10センチ。〜最終〜
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#606 [あき]
『あの…電話したいんで、病室には自分で行けますから。〃』
もう消灯時間はとっくに過ぎた暗闇の廊下。
車椅子に乗せられ、病室に向かう途中。
ふと目に入った公衆電話に、思い出す。
白衣の天使は微笑んで、四階だと教えてくれた。
ロビーに移動して膝に置いたバックから、携帯電話を取り出し、ボタンを押す。
…―緊張する。
だけど、伝えなければいけない相手に、私はボタンを押した。
静かなフロアに、ドキドキと心臓の音が響くんじゃないかと思った。
:09/10/08 23:14
:W64S
:haJuWVKA
#607 [あき]
数回のコールで相手に繋がった。
《…もしもし》
『あ…私ですっ。お疲れ様…』
明らかに不機嫌な声に、心臓がぎゅっと鳴る。それでも、平静さを装い言葉を続けた。
《今、何時!?何してたんだ?いい加減にしろ。バカにしてんのかっ!?》
『ごめん…えっと…』
怒りに満ちたその声に私は、言葉を探して、言葉を選んで、この現状を伝えた。
:09/10/08 23:19
:W64S
:haJuWVKA
#608 [あき]
――
―――
《だから、前からそんな仕事辞めろって言ってるだろ。》
『だから…そんな簡単には…』
《何!?》
『ううん…。考えとくっ…』
《またそれかよ!考えとくじゃないだろ?たまには、俺の言う事を聞けよ!!》
『…はい。』
《とにかく、また電話しろ?俺、明日早いからっ。》
『…はい。お休みなさい。』
――
―――――
:09/10/08 23:25
:W64S
:haJuWVKA
#609 [あき]
通話を終えると、また心臓がギューッと鳴った。だけど、また彼が眠ってくれた事により今夜は、もう電話がない事に安堵した。
西条さんは、今の私のこの状況をどう感じたのだろうか。
やり場のない感情。
確かに、入院したからと言ってすぐ来れる距離でもないし。
もし、彼と普通の距離で、その辺りにありふれたカップルだったとしても。この今、来られたからと言って私は、何も言えないだろう。
だけど、距離とかそんな事の前に、現状を知っても尚、言いたい事だけ言って最後に《寝るから》ってのはアリなのか?確かに、彼は仕事柄、ハンドルを握る。睡眠不足は大敵だ。だけど……
そう、ふと感じる。
:09/10/08 23:35
:W64S
:haJuWVKA
#610 [あき]
おまけに、またあの話。一方的に、かつ傲慢な彼の感情。
彼は、あの一件以来、私に強く退職を求めるようになった。
そんな思いをするくらいなら、退職して自分の住む街に来いと。
毎夜毎夜、そう言った。
住む場所はある。
もう仕事なんてしなくていい。
家にいればいい。
彼が私に求めたのは。
確実なる私という人間だった。
:09/10/08 23:45
:W64S
:haJuWVKA
#611 [あき]
確かに、あの頃。
彼は【結婚】という言葉を口にした。
《結婚したいと思える相手と付き合いたい。》
あの頃は、何気なく聞き流した彼の恋愛観の一つ。
勿論、この歳にもなると、だいたいの人間が、それを意識しながらの真剣交際になる。
私自身、彼を選んだには、ずるずるした見えない未来より。
見える未来が欲しかった。
そして、私達の交際はスタートした。
:09/10/08 23:51
:W64S
:haJuWVKA
#612 [あき]
それは間違いない。
事実、私は彼に愛されていると思える日々だった。
電話代がかかるからと、彼は、わざわざ私と同じ携帯会社に変えた。
そして、恒例の夜の電話は、必ず彼から掛けてきた。私が掛けても、電話代かかるからと、必ず掛け直してきた。
月に一度あるか無いかの、デートは、彼が私の仕事に合わせて調整してくれた。
私が食べたい物。
私が行きたい所。
私がしたい事。
全てに答えてくれようとした。
時折、小包を送ってきては、私にきらびやかな装飾品を与えてくれた。彼はいつも、似合いそうだからと。送ってきてくれた。
そんな愛情表現に、私は甘えていた。
:09/10/09 00:20
:W64S
:tD9H2/lM
#613 [あき]
甘いルックスに長身のスタイル。そこそこの収入に、大きな車。なにより、全面的に押し出してくれる私だけへの愛情表現。誰かに話をすれば、最高の彼だと褒め称えられるだろう。
だけど愛情は、時に暴走し、本人も気づかぬ所で、嫉妬。束縛。執着。固執。不穏な言葉に言い換えられる…
でも、それ自身が愛情の裏返しとして片付けられ、愛しているが故に、起こる感情なのだと片付けられる。
はたして、それは正しいんだろうか―…
:09/10/09 00:40
:W64S
:tD9H2/lM
#614 [あき]
そう感じ出したのは…
そう。あれからだ。
私が何を言わなくても何を望まなくても
ただ
全てを失なうかもしれないという絶望と不安の中、恐怖に震える私に、手を差し伸べてくれた。…あの温かさ。
逆風に必死に立ち向かう事に、何も言わずただ見守ってくれた。…あの強さ。
心が折れそうな夜は泣き出しそうな私に、バカ話をしながら、笑わせてくれる。…あの優しさ。
全てに置いて、彼とは違った愛情表現。
それを感じてからだ。
:09/10/09 00:55
:W64S
:tD9H2/lM
#615 [あき]
勿論、西条さんが私にくれる愛情表現と。
彼が私にくれる愛情表現。言葉は同じでも、そこに生まれている感情は違うもので。
私が求めた物は、確実なる未来。
だからこそ、ストレートな表現を重ねる西条さんの愛を受け止めようと努力した。
だけど―…
西条さんと過ごしてく中で、どうしても、割り切れなかった部分。
時折、私自身が爆発しては言い合いになった。だけど、意見がぶつかるばかりで、何も解決はしなかった。
私達の一番の問題点が、この一連の流れで露呈したように思った。
:09/10/09 01:28
:W64S
:tD9H2/lM
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