微妙な10センチ。〜最終〜
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#647 [あき]
《だから来てやったよっ!》
確かにそう聞こえた。
慌てて、また耳に当て直す。
『今なんて言った?』
なにか、とんでもない事を言われた様な気がして、聞き間違いかと、再度、聞き直す。
《だから、来たって言ってるだろ?》
『…どこに?』
《〇〇に。》
※私の住む地名
西条 祐介……
ぶっ飛びすぎ…
:09/10/19 00:59
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#648 [あき]
―――――――
開けた玄関の前に見えるまだまだ信じがたい光景に、心臓がバクンと鳴った。
『どうぞ。散らかってるけど…』
『…俺の家よりか、いい部屋だな。』
『そう?これ履いて?』
この部屋に越した時、来客用にと用意したものの、そもそも来客なんて滅多にない為、使ったためしがないスリッパを彼に勧める。
棚の一番上。
私愛用スリッパと色違い…なおちゃん用スリッパを靴箱に隠したのがチラリと見える。
だけど、周囲をキョロキョロとしている西条さんは、それには気付かなかった。
:09/10/19 01:32
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#649 [あき]
廊下を進み、リビングのドアを開き、彼を招き入れる。
ソファーに促して、彼がソファーに座るのを確認すると、私はキッチンに戻った。
『珈琲でいい?』
返事を聞きながら、ヤカンに火をかけて、100円均一で買った来客用客用のシンプルなマグカップを二つ準備した。
私が愛用しているカップは、また棚にそっと片付ける。
絵柄がとっても可愛くて、持ち手のデザインがちょっとお洒落で。
淡いピンクと、淡いブルーのペアマグカップ。これもまた、いつしか、片方は、なおちゃん専用となっていたマグカップ。
:09/10/19 01:51
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#650 [あき]
西条さんに、後ろめたい気分になるけれど、やっぱり、あのスリッパも、このマグカップも、なおちゃん専用であり、たとえそれが[彼氏]である西条さんであっても、使いたくなかった。
マグカップを見つめ、この部屋には、所々に見え隠れするなおちゃんの香りがある事を改めて痛感する。
本来の[彼氏]の突然の訪問に、[友人]である、なおちゃん専用の隠しきれなかった代物はないかとビクリとしながら、リビングに座る見慣れない光景にただただ、戸惑っていた。
:09/10/19 02:03
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#651 [あき]
ブラウン管の中では、お昼過ぎたワイドショーが流れていた。
無言で見つめる二人に、まず初めに口を開いたのは彼だった。
『驚いた?』
当たり前過ぎる質問に、私はやっぱり、そう答える。
『かなり。よく此処だってわかったね〃』
いわゆる、遠距離交際。しかも別れ話をしにきた相手に私は苦笑いで答える。
『駅からタクシーに乗った。』
『そっか。タクシー代かかったでしょ〃』
『以外に遠いんだよな〃』
『だって田舎だもん。』
:09/10/19 03:11
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#652 [あき]
彼がくしゃくしゃに握りしめていたのは、アパートの住所メモだった。
交際がスタートした頃、送りたいものがあると聞かれた住所。
初めて届いたのは、あの出張で、土産に持たせてくれたあのご当地グルメ。
帰路に着き、食してみるととても美味しかった。それを無邪気に伝えると、彼は、真空パックになったそれを送ってくれた。
男女としての交際がスタートしてからは、何度となく、彼は装飾品を私に送り寄越した。
そのメモなんだろう。
:09/10/19 03:21
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#653 [あき]
『この住所じゃさ、そんな事俺わかんないものなぁ〃』
『前に来た時は、此処来てないもんね。』
確かに、私が住む市には新幹線も止まる大きな駅がある。
国宝があったりする、ちょっとした観光地。
それだけ大きな市なのだ。
だけど、実は私が住む街は、その中心都市から、高速道路を車で四十分。その大きな心臓駅からローカル線に揺られて数駅分。
同じ市でも、都会と田舎。
そんな距離もあり、彼がこの地方に来た時も、私は此処には呼ばなかった。
夜はホテルに泊まったのだ。
そんなこんなで、実情を知らない彼は、市内にあると思ったんだろう。
怒りに任せて新幹線に飛び乗り、怒りに任せてタクシーに乗った。
タクシー運転手にしたら、有難いお客様だったに違いない。
:09/10/19 03:36
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#654 [あき]
久しぶりに会わせた顔が隣に座る。
遠く離れた地に住む彼が、突然にこの街に現れ、部屋に現れた。それだけ、彼の中の[あき]という存在は強かった。けれど、彼が求める[あき]には、私はなれない。
怒りに満ちた彼は、今は冷静に、私の話を聞いている。
いや、聞こうとしている。の方が正しい表現なのかもしれない。
彼の指や背中が、小刻みに震えている事に、私は気付いていたし.
それが、怒りの現れだという事も。
この先に、待っている彼の怒号も。
わかっていた。
けれど、もう彼の愛の強さに私の心は悲鳴を上げていた。
:09/10/20 01:57
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#655 [あき]
話を終えると、彼は一呼吸置いて、煙草に火をつけた。
私は静かに灰皿を差し出す。
『ようはあれだ。あきは俺の為に、その生活を変えようとはしたくないって事だな。だから別れたいと。』
またあの、低く地獄から聞こえるような声が、私の心臓を掴んだ。
『そうゆう事じゃない。ただ、もっと私を信じて欲しかたし、私を尊重して欲しかったっ…』
『ああっ!?ただ遊びたいだけだろ!?こっちで男とチャラチャラとよ!!!』
荒々しく、ガツンとテーブルを叩く。
ビクリと体が固まる。
怒号と大きな音が、また幼き頃の自分と重なり合って大人の自分をまた萎縮させた。
:09/10/20 10:08
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#656 [あき]
『やめて…大きな声出さないでっ』
『ああっ!?聞こえないっ!!この部屋にも何人男を入れたんだよっ!!俺だけじゃねーだろ!!』
『そんな訳っ…』
返す言葉も聞かずに怒りに満ちた彼に腕を捕まれた。捕まれた腕を咄嗟に引っ込め本能的に、体を後ろに仰け反らせ、彼から逃れる。
『ごめんなさい!殴らないでっ!!あきが悪いからっ!』
幼き自身が、姿を表す。咄嗟に頭を隠し、ただ、目の前の大きな怪物に怯え許しをこい、だからと言って震える体で痛みに耐える準備。
:09/10/20 10:17
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