微妙な10センチ。〜最終〜
最新 最初 全 
#666 [あき]
―――――――
もう逃げられないと思った。
寝室で露になった胸板から目を反らし、剥ぎ取った薄いシーツに、また露になった自身をくるませる。
キッチンに立ち、換気扇の下、煙草に火をつけ、轟音の下で細く静かに白い煙を吐き出す。
そう
私はもう彼から逃げられない。
:09/10/26 23:54
:W64S
:OYfTDteY
#667 [あき]
突然だった。
そんなつもりはなかった。ただ、彼から逃れる為に私は寝室へと逃げた。着替えてくる。確かそんな理由をつけて私はあの場所を離れたのだ。彼は力を緩め、私を見送った。
リビングを抜け、隣のドアを開ける。
カチャリとドアを閉めて、ベッドに腰を下ろす。思い出してしまった自分の過去を打ち消そうと頭を抱えた。
頭を抱え、瞼の裏側に焼き付く父親の残像を消そうともがいた。
もう消えて。
そう強く願った。
:09/10/27 00:02
:W64S
:ZHpiXnGs
#668 [あき]
突然、扉が開く音がした。顔を上げると、そこには彼が立っていて、私に向かって歩み寄ってくる。私は、咄嗟に笑顔を作り上げ立ち上がる。入って来ないでよなんて、笑ってみせたと思う。
簡単だった。
長身の彼の体に
小さな私はすっぽりと収まるしかなく。
後は、どさりと二人でベッドに倒れ込んだ。
:09/10/27 00:07
:W64S
:ZHpiXnGs
#669 [あき]
そして、彼はまた私を強く求めた。
嫌だと懇願しても、涙を流しても、彼は私を強く抱きしめた。
抱きしめては、私を強く求め離そうとはしなかった。
そして、彼はとうとう私の中で全身で、私にその愛を注ぎ込んだのだ。
その愛を全身で受け入れてしまったという現実をただ、呆然と天井を見つめるしか出来なかった。
その時、私は涙も出なかった。
:09/10/27 00:13
:W64S
:ZHpiXnGs
#670 [あき]
《俺の子〃出来るかな?》
私のお腹を撫でて無邪気に笑う彼。
痛んだ心に更に刺し込む刃。
《……できないよ。》
薄い布団にくるまり、ぽつりと呟く。
《そんなのわかんないじゃん。俺のお子っ…〃》
《…私、子供産めない体だから。無理だよ。》
昔、本気で尽くした彼に捨てられて
本気で愛したなおちゃんに打ち明けた。
私の……傷。
:09/10/27 00:22
:W64S
:ZHpiXnGs
#671 [あき]
淡々と彼に話す私は強くなった?
違う。
どうでもよくなった…
ただそれだけ。
:09/10/27 00:23
:W64S
:ZHpiXnGs
#672 [あき]
涙を流す事なくただ淡々と話す私に彼は、しばらく黙り込み、そしてまた強く私を抱きしめて。
大丈夫。俺は、そんなの信じない。
そう言った。
彼は、一体何を信じないのだろうか。
私の体?
私の話?
それとも
私達の未来?
彼の胸の中で鼓膜を震わせる彼の言葉は何も胸には響いては来なかった。
ただ、突然に強引に
押し付けてられた愛の証。
その行為が。
私は信じられないでいた。
:09/10/27 00:30
:W64S
:ZHpiXnGs
#673 [あき]
彼はその後もまた、ただ脱け殻となった私を抱いては、愛を囁き、私の中で二度目の愛を注ぐ。私は、またかと、人生二度目のそれをただ天を見つめ、受け入れた。
本当はね。
こんな私でも
心の隅。奥底では奇跡を信じていた。
いつか―…
そんな儚い夢を持っていた。
だからこそ、こんな体の私でも、決して許さなかった。
その願いは。
今更気付いた。
奇跡を信じたい相手とは違う人
から与えられた―…
:09/10/27 00:57
:W64S
:ZHpiXnGs
#674 [あき]
私だって、もう小娘じゃない。
今更、慌ててシャワーを浴びたって、跳んだって跳ねたって、逆立ちしたって…
何の意味もない事くらい知識として知っている。
ただ、情けない事に
自分の体を熟知しているが故の強さと
もし、彼との間に
奇跡が生まれたら…
そんな弱さの間で
もう彼から
逃げられない。
そう覚悟するしかなかった。
やっぱり涙も出なかった―…
:09/10/27 01:08
:W64S
:ZHpiXnGs
#675 [あき]
そして、これが
あきと、なおちゃんの
最後の壁。
この壁は。
決定的に
私達を引き裂き
それは
別れを示していた。
:09/10/27 01:45
:W64S
:ZHpiXnGs
★コメント★
←次 | 前→
トピック
C-BoX E194.194