微妙な10センチ。〜最終〜
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#677 [あき]
『…なおちゃんさ〜…ほんっっと!!オヤジになったよねぇ。』
元はと言えば幼なじみ。出会った頃の事は、さて置いて。再会したのは、十代最後の歳。
そして、今や二人共に、結婚適齢期。私の目の前にいるこの彼は、一体誰なんだと言いたいぐらいに様変わりしていた。
『うっせ。貴女もいい加減いい歳だろうが!』
『…ですよねー…あーあ…』
急激にテンションが下がる。
私は、この部屋での定位置。
お気に入りのクッションを抱え、お気に入りのソファーにボスリと横たわった。
:09/10/27 02:00
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#678 [あき]
『…あーっ!!幸せになりたーいっ!!』
これは、ここでの私の口癖。
お気に入りの大きなクッションをボスボスと叩きながら、足をバタバタさせた。
『はいはい。ぶちゃいくさん、うるさいよ。』
なおちゃんは、そんな私の叫びを聞き流し、最近、新しく買ったギターの楽譜をテーブルに置き、ポロリンとまたメロディを奏でた。
『不細工言うなっ!』
:09/10/27 02:06
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#679 [あき]
『はいはい。おでぶちゃん。』
『あのねぇ!!』
なおちゃんの部屋で、彼が奏でるアコースティックギターの音色を聞きながら、こうやって憎まれ口を叩き合う時間が、私には、とてつもなく、心地好い時間だったりするけど。
それは口が裂けても言えない言葉。
『なおちゃんが知らないだけで、こんな私を好きだという人は、いるんですぅ!!』
『ほぉ〜〃良かったじゃんっ!なら、その人に幸せにしてもらえ。』
なおちゃんは、またいつもの調子で、私の戯言を聞き流した。
:09/10/27 02:13
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#680 [あき]
いつもそう。
なおちゃんは、いつも、私が何を言っても、顔色ひとつ変えないで。
笑って聞き流す。
私だけが、好きで好きで…たまらなく好きで。そんな月日だった。
それがツラかった。
だから私は…
『……本当だよ?』
そんな姿が、あまりにも哀しくて、ついポロリと漏らす。
『…知ってるよ。例の彼だろ?』
なおちゃんは、楽譜に目を落としたまま、静かに答える。
今夜。久しぶりに
私達の間に静かな時間が流れた。
:09/10/27 02:19
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#681 [あき]
『…結婚…言われてる。こっちに来いって。』
『へぇ。』
『…それだけ?』
『世の中には物好きがいるもんだな。』
『…で…ですよねーっ?!〃』
なおちゃんの奏でるメロディが、胸に刺さる。
この、メロディ。
私達が毎日のように一緒にいた頃。
あの、なおちゃんの小さな城で、暇潰しに二人で見たあの古い映画。
さほど興味無かった映画だったのに。
エンディングには、二人で感動してて。
二人でちょっと泣いてて。
最近、熱心に練習しているメロディなんだよね。
:09/10/27 02:33
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#682 [あき]
練習してる事には気付いていたけれど、空気を変えたくて、私は明るく言った。
『それ、あれじゃん?』
『そう、それ。』
そして、自分達の今の会話に違和感を感じ、数秒の沈黙の後、二人で目を合わせた。
『てかさ、私達今の会話成り立ったんだよね?〃』
『成り立ったのが、悔しいな〃』
二人で笑った。
:09/10/27 02:46
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#683 [あき]
そんな空間がやっぱり心地好くて、なのに、こんなに心地好い空間を、私は掴めなかった…掴んでいられなかった。
自ら手放した。
なのに
止めて欲しくて。
まだ、微かに希望や期待なんかして。
どこまで、自分勝手な女なんだ―…
:09/10/27 03:04
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#684 [あき]
なおちゃんの目を見ていられなかった。
上半身をゴロンと横たえたソファーの上。
下ろした足をプラプラさせながら、古ぼけたなおちゃんの部屋の空を見上げる。
『………』
『………』
妙な沈黙。
静かに流れる、新しいメロディ。
この曲も知っている。
なおちゃんの指から
完璧に弾きこなされる美しいメロディに、私は無言で耳を傾けた。
:09/10/27 03:14
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#685 [あき]
よく弾いてくれるこのメロディ。
私が好きな曲としてなおちゃんは記憶している。
だけど…
本当は違う。
なおちゃんは知らない真実。
あれは再会した直後。
まだ、私が夜の世界に生きていた頃。
学力に弱い私はもっぱら邦楽派。
洋楽なんて、何言ってるのかサッパリわかりません!的ノリだったあの頃。
当時お気に入りだったアーティストがカヴァーをしていた洋楽アーティストのある一曲。
:09/10/27 03:37
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#686 [あき]
その日、お店に顔を出してくれたなおちゃん。閉店までいたもんだから、ついでだと送った私の車内。
ドキドキの車内。
偶然にも、その一曲が流れた。
《おっ!いい曲聞いてる…って、カヴァーかよっ!原曲聞けよ〃俺、この曲好きなんだ。》
彼の好きな物は、何だって好きになりたかった。私は、その夜、原曲とやらを必死に調べた。それは、当時、名前も聞いた事のない知らない国のチンプンカンプンアーティスト。
:09/10/27 03:47
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