微妙な10センチ。〜最終〜
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#90 [あき]
『…ん…。わかった。でも…』

《んだよっ。誰かに話聞いて欲しいなら、公衆電話から、かあちゃんにでもかけたら?》

そんなんじゃないの。
ただ。なおちゃんと話たいって思う、この気持ちは、ダメなんですか?
バカな話して、笑って、元気が欲しいって思っただけ。久しぶりの声を、体一杯に吸い込んで、明日からの残りの仕事の糧にしたかっただけ。
ただそれだけだったのに。

『そだね…。そうするわ…』

《じゃな。》
―ピッ…プープー…

呆気なく切られた電話は、私の思い全てを消し去った。

⏰:09/07/19 11:46 📱:W65T 🆔:uu9YQiaQ


#91 [あき]
切られた電話を握りしめながら、久しぶりに涙が溢れた。
言いようのない感情が胸をかきむしる。
こんなはずじゃなかったのに。
いつから、私達は、こんな冷たい言葉しか言えなくなったんだろう。
思いやれなくなったんだろう。
たった一言の優しさ
たった一言の言葉が
私達は言えなくなったんだろう。
二人で歩んできた思い出が楽しかった程。
今の私達の関係が
歪んで見えた。

⏰:09/07/19 12:01 📱:W65T 🆔:uu9YQiaQ


#92 [あき]
溢れだした涙は、止められなかった。
次から次へと締め付ける感情が、涙となって溢れ出てくる。

真っ白な壁紙に包まれた狭苦しい部屋が。
とてつもない闇へと変わる。
その闇で、大きな魔王が私の腕を取り、とても奥深くへ、引きずり込んでいく。苦しくて、怖くて、もがいて、なのに、魔王は、高笑いをしながら、ズルズルと闇へと私を引きずった。

『もうやだ…』

たった一人の部屋で、思わず、声が漏れた。

誰かに助けて欲しかった−…

⏰:09/07/19 12:22 📱:W65T 🆔:uu9YQiaQ


#93 [あき]
助けてともがきながら闇に落ちていくそんな私。

はたと景色が白い壁に戻る。あの異音。
魔王の手を振り払い、私は携帯電話を握った。

景色は、白い壁。
ここは、職場。
ここは、ホテル。

『はい。』

《あ。西条です。今いいですか?》

『ええ。〃』

今日は、食事の業務連絡ではないらしい。
明日の打ち合わせ変更の連絡だった。
メモを取りながら、私は、へらへらと明るい声を出した。

魔王は、私の後ろで、ニヤニヤと腕組みをしていた。

⏰:09/07/19 12:36 📱:W65T 🆔:uu9YQiaQ


#94 [あき]
《と。言う訳ですから、間違わないで下さいね。》

『はい。はいっ〃』

今は誰でもいい。
この魔王から、助けて欲しかった。

《で?飯。今日はちゃんと食いましたか?》

『うーん。今日はいいですっ〃』

《またそんな事言って。》

『…食欲ないから。』


そう呟いた。

⏰:09/07/19 12:46 📱:W65T 🆔:uu9YQiaQ


#95 [あき]
そんな私に、西条さんは、元気ないねと電話の向こうで笑っていた。

頬を流れるそれを拭き取りながら、そうかなと笑って答える。

《らしくないよっ。どうした?》

何気なく発されたこの言葉は、今の私には逆効果だった。
間違いなく体中の血流が頭に向かって。
そして突然にプチンと切れた。
相手が仕事パートナーである、西条さんだって事すら、忘れるくらい。
冷静さを失った。

らしくない
らしくない
らしくない…

⏰:09/07/19 19:45 📱:W65T 🆔:uu9YQiaQ


#96 [あき]
『らしくないって何!?
いい加減な事言わないでよっ!
私がどんな思いで、毎日いると思う!?

今のあなたは、私の何を知ってんのよっ!!

私は強くない!!
強くなりたかっただけなのっ!!
本当は、こんなの私じゃないっ!!
…ツラいんだから…
本当は…ツラいんだからね…もぉやだ…』



プチンと切れた糸は、頭に血を上らせて。
そして、全身の力を抜いていった。

何も知らない、西条さんに、なおちゃんをかぶらせて。
バカみたいに泣いていた。

⏰:09/07/19 19:50 📱:W65T 🆔:uu9YQiaQ


#97 [あき]
ひとしきりに泣くと、今度は急激に冷静さを取り戻していく。
頭に昇った血が、今度は足まで引いていく。

《………》

電話の向こうの人は、黙ったままだ。

あ…
しまった…
まずい…
うん。いや…やばい…
非常に…やばいぞ…

そして急に毛穴という毛穴が、かっぽ開いて、妙な汗が噴き出してきた。

⏰:09/07/19 19:56 📱:W65T 🆔:uu9YQiaQ


#98 [あき]
慌てて、言葉を探す。
本当に、あたふたと言葉を探した。

『あのっ!!ひどい事っ…』

そう言いかけた時、電話の向こうから、思いもよらない言葉が返ってきた。


《すみません。》


彼はポツリと、そう謝った。

⏰:09/07/19 20:01 📱:W65T 🆔:uu9YQiaQ


#99 [あき]
驚いて言葉を失う私に、電話の向こうの彼は、続けて言った。

《らしくないって言葉は失礼でしたよね。僕は、あなたの事、何も知らないから。》


『いえ!それは…』


《…それに、あなたが、何かに、こんなにも傷付いてるのに。僕は何もしてあげれません。僕は、あなたの仕事パートナーですから…すみません。》

⏰:09/07/19 20:06 📱:W65T 🆔:uu9YQiaQ


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