微妙な10センチ。〜最終〜
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#167 [あき]
『この車、でかいから、あそこ停めると邪魔になるんだよね〃急がせて悪かったね。』
『いえ…』
確かにでかい。
デカすぎる。
なおちゃんなんて、車持ってないんだから…
なおちゃんの愛車だった箱型普通車君は、今は私の相棒。
あの愛車君を、手放したくないけど、手放さなきゃいけなくなったくらい貧乏なんだから。
だから情けをかけて、私が引き取ったの。
愛車を失った彼は仕事用にともらった軽四をぷいぷい言わせてるんだから。
私がいると、当たり前のように、過去の相棒、今や私の相棒君を愛おしそうに、乗り回すんだから。
貧乏なんだから…
:09/07/31 19:37
:W65T
:ZWrhOOXQ
#168 [あき]
あの時とは、まるで違う。
爽快に流れる景色を高い視線から眺めてながら、ちらりと確認。
飾りも匂いも何もない、ラジオがBGMの小さな車に、小さく折りたたまれた長い足は、統一感溢れる備品で、いい匂いと、オシャレな音楽が流れる広々とした車にすらりと伸びていた。
『オシャレさんなんですねっ』
『そう?』
はにかんで笑う彼が、大人に見えた。
:09/07/31 19:45
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#169 [あき]
『遠い所、お疲れ様でしたっ〃』
『またまたお迎えご苦労様ですっ。』
『では、今日はどこから行きますか?』
『お任せしますっ。』
『わかりました。じゃ、ルートは任せて下さいっ。ただ、最終判断は、あなたの仕事ですっ。』
『了解っ!』
『では、本日も1日宜しくお願いします〃』
『宜しくお願いしまーすっ。』
私達は、顔を見合わせて、プッと吹き出す。
そして、はははと声を出して笑った。
:09/07/31 19:58
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#170 [あき]
その日。西条さんは、地方物の私に、沢山の感動と感激を与えてくれた。
一カ月前に来た時は、何にもない田舎だと思ったこの場所は。
本当は、とても海が綺麗で、人が暖かくて、美味しい食べ物で溢れる所だった。
『綺麗だねぇ〃』
そう笑う私の横に寄り添い、この景色の説明をしてくれた。
『これ美味しいっ!〃』
そうはしゃぐ私に、好きなだけ追加しな?と笑いながら言った。
車に乗れば、暑くない?寒くない?
階段になれば、手を差し出した。
大丈夫と、はにかみ笑う私に、彼はふっと微笑んで、黙って肩を差し出した。
:09/07/31 20:10
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#171 [あき]
外を歩けば、車道側を歩き、どこに着いても、必ずドアを開けてくれる。
いつの間にか終わっている、お会計。
全てが大人だった。
こんなの、別に望んでもいない。
気が引ける。恐縮する。
だけど…だけど、女だもん。こんな扱い、悪い気はしない。
こんな気持ち…
私、いつから忘れてたんだろう…
そっか。
口も態度もピカイチ悪いけど、何気ない仕草や、何気ない事。それに優しさを感じれた。
だから、それで良かった。だって、私は、なおちゃんと居られるだけで、幸せだったから。
それだけで良かった日々だったんだ。
私、女だったんだ…
:09/07/31 20:25
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#172 [あき]
今朝、始発に乗っても、この街に着いたのは、なんとか午前中。限りある時間を、ふんだんに満喫した。
周りはネオンがつき、人影もパラパラになりだした頃、そろそろ、私の住む場所へと向かう最終便がこの街から出て行く時間。
もちろん、そうなるのは覚悟の上で、駅まで愛車で出てきた。前回失敗したのをもとに、最終便で帰っても、自宅には戻れる準備万端なのだ。
彼が送ってきた、チケットは片道分。
少なくとも、そろそろ駅に行かないと、窓口が閉まる。
『…今日は楽しかったですっ。』
『うん。俺も。』
微妙な空気が車内に流れる。
駅に向かおうと言い出せない自分は、ほとほど弱いと痛感した。
:09/07/31 20:35
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#173 [あき]
※※※※※
余談
送られてきたのは三日間の往復チケットでした。
>>160参照。
だけど、さすがに、それはと、すぐさま返品。
日帰りならと伝えると後日、彼から、片道切符が送られてきたワケです。
※※※※※※※※※
:09/07/31 20:43
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#174 [あき]
駅へと車が進む。
何故か無言の彼。
気まずい私。
彼は前を見据え、私は横の流れる景色を見ていた。
『…やっぱり送らないとけない?』
方言でポツリと言われた言葉に、ドキンとした。
『本当は、このまま連れて帰りたいくらい君を離したくない。もう会えなくなるのがわかるから。
だから、せめて、もう一日。一緒にいて欲しい…』
そう言って、ハンドルを握る手が私の手に触れた。
自然と彼の左手に、力が入り、握られた私の右手を包み込んだ。
:09/07/31 20:54
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#175 [あき]
車は駅を通り過ぎ、街の中を走り抜けた。
何も言えなかった。
どんどん背中で小さくなっていく、駅。
だけど、小さくなったかと思えば、また突然現れる駅。彼は、それでも、ロータリーには入れず、また駅を通過した。
何度も何度も、駅を通過しては、また駅を目指す。
さすがの私も、道を覚えたぞと、苦笑いをしたくなる。もう何周したんだろうか。車内の時計を見ると、とうとう、つい一分前、最終便がこの街を出発してしまっていた。
その間、沈黙が流れる車内で、音楽だけが、聞こえる。
『……ごめん。』
そう言う彼に、私は、泊まる所探さないとね。と笑って言った。彼は、握っていた手を離すと、柔らそうな髪をくしゃりと掴んで、これじゃ拉致だと溜め息をついた。監禁かもねと笑う私に、俺は、笑えないと苦笑した。
そして、ありがとうと言った。
:09/07/31 21:07
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#176 [あき]
『まさか、拉致られるとはっ〃明日、休み取ってて、良かったですよっ。ともかくだっ。こうなった以上、ド○キありますか?着替え買わなきゃっ。』
『こここら30分くらいかかるけど。』
『へーっ。あるんだっ〃』
『コラッっ〃あるさっ!バカにすんなよっ。』
『はいはいっ。』
車は、深夜も営業している大型ショップへと向かう。本当は、ドキドキしていた。バクバクしていた。
笑ってないと、潰されそうだった。
仕事は休みだった。
勿論、こうなるなんて予想していなかった。
ただ、こんな遠い街に来て、深夜に帰宅するんだ。
朝起きれる自信がなかった。だから、久しぶりに貯めてた有給を使ってただけ。念のためだ。念のため…
:09/07/31 21:21
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