微妙な10センチ。〜最終〜
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#191 [あき]
フィレオフィッシュセット。ドリンクはコーラで。それと
チーズバーガーセット。セットドリンクは、アイスコーヒーだ。
おまけに
単品でチキンナゲットをひとつ。
大量のジャンクフードに呆れながらも、紙ナフキンを渡す。
それを受け取りながら、2つある、ポテトをひとつ、私の方へ渡してくれる。
そして、まずは、フィレオフィッシュをペロリと平らげて。コーラをグビグビいっちゃう。
次に、ポテト片手に、チーズバーガーを、これまたペロリと平らげて。
……そして、繰り広げられる、壮絶なるチキンナゲット争奪戦。
そして、戦いの後に、煙草片手に、アイスコーヒーを飲むんだ。

⏰:09/08/06 05:18 📱:W65T 🆔:kvYeBl/U


#192 [あき]
私が知ってる慣れたメニュー。
どちらが会計をしても
どちらが買い出しに行っても。

《いつものね》

この言葉を言えば、必ず出てくるメニュー。

そして、ポテトを2つ、満足げに、平らげる私を
《あぁあ。またデブになるぞっ》
って笑いながら…
ハンバーガー2つ平らげる彼を
《このっメタボっ!》
って笑いながら…
必死に、チキンナゲットを取り合って。
マスタードソースを取り合って…
ぎゃーぎゃー喧嘩して…
私は、この場所を
そうやって過ごしてきた。

⏰:09/08/06 05:25 📱:W65T 🆔:kvYeBl/U


#193 [あき]
(ポテトも、ナゲットも…ないなぁ…てか、食べづら…)

私に微笑みかける西条さんに答えながら、私はそう感じざるを得なかった。

照り焼きソースって、けっこう食べづらいもんなんだ…マヨネーズやら、ソースやらが、垂れるんだ。
そんなの気にしてなかった。

《おいっ!ソースっ!》
《ん…?あっ〃落とした〃》
《ガキっ!》


『ぼちぼち出ようかっ。時間だね』

彼の言葉に、現実へと戻る。うんと頷き、二人並んで、店を出た。

⏰:09/08/06 05:34 📱:W65T 🆔:kvYeBl/U


#194 [あき]
二人並んで、駅を目指す。じりじりと差し込む日の中吹く、この生温い風は、雨が降る前兆。
おまけに昔、昔に怪我した右腕が、どくどくと脈打ちだす。
季節は梅雨入りだと、痛感させられた。
路地を抜けて、駅までの大通り。車がせわしなく行き交った。私の横をびゅんびゅんと先急ぐ車に、彼の長い手が、ふわりと伸びて、私の腰を掴む。引き寄せられるように、私は歩道側へと彼に並んだ。

『危なっかしいなぁ。〃』

『ごめんなさい〃ありがとっ。』

そして、伸ばされた彼の右手に、黙って左手を差し出した。

⏰:09/08/06 22:30 📱:W65T 🆔:kvYeBl/U


#195 [あき]
彼はその差し出した左手をしっかりと握って、はにかんで笑う。そして、雨、持つかなっなんて、恥ずかしそうに、プラプラと揺らした。私も、笑って答える。

駅のロータリーが見えてきた。数ヶ月前、私達が出会った場所で。昨日、私達が再会した場所。何も変わらない景色。
ただ、変わるのは
この場所で
スーツ姿の、よそよそしい挨拶をした私達が。
数ヶ月後には
こうして、手を繋いで歩いている事だけ。

⏰:09/08/06 22:35 📱:W65T 🆔:kvYeBl/U


#196 [あき]
チケットを買う私を、背中で待つ彼。
ビジネスマンや、親子連れ。ぱたぱたと手団扇で、蒸し暑さをしのぎながら、長蛇の列に、並んでいる。
ちらりと後ろを振り向くと、微笑む彼の隅に寂しさが伺えた。

見送る側の人って、こんな気持ちなんだ…

そう思ってみても、私の生活の場所はここではない。
帰る場所がある。
私の生きてきた全てが詰まったあの場所。
あの場所に帰らなきゃ。

私は、前を見据えて、列に並んだ。

⏰:09/08/06 22:42 📱:W65T 🆔:kvYeBl/U


#197 [あき]
流れゆく景色の中、私の中でも、この二日間の全てが走馬灯のように流れては消えた。
改札前。ぎりぎりまで、私の手を握っていた彼の温もりが、まだ左手に残っている。

《じゃぁ。気をつけて。》
《西条さんもっ。》

改札を抜ける私に、いつまでも手を振り続けてくれた。ふと窓の外を見ると、流れる景色の窓に水滴がついては、後ろに流れていた。
梅雨の雨だ。
私は静かに目を閉じて、現実へと戻って行った。

⏰:09/08/06 22:49 📱:W65T 🆔:kvYeBl/U


#198 [あき]
また慌ただしい日々が戻ってくる。


だけど…

この出逢いが
少しづつ
だけども
確実に

私の平凡で、平和で、平穏で…
だけど大切だった日々。

何十年もかけて
何年もかけて
積み重ねてきた
全てのものを。

壊していった―…

気付いた時には、本当に遅くて。
私に選択肢なんて残ってはいなかった。

⏰:09/08/07 02:45 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


#199 [あき]
―――――

『どうしてですかっ?これは、私の担当じゃ…もう準備だって…』

『とにかく、今回は外れてもらうから。後はそっちで話して。』

彼女は、私には目もくれず、書類をパンっと揃えると、席を立った。
高そうなスーツに身をまとい、高級腕時計をちらつかせて、釣りがねフレームの眼鏡をくいっと押し上げて、私の横をすり抜ける。この春から、私の直属上司になった。本社から来と言われる彼女は、いかにもやり手キャリアウーマンだった。

⏰:09/08/07 02:52 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


#200 [あき]
彼女の背中を見送りながら、呆然と立ち尽くす私の後ろに、まだまだ青い、何年も下。いわゆる、後輩と呼ばれる彼女が突っ立っている。

『あのぉ…』

『…あっ…ごめん。じゃ。引き続きしようか…。』

私は、振り返り彼女に笑顔を見せると、自分のデスクに戻る。かき集めた書類、資料を説明しながら、一枚ずつ、彼女に手渡す。彼女は必死にメモを取りながら、私の言葉に頷いた。

こんな、まだまだ青い彼女にこの案件を上手くまとめられるのか。

そう思っても、何も言えなかった…

⏰:09/08/07 03:00 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


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