微妙な10センチ。〜最終〜
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#686 [あき]
その日、お店に顔を出してくれたなおちゃん。閉店までいたもんだから、ついでだと送った私の車内。
ドキドキの車内。
偶然にも、その一曲が流れた。
《おっ!いい曲聞いてる…って、カヴァーかよっ!原曲聞けよ〃俺、この曲好きなんだ。》
彼の好きな物は、何だって好きになりたかった。私は、その夜、原曲とやらを必死に調べた。それは、当時、名前も聞いた事のない知らない国のチンプンカンプンアーティスト。
:09/10/27 03:47
:W64S
:ZHpiXnGs
#687 [あき]
普段行かない洋楽アーティストコーナーで、全く知らない世界に呆然と立ち尽くし、めっぽう横文字に弱い私は、訳がわからなくなり、勢い余って、そのアーティストを、いっさいがっさい大人買いしてやった。
そして、携帯電話の着信音。当時、じわじわと流行りだした着信コール。全て設定を変える見事な馬鹿っぷり。
だけど、人間の記憶というのは、時に簡単にすり替えられる。
なおちゃんが好きだと言ったアーティストは。
いつしか、私も好きな曲として新たに、なおちゃんの記憶に埋め込まれてしまったのだ。
それが真実―…〃
:09/10/27 04:09
:W64S
:ZHpiXnGs
#688 [あき]
『久しぶりに、あれ聞きたいな!!』
『ああっ?あれ、コード難しいんだよ。』
『いいじゃん!練習〃練習!』
そんな想い出の詰まったメロディは、今の私には聞けない。
明るく、あっけらかんと、何事もないように,[あれ]と違う曲をリクエストしてみる。
なおちゃんもまた[あれ]は難しいんだと、ぶう垂れながら、ペラペラとページを捲った。
なおちゃんが鼻歌まじりに歌うこの曲。
私が、一番大好きな曲。
:09/10/28 04:08
:W64S
:RO.QxrWQ
#689 [あき]
昔も今も変わらず着信音に設定しているあの曲よりも、他のどんな曲よりも。
私には、この曲が一番大切で。
一番好きだなんて、なおちゃんは知らない。
騙されてやんのっ。
……
………
そりゃそうでしょ。
なおちゃんが、耳にする事はないんだから。
:09/10/28 04:15
:W64S
:RO.QxrWQ
#690 [あき]
初めてこの曲を聞いたのは、私達にとっては、大人になって二人きりで過ごす初めての夜だった。
切っ掛けは、何がどうなってそうなったのか、未だ思い出せない程、私の記憶は、ぶっ飛んでいるが。
なおちゃんと二人、カラオケ店にいた。
恐らく、店の後。
酔いに任せて、流行りの歌を唄いまくる私にしぶしぶ付き合って(いたと思われる)なおちゃん。
飽きた私は強引にマイクを渡した。
《俺、洋楽しか知らなぞ。》《いーから歌って!!》
確かそんな会話をした覚えがある。
これまたしぶしぶ(のはず)入力して流れ出したのは、優しいバラード。そして意味の解らない歌詞。
だけど、それに乗っかるように正しい音程で響くなおちゃんの歌声がそこにあった。
その声は
とっても綺麗で
とっても優しくて。
私の心を突き抜けた。
:09/10/28 04:30
:W64S
:RO.QxrWQ
#691 [あき]
咄嗟に歌手名を探す。
洋楽に無知な私にも、わかるようにの配慮なのか、優しさなのか。
それは米国で歌姫と呼ばれているアーティストだった。
唄い終えた彼に私は聞いた。
《この人は知ってるっ!!で?どうゆう意味なの??〃》
《んー…簡単に言えば、アナタなしでは生きてけない。って意味かな?いい曲だろ?》
《へ〜〃》
大好きな、なおちゃんが初めて唄った優しい声。綺麗なメロディ。
何より、言葉の意味を知った私は。
その夜から、この曲が一番好きになった。
なおちゃんへの想いが強くなればなる程、この曲が大好きになった。その夜から、なおちゃん専用の着信音に変わった。もう、何年も、何年も。なおちゃん専用の着信音―…
アナタなしでは生きてけない。
:09/10/28 04:44
:W64S
:RO.QxrWQ
#692 [あき]
なおちゃん専用の着信音なだけに、彼自身私の携帯電話から流れ出すこのメロディを知らない。私が好きだと言う音楽の中で
[なおちゃんが好きだから好きになった曲]
なのに
[俺も好きだけど、あきも好き]
に勝手にすり替えられたあの曲よりも
あの夜から、私が一番大切にしているこの曲の存在を、なおちゃんは知らない。
:09/10/28 04:51
:W64S
:RO.QxrWQ
#693 [あき]
『…んー微妙だね!〃もう少し練習が必要だな。こりゃ。』
『うっせ!』
なおちゃんは、ギターを横に置くと、煙草に一本火をつけた。
私は、その煙に誘われるように、起き上がり、煙草に火を点ける。
憎まれ口を叩きながら、二本の煙が、空間に立っていた。
『…で?どうすんの?』
『なにがぁ?〃』
『行くのか?その彼ん所。』
突然の質問に固まる私。そんな私をじっと見つめるなおちゃん。
ジリリと火が燃えて、灰がポトリと落ちた。
:09/10/28 04:57
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:RO.QxrWQ
#694 [あき]
―――――――
BGMを失った部屋は、とても静かだった。
先ほどの質問に、答えを求める彼と、答えに詰まる私。
二本の煙だけがふわりと登った。
『…さぁ。』
やっと言葉を発したのは私。
曖昧な返事を残して、私は煙草の火を揉み消した。
なおちゃんの先端、ぼぉっと火が灯り、細く白い煙がまた天に上り空気に消える。
『いいんじゃないの?』
少し目を細めて、くしゃりと火を揉み消した。なおちゃんのその指を、私は静かに見つめた。
:09/10/31 00:31
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:.0W.fEWM
#695 [あき]
『…そう?』
なんとも適当にその答えをサラリと聞き流した。そのまま、買ってきた最近お気に入りの少し苦めのカフェオレを吸い込む。
『知らんが。』
また、なおちゃんも、なんとも適当な返事で、差し入れに買ってきたいつものブラック缶珈琲を喉に流す。
『……』
私達が出会って。
再会して。
互いに言葉を選び、言葉を探すこんな時間が流れるなんて、思いもしなかった。
:09/10/31 00:54
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