微妙な10センチ。〜最終〜
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#697 [あき]
『何度も無理だって断ってるのにさ〃えらく私がいいみたいよ?』

行きたくないけど。
行くかもしれない。

私は卑怯だ。
微妙なニュアンスを残しながら、クッションを抱え、またボスリとソファーに横たえた。
古びた天井を見つめ、はははと笑って見せた。

『ふーん。』

また、なおちゃんはギターを手に取り、ポロリンと奏でる。

『なおちゃんは?最近どうなのよ!』

何気無い質問。
その何気無い質問に、彼もまた何気無く答える。

⏰:09/10/31 01:17 📱:W64S 🆔:.0W.fEWM


#698 [あき]
『ああ。そろそろ俺も考え時かなって思うよ。』

『ん?』

なおちゃんの話を、きちんと、聞き入れられているんだろうか。

わかってた。
ずっと知ってた。

なおちゃんは、女性を惹き付ける魅力のある人だって事は。

トラレタらどうしよう。

新しくライバルが出現する度に怯えたし、だけど、彼自身が興味を示さない事に、安心し、トラレない事を確信した(※勝手に)。
敗北を味わったのは、今も昔も、別れた彼女(実質は元奥さん)だけ。たった一度だけ。

⏰:09/10/31 01:40 📱:W64S 🆔:.0W.fEWM


#699 [あき]
昔に一度だけ、突然に現れた真っ青携帯の女。後に事情を知り、飛び蹴りしてやりたくなったけれど。あの状況でもまだ、私は、彼を信じていたし、彼を想っていた。だからこそ、強くいられた。

『で、どうすんの?〃』

『いや、どうすっかなと思ってる。』

『…そんなの知らないし〃』

今聞かされている新しい存在。
なおちゃんの言葉に
彼自身の心が、揺れている事がわかる。
そしてまた、それを強く否定できないのは。
自分自身が、西条さんの存在に、負い目を感じている。
私達の間でそんな二つの感情がぶつかり合っていた。

⏰:09/10/31 02:06 📱:W64S 🆔:.0W.fEWM


#700 [あき]
強く否定が出来ないまま、彼の話を聞き入れる。

男と女の出会いがあって。心の弱った女が、強さ、優しさ溢れる言葉に恋に堕ちる。
そして立ち直っていく。
本来ならば、見てて欠伸が出そうな定番ストーリー。
なのに、今こうして、話に吸い込まれてしまっているのかというと。
定番ストーリーだからこそ、痛い程わかるのだ。
私は彼女の想いが手にとるようにわかった。
そう。
もう何年も前。
私こそが、彼に繰り広げた定番ストーリーが、またその彼女の中でも、繰り広げられていたのだから。

⏰:09/10/31 02:52 📱:W64S 🆔:.0W.fEWM


#701 [あき]
『で?だから?私に何を言って欲しいわけ?〃』

『思ったままをどうぞ。俺は、女の気持ちがわからん!!』

『なおちゃんは、その子の事、女としてどう思った?』

『…いや。特に…』

『なら、相手を傷つけるだけだよ。やめとけ、やめとけぇい〃』

明るく、私らしく
彼から除外させる。
昔から、この言葉で、私はライバルを蹴落としてきた。

卑怯だ。
本当に、私は卑怯だ…

自分は、寂しさから耐えられず、フラフラとしてたくせに。
なのに、誰にもなおちゃんには触れて欲しく無かった。
ただの嫉妬。

⏰:09/10/31 03:08 📱:W64S 🆔:.0W.fEWM


#702 [あき]
なのに女心の解らないなおちゃんは言った。
私の言葉に、そうだよなと頷きながら。
だけど
私の目の前で。
いつもの調子で。
言った。

『いや、でも俺も一人は疲れるし。そろそろ、いいかなと思うんだよな。』


どうしてだろう。

私には、西条さんがいるのに。

なおちゃんの言葉に


ズキンときて。
グサリときて。


カッとなった―…

⏰:09/10/31 03:18 📱:W64S 🆔:.0W.fEWM


#703 [あき]
『なら、付き合えばいいじゃん。その彼女、ボロボロに傷つけると思うけどね。』

『んだよ。その言い方。』

カチンときた悪いクセ。なおちゃんに向けて、思ってもない言葉が飛び出した。なおちゃんは、ギターを置くと、私の目を見る。その目は、深い所で光っていて、不愉快さを表していた。それは、瞬時にわかったけど、言い出したのは自分。やっぱり後には引けない。

『だって、今まで興味示さなかったくせに、今回のその彼女にはなおちゃんも何か、魅力を感じたから、付き合ってもいいって思えるんでしょう。
なら良いんじゃないって言ってるの!』

⏰:09/10/31 03:41 📱:W64S 🆔:.0W.fEWM


#704 [あき]
『そうだな。そっちも、嫁の貰い手出来たみたいだし?』

『……』


『いいんじゃね?
想われる相手と一緒にいる方が幸せなんだよ。きっと。』


『そんな事ない!!
好きな人と一緒にいる方が幸せだよ!!』


『そうかな?好きにならなきゃ生まれない感情は沢山あって、それは、ほぼ苦痛でしかねーよ。会いたいに始まり、悲しい、寂しい、嫉妬に、怒り…な??疲れるだろ??』

⏰:09/10/31 04:02 📱:W64S 🆔:.0W.fEWM


#705 [あき]
『それは間違ってる。好きになってもらえない相手といる方がツラいんだよ!!』

『あきはどうなんだよっ?なら、その彼の事傷つけてんじゃねーの?いい加減にハッキリしてやれよっ。』

『そんなのわかってるっ。だけど、私は幸せになりたいのっ!だから、彼の所に行く事も真剣に考えて…』

『あっそ。なら、好きにすれば?俺も、彼女の事考えてやるつもりだし。』

『…あっそ!するわよっ!!バカッ!!』

⏰:09/10/31 04:19 📱:W64S 🆔:.0W.fEWM


#706 [あき]
バックを掴み、部屋を飛び出した。
バタバタと降りる階段に、なおちゃんのお母さんが不思議そうに居間から顔を覗かせる。

『あきちゃ…』
『おばちゃん!お邪魔しましたっ!!』

目を丸くした、お母さんに声を掛けられて、私は、顔を背けて挨拶をする。
そのまま、バタバタと玄関を飛び出した。
そんな私の背中を、呆然と見送る姿が目に浮かぶ。
だけど、その姿は溢れる涙ですぐに消えた。

暗闇の中。
流れる景色の中、夢中でアクセルを踏み続けた。

⏰:09/10/31 04:26 📱:W64S 🆔:.0W.fEWM


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