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#131 [我輩は匿名である]
作者の奔放な構想力によって、登場する人物の言動や彼らを取り巻く環境・風土の描写を通じ、非日常的な世界に読者を誘い込むことを目的とする散文学。

読者は描出された人物像などから各自それぞれの印象を抱きつつ、読み進み、独自の創造世界を構築する(新明解国語辞典より)

「『小説とは、作者の感性を描出した描写によって、読者に物語のイメージを創造させることに意義がある』って言ったよね?」

「いやその…」

「 言 っ た よ ね ? 」

「ハイ、そうおっしゃられました」

⏰:08/11/23 21:21 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#132 [我輩は匿名である]
「それとも何? こんなんでお前が持つイメージを読者が創造できると思ってんの?」

「あの、口調が…」

「何? 死にたいの?」

「いやその…」

「小説作者になりたいんならテメエが持つ世界観ぐらいキッチリ作れよ、それが嫌なら読者になれ。
それなのに何お前? それだけそれだけって山の情報がそれだけなわけねえだろ。それともアレか、『そこは読者にお任せします』みたいなこと言って逃げるつもりか?」

「いやその…」

「テメエのその顔むかつくからやめろ」

「…………」

⏰:08/11/23 21:21 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#133 [我輩は匿名である]
「まぁいい。下の文章を見てみな」

皿の上には林檎が1つあった。

「どう思う?」

「どうって…林檎が皿の上にあるだけでは…?」

⏰:08/11/23 21:22 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#134 [我輩は匿名である]
「どんな林檎? 赤いの? 青いの? それともゴールデンデリシャス?」

「さぁ……」

「林檎の状態は? 普通? 皮が剥かれてるの? 切られてるの? 食べられてるの? それともウサギ切り?」

「いや…そんなの知るわけないよ」

「それに皿ってどんな皿? 丸いの? 四角いの? 皿の深さは? 色は?」

「……俺の中では、丸くて白い皿の上に、切られたり食べられたりしていない赤い林檎が乗ってる」

「そんな描写、どこにもされてないじゃん」

「……!!」

⏰:08/11/23 21:23 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#135 [我輩は匿名である]
「君のさっきの文章はこういう事だ。
読者に自分のイメージを伝えるには、繊細な情景描写が求められる。
例えば僕は、銀の丸い皿の上に1口かじられた青い林檎が乗っているとイメージしてたんだけどね」

「これだけじゃ、そこまで読み取れるわけがねーよ……」

「君はその『読み取れるわけがない』文章を、さっき僕に見せまくっていたじゃないか」

「いやその…」

「だからむかつくからやめろ」

「…………」

⏰:08/11/23 21:24 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#136 [我輩は匿名である]
「まぁいい。さっきの林檎のやつだが」

鉛色をした丸く小さな皿の上に、まだ熟していない若々しい青色の林檎が1つ乗っていた。
誰かが間違えて食べようとしたのか、その林檎には1口かじられた形跡がある。

「これなら分かるだろう」

「そのまんまの光景が想像できるな」

「追及すればするほど情景描写は書けるけどね。
句読点なんかと同じで書きすぎはよくない」

「…難しいな…」

「では、さっきの君の文章に戻るぞ」

⏰:08/11/23 21:24 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#137 [我輩は匿名である]
季節は夏。すでに半ばを迎えていて、照りつける日差しはいっそう強さを増していた。
山の中からは絶え間なく夏虫の声が聞こえ、耳にこだまする。
夏ということもあって若草が山いっぱいに広がり、澄み渡る風はどこか気持ちいい。

そんな小さな山の中腹にある歌箱の村では、今日も人々は自給自足で生活していた。

「いきなり山の中からとか言われても困る」

「……確かに、どんな山か分からないな」

「4行目で小さな山と書かずに、山についての描写はそこでするべきだろうね」

「はぁ…」

⏰:08/11/23 21:26 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#138 [我輩は匿名である]
「だいたい澄み渡る風が心地いいって何?」

「え?」

「虫の声が耳にこだまするとか風が心地いいとか、誰が感じてるの? これは三人称なんでしょ?」

「えーっと……」

「5章で『必ず最初に『誰の視点か』を明確にすること』って言ったよね?
なのに語り手が誰なのか全然分からないじゃん。僕の話聞いてたの?」

「いやその…」

「むかつくからやめろつってんだろ」

「…………」

⏰:08/11/23 21:27 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#139 [我輩は匿名である]
「まぁいい。少し手直ししてやった」


春がすぎ、じめじめとした梅雨が明けて間もない頃。
気温もどんどんと漸増していく中、変わらない太陽がさんさんと輝いていた。

その太陽に照らされた小さな山。
そこの中腹あたりにある広大な草原は、色とりどりの花々に埋め尽くされ、空を飛ぶ夏鳥や虫達の声まで聞こえるようになっている。

そんな草原の近くにある歌箱の村では、今日も男たちがせっせと畑で働いていた。
歌箱は辺境にある小さな村なので人口が少なく、そのため村民たちは自給自足で生活しているのだ。

⏰:08/11/23 21:28 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#140 [我輩は匿名である]
「これでもまだ描写が少ないという人もいるし、十分という人もいるだろう。
実際のところ、僕だってプロじゃないからね。みんなが満足できるような文章を書けるわけじゃないさ」

「でも、さっきの俺の文章よりは情景が想像できる」

「そうだな。ファンタジーなんかでは特にそうだが、情景描写にしても何にしても、こだわった方がいい」

「こだわり?」

「さっきのやつにしたってそう。夏といっても一概にそれを言えるわけじゃない。
自分が夏だと思うものを挙げていって、そこから自分が思い描いているイメージに見合ったものを描写していくといい」

「参考になります」

⏰:08/11/23 21:28 📱:P903i 🆔:epQG/68k


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