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#160 [我輩は匿名である]
第7章 〜小説を書こう! 心理描写編〜
「さて、実践レクチャーはこの章で最後だ。そのあとは諸々、細かいことだけさ」
「とうとうきたか…」
「だがしかし、ここが一番の難関だ」
「今夜が山田だな」
「『心理描写』、叙述描写とも言われるけど。これは情景描写と同じく、読者を引き込ませる上で非常に重要だ」
「うむ」
「緊迫したシーン、和やかなシーン、感動するシーン……
そんなシーンで各々のキャラの味をどう活かせるかは、心理描写で決まってくる」
「難しそうだが…大事なのは間違いないな」
:08/11/30 22:01 :P903i :Qok512as
#161 [我輩は匿名である]
「心理描写って、よく『自分がその状況に置かれた時の心理を書けばいい』って言うけど…
たとえば、君が踏みきりで長い時間待たされてたらどう思う?」
「イライラするな」
「だろうね。でも僕は踏みきりで待っている時間は心地いい」
「え?」
「僕は待つのが好きだからね」
「でも、そんな奴ばっかりじゃいい作品なんて書けっこないじゃん」
「それは、何も考えずに描写した場合の話さ」
:08/11/30 22:02 :P903i :Qok512as
#162 [我輩は匿名である]
7−1 キャラ設定と心理描写の繋がり
「たとえば、根暗なキャラがいたとしよう」
「うん」
「何もかも面倒くさい、外に出るのも嫌。
そんなキャラが、家族と旅行に行くことになったらどうすると思う?」
「面倒くさがりで外に出るのも嫌な奴が、自ら進んで旅行に行くはずがない。嫌に決まってるな」
「正解。では太郎くん、君が旅行に誘われたら?」
「もちろん行くぜ」
:08/11/30 22:04 :P903i :Qok512as
#163 [我輩は匿名である]
「うん。気づいたかな?
心理描写では、実際に自分がそのキャラになりきるのが大事なんだ。
同じ性格のキャラクターばかりだと嫌だろう?」
「嫌っつーか気持ち悪いなそりゃ」
「同じような奴ばかりだとストーリーに魅力が無くなるしね。その為のキャラ設定さ」
「心理描写ではキャラ設定が大事なわけだな」
「そう。キャラクターの性格・個性から心理を見出し、書く。これが心理描写の極意だ」
「うむ」
:08/11/30 22:04 :P903i :Qok512as
#164 [我輩は匿名である]
「では、ここに連続殺人犯の太郎がいたとする」
「おっかねぇな」
「この太郎という男、殺人をしたくてしているわけではない。では、彼は何を思っている?」
「うーん、明確な理由がないからなんとも…でも殺人をしたくないんだから、後ろめたい気持ちがあるんじゃないの?」
「それだよ」
「へ?」
:08/11/30 22:05 :P903i :Qok512as
#165 [我輩は匿名である]
「『したくてしているわけではない』、こう言われると大体の人は『したくない』と解釈しちゃうよね?
でも、殺人が中毒になってきていたらどうだい? 中毒とはつまりタバコを吸うように人を殺すわけだから、『殺したい』と思っているわけじゃない。
しかし『殺したくない』か、と言われるとそうでもない」
「6章の林檎のアレみたいな事になるわけか」
「そう、読者と作者でのイメージの相違だ。
しかもこれが人物に起こるわけだから、読者の同意はまず得られない」
:08/11/30 22:05 :P903i :Qok512as
#166 [我輩は匿名である]
「どうすればいいんだ?」
「やはりそこは前もって描写していくしかないね。
キャラの細かな動きや口調、考え方なんかを書くことで、キャラの個性を起承転結の『起』と『承』の間に描写していくんだ」
「なんか大変そうだな…」
「そんなに難しいことはないさ。要は設定に合わせてキャラを動かしていけばいいだけだからね。
ただそれだけに、プロット段階でキャラ設定をおろそかにしていると、大事な所でイメージの相違が出てきたりする。
心理描写は小説の一番大事な描写。そしてそれを書くには、キャラ設定がきちんと詰められていないといけない」
:08/11/30 22:06 :P903i :Qok512as
#167 [我輩は匿名である]
「キャラ設定は心理描写と深く結びついてる、ってわけか」
「その通り。キャラなくして心理描写は成り立たない」
「そして詰め込んだ設定をもとに、自分がそのキャラになりきって描写すればいいわけだな」
「正解だ。では、実際に心理描写をしてみようか」
:08/11/30 22:06 :P903i :Qok512as
#168 [我輩は匿名である]
7−3 一人称における心理描写
「心理描写には大きく別けて2種類ある。
直接的な心理描写が1つ。間接的な心理描写がもう1つだ」
「どう違うんだ?」
「読んで字のごとく、そのままだよ。
直接的な心理描写とは、人物の心情をそのまま語らせる描写。
間接的な心理描写とは、人物の動きや表情などの描写から、心情を読者に想像させる描写だ」
「でも、それだと直接的な方が簡単なんじゃ?」
「うん。でも、三人称では直接的な描写はできないからね。
直接的な方は一人称で、間接的な方は三人称で使うもの、と解釈してくれればいい」
「なるほど」
「では、まずは直接的な心理描写から教えていくよ」
:08/11/30 22:07 :P903i :Qok512as
#169 [我輩は匿名である]
「と言っても、直接的描写に関しては教えることはあまりない」
「なんでさ?」
「さっきも言ったが、人物の心情をそのまま語れば、それで直接的描写になるんだ。以下、例文」
:08/11/30 22:09 :P903i :Qok512as
#170 [我輩は匿名である]
目の前に壁が見えたとき、俺は絶望した。
後ろには、口角をつり上げながら銃口をこちらに向けるギャングがいる。
もはや恐怖も感じられない。
脳みそは絶望感に浸され、体を動かそうともしなかった。
いや、疲れて動けないだけだろう。
ギャングが引き金に指をかける。
俺の人生はもうすぐ終わる。遺書を残してないのに死ぬのが残念だ。
もう体は動かないし、一思いにやってくれ。
そう思いながら、俺はゆっくりと瞼を閉じた。
「とまぁ、こんな感じかな。
注意点としては、あまりセリフ臭い文章にならないようにすること。
あくまでも『描写』だからね」
:08/11/30 22:09 :P903i :Qok512as
#171 [我輩は匿名である]
「セリフ臭いってのは?」
「こんなやつだ」
どうしよう…彼を怒らせちゃった…
きっと私のことなんて嫌いになったよね…私のバカ!
「ふぅ…書くのすら気持ち悪い文章だな。
一般的に『携帯小説』と呼ばれる小説の、特に恋愛ものに非常に多い。
これをやっちゃうとかなり幼稚な文章に見えてしまうからね。ああ気持ち悪い」
「気持ち悪いって…でもこういうの多いな、確かに」
「やっちゃいけないわけじゃないけどね。やるなら括弧“()”を使ってやるべきだ」
:08/11/30 22:10 :P903i :Qok512as
#172 [我輩は匿名である]
「心の声だな!」
(何コイツ急にテンション上げてるんだよキメエ)
(ナナシさん顔怖い…)
「と、こんな感じだな。地の文は普通は語り口調だから、セリフ臭い文章は入れない方がいい。
まぁ()も一般小説では使われない技法だけどね」
(そうなのか?)
「把握した?」
(把握したぜ!)
「なんとか言えや、ぶち殺すぞ」
「…………」
:08/11/30 22:11 :P903i :Qok512as
#173 [我輩は匿名である]
7−3 三人称における心理描写
「続いては間接的な心理描写だ。さっきも言ったように、三人称で心理描写する場合はこれになる」
「ほう」
「では太郎、君はギャングのナナシに追われている」
「さっきのか」
「しかし、逃げ込んだ先は行き止まりだった。太郎は絶望する。
その場面を三人称で書いてみるぞ」
:08/11/30 22:11 :P903i :Qok512as
#174 [我輩は匿名である]
太郎はギャングのナナシから逃げていた。
人気のない裏路地に入る。
だが、目の前には壁があった。行き止まりだ。
太郎の人生は終わった。
「情景描写はかなり省かせてもらった。
さて、この文に心理描写を入れていくぞ。追われているとき、太郎はどんな気分かな?」
「怖くて汗がダラダラだな」
「なら2行目くらいにその描写がいるね」
「太郎は荒い息で、汗を流しながら走った」
「そんな感じだ。それで太郎の焦りが伝わる
そして次に、目の前に壁があったとき」
「太郎は落胆し、膝からがっくりと崩れ落ちた」
:08/11/30 22:12 :P903i :Qok512as
#175 [我輩は匿名である]
「そんな感じだね。
間接的描写は情景描写と同じく、動作や表情から心理を連想させればいい。
まず、そのキャラクターならどんな気分になるかを考える。
そして、その気分になったキャラクターはどんな行動を取るか、それを描写すればいい」
「なるほど」
「心理描写も、書けば書くほど書ける。書きすぎはよくないけどね」
「把握したぜ」
:08/11/30 22:13 :P903i :Qok512as
#176 [我輩は匿名である]
太郎はギャングのナナシから逃げていた。
長い時間走り続けているので息は荒く、流れ出る汗が顎をつたい滴り落ちていく。
やがて太郎は、人気のない路地裏に入った。
だがしかし、目の前には巨大な壁が立ち塞がっていた。行き止まりだ。
その瞬間、太郎は落胆し、膝からがっくりと崩れ落ちた。
太郎の人生は終わったのだ。
「と、これくらいなら許せるレベルだろう」
「難しいな」
「それから、誇張表現も有効な手段だ」
「誇張表現?」
:08/11/30 22:13 :P903i :Qok512as
#177 [我輩は匿名である]
「心情をより強くイメージ付けるために、動作や物の大きさなんかを誇張して描写するんだ。
また逆に、より小さくするために過小描写するのもありだ。
さっきの文を例にすると、『目の前には巨大な壁が立ち塞がっていた』は誇張表現だね」
「なるほど」
「ではおさらいだ」
:08/11/30 22:14 :P903i :Qok512as
#178 [我輩は匿名である]
〜7章のおさらい!〜
「心理描写は大事!
キャラ設定に合わせて、『このキャラは何を思うのか』を考えながら書いていこう」
「キャラの印象付けなしに心理描写したって意味がない。
あらかじめキャラの個性を出していかないと、読者の同意が得られないぞ」
「視点と人称によって、心理描写できるキャラと表現のしかたが限られてくる。
描写する前に、誰視点の何人称かを見直すこと」
「一人称ではキャラクターの心情をそのまま書ける。だが、あくまでも語り口調で書くこと。
心の声をそのまま書くと幼稚に見えるぞ。それをやるなら()を使え!」
「三人称ではキャラの動きや表情から心理を連想させていく。
まずそのキャラの心理を考え、『その心理になったキャラがどう動くか』を想像して描写しよう。
誇張表現や過小描写も有効だぞ」
:08/11/30 22:14 :P903i :Qok512as
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