星とぽんず
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#301 [七瀬]
マジメに授業を受けよう。
不謹慎だけど、
アイツのおかげで、そう思えた。
ノートを開く。
シャーペンで、マッキーの乱雑な字を移し始める。
あ、間違えた。
消しゴムを出そうと、筆箱をさぐる。
あれ?
:09/03/04 14:57 :N703iD :xIwV6ta2
#302 [七瀬]
消しゴムがない。
もぉー!
どっかに落としたのかな?
そんなことを考えてると、
コロン
と私の目の前に消しゴムが転がってきた。
:09/03/04 14:59 :N703iD :xIwV6ta2
#303 [七瀬]
アイツの消しゴム。
すぐに前を向いちゃうから顔は見えなかったけれど、
あの温かい目をしてるんだと、見なくてもわかった。
ただ、消しゴムを貸してくれただけなのに、
涙が出そうになった。
:09/03/04 15:03 :N703iD :xIwV6ta2
#304 [七瀬]
一言でも話すと、涙が溢れそうだから、私は何も言わず、黙ってた。
消しゴムを見ると、
“八田歩志”
と書いてあった。
きれいな字……。
:09/03/04 15:06 :N703iD :xIwV6ta2
#305 [七瀬]
なんて、読むんだろう。
はった……
ほし?
ん〜、わかんない。
そんなことを考えていて、結局、マジメに授業を受けれずに終わってしまった。
アイツのせいだよ、もう!
と思いながらも、うれさが心を占めていた。
:09/03/04 15:12 :N703iD :xIwV6ta2
#306 [七瀬]
授業が終わって、私はアイツに話かける。
『ね、ねぇ!
消しゴムありがと。』
あーっ!!
私ってなんで、こんなにかわいくないんだろう。
「どーいたしまして。」
そんな私の反応を楽しむようなアイツの目つき。
:09/03/04 15:29 :N703iD :xIwV6ta2
#307 [七瀬]
消しゴムを返すと、
「俺の名前、知られちゃったな。」
と言うアイツ。
『う、うん。
えっと、そのはった…、
ほし??』
「あゆし。」
『え!?』
「あ・ゆ・し。
歩く志って書いて、あゆしって読むの。」
:09/03/04 15:34 :N703iD :xIwV6ta2
#308 [七瀬]
立ち上がって、どっかに行こうとするアイツ。
じゃなくて
八田歩志(ハッタアユシ)……。
『ちょっと!
あ、あのほんとにありがとう、消しゴム。』
「さっきから、ありがとう言いすぎ。」
笑って言う歩志。
今度は、かわいく言えたかな?
:09/03/04 15:39 :N703iD :xIwV6ta2
#309 [七瀬]
名前…、
知ることが出来た。
うれしい。
歩志のことを考えると、いちいち心臓がうるさくって困る。
これじゃ、心臓が保たないよ。
なんて、
一人で考えて、顔が熱くなる。
:09/03/04 15:44 :N703iD :xIwV6ta2
#310 [七瀬]
お弁当の時間がやってきた。
もちろん林原とは気まずいし、一緒に食べてない。
アイツはどこで、誰と食べるんだろう?
またまた私はストーカーになることにした。笑
:09/03/04 15:49 :N703iD :xIwV6ta2
#311 [七瀬]
歩志の後を着いていこう。
「何着いてきてんの?」
バレちゃいました。
廊下を歩いていた、歩志は軽くにらみながら言う。
蛇に睨まれるカエル
ってこういうこと?
:09/03/04 16:41 :N703iD :xIwV6ta2
#312 [七瀬]
「俺と、ごはん食べたいなら、そう言えば?
ストーカーぽんずちゃん。」
私はぽんずちゃんから
ストーカーぽんずちゃんに
昇格?した。
何か言い返したかったけれど、アイツの言うとおりなので、黙って着いていった。
悔しいけど。
:09/03/04 16:44 :N703iD :xIwV6ta2
#313 [七瀬]
着いた先は、中庭。
相変わらず、男だらけ。
お日さまいっぱいの光が差し込んでいる。
花草もたくさんで、楽しくなる。
人気なワケは分かる。
でも女の私には、かなりキツいし男臭い。
:09/03/04 23:00 :N703iD :xIwV6ta2
#314 [七瀬]
そんなことは構わずに歩志は、どんどん奧へと進んで行く。
ちょっとぐらい待ってくれてもいいのに。
冷たい奴。
そういえば、昨日もここに来てたよね。
なんで、わざわざこんなとこで、
ごはんを食べるんだろう。
食欲湧かないじゃん。
:09/03/04 23:04 :N703iD :xIwV6ta2
#315 [七瀬]
すると、歩志はまた一番端っこのイスに座って、お弁当を食べ始めた。
また何か見てる。
私も歩志の隣にちょこんと座った。
『何、見てんの?』
無視ですか、歩志クン。
:09/03/04 23:07 :N703iD :xIwV6ta2
#316 [七瀬]
私は、仕方なく歩志の真剣な目線と同じところに目を向ける。
技術室?
歩志の目先には、窓から見える技術室。
中では機械たちが、規則的に動いてるのが、ちょっとだけ見えている。
:09/03/04 23:11 :N703iD :xIwV6ta2
#317 [七瀬]
すると、しばらくして機械は止まった。
先生たちが機械の様子を見ていることから、
定期検査でも、しているんだろうか。
私は初めて見る技術室に、胸が高鳴った。
歩志は、機械が止まったのを確認すると、
お弁当に目を戻した。
:09/03/04 23:16 :N703iD :xIwV6ta2
#318 [七瀬]
『ね、なんで技術室見てたの?』
「…。」
またまた無視。
『ねぇ!ねぇってば〜!!』
ムキになる私。
そんな私を、スルーし続ける歩志。
『もう!歩志!!なんで無視するのよ!』
とうとうキレてしまった。
:09/03/04 23:20 :N703iD :xIwV6ta2
#319 [七瀬]
「プッ、ハハハハハ…。」
いきなり笑いだす歩志に、訳の分からない私。
何笑ってんの、こいつ!?
余計に腹が立つ。
私はすねて歩志に背中を向けた。
「ごめんごめーん。
いや〜。初めて俺の名前呼んだなぁ、と思って。」
振り返って、歩志を見る私。
:09/03/04 23:25 :N703iD :xIwV6ta2
#320 [七瀬]
「なんなの、その目。
そんな怒らなくってもいーでしょ?ぽんずちゃん。」
歩志を睨んだ。
すると歩志は私の顔に、これでもか!
ていうくらいに顔を近付け言った。
「ちょっと意地悪してみたくなっただけ。」
こいつってやつは〜!!
:09/03/04 23:29 :N703iD :xIwV6ta2
#321 [七瀬]
私は多分、ゆでタコみたいに真っ赤だったと思う。
「かーわいっ」
そういってアイツは、顔を戻し、またお弁当を食べ始めた。
なんなんだ、アイツは。
ドキドキうるさい胸。
なんなんだ、この気持ちは。
:09/03/04 23:33 :N703iD :xIwV6ta2
#322 [七瀬]
あれから私は何も言えなくって、
時間だけが過ぎた。
歩志も何も言わずに、
ドキドキしっぱなしの私を見て、喜んでた。
アイツは本当の悪魔だ。
そのおかげで、私はお弁当の味がよく分からなかった。
:09/03/05 16:17 :N703iD :k5.OS8TM
#323 [七瀬]
6限目の技術。
マッキーが私を睨んだ。
殺されるかと思った。
今も生きた心地がしない。
とりあえず
生きているけど……。
:09/03/05 16:22 :N703iD :k5.OS8TM
#324 [七瀬]
マッキーは教室に入ってきた時から、異様な雰囲気だった。
日直が起立を言おうとした時、
「この中に俺の授業に文句がある奴がいるようだ。」
と言った。
教室が凍った瞬間だった。
ヤバっ!
私はマッキーから顔を背ける。
:09/03/05 16:26 :N703iD :k5.OS8TM
#325 [七瀬]
顔を背けていても、マッキーが私を睨んでいるのが分かる。
マッキーの眼力は強烈だ。
うぅ〜。
どうしよぉ。
ビビりまくる。
だって、めちゃくちゃ怖いんだもん!!
:09/03/05 16:29 :N703iD :k5.OS8TM
#326 [七瀬]
「そいつは、俺が技術室に連れていかないのが気に入らないらしい。」
もう終わった。
私の人生は終わってしまった。
「…が、
俺に意見するなんて、良い根性しているじゃないか。」
あれ?
助かった??
:09/03/05 16:44 :N703iD :k5.OS8TM
#327 [七瀬]
「その根性に免じて、今回は許してやろう。」
とりあえず助かったみたい。
やっぱ技術室には連れてってくれないのかな?
ま、命があっただけ良かったよね。
贅沢は止めとこ。
:09/03/05 16:47 :N703iD :k5.OS8TM
#328 [七瀬]
「だから今日は、お前らに技術室に連れてってやる、チャンスをやろう。」
チャ…ンス……?
うそ!
あのマッキーが?
やった、やったー!!
教室からも、嬉しそうな声が飛びかっていた。
教室中が歓喜に浸っていた。
なのに…。
:09/03/05 16:52 :N703iD :k5.OS8TM
#329 [七瀬]
マッキーは何かを配り始めた。
前から後ろの私の席まで、送られてくる。
鉄?
それは長さ50センチくらい、太さは5センチくらいの鉄の棒だった。
なにこれ。
:09/03/05 17:15 :N703iD :k5.OS8TM
#330 [七瀬]
みんなポカーンとしてる。
私もその一人。
「お前らは、これで“ぶんちん”を作ってくれ。」
は?
ぶんちん……??
ぶんちんって
何ですか?
:09/03/05 17:19 :N703iD :k5.OS8TM
#331 [七瀬]
前の歩志は真剣な様子。
『“ぶんちん”ってなぁに?』
「は?お前、ぶんちんも知らねぇの?」
『…うん。
だから!“ぶんちん”って何なのよ!!』
「小学生の時に使ったろ。書道の時間に。」
呆れたような歩志。
:09/03/05 17:52 :N703iD :k5.OS8TM
#332 [七瀬]
あぁ、なんだ。
あの書道の時に、紙がズレないようにするために、置くやつのことかあ。
歩志に言われ、
ようやく“ぶんちん”という平仮名が
“文鎮”という漢字になった。
…でも、どうやって作るんだろう。
新たな謎が生まれた。
:09/03/05 17:57 :N703iD :k5.OS8TM
#333 [七瀬]
「じゃ、今日はそれをどうやって文鎮にするのか、考えてろ。
考えが固まったら、俺のところへ来い。
技術室へ連れてってやるよ。」
マッキーはそれだけ言うと、出ていってしまった。
どうしよ。
全然わかんない。
:09/03/05 18:02 :N703iD :k5.OS8TM
#334 [七瀬]
私は机の上で、ただの鉄を転がしてみる。
丸まっていて、よく転がる。
これを四角くしなきゃなぁ。
それに取っ手もいる。
その前に、もっと短く細くしなくっちゃ。
これじゃ、長すぎる。
考えれば考えるほど、やらなければならない試練が増えてゆく。
:09/03/05 18:05 :N703iD :k5.OS8TM
#335 [七瀬]
20分ほど、鉄の棒とにらめっこ。
ダメだ。
ほんとわからない。
周りを見てみると、みんなも同じのようだ。
ジーっと、にらめっこ中。
少し安心した。
でも前のヤツは、周りと違って、分かったように余裕な感じ。
:09/03/05 18:08 :N703iD :k5.OS8TM
#336 [七瀬]
『ねえ、分かったの?文鎮の作り方。』
「ん、まぁ大体な。」
『どうやって!?』
「そんなもん自分で考えろ。」
冷たいなあ。
でもうらやましい。
ほんとに分かったのかな?
:09/03/05 18:12 :N703iD :k5.OS8TM
#337 [七瀬]
『鉄を溶かすの?』
「それじゃ、取っ手が出来ないじゃん。」
『じゃあ打つの?』
「それじゃ、やっぱり一回は溶かさないとダメだしー。」
はぐらかす歩志。
『もう、教えてよっ』
:09/03/05 18:14 :N703iD :k5.OS8TM
#338 [七瀬]
「しょーがないなぁ。教えてあげる。
みんなには内緒だよ?ぽんずちゃんだけだから。」
うん、と頷く。
「削るんだよ。」
削る…?
:09/03/05 18:43 :N703iD :k5.OS8TM
#339 [七瀬]
『削る……
ってどうやって?』
「もー、教科書185ページ開いてみ?」
『……教科書忘れた。』
「はぁ。」
歩志は本当に呆れたように、机に手を入れた。
「はい、どうぞ。」
『…ありがと。』
歩志の出してくれた教科書を見る。
:09/03/05 20:53 :N703iD :k5.OS8TM
#340 [七瀬]
そこには、カンナの写真。
カンナは木の面を削って、平らにする大工道具。
でも、これは鉄だよ?
というように、歩志を見る。
「鉄とかの金属を削るカンナもあるんだよ。」
私の思いを感じ取ったらしく、そう教えてくれた。
そうなんだ。
:09/03/05 23:56 :N703iD :k5.OS8TM
#341 [七瀬]
私は木を切ったり、それで何かを作ったりするのは得意。
だけどそれ以外は、ほとんど無知で、こんな道具があることさえ知らなかった。
機械について勉強したいと思ったのも、おじいちゃんに影響されただけだし。
恥ずかしくなる。
こんなことで、技術に自信があったなんて。
:09/03/06 00:01 :N703iD :T7heHAt6
#342 [七瀬]
でも、
なんでこいつは、こんなに詳しいんだろう。
学校を1日も休んでいない私と、
1週間以上、出遅れている歩志。
何が、こんなにも差をつけるのだろう。
思い切って聞いてみる。
『なんで、こんなに詳しいの?』
歩志の切れ長の目をジッと見つめた。
:09/03/06 00:06 :N703iD :T7heHAt6
#343 [七瀬]
歩志は見返してくる。
思わず吸い込まれそう。
見とれていると、
「俺んち、
オヤジが大工。」
へぇ、そうなんだ。
「学校に1週間以上、来れなかったのも、
オヤジを手伝ってたから。」
歩志はすごい。
:09/03/06 00:11 :N703iD :T7heHAt6
#344 [七瀬]
「うちのオヤジ、今近所の家を建て直してんの。
昔、オヤジが建てた家なんだけど、だいぶボロが来ちまったみたいで。
そんで、人手が足りなかったから俺が手伝ってたワケ。」
そういう歩志は、とても誇らしげだった。
『自慢のお父さんなんだね。』
私は優しい気持ちがあふれ出て、
自然と口が動いていた。
:09/03/06 00:15 :N703iD :T7heHAt6
#345 [七瀬]
歩志はちょっと驚いてたけど、
「まーな。」
と笑った。
あの温かい目で。
まるで、パズルのピースが一つ一つ埋まっていくように、
歩志のことを知ると、
私まで心が温かくなる。
なんか幸せ。
:09/03/06 00:19 :N703iD :T7heHAt6
#346 [七瀬]
「だけど、
うちのオヤジは頑固者で、未だに機械もほとんど使わず、手作業でやってる。
だから、俺がオヤジのために勉強しよっかなと思ってこの学校に入った。」
歩志は照れてた。
「ま、オヤジには
そんなもんはいらーん!
って怒られちまったけどな。」
白い歯を見せて、ニカッと笑う歩志。
:09/03/06 00:23 :N703iD :T7heHAt6
#347 [七瀬]
それから、やり方の分かった私たちは、マッキーの元へ。
「ほぉ、本当に分かったのか?」
マッキーは信じられない様子。
私は念願の技術室へ行けるので、心が浮き足立っていた。
歩志は真剣だった。
:09/03/06 07:10 :N703iD :T7heHAt6
#348 [七瀬]
『わー、めちゃくちゃ広ーい。』
「当たり前じゃないか、松田。
ここには、たくさんの機械があるんだからな。」
『へぇー!!』
私は機械に手を触れようとした時、
「こらっ!」
マッキーの怒声。
「勝手に触んな!」
『ごめんなさーい。』
:09/03/06 07:15 :N703iD :T7heHAt6
#349 [七瀬]
「お前ら、どうやって文鎮を作る気?」
歩志の言う奴だと、機械は一切使わないしなぁ。
なんかつまんない。
嘘ついちゃおっかなぁ。
『はい、機械を使って……』
「カンナ貸してください。」
歩志の声に遮られた。
:09/03/06 07:19 :N703iD :T7heHAt6
#350 [七瀬]
マッキーの目が光った。
「ちょっと待ってろ。
松田、何も触んじゃねぇぞ。」
『は、はいっ!!』
マッキーは技術室の奧へと消えてった。
「嘘、つくなよ。」
歩志の冷たい目。
『…ごめんなさい。』
:09/03/06 07:22 :N703iD :T7heHAt6
#351 [七瀬]
すると、笑顔に戻って
「安心しろ。すぐに俺が、技術室に行けるようにしてやるよ。」
ドキッ!
心臓が一気に跳ねた。
『わ、私も頑張るし!』
「カンナ使うの初めてでしょ?
ぽんずちゃんには難しいよ。」
:09/03/06 07:27 :N703iD :T7heHAt6
#352 [七瀬]
『木には使ったことあるもん。』
「あー、全然違うよ。
ザラザラしてるし、もっと堅いし。」
なんか意地悪?
冷たくなったり、
優しくなったり、
意地悪になったり…。
歩志は忙しいなぁ。
と笑う私。
:09/03/06 07:31 :N703iD :T7heHAt6
#353 [七瀬]
「何笑ってんの?」
『べーつにっ!』
「本当になんで?」
『だーからっ!何でもないって!!』
今度は私が意地悪をしてやる。
ざまあみろ。笑
歩志は自分はするのに、されたら必死。
:09/03/06 07:34 :N703iD :T7heHAt6
#354 [七瀬]
しばらくして、マッキーがカゴを持って出てきた。
「正解。」
そういってマッキーは、私たちを連れて、技術室から出た。
どこに行くんだろう?
連れていかれた先は、体育館だった。
:09/03/07 01:46 :N703iD :ml8DPkWM
#355 [七瀬]
「ここで作業しろ。」
とマッキーが言った。
『えーっ!技術室でじゃ、ないの!?』
「ボケ。
大切な機械がたくさんあるところにお前らを放っておけるか。」
『そんなぁ。』
私とマッキーが、こんなやりとりをしている中でも、
アイツは真剣な眼差し。
:09/03/07 01:52 :N703iD :ml8DPkWM
#356 [七瀬]
「じゃーなぁ。」
マッキーは、そう言って出ていった。
もう!!
とふてくされる。
私が、そんなことをしている間にも、歩志は作業に取り掛かっていた。
さっきと違って、全然しゃべらない。
私もやろうかな。
歩志の横に座った。
:09/03/07 01:58 :N703iD :ml8DPkWM
#357 [七瀬]
…といっても、
やり方分かんないし!
仕方なく、歩志の作業を観察する。
やっぱりカンナで鉄を削ってる。
よぉーし!
私もやってみよう!!
見よう見まねで、鉄とカンナを手に持つ。
頑張るぞぉー!
:09/03/07 02:01 :N703iD :ml8DPkWM
#358 [七瀬]
1時間…、
いや2時間が経ったんじゃないだろうか。
私の作業は全然、進んでいない。
ってゆーか飽きた。
だって、ずーっと同じことばっか、してるんだもん。
ずっと削りっぱなし。
もう手が痛い。
肩も凝ったし。
:09/03/07 02:04 :N703iD :ml8DPkWM
#359 [七瀬]
これ、かなり地味で地道な作業。
ほんとに、ただ削るだけ。
ほんとに堅くって、木と全然違う。
もうやだ。
横の歩志を見ると、まだやってる。
飽きないのかな?
手は痛くならないの?
肩は?
:09/03/07 02:09 :N703iD :ml8DPkWM
#360 [七瀬]
そんな疑問が生まれた。
きれいな横顔に汗が、滝のように流れている。
私は拭いてあげたくなったけれど、出来なかった。
歩志は、私とは違う。
劣等感を覚えた。
軽い嫉妬みたいな感情。
でも、甘くてほろ苦さが胸に染みた。
:09/03/07 02:13 :N703iD :ml8DPkWM
#361 [七瀬]
「おーい。起きろ。」
『んっ…』
ん!?
「お前、いつまで寝てんの?」
『歩志…。あれ、私……?』
「あれから、寝てたんだよ。ずーっと。」
:09/03/07 17:18 :N703iD :ml8DPkWM
#362 [七瀬]
『えぇぇえ!?』
私は起き上がる。
体育館の外は、日が暮れて暗くなっていた。
『今、何時…?』
「7時過ぎ。」
『うそっ!!早く帰らないと!』
慌てて起き上がる。
っていうか、
『なんで起こしてくれなかったの!?』
:09/03/07 17:23 :N703iD :ml8DPkWM
#363 [七瀬]
「だって、俺は作業に没頭してたし。
お前も気持ち良さそうに寝てたし。」
うぅ…。
今から帰ったら、8時半過ぎるじゃん。
「しゃーねぇなあ、送ってやるよ。」
『え、いいの!?』
「うん。」
こうして歩志に送ってもらうことになった。
:09/03/07 17:29 :N703iD :ml8DPkWM
#364 [七瀬]
二人で学校を出た。
「すごい爆睡してたね、ぽんずちゃん。
ヨダレだらだら。」
『もうっ!言わないでよっ!!』
駅に着いた。
「ぽんずちゃんは、どこで降りるの?」
『私は、この駅。』
切符売場の上の表に指を差して言った。
:09/03/07 22:44 :N703iD :ml8DPkWM
#365 [七瀬]
「じゃあ、俺と反対方向じゃん。」
『へぇ、送ってくれてありがとう。
じゃっ、また明日!』
切符を機械に通そうとした瞬間……。
「待って!」
振り向くと、
「家まで、送るよ。」
:09/03/08 01:03 :N703iD :PY5xI9.2
#366 [七瀬]
『え…。』
「送るよ。」
『い、いいよ!
悪いし!!歩志が帰るの遅くなっちゃうよ。』
すると歩志は
「いーよ。
女の子を夜道の中、一人で歩かせるような男じゃないし。」
そういって、強引に切符を機械に入れた。
:09/03/08 01:06 :N703iD :PY5xI9.2
#367 [七瀬]
「ぽんずちゃんも一応、女の子だしね〜。」
『一応じゃないっ!
かわいいかわいい女の子ですっ!』
「ハハハっ」
そう無邪気に笑う歩志。
ムカつくけど、うれしい。
ダメだ。
どんどん歩志にハマっていく。
:09/03/08 01:10 :N703iD :PY5xI9.2
#368 [七瀬]
「松田…?」
『林…原。』
私はとっさに歩志の後ろに身を隠していた。
:09/03/08 01:13 :N703iD :PY5xI9.2
#369 [七瀬]
「久しぶりだな。」
目を反らしながらいう林原。
そんな目、しないでよ。
「そいつ誰?」
林原が歩志を見て言う。
あの時の林原と同じ。
喧嘩した日の林原と。
怒ってる。
でも、その中で淋しそうに瞳が揺れてた。
:09/03/08 01:17 :N703iD :PY5xI9.2
#370 [七瀬]
私は何も言わない。
言えない。
何も言わずに黙っている。歩志も、私も、
林原も。
かなり気まずい。
その時、林原が
「柚子っ!」
:09/03/08 01:20 :N703iD :PY5xI9.2
#371 [七瀬]
柚子……?
今、林原が
“柚子”って呼んだ?
呼んだよね。
私の耳、間違ってないよね。
思わず疑ってしまう。
だってあの林原が、こんなうわずった声で
“柚子”って呼ぶんだよ?
:09/03/08 01:23 :N703iD :PY5xI9.2
#372 [七瀬]
林原は私に背を向けた。
「悪かった。」
後ろを向いていたから、林原がどんな顔してるかは見えなかった。
ただ小さな林原の肩が小刻みに震えているだけ。
もう我慢できない。
ここから逃げ出したい。
:09/03/08 01:27 :N703iD :PY5xI9.2
#373 [七瀬]
「ほんとごめん。
あの時、お前があんなこと聞くから…。
つい焦っちまって。
でもなこれだけは聞いてくれ。
俺がJ高を止めて、G高にしたのは、
また、お前と一緒に3年間過ごしたかったから。」
:09/03/08 01:30 :N703iD :PY5xI9.2
#374 [七瀬]
「俺は、松田…、
柚子のことが……」
「まあ、林原クン。
柚子うれしいわぁー!!」
:09/03/08 01:32 :N703iD :PY5xI9.2
#375 [七瀬]
「どうしたの?林原クン。振り向いた顔もかっこいー。柚子、大好きー!」
「お前…。
八田歩志だろ?」
「なーんだ、知ってたんだ。ぽんずちゃんにわざわざ、聞かなくても良かったじゃん。
それとも何?
あいつの口から聞きたかったの?
“歩志はただの友達だよ”って。」
:09/03/08 01:37 :N703iD :PY5xI9.2
#376 [七瀬]
「ぽんずちゃんなら、さっきの電車に乗って帰っちゃったよ?」
「柚子にちょっかいだすな。」
「ぽんずちゃん、さっき泣いてたよ?
あんたにそんなこと言われたくない。
ね、林原クン?」
「お前…っ!」
「暴力はんたーい。
じゃあねー、林原クンっ!」
:09/03/08 01:44 :N703iD :PY5xI9.2
#377 [七瀬]
「ばいばーい。」
「なんなんだよ、あいつ。
八田歩志……。
柚子、ごめんな。」
:09/03/08 01:46 :N703iD :PY5xI9.2
#378 [七瀬]
電車に乗った瞬間、溜めていた涙があふれ出た。
周りの人たちが、じろじろ見てたけど、
そんなこと、どうでも良かった。
『ぐずっ、うぅ〜。』
泣いても泣いても、枯れない涙。
私はいつから、こんなに泣き虫になったんだろ。
:09/03/08 01:51 :N703iD :PY5xI9.2
#379 [七瀬]
今日も、また1日が始まる。
私はどうなるんだろうか…。
「今日のラッキーさんは、おひつじ座のあなた。
何事もスムーズにいく1日。あなたの勇気が運命を動かす日となるでしょう。
ラッキーカラーは赤。」
テレビの前のアナウンサーが、はつらつと言う。
:09/03/08 03:21 :N703iD :PY5xI9.2
#380 [七瀬]
ほんとかな?
おひつじ座の私はテレビをガン見。
ほんとだといいな。
少し期待してしまう。
淡い希望と昨日から固めた覚悟を胸に学校へ出発。
占いで言ってたような、1日になりますように…。
:09/03/08 03:24 :N703iD :PY5xI9.2
#381 [七瀬]
あ〜、学校に行きたくない。
電車から降り、学校への道のりの中、思ってしまう。
昨日、布団の中で1日かけて固めた覚悟は、もろかった。
そのおかげで、一睡もしなかった。
寝てないのと、泣いたので、私の目は腫れて、ブサイク丸出し。
:09/03/08 03:29 :N703iD :PY5xI9.2
#382 [七瀬]
行きたくない理由は2つ。
1つは、やっぱりまだ林原に会いたくない。
2つ目は、
歩志に会いたくない。
正確に言うと、どういう顔で会っていいのか分からない。
:09/03/08 03:31 :N703iD :PY5xI9.2
#383 [七瀬]
だって、
昨日の私は、
歩志に家まで送ってもらう約束をした。
なのに結局、私の都合で、勝手に帰ってしまった。
バイバイも言わずに。
怒ってるかな?
怒ってるよね……。
歩志のせっかくの善意を踏みにじってしまったし。
:09/03/08 03:35 :N703iD :PY5xI9.2
#384 [七瀬]
階段を上る、足取りは重たい。
歩志だって、きっと謝れば、許してくれるよね。
よし、素直に謝ろう。
“昨日はごめん”
って。
:09/03/08 03:39 :N703iD :PY5xI9.2
#385 [七瀬]
ガラッ。
気合いを入れて、勢い良く教室のドアを開けた。
…はずなのに、
歩志は、まだ来ていなかった。
いつもは、私が来るころには席に着いて、窓の外見てるのに。
注入した気合いは、すっと抜けてしまった。
:09/03/08 03:43 :N703iD :PY5xI9.2
#386 [七瀬]
なぁんだ。
私は席に着く。
歩志がいなくてヒマだったからか、
それとも謝るつもりが予定が狂ってしまったからか。
机に頬杖をつく。
昨日のことを思い出していた。
昨日の夜は……。
:09/03/08 03:46 :N703iD :PY5xI9.2
#387 [七瀬]
“柚子っ!”
昨日の林原の声。
今、思い出しても全身が熱くなる。
今まで、ずっと
“松田”とか“お前”
だったのに、
急に下の名前で言うんだもん。
びっくりするし、
なんか照れる。
:09/03/08 12:58 :N703iD :PY5xI9.2
#388 [七瀬]
“悪かった。”
この言葉を聞いたあと、涙がどんどん溜まっていた。
林原が謝ってくれて、
せっかく仲直りが出来そうだった。
なのに、なぜかうれし涙ではなくって、
悲しくって涙が出た。
うれしいはずなのに。
:09/03/08 13:02 :N703iD :PY5xI9.2
#389 [七瀬]
私の小さな涙に気付かれたくなくて、
逃げてしまった。
あの後、林原が何か言ってたような気がするけど、
私の耳には届かなかった。
何、言ってたんだろう?
ガラッ
:09/03/08 13:05 :N703iD :PY5xI9.2
#390 [七瀬]
『歩志!!』
「何?どうしたの??
ぽんずちゃん。」
あれ、怒ってない?
『昨日はごめんね。』
「は、何が?」
『先に帰っちゃって…。』
「別にいいよ。それくらい気にしなくって。」
:09/03/08 13:09 :N703iD :PY5xI9.2
#391 [七瀬]
あれれ?
なんか優しい。
「それより昨日は、きちんと帰れた?」
『うん。帰れたよ。』
「そっか、じゃ良かった。」
やっぱり優しい。
:09/03/08 13:16 :N703iD :PY5xI9.2
#392 [七瀬]
いつもなら
“あっそ。”
とか冷たい態度か、
“ぽんずちゃんは女の子じゃないもんね。”
とか意地悪なこと言うのに。
まるで別人。
戸惑ってしまう。
怒ってないなら、いいけど、
これはこれで、どうすればいいか分からない。
:09/03/08 13:19 :N703iD :PY5xI9.2
#393 [七瀬]
“スムーズにいく1日”
頭に思い浮かぶ。
結局、あれから何もなくって、ほんとびっくり。
占い当たってる?
そして放課後。
歩志と私は、また同じ作業に打ち込む。
:09/03/08 16:45 :N703iD :PY5xI9.2
#394 [七瀬]
やっぱり歩志は真剣で、何も話さない。
私も黙っている。
鉄の削れる鈍い音だけが、この広い体育館に響く。
何も変わらない。
以前と全く変わらない。
ただ、私の気持ちが違うだけ。
:09/03/08 16:48 :N703iD :PY5xI9.2
#395 [七瀬]
この空気のおかげで、話すこともなく作業もスムーズに進んだ。
“すること”があるのが今の私にはありがたかった。
「俺、用事があるから、先に帰るな。」
『じゃあ、私も帰るよ。』
時計は6時をさしている。
この体育館で歩志としゃべったのは、これだけだった。
:09/03/08 16:54 :N703iD :PY5xI9.2
#396 [七瀬]
駅まで歩く。
ふぅ。
何もなくて良かったあ。
チカチカチカ…。
あっ、やば!!
信号が赤に変わっちゃう。
全力疾走。
……が間に合わず。
最悪。
:09/03/08 23:43 :N703iD :PY5xI9.2
#397 [七瀬]
仕方なく、待つ。
この信号、なかなか変わらないんだよなあ〜。
コツコツコツコツ…。
後ろから聞こえてくる靴音。
元々、人気のないところ。
振り返る。
:09/03/08 23:47 :N703iD :PY5xI9.2
#398 [七瀬]
すると、小さく林原が見えた。
私には気付いていない感じ。
うそ〜!
信号、早く変わってよ!!
そんな私の思いを、
あざ笑うかのように、信号が変わる気配すらしない。
コツコツコツコツ…。
だんだん大きくなる靴音。
覚悟を決めた。
:09/03/08 23:50 :N703iD :PY5xI9.2
#399 [七瀬]
「松田。」
昨日、“柚子”と呼んだ声が私の中を響く。
今にも顔が赤くなりそう。
『林原、久しぶりだねっ!』
「いや、昨日会ったし。」
しまった!
緊張して、変なこと言っちゃった。
:09/03/08 23:54 :N703iD :PY5xI9.2
#400 [七瀬]
でも、いつもの林原と話したのは私にとっては久しぶり。
だから“久しぶりだねっ”は全く変ではないよ?
「どうした、松田。」
林原の声で我に帰る。
『う、ううん。
でも、話すのは久しぶりじゃん。』
:09/03/09 00:12 :N703iD :W7rSt6Q.
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