星とぽんず
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#301 [七瀬]
マジメに授業を受けよう。

不謹慎だけど、
アイツのおかげで、そう思えた。

ノートを開く。


シャーペンで、マッキーの乱雑な字を移し始める。

あ、間違えた。

消しゴムを出そうと、筆箱をさぐる。


あれ?

⏰:09/03/04 14:57 📱:N703iD 🆔:xIwV6ta2


#302 [七瀬]
 
 
消しゴムがない。

もぉー!
どっかに落としたのかな?


そんなことを考えてると、

コロン

と私の目の前に消しゴムが転がってきた。
 

⏰:09/03/04 14:59 📱:N703iD 🆔:xIwV6ta2


#303 [七瀬]
 
アイツの消しゴム。

すぐに前を向いちゃうから顔は見えなかったけれど、

あの温かい目をしてるんだと、見なくてもわかった。



ただ、消しゴムを貸してくれただけなのに、
涙が出そうになった。
 
 

⏰:09/03/04 15:03 📱:N703iD 🆔:xIwV6ta2


#304 [七瀬]
 
 
一言でも話すと、涙が溢れそうだから、私は何も言わず、黙ってた。


消しゴムを見ると、



“八田歩志”

と書いてあった。 
 
 
きれいな字……。

⏰:09/03/04 15:06 📱:N703iD 🆔:xIwV6ta2


#305 [七瀬]
 
なんて、読むんだろう。

はった……



ほし?

ん〜、わかんない。

そんなことを考えていて、結局、マジメに授業を受けれずに終わってしまった。


アイツのせいだよ、もう!

と思いながらも、うれさが心を占めていた。

⏰:09/03/04 15:12 📱:N703iD 🆔:xIwV6ta2


#306 [七瀬]
 
 
授業が終わって、私はアイツに話かける。


『ね、ねぇ!
消しゴムありがと。』


あーっ!!
私ってなんで、こんなにかわいくないんだろう。


「どーいたしまして。」

そんな私の反応を楽しむようなアイツの目つき。

⏰:09/03/04 15:29 📱:N703iD 🆔:xIwV6ta2


#307 [七瀬]
消しゴムを返すと、

「俺の名前、知られちゃったな。」

と言うアイツ。

『う、うん。
えっと、そのはった…、

ほし??』


「あゆし。」

『え!?』

「あ・ゆ・し。
歩く志って書いて、あゆしって読むの。」

⏰:09/03/04 15:34 📱:N703iD 🆔:xIwV6ta2


#308 [七瀬]
 
立ち上がって、どっかに行こうとするアイツ。


じゃなくて
八田歩志(ハッタアユシ)……。

『ちょっと!
あ、あのほんとにありがとう、消しゴム。』

「さっきから、ありがとう言いすぎ。」

笑って言う歩志。


今度は、かわいく言えたかな?

⏰:09/03/04 15:39 📱:N703iD 🆔:xIwV6ta2


#309 [七瀬]
 
 
 
名前…、
知ることが出来た。

うれしい。


歩志のことを考えると、いちいち心臓がうるさくって困る。


これじゃ、心臓が保たないよ。

なんて、
一人で考えて、顔が熱くなる。

⏰:09/03/04 15:44 📱:N703iD 🆔:xIwV6ta2


#310 [七瀬]
 
 
 
お弁当の時間がやってきた。

もちろん林原とは気まずいし、一緒に食べてない。



アイツはどこで、誰と食べるんだろう?

またまた私はストーカーになることにした。笑
 

⏰:09/03/04 15:49 📱:N703iD 🆔:xIwV6ta2


#311 [七瀬]
 
歩志の後を着いていこう。




「何着いてきてんの?」


バレちゃいました。

廊下を歩いていた、歩志は軽くにらみながら言う。


蛇に睨まれるカエル
ってこういうこと?

⏰:09/03/04 16:41 📱:N703iD 🆔:xIwV6ta2


#312 [七瀬]
「俺と、ごはん食べたいなら、そう言えば?
ストーカーぽんずちゃん。」


私はぽんずちゃんから
ストーカーぽんずちゃんに
昇格?した。



何か言い返したかったけれど、アイツの言うとおりなので、黙って着いていった。

悔しいけど。

⏰:09/03/04 16:44 📱:N703iD 🆔:xIwV6ta2


#313 [七瀬]
 
 
着いた先は、中庭。

相変わらず、男だらけ。


お日さまいっぱいの光が差し込んでいる。

花草もたくさんで、楽しくなる。


人気なワケは分かる。

でも女の私には、かなりキツいし男臭い。

⏰:09/03/04 23:00 📱:N703iD 🆔:xIwV6ta2


#314 [七瀬]
 
そんなことは構わずに歩志は、どんどん奧へと進んで行く。


ちょっとぐらい待ってくれてもいいのに。

冷たい奴。


そういえば、昨日もここに来てたよね。

なんで、わざわざこんなとこで、
ごはんを食べるんだろう。

食欲湧かないじゃん。

⏰:09/03/04 23:04 📱:N703iD 🆔:xIwV6ta2


#315 [七瀬]
 
すると、歩志はまた一番端っこのイスに座って、お弁当を食べ始めた。


また何か見てる。

私も歩志の隣にちょこんと座った。

『何、見てんの?』



無視ですか、歩志クン。
 

⏰:09/03/04 23:07 📱:N703iD 🆔:xIwV6ta2


#316 [七瀬]
 
私は、仕方なく歩志の真剣な目線と同じところに目を向ける。



技術室?

歩志の目先には、窓から見える技術室。


中では機械たちが、規則的に動いてるのが、ちょっとだけ見えている。
 

⏰:09/03/04 23:11 📱:N703iD 🆔:xIwV6ta2


#317 [七瀬]
 
すると、しばらくして機械は止まった。

先生たちが機械の様子を見ていることから、
定期検査でも、しているんだろうか。


私は初めて見る技術室に、胸が高鳴った。



歩志は、機械が止まったのを確認すると、
お弁当に目を戻した。
 

⏰:09/03/04 23:16 📱:N703iD 🆔:xIwV6ta2


#318 [七瀬]
『ね、なんで技術室見てたの?』

「…。」

またまた無視。


『ねぇ!ねぇってば〜!!』

ムキになる私。

そんな私を、スルーし続ける歩志。

『もう!歩志!!なんで無視するのよ!』

とうとうキレてしまった。

⏰:09/03/04 23:20 📱:N703iD 🆔:xIwV6ta2


#319 [七瀬]
「プッ、ハハハハハ…。」

いきなり笑いだす歩志に、訳の分からない私。


何笑ってんの、こいつ!?

余計に腹が立つ。


私はすねて歩志に背中を向けた。

「ごめんごめーん。
いや〜。初めて俺の名前呼んだなぁ、と思って。」

振り返って、歩志を見る私。

⏰:09/03/04 23:25 📱:N703iD 🆔:xIwV6ta2


#320 [七瀬]
「なんなの、その目。
そんな怒らなくってもいーでしょ?ぽんずちゃん。」 

歩志を睨んだ。

すると歩志は私の顔に、これでもか!
ていうくらいに顔を近付け言った。

「ちょっと意地悪してみたくなっただけ。」


こいつってやつは〜!!

⏰:09/03/04 23:29 📱:N703iD 🆔:xIwV6ta2


#321 [七瀬]
私は多分、ゆでタコみたいに真っ赤だったと思う。

「かーわいっ」


そういってアイツは、顔を戻し、またお弁当を食べ始めた。


なんなんだ、アイツは。

ドキドキうるさい胸。


なんなんだ、この気持ちは。

⏰:09/03/04 23:33 📱:N703iD 🆔:xIwV6ta2


#322 [七瀬]
 
 
 
 
あれから私は何も言えなくって、
時間だけが過ぎた。


歩志も何も言わずに、
ドキドキしっぱなしの私を見て、喜んでた。


アイツは本当の悪魔だ。

そのおかげで、私はお弁当の味がよく分からなかった。

⏰:09/03/05 16:17 📱:N703iD 🆔:k5.OS8TM


#323 [七瀬]
 
 
 
6限目の技術。

マッキーが私を睨んだ。



殺されるかと思った。

今も生きた心地がしない。


とりあえず
生きているけど……。
 
 

⏰:09/03/05 16:22 📱:N703iD 🆔:k5.OS8TM


#324 [七瀬]
 
 
マッキーは教室に入ってきた時から、異様な雰囲気だった。

日直が起立を言おうとした時、

「この中に俺の授業に文句がある奴がいるようだ。」

と言った。

教室が凍った瞬間だった。

ヤバっ!

私はマッキーから顔を背ける。

⏰:09/03/05 16:26 📱:N703iD 🆔:k5.OS8TM


#325 [七瀬]
顔を背けていても、マッキーが私を睨んでいるのが分かる。

マッキーの眼力は強烈だ。


うぅ〜。
どうしよぉ。


ビビりまくる。

だって、めちゃくちゃ怖いんだもん!!
 

⏰:09/03/05 16:29 📱:N703iD 🆔:k5.OS8TM


#326 [七瀬]
 
 
「そいつは、俺が技術室に連れていかないのが気に入らないらしい。」

もう終わった。
私の人生は終わってしまった。



「…が、
俺に意見するなんて、良い根性しているじゃないか。」


あれ?
助かった??

⏰:09/03/05 16:44 📱:N703iD 🆔:k5.OS8TM


#327 [七瀬]
 
 
「その根性に免じて、今回は許してやろう。」


とりあえず助かったみたい。



やっぱ技術室には連れてってくれないのかな?

ま、命があっただけ良かったよね。

贅沢は止めとこ。

⏰:09/03/05 16:47 📱:N703iD 🆔:k5.OS8TM


#328 [七瀬]
「だから今日は、お前らに技術室に連れてってやる、チャンスをやろう。」


チャ…ンス……?

うそ!
あのマッキーが?

やった、やったー!!

教室からも、嬉しそうな声が飛びかっていた。


教室中が歓喜に浸っていた。

なのに…。

⏰:09/03/05 16:52 📱:N703iD 🆔:k5.OS8TM


#329 [七瀬]
 
 
マッキーは何かを配り始めた。


前から後ろの私の席まで、送られてくる。



鉄?

それは長さ50センチくらい、太さは5センチくらいの鉄の棒だった。


なにこれ。

⏰:09/03/05 17:15 📱:N703iD 🆔:k5.OS8TM


#330 [七瀬]
 
 
みんなポカーンとしてる。

私もその一人。



「お前らは、これで“ぶんちん”を作ってくれ。」

は?
ぶんちん……??


ぶんちんって


何ですか?

⏰:09/03/05 17:19 📱:N703iD 🆔:k5.OS8TM


#331 [七瀬]
 
 
前の歩志は真剣な様子。

『“ぶんちん”ってなぁに?』

「は?お前、ぶんちんも知らねぇの?」


『…うん。
だから!“ぶんちん”って何なのよ!!』

「小学生の時に使ったろ。書道の時間に。」

呆れたような歩志。

⏰:09/03/05 17:52 📱:N703iD 🆔:k5.OS8TM


#332 [七瀬]
あぁ、なんだ。

あの書道の時に、紙がズレないようにするために、置くやつのことかあ。


歩志に言われ、
ようやく“ぶんちん”という平仮名が
“文鎮”という漢字になった。




…でも、どうやって作るんだろう。

新たな謎が生まれた。

⏰:09/03/05 17:57 📱:N703iD 🆔:k5.OS8TM


#333 [七瀬]
 
 
「じゃ、今日はそれをどうやって文鎮にするのか、考えてろ。
考えが固まったら、俺のところへ来い。
技術室へ連れてってやるよ。」

マッキーはそれだけ言うと、出ていってしまった。



どうしよ。
全然わかんない。

⏰:09/03/05 18:02 📱:N703iD 🆔:k5.OS8TM


#334 [七瀬]
私は机の上で、ただの鉄を転がしてみる。

丸まっていて、よく転がる。


これを四角くしなきゃなぁ。
それに取っ手もいる。

その前に、もっと短く細くしなくっちゃ。
これじゃ、長すぎる。


考えれば考えるほど、やらなければならない試練が増えてゆく。

⏰:09/03/05 18:05 📱:N703iD 🆔:k5.OS8TM


#335 [七瀬]
20分ほど、鉄の棒とにらめっこ。



ダメだ。
ほんとわからない。

周りを見てみると、みんなも同じのようだ。

ジーっと、にらめっこ中。


少し安心した。

でも前のヤツは、周りと違って、分かったように余裕な感じ。

⏰:09/03/05 18:08 📱:N703iD 🆔:k5.OS8TM


#336 [七瀬]
『ねえ、分かったの?文鎮の作り方。』

「ん、まぁ大体な。」

『どうやって!?』

「そんなもん自分で考えろ。」


冷たいなあ。


でもうらやましい。

ほんとに分かったのかな?

⏰:09/03/05 18:12 📱:N703iD 🆔:k5.OS8TM


#337 [七瀬]
『鉄を溶かすの?』

「それじゃ、取っ手が出来ないじゃん。」

『じゃあ打つの?』

「それじゃ、やっぱり一回は溶かさないとダメだしー。」


はぐらかす歩志。


『もう、教えてよっ』
 

⏰:09/03/05 18:14 📱:N703iD 🆔:k5.OS8TM


#338 [七瀬]
「しょーがないなぁ。教えてあげる。

みんなには内緒だよ?ぽんずちゃんだけだから。」


うん、と頷く。






「削るんだよ。」

削る…?
 

⏰:09/03/05 18:43 📱:N703iD 🆔:k5.OS8TM


#339 [七瀬]
『削る……
ってどうやって?』

「もー、教科書185ページ開いてみ?」

『……教科書忘れた。』

「はぁ。」

歩志は本当に呆れたように、机に手を入れた。

「はい、どうぞ。」

『…ありがと。』

歩志の出してくれた教科書を見る。

⏰:09/03/05 20:53 📱:N703iD 🆔:k5.OS8TM


#340 [七瀬]
そこには、カンナの写真。

カンナは木の面を削って、平らにする大工道具。



でも、これは鉄だよ?

というように、歩志を見る。

「鉄とかの金属を削るカンナもあるんだよ。」

私の思いを感じ取ったらしく、そう教えてくれた。


そうなんだ。

⏰:09/03/05 23:56 📱:N703iD 🆔:k5.OS8TM


#341 [七瀬]
私は木を切ったり、それで何かを作ったりするのは得意。


だけどそれ以外は、ほとんど無知で、こんな道具があることさえ知らなかった。


機械について勉強したいと思ったのも、おじいちゃんに影響されただけだし。


恥ずかしくなる。

こんなことで、技術に自信があったなんて。

⏰:09/03/06 00:01 📱:N703iD 🆔:T7heHAt6


#342 [七瀬]
でも、
なんでこいつは、こんなに詳しいんだろう。

学校を1日も休んでいない私と、
1週間以上、出遅れている歩志。


何が、こんなにも差をつけるのだろう。

思い切って聞いてみる。

『なんで、こんなに詳しいの?』

歩志の切れ長の目をジッと見つめた。

⏰:09/03/06 00:06 📱:N703iD 🆔:T7heHAt6


#343 [七瀬]
歩志は見返してくる。
思わず吸い込まれそう。


見とれていると、

「俺んち、

オヤジが大工。」


へぇ、そうなんだ。

「学校に1週間以上、来れなかったのも、
オヤジを手伝ってたから。」


歩志はすごい。

⏰:09/03/06 00:11 📱:N703iD 🆔:T7heHAt6


#344 [七瀬]
「うちのオヤジ、今近所の家を建て直してんの。
昔、オヤジが建てた家なんだけど、だいぶボロが来ちまったみたいで。

そんで、人手が足りなかったから俺が手伝ってたワケ。」


そういう歩志は、とても誇らしげだった。

『自慢のお父さんなんだね。』

私は優しい気持ちがあふれ出て、
自然と口が動いていた。

⏰:09/03/06 00:15 📱:N703iD 🆔:T7heHAt6


#345 [七瀬]
歩志はちょっと驚いてたけど、
「まーな。」

と笑った。


あの温かい目で。



まるで、パズルのピースが一つ一つ埋まっていくように、
歩志のことを知ると、
私まで心が温かくなる。

なんか幸せ。

⏰:09/03/06 00:19 📱:N703iD 🆔:T7heHAt6


#346 [七瀬]
「だけど、
うちのオヤジは頑固者で、未だに機械もほとんど使わず、手作業でやってる。

だから、俺がオヤジのために勉強しよっかなと思ってこの学校に入った。」

歩志は照れてた。


「ま、オヤジには
そんなもんはいらーん!
って怒られちまったけどな。」

白い歯を見せて、ニカッと笑う歩志。

⏰:09/03/06 00:23 📱:N703iD 🆔:T7heHAt6


#347 [七瀬]
 
 
 
それから、やり方の分かった私たちは、マッキーの元へ。


「ほぉ、本当に分かったのか?」

マッキーは信じられない様子。


私は念願の技術室へ行けるので、心が浮き足立っていた。

歩志は真剣だった。

⏰:09/03/06 07:10 📱:N703iD 🆔:T7heHAt6


#348 [七瀬]
『わー、めちゃくちゃ広ーい。』

「当たり前じゃないか、松田。
ここには、たくさんの機械があるんだからな。」

『へぇー!!』

私は機械に手を触れようとした時、

「こらっ!」

マッキーの怒声。

「勝手に触んな!」

『ごめんなさーい。』

⏰:09/03/06 07:15 📱:N703iD 🆔:T7heHAt6


#349 [七瀬]
「お前ら、どうやって文鎮を作る気?」


歩志の言う奴だと、機械は一切使わないしなぁ。

なんかつまんない。



嘘ついちゃおっかなぁ。

『はい、機械を使って……』
「カンナ貸してください。」
歩志の声に遮られた。

⏰:09/03/06 07:19 📱:N703iD 🆔:T7heHAt6


#350 [七瀬]
マッキーの目が光った。

「ちょっと待ってろ。
松田、何も触んじゃねぇぞ。」

『は、はいっ!!』


マッキーは技術室の奧へと消えてった。


「嘘、つくなよ。」

歩志の冷たい目。


『…ごめんなさい。』

⏰:09/03/06 07:22 📱:N703iD 🆔:T7heHAt6


#351 [七瀬]
すると、笑顔に戻って

「安心しろ。すぐに俺が、技術室に行けるようにしてやるよ。」




ドキッ!

心臓が一気に跳ねた。


『わ、私も頑張るし!』

「カンナ使うの初めてでしょ?
ぽんずちゃんには難しいよ。」

⏰:09/03/06 07:27 📱:N703iD 🆔:T7heHAt6


#352 [七瀬]
『木には使ったことあるもん。』

「あー、全然違うよ。
ザラザラしてるし、もっと堅いし。」



なんか意地悪?


冷たくなったり、
優しくなったり、
意地悪になったり…。


歩志は忙しいなぁ。

と笑う私。

⏰:09/03/06 07:31 📱:N703iD 🆔:T7heHAt6


#353 [七瀬]
「何笑ってんの?」

『べーつにっ!』

「本当になんで?」

『だーからっ!何でもないって!!』


今度は私が意地悪をしてやる。

ざまあみろ。笑



歩志は自分はするのに、されたら必死。

⏰:09/03/06 07:34 📱:N703iD 🆔:T7heHAt6


#354 [七瀬]
 
 
しばらくして、マッキーがカゴを持って出てきた。



「正解。」

そういってマッキーは、私たちを連れて、技術室から出た。


どこに行くんだろう?

連れていかれた先は、体育館だった。

⏰:09/03/07 01:46 📱:N703iD 🆔:ml8DPkWM


#355 [七瀬]
「ここで作業しろ。」

とマッキーが言った。


『えーっ!技術室でじゃ、ないの!?』

「ボケ。
大切な機械がたくさんあるところにお前らを放っておけるか。」

『そんなぁ。』


私とマッキーが、こんなやりとりをしている中でも、

アイツは真剣な眼差し。

⏰:09/03/07 01:52 📱:N703iD 🆔:ml8DPkWM


#356 [七瀬]
「じゃーなぁ。」

マッキーは、そう言って出ていった。


もう!!
とふてくされる。

私が、そんなことをしている間にも、歩志は作業に取り掛かっていた。

さっきと違って、全然しゃべらない。


私もやろうかな。

歩志の横に座った。

⏰:09/03/07 01:58 📱:N703iD 🆔:ml8DPkWM


#357 [七瀬]
…といっても、
やり方分かんないし!


仕方なく、歩志の作業を観察する。

やっぱりカンナで鉄を削ってる。


よぉーし!
私もやってみよう!!

見よう見まねで、鉄とカンナを手に持つ。


頑張るぞぉー!

⏰:09/03/07 02:01 📱:N703iD 🆔:ml8DPkWM


#358 [七瀬]
1時間…、

いや2時間が経ったんじゃないだろうか。


私の作業は全然、進んでいない。

ってゆーか飽きた。

だって、ずーっと同じことばっか、してるんだもん。

ずっと削りっぱなし。

もう手が痛い。
肩も凝ったし。

⏰:09/03/07 02:04 📱:N703iD 🆔:ml8DPkWM


#359 [七瀬]
これ、かなり地味で地道な作業。

ほんとに、ただ削るだけ。

ほんとに堅くって、木と全然違う。

もうやだ。


横の歩志を見ると、まだやってる。

飽きないのかな?
手は痛くならないの?
肩は?

⏰:09/03/07 02:09 📱:N703iD 🆔:ml8DPkWM


#360 [七瀬]
そんな疑問が生まれた。


きれいな横顔に汗が、滝のように流れている。

私は拭いてあげたくなったけれど、出来なかった。



歩志は、私とは違う。
劣等感を覚えた。

軽い嫉妬みたいな感情。

でも、甘くてほろ苦さが胸に染みた。

⏰:09/03/07 02:13 📱:N703iD 🆔:ml8DPkWM


#361 [七瀬]
 
 
 
 
 
「おーい。起きろ。」


『んっ…』

ん!?

「お前、いつまで寝てんの?」

『歩志…。あれ、私……?』

「あれから、寝てたんだよ。ずーっと。」

⏰:09/03/07 17:18 📱:N703iD 🆔:ml8DPkWM


#362 [七瀬]
『えぇぇえ!?』

私は起き上がる。

体育館の外は、日が暮れて暗くなっていた。

『今、何時…?』

「7時過ぎ。」

『うそっ!!早く帰らないと!』


慌てて起き上がる。

っていうか、
『なんで起こしてくれなかったの!?』

⏰:09/03/07 17:23 📱:N703iD 🆔:ml8DPkWM


#363 [七瀬]
「だって、俺は作業に没頭してたし。
お前も気持ち良さそうに寝てたし。」

うぅ…。
今から帰ったら、8時半過ぎるじゃん。


「しゃーねぇなあ、送ってやるよ。」

『え、いいの!?』

「うん。」
 
こうして歩志に送ってもらうことになった。

⏰:09/03/07 17:29 📱:N703iD 🆔:ml8DPkWM


#364 [七瀬]
二人で学校を出た。

「すごい爆睡してたね、ぽんずちゃん。
ヨダレだらだら。」

『もうっ!言わないでよっ!!』



駅に着いた。

「ぽんずちゃんは、どこで降りるの?」

『私は、この駅。』

切符売場の上の表に指を差して言った。

⏰:09/03/07 22:44 📱:N703iD 🆔:ml8DPkWM


#365 [七瀬]
「じゃあ、俺と反対方向じゃん。」

『へぇ、送ってくれてありがとう。
じゃっ、また明日!』


切符を機械に通そうとした瞬間……。




「待って!」

振り向くと、

「家まで、送るよ。」

⏰:09/03/08 01:03 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#366 [七瀬]
『え…。』

「送るよ。」

『い、いいよ!
悪いし!!歩志が帰るの遅くなっちゃうよ。』

すると歩志は

「いーよ。
女の子を夜道の中、一人で歩かせるような男じゃないし。」


そういって、強引に切符を機械に入れた。

⏰:09/03/08 01:06 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#367 [七瀬]
「ぽんずちゃんも一応、女の子だしね〜。」

『一応じゃないっ!
かわいいかわいい女の子ですっ!』

「ハハハっ」


そう無邪気に笑う歩志。



ムカつくけど、うれしい。

ダメだ。
どんどん歩志にハマっていく。

⏰:09/03/08 01:10 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#368 [七瀬]
 
 
 
 
「松田…?」








『林…原。』


私はとっさに歩志の後ろに身を隠していた。

⏰:09/03/08 01:13 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#369 [七瀬]
「久しぶりだな。」

目を反らしながらいう林原。

そんな目、しないでよ。

「そいつ誰?」

林原が歩志を見て言う。


あの時の林原と同じ。

喧嘩した日の林原と。

怒ってる。

でも、その中で淋しそうに瞳が揺れてた。

⏰:09/03/08 01:17 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#370 [七瀬]
私は何も言わない。

言えない。


何も言わずに黙っている。歩志も、私も、

林原も。



かなり気まずい。


その時、林原が


「柚子っ!」
 

⏰:09/03/08 01:20 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#371 [七瀬]
 
柚子……?

今、林原が


“柚子”って呼んだ?



呼んだよね。

私の耳、間違ってないよね。

思わず疑ってしまう。

だってあの林原が、こんなうわずった声で
“柚子”って呼ぶんだよ?

⏰:09/03/08 01:23 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#372 [七瀬]
 
 
林原は私に背を向けた。
 

「悪かった。」



後ろを向いていたから、林原がどんな顔してるかは見えなかった。

ただ小さな林原の肩が小刻みに震えているだけ。


もう我慢できない。

ここから逃げ出したい。

⏰:09/03/08 01:27 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#373 [七瀬]
 
 
 
 
「ほんとごめん。
あの時、お前があんなこと聞くから…。

つい焦っちまって。


でもなこれだけは聞いてくれ。
俺がJ高を止めて、G高にしたのは、

また、お前と一緒に3年間過ごしたかったから。」

⏰:09/03/08 01:30 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#374 [七瀬]
 
 
 
「俺は、松田…、
柚子のことが……」







「まあ、林原クン。
柚子うれしいわぁー!!」
 
 
 

⏰:09/03/08 01:32 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#375 [七瀬]
「どうしたの?林原クン。振り向いた顔もかっこいー。柚子、大好きー!」


「お前…。
八田歩志だろ?」


「なーんだ、知ってたんだ。ぽんずちゃんにわざわざ、聞かなくても良かったじゃん。

それとも何?
あいつの口から聞きたかったの?

“歩志はただの友達だよ”って。」

⏰:09/03/08 01:37 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#376 [七瀬]
「ぽんずちゃんなら、さっきの電車に乗って帰っちゃったよ?」


「柚子にちょっかいだすな。」

「ぽんずちゃん、さっき泣いてたよ?
あんたにそんなこと言われたくない。
ね、林原クン?」

「お前…っ!」

「暴力はんたーい。

じゃあねー、林原クンっ!」

⏰:09/03/08 01:44 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#377 [七瀬]
 
 
「ばいばーい。」








「なんなんだよ、あいつ。
八田歩志……。


柚子、ごめんな。」
 
 

⏰:09/03/08 01:46 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#378 [七瀬]
 
 
 
電車に乗った瞬間、溜めていた涙があふれ出た。

周りの人たちが、じろじろ見てたけど、
そんなこと、どうでも良かった。



『ぐずっ、うぅ〜。』

泣いても泣いても、枯れない涙。

私はいつから、こんなに泣き虫になったんだろ。

⏰:09/03/08 01:51 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#379 [七瀬]
 
 
 
今日も、また1日が始まる。

私はどうなるんだろうか…。

「今日のラッキーさんは、おひつじ座のあなた。

何事もスムーズにいく1日。あなたの勇気が運命を動かす日となるでしょう。

ラッキーカラーは赤。」

テレビの前のアナウンサーが、はつらつと言う。

⏰:09/03/08 03:21 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#380 [七瀬]
ほんとかな?

おひつじ座の私はテレビをガン見。

ほんとだといいな。

少し期待してしまう。


淡い希望と昨日から固めた覚悟を胸に学校へ出発。



占いで言ってたような、1日になりますように…。
 

⏰:09/03/08 03:24 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#381 [七瀬]
 
 
あ〜、学校に行きたくない。

電車から降り、学校への道のりの中、思ってしまう。


昨日、布団の中で1日かけて固めた覚悟は、もろかった。

そのおかげで、一睡もしなかった。

寝てないのと、泣いたので、私の目は腫れて、ブサイク丸出し。

⏰:09/03/08 03:29 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#382 [七瀬]
 
 
 
行きたくない理由は2つ。


1つは、やっぱりまだ林原に会いたくない。

2つ目は、


歩志に会いたくない。

正確に言うと、どういう顔で会っていいのか分からない。

⏰:09/03/08 03:31 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#383 [七瀬]
だって、

昨日の私は、

歩志に家まで送ってもらう約束をした。


なのに結局、私の都合で、勝手に帰ってしまった。

バイバイも言わずに。


怒ってるかな?

怒ってるよね……。

歩志のせっかくの善意を踏みにじってしまったし。

⏰:09/03/08 03:35 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#384 [七瀬]
 
 
 
 
 
階段を上る、足取りは重たい。



歩志だって、きっと謝れば、許してくれるよね。


よし、素直に謝ろう。

“昨日はごめん”

って。

⏰:09/03/08 03:39 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#385 [七瀬]
ガラッ。

気合いを入れて、勢い良く教室のドアを開けた。




…はずなのに、


歩志は、まだ来ていなかった。

いつもは、私が来るころには席に着いて、窓の外見てるのに。

注入した気合いは、すっと抜けてしまった。

⏰:09/03/08 03:43 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#386 [七瀬]
なぁんだ。

私は席に着く。


歩志がいなくてヒマだったからか、
それとも謝るつもりが予定が狂ってしまったからか。


机に頬杖をつく。

昨日のことを思い出していた。

 
昨日の夜は……。
 

⏰:09/03/08 03:46 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#387 [七瀬]
 
 
“柚子っ!”

昨日の林原の声。

今、思い出しても全身が熱くなる。

今まで、ずっと
“松田”とか“お前”
だったのに、

急に下の名前で言うんだもん。


びっくりするし、

なんか照れる。

⏰:09/03/08 12:58 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#388 [七瀬]
 
 
“悪かった。”

この言葉を聞いたあと、涙がどんどん溜まっていた。


林原が謝ってくれて、

せっかく仲直りが出来そうだった。


なのに、なぜかうれし涙ではなくって、
悲しくって涙が出た。
 

うれしいはずなのに。

⏰:09/03/08 13:02 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#389 [七瀬]
 
 
私の小さな涙に気付かれたくなくて、

逃げてしまった。


あの後、林原が何か言ってたような気がするけど、

私の耳には届かなかった。

何、言ってたんだろう?




ガラッ

⏰:09/03/08 13:05 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#390 [七瀬]
 
『歩志!!』


「何?どうしたの??
ぽんずちゃん。」

あれ、怒ってない?


『昨日はごめんね。』

「は、何が?」

『先に帰っちゃって…。』

「別にいいよ。それくらい気にしなくって。」 
 

⏰:09/03/08 13:09 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#391 [七瀬]
 
あれれ?
なんか優しい。


「それより昨日は、きちんと帰れた?」

『うん。帰れたよ。』


「そっか、じゃ良かった。」


やっぱり優しい。
 
 

⏰:09/03/08 13:16 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#392 [七瀬]
いつもなら

“あっそ。”
とか冷たい態度か、

“ぽんずちゃんは女の子じゃないもんね。”
とか意地悪なこと言うのに。


まるで別人。

戸惑ってしまう。

怒ってないなら、いいけど、
これはこれで、どうすればいいか分からない。
 

⏰:09/03/08 13:19 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#393 [七瀬]
 
 
 
“スムーズにいく1日”

頭に思い浮かぶ。




結局、あれから何もなくって、ほんとびっくり。

占い当たってる?
 
 
そして放課後。

歩志と私は、また同じ作業に打ち込む。

⏰:09/03/08 16:45 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#394 [七瀬]
 
 
やっぱり歩志は真剣で、何も話さない。

私も黙っている。



鉄の削れる鈍い音だけが、この広い体育館に響く。


何も変わらない。

以前と全く変わらない。


ただ、私の気持ちが違うだけ。

⏰:09/03/08 16:48 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#395 [七瀬]
この空気のおかげで、話すこともなく作業もスムーズに進んだ。


“すること”があるのが今の私にはありがたかった。



「俺、用事があるから、先に帰るな。」

『じゃあ、私も帰るよ。』

時計は6時をさしている。

この体育館で歩志としゃべったのは、これだけだった。

⏰:09/03/08 16:54 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#396 [七瀬]
 
 
駅まで歩く。

ふぅ。
何もなくて良かったあ。



チカチカチカ…。

あっ、やば!!
信号が赤に変わっちゃう。


全力疾走。

……が間に合わず。

最悪。

⏰:09/03/08 23:43 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#397 [七瀬]
仕方なく、待つ。


この信号、なかなか変わらないんだよなあ〜。



コツコツコツコツ…。

後ろから聞こえてくる靴音。


元々、人気のないところ。


振り返る。

⏰:09/03/08 23:47 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#398 [七瀬]
すると、小さく林原が見えた。

私には気付いていない感じ。


うそ〜!
信号、早く変わってよ!!

そんな私の思いを、
あざ笑うかのように、信号が変わる気配すらしない。


コツコツコツコツ…。

だんだん大きくなる靴音。

覚悟を決めた。

⏰:09/03/08 23:50 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#399 [七瀬]
「松田。」

昨日、“柚子”と呼んだ声が私の中を響く。


今にも顔が赤くなりそう。


『林原、久しぶりだねっ!』

「いや、昨日会ったし。」


しまった!
緊張して、変なこと言っちゃった。

⏰:09/03/08 23:54 📱:N703iD 🆔:PY5xI9.2


#400 [七瀬]
 
 
でも、いつもの林原と話したのは私にとっては久しぶり。

だから“久しぶりだねっ”は全く変ではないよ?



「どうした、松田。」

林原の声で我に帰る。


『う、ううん。
でも、話すのは久しぶりじゃん。』

⏰:09/03/09 00:12 📱:N703iD 🆔:W7rSt6Q.


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