こいごころ
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#91 [向日葵]
そういえば、そそくさと皆自分の場所に戻った。
「やっと次、先輩ですよ」
やっと口を開いた宗助は、それだけ言った。
彼だけは、さっきの騒ぎに入ってこなかった。
ああそうですか。
仮彼女はなんて言おうと仮だから、どうでもいいんですか。
なによなによなによっ!
宗助のばーっか!
―――――――…………
先輩は、ベスト8決めの試合で負けてしまった。
:09/05/02 22:22
:SO906i
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#92 [向日葵]
延長まで持ち込んだが、面を打ち込んだ時、胴を抜かれた。
それでも、先輩のそれまで、いや、この3年間の剣道は立派だと、誰もが拍手をおくった。
応援側にいる先輩では、涙するものもいた。
茉里も、少し涙ぐんだ。
宗助を見れば、やっぱり複雑な顔をしていた。
先輩に賛辞をおくりたい。
でもそうすれば、先輩が引退するという現実がすぐそこに迫ってくる気がするから、喜んでいいのか悪いのか……。
でも、気持ちは分かるかもしれない。
もし、立場が逆ならば……。
:09/05/02 22:23
:SO906i
:☆☆☆
#93 [向日葵]
―――――――――…………
男子の先輩は、1回戦で負けてしまった。
下の階に行って、試合に出た人を迎える。
「お疲れ様でしたっ!」
「お疲れ麻衣ーっ」
「なに泣いてんのよ」
千早先輩は笑う。
男子は男子で、「あれは入っていた」とか、「あの相手はやりにくい」とか、さっきの試合を分析している。
「先生どこだろう?」
後輩が言う。
:09/05/02 22:23
:SO906i
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#94 [向日葵]
「バスの前に集まってくれればいいって。だからとりあえず着替えてくるよ」
千早先輩は回れ右をする。
「一緒にいこうか?」
千早先輩は笑って「いいよ」と足早に行ってしまった。
負けてしまったのに、清々しいほっ、あっさりしているなと茉里は思った。
きっと割りきるのが早いのだろう。
皆が帰る準備にと、また上の階へと向かう。
スロープを上がろうとした時、宗助がまださっきの場所で立ち止まっていた。
:09/05/02 22:23
:SO906i
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#95 [向日葵]
「宗助ー」
呼んでも返事をしない。
もう1回呼ぼうと口を開きかけた時、宗助はスロープと逆の方へ行ってしまった。
困った茉里は、皆の方と宗助とを交互に見るが、悩んだ末に宗助を呼びに行く事にした。
宗助は段々と人が少ない方に行く。
一体どこにいくの?
曲がったところは、あまり使われていない自販機の前。
休憩場みたいに、長椅子が置かれている。
そこには、千早先輩が座っていあ。
宗助が、そばへ行く。
茉里は、なんとなく隠れた。
:09/05/02 22:24
:SO906i
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#96 [向日葵]
「隠れて泣かなくてもいいじゃないですか」
「もう……追いかけてこないでよー……」
宗助は先輩の隣に座る。
「悔しい……。もっと練習しとけばよかった……」
先輩は割りきってなんていなかった。
さっきみたいに、皆が泣いてくれるから、我慢していたのだ。
最後まで、しっかりとしたキャプテンでいる為に。
「十分してましたよ。俺は知ってます……」
「アンタ……いっつもそういうね」
:09/05/02 22:25
:SO906i
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#97 [向日葵]
いつも、言ってるんだ。
宗助は知ってたんだ。
そうやって、完璧なキャプテンでいる為に頑張ってきた千早先輩を。
ううん、違う。
そんな千早先輩を見て、好きになったんだ。
「ねえ、頭撫でて……」
「はいはい……」
宗助は、先輩の汗に少し濡れた頭を優しく撫でる。
その手つきは、この前、変質者に襲われた時に撫でてくれた手とは違った。
明らかに、茉里の時には足りなかった何かが、そこにはあった。
息苦しい……。見るんじゃなかった。
茉里は静かにその場をあとにした。
:09/05/02 22:25
:SO906i
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#98 [向日葵]
―――――――――…………
先生の話も終わり、茉里たちはバスに乗り込む。
茉里はバスの下の荷物置きに皆の防具やらをつんでいく。
「手伝おうか?」
振り向けば、宗助がいた
嫌な気分を、胸の中を覆いつくす。
感情のない笑みが、茉里の顔に作られる。
「いつもやってるからいいよ。先に乗れば?」
「いつもやってるから大変だろ?たまには俺がやるよ」
先に乗って、先輩の近くの席に陣取ればいいじゃない。
:09/05/07 23:57
:SO906i
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#99 [向日葵]
茉里の心に、宗助のさりげない優しさが入る隙間はなかった。
あるのは嫉妬、独占欲、そしてそれと戦う理性。
「今更……。また今度にして」
「暑いし、加賀はもうバスに入れよ」
そう言って腕を引っ張られる。
やめてよ。
さっきはあんなに優しい手つきだったくせに。
私のこと、乱暴に扱わないでよ。
触らないでよ……っ!
:09/05/07 23:57
:SO906i
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#100 [向日葵]
気づいたときには、宗助の手を思いきりはたいていた。
宗助は驚く。
「……加賀?」
「本当に……いいから……」
それからは、宗助は何も言わなかったし、茉里も黙々と作業していた。
作業が終わったときには、もう宗助の姿はなかった。
自分から突き放したくせに、茉里の胸に鋭い痛みが走る。
でもこれでいい。
むしろ宗助があそこで引き下がってくれて良かった。
:09/05/07 23:57
:SO906i
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