こいごころ
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#286 [向日葵]
するともう宗助がいた。
「宗助、お待たせー!」
少し離れたところから声をかける。が、宗助に聞こえてないのか、反応がない。
近くに来ても、まだ反応がない。
「宗助?」
宗助の目の前で手を降りながら呼びかけると、ようやく気づいた。
「どうしたの?」
「あ、いや……別に」
「寒かった?」
宗助の頬に手を当てる。
冷たかった。
:09/07/22 02:18
:SO906i
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#287 [向日葵]
そんなに待たせてしまったのだろうか。
考えていると、宗助はその手をやんわりとのけて、歩き出した。
どうも様子がおかしい。
後をついて行く。
なんとなく喋れなくて、茉里も黙ったまま歩く。
さっきまで雪が降っていたので、道には雪が積もっている。
歩けば、雪独特のシンとした静寂と、さくさく雪を踏む音だけが聞こえた。
「そ、宗助っ……!」
あまりに沈黙が長く、耐えられなくなった茉里は、口を開いた。
:09/07/22 02:18
:SO906i
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#288 [向日葵]
宗助はこちらを向かず、ぴたりと止まった。
「手、寒いんだけど……な……」
いつもの台詞。
こう言えば、しょうがないなって顔をしながらも、宗助はちゃんと手を繋いでくれる。
しかし、今日は違った。
宗助は、やっぱり黙ったままだ。
「そ、そうす……」
「分からない」
茉里の言葉を遮るように、宗助は口を開いた。
宗助はゆっくりと茉里の方に体を向ける。
:09/07/22 02:18
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#289 [向日葵]
街灯に照らされた宗助の顔は、悲しさと苦しさが混じった、複雑な表情をしていた。
「俺は、先輩が好きだと思ってた。はっきり言って、アンタなんか、絶対好きになんかならないって……思ってた」
なんの話?
そう思っても、茉里は口を挟まず、静かに聞いていた。
「でも……最近は違う。アンタの事、考えることの方が、多くなってきた……」
これは、告白?
そう思うが、なんだか違うと思った。
告白は、こんなに緊迫したムードはない。
:09/07/22 02:19
:SO906i
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#290 [向日葵]
いや、あるのだけれど、何かが違う。
「正直好きなのかもしれない」
それを聞いて、茉里は息を止める。
宗助が……私を?
しかし、喜ぶのはまだ早かった。
「でも俺は、そんな俺が許せない」
え……。
「先輩の事、その程度だったのか?いや違う、でも……って、何度も自問自答する。俺は、自分の気持ちをうまく整理出来ないん。きっと俺は、アンタが満足するような答えなんて、出せないんだ……っ!先輩を諦めるなんて、絶対無理なんだ……っ!」
:09/07/22 02:19
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#291 [向日葵]
宗助は泣くのではないかと思うくらいの、しぼり出した声で、そう告げた。
そして茉里は気づいてしまった。
こんなに、宗助を苦しめているのは、自分だと。
自分が無理矢理「仮彼女にしろ」だなんて言ってしまったから、宗助は、ずっとずっと、苦しんでいたんだ。
それに気づかず、何が彼女に昇格……だ。
「アンタを、もう傷つけたくない……。気持ちに、嘘つけないんだ……っ」
宗助は嘘なんてついた事ない。
:09/07/22 02:19
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#292 [向日葵]
ずっと、一途に、先輩だけを見ていた。
むしろ嘘をついていたのは自分だ。
一途は悪い事じゃない。
そう言っておきながら、先輩に一途である宗助をずっと許せなかった。
好いてもらいたくて、綺麗事を並べた。
仮彼女制度は、ただ単に諦めるように仕向けたものだったと、今気づいた。
「……今日、先輩と、なんの話してたの?」
静かな問いかけに、宗助はハッとした。
:09/07/22 02:20
:SO906i
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#293 [向日葵]
茉里は声音と同じくらい、静かな表情で宗助を見ていたが、不思議と、視線は温かかった。
「彼氏と別れたから、ちょっとそばで泣かせてくれって……。今も、多分1人で泣いてる」
それで、茉里が来た時、気づかなかったのだ。
先輩を、気にして。
「戻ってきなよ」
その言葉に、宗助は驚く。
また雪が降ってきた。
茉里はマフラーを巻き直し、手を繋ぐ為に隠していた手袋を出す。
「仮彼女は、もういいからさ。解除。これで宗助は、私に縛られる事はないよ」
:09/07/22 02:20
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#294 [向日葵]
さらりとした言い方に、宗助は戸惑う。
「でも、今日は一緒に」
「だめ!先輩を慰めるのは、宗助の仕事でしょ!」
腰に手を当て、宗助を見上げる。
それでもまだ、宗助が迷っているので、茉里はフッと笑う。
「あのね、失恋ごときで落ち込まないから。何回もフラれた経験はあるの。自慢じゃないけどね」
茉里は宗助の横を通りすぎて、駅へと歩き出す。
「じゃ、まった明日ー!」
前を向いて歩いたまま、宗助に手をふる。
:09/07/22 02:21
:SO906i
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#295 [向日葵]
自分の足音とは別の足音が、だんだんと遠くなる。
少しして振り向けば、宗助が来た道を引き返していた。
その背中を見ていた茉里の目から、一筋の涙が流れる。
「……ありがとう」
重いから別れてくれと言われ続けてきた自分に、重いと1度も言わず、重いという理由で自分を選ばなかったわけじゃなかった宗助。
そんな人、初めてだったよ。
本当に茉里自身を見てくれた。
今、流れる涙が、悲しい涙じゃなく、嬉しい涙だと言い聞かす。
だって、宗助は悪くないもの。
:09/07/22 02:21
:SO906i
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