こいごころ
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#346 [向日葵]
口を動かす茉里だが、その動きはひどく遅く、声が聞こえる速さと合わなかった。

――なぜ放っておいてくれないの?

それは……。

自分でもわからない。
その華奢な肩を、どうしても抱きしめてあげなければ、守ってあげなければって。

心の深いところで、叫んでいる。

――残酷だね。

茉里の目から一筋、涙が伝う。

――先輩がいるからって言ったの、宗助でしょ?

言った。そして
茉里を深く傷つける結果になった。

⏰:09/09/23 16:44 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#347 [向日葵]
わかっていた。
ああ言えば、心の傷を封印して、笑顔で何もないように振る舞うだろう彼女のことを。

先輩の所へ行く足を止めて振り返れば、小さくなっていく茉里の背中が、とても痛々しかった。

――都合がいい奴が去るのは、そんなに名残惜しい?

そんなこと、思ったことはない。
自分の背中を、茉里が傷ついてでも押してくれて、そんな自分をずっと好きでいてくれた。

優しい細い腕に、いつも励まされた。
子供みたいに笑う茉里に、気づかないところで癒されていた。

⏰:09/09/23 16:44 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#348 [向日葵]
調子を狂わされていても、一緒にいれば楽しかった。

そんな彼女の弱さを、守ってやりたいと思った。

――それでも、先輩がいれば、先輩を優先させるでしょ?

それは……。

――結局そういうことだよ。

そういうこと?

――先輩がこちらに向かない虚しい気持ちを、私で補ってたんでしょ?

「違う!」

――利用したんでしょ?

「そんなこと、1度もしたことない!」

⏰:09/09/23 16:45 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#349 [向日葵]
――それはさぞかし罪悪感がいっぱいでしょうね。

「違う!アンタが言ってることは何もかも違う!」

容赦ない茉里の言葉を、宗助は全否定した。

違う、そんなんじゃない。
利用したなんて、そんなことない。
先輩の代わりだなんて、考えたことはない。

ずっと、茉里自身を見ていた。

――そこまでいうなら、なにか示して。

なにか?

――そろそろ、フラフラした考えに決着をつけて。

その言葉を聞いた途端、意識が急に現実に戻されたのがわかった。

⏰:09/09/23 16:45 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#350 [向日葵]
吐き出す息が、少し震えている。

どうして泣いているんだ?

目を瞑っているのに、誰が泣いているかがわかった。

俺が悪いのか?
だったら謝るから、泣かないでくれ。
アンタに泣かれたら、俺どうしていいかわからなくなるんだ。

おかしな話だよな。
先輩には、すぐに頭でもなんでも触れられたのに、どうしてアンタは、壊れそうだからって、触れることすら出来ないんだろう。

ゆっくり目を開ける。

⏰:09/09/30 02:40 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#351 [向日葵]
どこかに横たわっているのがわかる。

首を動かせば、茉里が口をきゅっと閉めて、嗚咽が漏れないように泣いていた。

その姿が、胸を締め付ける。

少し見入っていると、茉里がこちらに気づいた。

「あ、アンタ……、なんで泣いて」

痛い。
頭が痛かった。

そういえば、自分は確か試合中で、相手に押され、宙に浮いたと思えば、もうそこから記憶がない。

⏰:09/09/30 02:40 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#352 [向日葵]
どうしたものかと、ゆっくり起き上がろうとすれば、茉里がその場から逃げようとした。

痛いのも忘れてしまうくらい早く起き上がって、その腕を掴む。

「待て!」

しっかり起き上がりきると、また痛みが頭を突き抜ける。

それでも逃げようとする茉里の腕を強く握ると、何かが落ちる音がした。

何かと見れば、それは袋で、中に見た事があるものかだあった。

もっともそれは、元は長いものだったはずなのだが、どうやら彼女が短く切ってしまったらしい。

⏰:09/09/30 02:40 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#353 [向日葵]
「これ……」

「違う!宗助のじゃないっ!」

そんな赤い顔で言われれば、宗助の物だと言ってるようなものである。

話そう。

今の気持ちを、聞いてもらいたい。

傷つけたかったわけじゃない。
利用してもいいと言われたが、利用した事なんてない。

信じてくれ、それだけは。

「話、させてくれるな」

まっすぐ見つめれば、赤い顔をしたまま茉里は固まる。

しかし、その顔は怯えている。

⏰:09/09/30 02:41 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#354 [向日葵]
わからない。
自分の何が彼女を怯えさせているのだろうか。
せめてもと、宗助は握っていた手の力を緩めた。

「どうして、泣いてんの……?」

とりあえず、手始めにその事を訊いてみる。

茉里の顔は更に赤くなる。
下唇を噛み、答えたくなさそうにしている。

「……関係。どこで泣こうが、私の勝手でしょ」

「勝手だけど、俺の事が関係ないなら喋れるでしょ?」

「どうして……。私の事なんてどうでもいいでしょ」

⏰:09/09/30 02:41 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#355 [向日葵]
カッとなって、宗助は茉里の腕を引いた。
あっけなく、茉里は宗助がいるベッドの上、いや、膝の上に座ってしまうこととなった。

思いがけず、2人の顔が近づく。その距離に驚く間もなく、宗助が口を開いた。

「利用したとか、どうでもいいとか……もう聞き飽きた……。確かに、アンタには最低な事をした。自分でも、そんな事わかってる」

あの時のように、苦しげな声。

無意識のうちに、宗助を傷つけたのは、また私なの?

⏰:09/09/30 02:42 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


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