こいごころ
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#346 [向日葵]
口を動かす茉里だが、その動きはひどく遅く、声が聞こえる速さと合わなかった。
――なぜ放っておいてくれないの?
それは……。
自分でもわからない。
その華奢な肩を、どうしても抱きしめてあげなければ、守ってあげなければって。
心の深いところで、叫んでいる。
――残酷だね。
茉里の目から一筋、涙が伝う。
――先輩がいるからって言ったの、宗助でしょ?
言った。そして
茉里を深く傷つける結果になった。
:09/09/23 16:44
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#347 [向日葵]
わかっていた。
ああ言えば、心の傷を封印して、笑顔で何もないように振る舞うだろう彼女のことを。
先輩の所へ行く足を止めて振り返れば、小さくなっていく茉里の背中が、とても痛々しかった。
――都合がいい奴が去るのは、そんなに名残惜しい?
そんなこと、思ったことはない。
自分の背中を、茉里が傷ついてでも押してくれて、そんな自分をずっと好きでいてくれた。
優しい細い腕に、いつも励まされた。
子供みたいに笑う茉里に、気づかないところで癒されていた。
:09/09/23 16:44
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#348 [向日葵]
調子を狂わされていても、一緒にいれば楽しかった。
そんな彼女の弱さを、守ってやりたいと思った。
――それでも、先輩がいれば、先輩を優先させるでしょ?
それは……。
――結局そういうことだよ。
そういうこと?
――先輩がこちらに向かない虚しい気持ちを、私で補ってたんでしょ?
「違う!」
――利用したんでしょ?
「そんなこと、1度もしたことない!」
:09/09/23 16:45
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#349 [向日葵]
――それはさぞかし罪悪感がいっぱいでしょうね。
「違う!アンタが言ってることは何もかも違う!」
容赦ない茉里の言葉を、宗助は全否定した。
違う、そんなんじゃない。
利用したなんて、そんなことない。
先輩の代わりだなんて、考えたことはない。
ずっと、茉里自身を見ていた。
――そこまでいうなら、なにか示して。
なにか?
――そろそろ、フラフラした考えに決着をつけて。
その言葉を聞いた途端、意識が急に現実に戻されたのがわかった。
:09/09/23 16:45
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#350 [向日葵]
吐き出す息が、少し震えている。
どうして泣いているんだ?
目を瞑っているのに、誰が泣いているかがわかった。
俺が悪いのか?
だったら謝るから、泣かないでくれ。
アンタに泣かれたら、俺どうしていいかわからなくなるんだ。
おかしな話だよな。
先輩には、すぐに頭でもなんでも触れられたのに、どうしてアンタは、壊れそうだからって、触れることすら出来ないんだろう。
ゆっくり目を開ける。
:09/09/30 02:40
:SH05A3
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#351 [向日葵]
どこかに横たわっているのがわかる。
首を動かせば、茉里が口をきゅっと閉めて、嗚咽が漏れないように泣いていた。
その姿が、胸を締め付ける。
少し見入っていると、茉里がこちらに気づいた。
「あ、アンタ……、なんで泣いて」
痛い。
頭が痛かった。
そういえば、自分は確か試合中で、相手に押され、宙に浮いたと思えば、もうそこから記憶がない。
:09/09/30 02:40
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#352 [向日葵]
どうしたものかと、ゆっくり起き上がろうとすれば、茉里がその場から逃げようとした。
痛いのも忘れてしまうくらい早く起き上がって、その腕を掴む。
「待て!」
しっかり起き上がりきると、また痛みが頭を突き抜ける。
それでも逃げようとする茉里の腕を強く握ると、何かが落ちる音がした。
何かと見れば、それは袋で、中に見た事があるものかだあった。
もっともそれは、元は長いものだったはずなのだが、どうやら彼女が短く切ってしまったらしい。
:09/09/30 02:40
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#353 [向日葵]
「これ……」
「違う!宗助のじゃないっ!」
そんな赤い顔で言われれば、宗助の物だと言ってるようなものである。
話そう。
今の気持ちを、聞いてもらいたい。
傷つけたかったわけじゃない。
利用してもいいと言われたが、利用した事なんてない。
信じてくれ、それだけは。
「話、させてくれるな」
まっすぐ見つめれば、赤い顔をしたまま茉里は固まる。
しかし、その顔は怯えている。
:09/09/30 02:41
:SH05A3
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#354 [向日葵]
わからない。
自分の何が彼女を怯えさせているのだろうか。
せめてもと、宗助は握っていた手の力を緩めた。
「どうして、泣いてんの……?」
とりあえず、手始めにその事を訊いてみる。
茉里の顔は更に赤くなる。
下唇を噛み、答えたくなさそうにしている。
「……関係。どこで泣こうが、私の勝手でしょ」
「勝手だけど、俺の事が関係ないなら喋れるでしょ?」
「どうして……。私の事なんてどうでもいいでしょ」
:09/09/30 02:41
:SH05A3
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#355 [向日葵]
カッとなって、宗助は茉里の腕を引いた。
あっけなく、茉里は宗助がいるベッドの上、いや、膝の上に座ってしまうこととなった。
思いがけず、2人の顔が近づく。その距離に驚く間もなく、宗助が口を開いた。
「利用したとか、どうでもいいとか……もう聞き飽きた……。確かに、アンタには最低な事をした。自分でも、そんな事わかってる」
あの時のように、苦しげな声。
無意識のうちに、宗助を傷つけたのは、また私なの?
:09/09/30 02:42
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