こいごころ
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#613 [向日葵]
茉里は両手でドンッと父の胸を押す。

「お、おい茉里」

さすがに言いすぎじゃないかと、宗助は茉里をとめる。
父はそこで初めて、まだ宗助がいたことに気づいた。

「君は……」

宗助は父とは初対面だ。
初めて見る父は、茉里が話していたほど悪い人だとは思えなかった。

「初めまして、笹部宗助と申します。茉里さんと、お付き合いさせて頂いてます」

「ああ……」と、納得したような返事をした。

⏰:11/01/30 00:55 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#614 [向日葵]
「馨……っと失礼、妻から聞いてるよ。そうか、君が、茉里の……。宗助くんと呼んでも?」

「気安く宗助の名前呼ばないで」

「茉里。はい、構いません」

茉里はずっと父を睨んでいる。
父は苦笑を浮かべながらため息をつき、後部座席のドアを開けた。

「立ち話もなんだから、宗助くんも一緒に乗っていかないか?帰りながらゆっくり話そう」

戸惑う宗助は、茉里を見る。
茉里は宗助の手を掴んで、駅のほうへと歩いていこうとする。

⏰:11/01/30 00:55 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#615 [向日葵]
しかし宗助は、もし茉里の父が今真面目になったんだとすれば、娘と深くなった溝を埋めたいと思っているのではと思った。

溝なんか簡単に埋まるものではない。

それでも、柔和な笑みを浮かべながら、その裏では大きな後悔の念があると感じてしまったら、茉里の手に導かれるわけにはいかなかった。

「俺も一緒なら、茉里も乗る?」

優しくなだめるように茉里に話しかける。
茉里は目を見ようとはしないが、足を止めた。

⏰:11/01/30 00:56 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#616 [向日葵]
茉里は泣きそうな顔で嫌がっていた。
それは父と一緒に帰るのが嫌なのか、嫌いな父の車に宗助が乗るのが嫌なのかはわからないが、宗助が言ってもきいてくれないような気がした。

茉里の闇が大きいのは知ってる。彼女が未だ、その闇に耐え切れず、沈みこむのを知っている。

けれど、いつまでもこの状態がいいわけがない。

どこかで、和解は出来なくても、距離を縮めることは出来るはずだ。

何度、遠くの線路で電車が通過した音をきいただろうか。
茉里がゆっくりと宗助の目をみつめかえす。

⏰:11/02/05 23:50 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#617 [向日葵]
宗助は安心させるように薄く微笑む。

安心……?

その時、宗助は思った。
茉里は、恐がっているのではないかと。

「…………わかった」

ほとんどきこえないくらいだったが、茉里は納得したようだった。
宗助が引っ張るようにして、茉里の父が開けた後部座席へと行く。

茉里は、恐がっているのかもしれない。
茉里は本当はもう、父を許したいと思ってるのではないだろうか。

⏰:11/02/05 23:51 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#618 [向日葵]
憎しみや、嫌悪が消えたわけじゃない。
でも、それでも少し、歩み寄ってみようと思ってるのかもしれない。
ただ、彼女の中に引っかかるのは、“また裏切られてしまったらどうしよう”という思いだ。

バタンとドアが閉まった瞬間、茉里の手にグッと力が入った。
力のせいか、それとも他のことか、少し震えている。

暗い車内に入る光を頼りに茉里を見れば何かと戦っているのか、眉間にしわを寄せて、口を食いしばって目を瞑っていた。

⏰:11/02/05 23:51 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#619 [向日葵]
かける言葉がみつからないから、宗助は手を握りかえした。

―――――――………………

「中学校から剣道を……。段は今はどれくらいかな?」

「まだ2段です。もう少ししたらまた昇段試験があるんで、それを受けようかと」

車内では、他愛のない会話をしていた。
茉里の父はゆったりとした話し方をするので、簡単に気を許してしまいそうになるが、そうするのは躊躇った。
茉里は先程よりは顔に険しさはなくなったが、相変わらず眉間にしわをよせて、過ぎ行く街並みを見つめていた。

⏰:11/02/05 23:51 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#620 [向日葵]
「茉里とは、付き合ってどれくらいに?」

「1ヶ月ほどです。友達からの付き合いを足すと、1年の頃からになります」

「茉里は嫉妬深いだろ。母親似でね」

「……よく言う」

いつもの茉里の声からは考えられないぐらいの低い声がした。
嘲笑のようなものを浮かべて、茉里はまだ街並みを見ている。

この話題はきっとまずい。

「妹がいて、よく遊んでもらってます」

話をさりげなく変えてみる。

⏰:11/02/05 23:52 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#621 [向日葵]
「妹がいるのかー。茉里も妹がほしかったか?」

「いらない。妹も私みたいにしたいの?」

気まずい空気が、車内を包む。
溝を埋めるつもりが、深さはそのままに距離がどんどん出来てるように思う。

「嫌われてるだろう、私は」

ハハハと父は笑う。

平気なんだろうか。

そうですね、なんて言えないので、宗助は苦笑いを浮かべる。

茉里をちらりと見た。
茉里の目に、涙がたまっているのがうっすらとわかる。
きっと、何か思い出したのだろう。

⏰:11/02/05 23:52 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#622 [向日葵]
やっぱり、乗るべきではなかったか?

抱きしめてやりたいけれど、それが出来ないから、指と指が組むようにして、手を繋いだ。

いくら繋いでいても、茉里の手が暖かくならなかった。

ごめん、俺の勝手な思いで……。泣かせるつもりなんてなかった。

ただ茉里が、これまでよりも、もっと晴れ晴れ笑えるようになったらって思ったんだ。

⏰:11/02/05 23:53 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


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