こいごころ
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#623 [向日葵]
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「私は宗助くんを送っていく。茉里は家に入りなさい」
茉里の家まで帰ってきた宗助は、心配そうに茉里をみる。
茉里は無言で宗助と手を繋いだまま外へ出た。
父親が見てる前でも構わない。
後ろ手にドアを閉めた宗助は、すぐに茉里を引っ張り、力いっぱい抱きしめた。
茉里も、宗助の胸に顔を埋める。
しばらくそうしてたが、茉里の方から離れた。
:11/02/12 23:21
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#624 [向日葵]
「大丈夫よ宗助。私も、強くならなきゃ。この前だって、元気もらったし、ねっ」
鼻を赤くして、茉里は微笑む。
そんな彼女がいとおしくて、宗助はまたギュッと抱きしめた。
そしてまた車へ乗り込んだ。
車が発進して後ろを見たら、茉里がまた立っていた。
きっと車が見えなくなるまで見送るのだろう。
宗助は前を向く。
ふとルームミラーを見ると、父と目があった。
柔らかく微笑む父に、宗助は複雑な思いを抱く。
:11/02/12 23:21
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#625 [向日葵]
「お訊き……したいことがあります」
「うん。なんでも言ってくれ」
「茉里さんから、貴方のことを色々ときいたことがあります」
ゆるやかなカーブだが、宗助は油断していたのでよろける。
父は宗助の続きを待っているのか、黙ったままだ。
「浮気…………なさっていたんですか。……本当に」
父は黙ったままだ。
急にハンドルをきられて、また宗助はよろける。
車がしばらくしてとまり、着いたのはどこかのお店だった。
:11/02/12 23:22
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#626 [向日葵]
「少し、お茶でもしていこう」
柔らかなのに、有無を言わせない雰囲気に、宗助は父のあとを着いていくしかなかった。
そこはファミレスではなく、年季がはいった、けれど落ち着いた温かな雰囲気の喫茶店だった。
ドアを開けると、カランコロンとどこか懐かしい音を奏でる。
数人しかいない喫茶店の店主は、白髪頭とふさふさしたひげをつけた、穏やかそうな人だった。
カウンターのそばに、いくつかのポットがあり、湯気がたっている。
:11/02/12 23:23
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#627 [向日葵]
父は店主と知り合いのようだ。
父が軽く挨拶をすると、店主は目元にあるしわを深くして笑いながらゆっくりと頷いた。
宗助もとりあえずぺこりと頭を下げると、父と同じように、店主は笑った。
店の雰囲気や店主のゆったりした動作に思わずまどろみそうになるが、そんな場合じゃないと頭をふる。
宗助は父のあとについていく。
父はまるで決まっていたかのように、奥のテーブルについた。
宗助も正面に座る。
:11/02/12 23:23
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#628 [向日葵]
「さっきコーヒーを頼んだから、もうすぐ来るよ。でもその前にコーヒーは大丈夫かな?」
「平気です」
「なら良かった。ここのはおいしくてね」
お茶を飲みにきたのか?
そんなわけないだろうに。
はぐらかされてるのか?
問い詰めたかったが、さっきの車内とは違いここは公の場。
誰が聞き耳立ててるかわからない状態で、彼女の父親の評判を落とすような発言はしてはいけない。
:11/02/12 23:24
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#629 [向日葵]
宗助はただ黙って、向こうから話し出すのを待った。
店内は静かにクラシックが流れていた。
宗助は少しそれに耳を傾ける。
しばらくすると、コーヒーの匂いが近づいてきた。
どこにでもあるような真っ白なコーヒーカップとソーサーを店主が持ってきた。
どこにでもあるようだが、逆にそれがこの喫茶店のレトロな雰囲気を引き立てていた。
落ち着く。
落ち着きすぎて、思考回路が鈍くなりそうだったが、それを振り払うように、コーヒーに少しのミルクと砂糖をいれた。
:11/02/12 23:24
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#630 [向日葵]
「……その話」
「はい?」
急に話をされて、宗助は少し気の抜けた返事をする。
一口コーヒーを口にした父は、静かにカップをソーサーに戻す。
「浮気云々の話は、やっぱり茉里から?」
「はい……。家族のことをお互いに話している時に」
「そうか……」と言って、父はまたコーヒーを一口すする。
少しの沈黙が2人をつつむ。
宗助は父をじっとみつめる。
:11/02/19 22:32
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#631 [向日葵]
「妻と出会ったのは、大学時代だった」
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当時の茉里の父、裕之(ひろゆき)は、大学内で知らない人はいないほどの、いわゆる王子様のような人だった。
その整った容姿に加え、すらりとのびる手足、細いが触れば男性特有の硬さのある身体。
口説かれれば、ノーという女の子はいなかった。
「裕之、今日はあたしと帰るでしょ?」
「なに言ってんのよ。私に決まってるでしよ!」
:11/02/19 22:33
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#632 [向日葵]
当然かのように、毎日お決まりのパターンで会話がされていた。
裕之も女性好きだったため、そんな女の子たちが自分を取り合っている様を見て、ただ可愛いと思うだけだった。
特定の女性を大切にしないのは、たくさん愛情を受けていたかったからだ。
1人からの愛情なんて、裕之には足りなかった。
たとえその1人が、どんなに大きな愛情をもっていたとしても。
そうやってたくさんの人が、自分を愛そうとすること自体に快感をすら覚えた。
:11/02/19 22:33
:SH05A3
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