こいごころ
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#631 [向日葵]
「妻と出会ったのは、大学時代だった」

――――――――…………

当時の茉里の父、裕之(ひろゆき)は、大学内で知らない人はいないほどの、いわゆる王子様のような人だった。

その整った容姿に加え、すらりとのびる手足、細いが触れば男性特有の硬さのある身体。
口説かれれば、ノーという女の子はいなかった。

「裕之、今日はあたしと帰るでしょ?」

「なに言ってんのよ。私に決まってるでしよ!」

⏰:11/02/19 22:33 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#632 [向日葵]
当然かのように、毎日お決まりのパターンで会話がされていた。
裕之も女性好きだったため、そんな女の子たちが自分を取り合っている様を見て、ただ可愛いと思うだけだった。

特定の女性を大切にしないのは、たくさん愛情を受けていたかったからだ。
1人からの愛情なんて、裕之には足りなかった。

たとえその1人が、どんなに大きな愛情をもっていたとしても。

そうやってたくさんの人が、自分を愛そうとすること自体に快感をすら覚えた。

⏰:11/02/19 22:33 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#633 [向日葵]
――――――…………

食堂に行けば、そこにいる女の子がほぼ裕之の元へと集まる。
それは、食堂で注文する人だかりよりも遥かに多い数だ。

「裕之、ひとくちちょーだいっ」

「いいよ」

「ずるいーっ!あたしもー」

鼻にかかったような声を出す女の子たちを、けむたがる人もいれば、裕之を羨ましく思う人もいた。

食事を終えて、さすがにこれ以上迷惑をかけてはいけないと思った裕之は、女の子たちに各自教室へ帰るように言った。

⏰:11/02/19 22:33 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#634 [向日葵]
「えー!」と大合唱の後、1人2人と渋々散らばっていき、食堂を後にした。
だが、まだみんな完璧には帰っていないのを知っている。

このままでは更なる迷惑がかかりそうなので、裕之は席を立った。
皿を水道管のようなところから複数細く出てる水で軽く洗う。

その時、ふわりと甘い香りがした。
香りにまるで導かれるように視線を向けると、そこにいたのは女性だった。

空気をはらんだような髪の毛はまっすぐだが毛先が少し内巻きだ。細く、指通りがゃさそうで、光の具合で茶色い髪がさらに茶色く見える。

⏰:11/02/19 22:34 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#635 [向日葵]
まつげが長くて、顔に影がおちている。
控えめについてるかのような唇は、少しだけ微笑んでるようにも見える。

女性はふとこちらを向いた。
それもそのはず。
裕之が、その女性の髪に触れていたから。
裕之もそんな自分の行動を、女性と目があった時に気づいた。

「どうか、されました?」

静かな柔らかい口調が耳にやさしい。
急に髪に触られたというのに女性は怒りもせず、小首を傾げて、やっぱり口は微笑みの形をしていた。

⏰:11/02/19 22:34 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#636 [向日葵]
「いや、なんだか甘い香りがしたもので」

「ああ……。お菓子をよく作りますから、それでかしら……?」

女の子たちの視線を感じながらも、裕之は何故だかその人から目が離せなかった。

今までも、誰かに特別な感情を抱いたことはない。
好き勝手に遊んでいたし、たくさんの女の子たちと知り合うのは楽しかった。

でも、この人だけ、なにが違う?

「あなたはたしか……、加賀さんでしたね。1つ学年が上の、有名人さん」

「いや、そんな……」

「初めて見ました。いつも女の子に囲まれて、本人は見たことがありませんでしたから」

⏰:11/02/19 22:35 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#637 [向日葵]
ふと腕時計を見た女性は、全ての食器を片付け終えると、体ごと裕之の方を向いて、軽く一礼する。

「では、私は用事がありますのでこれで」

「あ、待って!せめて名前を……」

「あれだけたくさんの女の子と一緒にいるんですし、私の名前を名乗ったところで、あなたは忘れてしまうと思いますよ。それでは」

涼やかな声と笑顔で、拒絶された。

ナンパなら他でやれと。

⏰:11/03/06 03:10 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#638 [向日葵]
彼女が言うことを否定は出来ない。
それに何人もいる女の子たちの中で、彼女を特別扱いする気もない。

けれど、今もまだ、甘い香りが自分を包む。

―――――――…………

「やあ」

何日かしたある日。
裕之はまた甘い香りのする女性をみつけた。
女性は丁度木陰になっているベンチで本を読んでいた。

⏰:11/03/06 03:10 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#639 [向日葵]
「あら、あなたは……」

「加賀裕之。文学部の2年。そっちは?」

「同じく、文学部の1年です」

「じゃなくて……」

名前を訊きたかったのに、おもいきり省かれた。
これ以上問い詰めても、きっと前みたいにかわされるだろうから、裕之は諦めて女性の隣に座った。

「何読んでるの?」

「志賀直哉の作品集です」

渋い……。

⏰:11/03/06 03:10 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#640 [向日葵]
「今渋いって思いました?」

「いや、難しい本読んでるんだなーって」

頷きそうなところを、なんとかこらえて別の言葉を出した。

しかし、女性は裕之の考えなどわかっているように、少し困ったように微笑んだ。

再び女性が本に目を落とすと、ふわりと暖かな風がふいた。
それにより、また甘い香りがただよってくる。

気づいたら、裕之は本にそえてあった女性の手を握っていた。
驚いた女性は、たれ目がちの目をかるく見開いて、裕之をみつめる。

⏰:11/03/06 03:11 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


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