こいごころ
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#641 [向日葵]
一体なんなんだこれは……。
裕之も困っていた。
これじゃまるで、自分が彼女のことを好きみたいではないか。
好きなのか?
好きじゃないと言えば嘘になる。今日会うまで、気づかないうちに彼女を探していた自分を知っている。
でも自分は、1人だけを選ぶなんてことはしない。
そう思っているのに、だんだんとその小さな唇に吸い込まれていく。
:11/03/06 03:11
:SH05A3
:☆☆☆
#642 [向日葵]
もう触れるだろうという瞬間。
ぱしりと音がして、頬にかるい痛みがはしる。
「やめて……。私をみんなと同じようにしないで……っ!」
怒った目が涙の膜で輝いて、奇麗に見えた。
そしてその目は怒っているのに、どこか悲しそうだった。
「あなたは女の子なら誰でもいいかもしれないけれど、私は違う。誰もかれもが、あなたを好きになるだなんて思わないでください」
そんなこと思っていないと言いたかった。
:11/03/06 03:12
:SH05A3
:☆☆☆
#643 [向日葵]
でも、今の自分はそんなこと言えるような奴じゃない。
毎日女の子たちにかこまれていれば、説得力がない。
「あ、いたいた!馨!」
はっとしたように、女性は顔をあげる。
遠くのほうで、誰かが「馨」と呼ばれるその女性を手招きする。
「馨ちゃんっていうんだ」
「……気安く呼ばないで。呼ぶなら名字にしてください。」
「じゃあ名字は?」
「魚住です。では……」
:11/03/06 03:12
:SH05A3
:☆☆☆
#644 [向日葵]
急ぐように本をパタンとしめて、馨は立ち去る。
しかし数メートルでピタリと止まると、肩にかけた鞄からごそごそと包まれた小さな何かを出す。
彼女の手にのっていたのは、一口サイズのカップケーキだった。
「自分で食べようと思いましたが、あげます。叩いてしまったお詫びです。でももう2度、あんなことしないでください」
また一礼して、今度はもう振り向かず行ってしまった。
もらったカップケーキを裕之は見つめる。
小さく可愛く主張しているようにも見えるそれは、彼女の分身のような気がして、知らず知らずのうちに口を笑みの形にした。
:11/03/06 03:12
:SH05A3
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#645 [向日葵]
なんて自分らしくない感情だ。
こんなにも彼女がいとおしい……。
魚住馨。
その名前は、裕之にとって特別なものとなった。
ーーーーーーーーー…………
大学にある図書館は、馨にとって一番安らぐ場所。
本のにおいと、建物自体のにおい。遠くに聞こえる生徒の声は、なんだかくすぐったくも感じる。
なにより、次なにを読もうか悩みながら本を選んでいる時が一番幸せな時間。
:11/03/19 21:57
:SH05A3
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#646 [向日葵]
本は自分を読んでくれと言っているかのように、窓からさしこむ光で背表紙を光らせる。
心乱れることない、安らぎのとき……。
しかしその安らぎは、ある人の声によって遮られた。
「魚住さん」
ぴくりと肩を震わせて、声のほうへゆっくりと振り向く。
何回会っても、その笑顔は崩れない。
たまに能面でもつけてるのではと感じる。
最近なぜだか、この男が馨につきまとう。
:11/03/19 21:58
:SH05A3
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#647 [向日葵]
悪い人ではないのだろうが、いまいち信用ならないこの男を、馨は警戒している。
「加賀さん……。あなたも図書館に用事ですか?」
「うん。探してるものがあると思ったから」
「加賀さんも本を読まれるんですね」
「うん。君の思い出を綴った本があれば、ぼくの探してるものはみつかったも同然だよ」
馨は呆れたようにため息を吐く。
どうしてこの人は私につきまとうのだろう。
からかいなら他でやってほしい。
:11/03/19 21:58
:SH05A3
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#648 [向日葵]
「私の思い出なんて、綴ったところでベストセラーになんてならないと思いますが」
口説き文句をさらりとかわす。
いつもなら、彼は困ったように口を閉じるのに、今日はなぜかそうしなかった。
「じゃあ僕がベストセラーになるように大量に買うよ」
「お金の無駄だと思いますよ」
「君に貢ぐならお金も惜しまないよ」
「浪費家は嫌いです」
「ならやめよう」
:11/03/19 21:59
:SH05A3
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#649 [向日葵]
付き合ってられない。
逃げようとさりげなく足を動かすと、逃げるほうにある本をとるフリをして、裕之は通せんぼした。
ああ…………、迷惑っ!!
くるりと踵をかえすと、今度はこちらに手をのばしてきた。
もうそれは、フリなんかではなく、明らかに馨を通せないようにするものだった。
苛立って、馨は目をつりあげると、裕之のほうへ背筋をのばして毅然と体をむけた。
:11/03/19 21:59
:SH05A3
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#650 [向日葵]
「意地悪しないでください。私を怒らせたいんですか?」
「怒らせたくはないけど、いい加減僕から逃げるのをやめてもらえないかな?」
「前にも言ったはずです。みんなと同じように扱われることを私は望んでいません。遊びたいのなら他でどうぞ」
「違うといったら?」
つりあげていた目が、少し下がる。
違う?
思わずきょとんとした表情になってしまう。
「僕は君に一目惚れしたみたいなんだ。君がいないか、毎日どうしても探してしまう。君から香る甘い香を探してしまう」
:11/03/19 22:00
:SH05A3
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