こいごころ
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#688 [向日葵]
許しを請う言葉は、最早、言い訳にしかきこえなくて、裕之は吐き気がした。

殴りたい。
殴れるなら、もう顔がわからないくらい、自分の顔を殴りたい。

そして、3年の月日が過ぎた。
あの甘美な呪縛に甘えて、疲れた体を、花形で癒していた裕之は、もう、いい加減関係を切らなければと、久々に早く帰りながら考えていた。

早いといっても、もう11時だったが。

「ただいま」

玄関をあけて、そう言っても、馨がこなかった。
いつもなら、たとえ手が泡だらけだろうと、ふんわり笑って「おかえりなさい」というのに。

⏰:11/04/23 20:30 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#689 [向日葵]
リビングにはまだ光があった。

「馨……?」

リビングのテーブルに、疲れたような背中があった。

馨は声をかけられると、ゆっくり立ち上がり、同じ動作で裕之を見つめた。
その目が、恐ろしいほど澄んでいて、裕之は息を呑む。

「花形さん」

出てきた言葉は、「おかえりなさい」でも「お疲れ様」でもなかった。

「って方から、今日、電話があったわ」

⏰:11/04/23 20:31 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#690 [向日葵]
裕之はもう終わりだと思った。
すべてバレた。

「あなたと別れてほしいんですって」

「…………すまない」

なんとか出た言葉が、そんな陳腐な言葉で、裕之は逃げ出したくなった。

暴れまわるくらい、怒られた方がまだマシだ。
馨はどこまでも静かで、冬の夜みたいに、しん……と冷たい。

「どれくらい付き合ってるの?」

「3年……」

終わった。
なにもかも、失った。

⏰:11/04/23 20:31 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#691 [向日葵]
「疲れたあなたに気づいてあげられないのなら、私が彼を癒します、って言われたわ」

裕之は、馨を見れなかった。
顔を伏せ、目をギュッととじる。

「あなたをそうさせたのは、わたしなのね……」

違う。

「別れたい?」

「そんなわけ……っ!!」

そんなわけないと言うため、顔を勢いよくあげる。
裕之は馨をみて、むしろもう別れたくなった。

⏰:11/04/23 20:32 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#692 [向日葵]
それでも馨は、裕之を責める気にはなれなかった。
いや、責めたかったのかもしれない。

でも、誰が正しいとか正しくないとか、悪いとか悪くないとか、考えだしたらキリがなくて、もう馨も自分がどうしたいのかわからなくなっていた。

でも裕之が、自分を心の底から愛してくれているのはわかっている。

しかし、3年間も自分しか知らない裕之を、他の誰かが見たのかと思えば、胸が痛むのは仕方がなかった。

⏰:11/04/23 20:33 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#693 [向日葵]
涙流すくらいは、ちゃんと感情は働いているんだわ……。

裕之をみつめて、頬を流れる涙を感じながら、馨は思った。

「ご飯は、食べる?」

涙を拭いて、口元に少しの笑みをたたえながら、裕之にたずねた。
裕之はしばらく黙って馨を見ていたが、彼女が今何を思っているかわからないので、小さく頷く。

静かに食器がテーブルに並べられる。

その日は、裕之の好物ばかりだった。

⏰:11/04/23 20:33 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#694 [向日葵]
ーーーーーーーー…………

「お母さん、なにか手伝うことある?」

茉里がひょこりと顔をだす。
昔に意識を飛ばしていた馨は、少しぼんやりと茉里をみる。

「え……。あ、ああ、大丈夫よ。もうあとは煮込むだけだから」

「カッレー!カッレー!」

茉里は馨が作ったカレーが大好きだった。
甘すぎず辛すぎず、でも少しピリッとする。
大きめに切ったジャガ芋はほくほくしてておいしい。

「玉ねぎを飴色になるまでいためるとおいしいらしいけど、お母さんどうしても面倒くさくなるのよね」

⏰:11/04/30 20:29 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#695 [向日葵]
そんな母の言葉に、茉里はきょとんとする。

「お母さんって、面倒くさがりだっけ?17、18年一緒にいるけど、そんな感じはしないな」

「じゃあ上手くごまかせてるのかしらね」

2人して、アハハと笑う。

笑いながら馨は気づく。

自分でも、知らなかった。
自分は、面倒くさくなることを、きっと避けてたんだわ。

⏰:11/04/30 20:29 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#696 [向日葵]
あの時も…………。

ーーーーーーーー…………

「馨、どこか出掛けないか?」

裕之はしばらく有休をとった。
有休をとっても、仕事の電話はかかってきたが、ゆっくりするのは久しぶりだった。

あれから、馨に触れていない。
触れさせてくれない。
それは当たり前なのだが、裕之は触れたくて仕方なかった。

「今日は掃除する日なんです。お風呂もカビがはえてたところが気になるし」

⏰:11/04/30 20:30 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#697 [向日葵]
「昨日もそう言ってたじゃないか……」

「ほこりは毎日たまるんです!」

馨は次の日にはもう何事もなかったかのようにしている。
あの日は、近くにいてほしくなかっただろうと思い、いつも一緒に寝ているが、裕之は客間で寝た。

馨はいつものように茉里を送り出し、買い物に行き、洗濯をし、きびきびと働く。

でも裕之には全部わかっていた。
馨は平気なふりをしているだけだということ。

彼女はこうみえて、感情をあまり顔に出さない。
なにもなかったように演じろと言えばきっと出来るぐらい。
いや、今現にしているのだけど。

⏰:11/04/30 20:31 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


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