こいごころ
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#698 [向日葵]
「茉里は、今日はミュシャちゃんの家に泊まるんだろ?なら丁度いいじゃないか。遠くまで車を走らせて……」

「裕之さん、そんなこと言ってる暇があるなら、庭の草抜きでもしてきてください!」

言い返す前に、ゴミ袋と軍手、熊手を押し付けるようにして渡される。
何か言おうとする前に、洗濯が終わった音が鳴って、馨は行ってしまう。

裕之はため息を吐く。

こうも避けられては、為す術がない。
しかしそれは自業自得なのであった。

⏰:11/04/30 20:31 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#699 [向日葵]
・・・・・・・・・・・・

なにかしていないと、足元がおぼつかなくなりそうだった。

裕之はきっと話をしたいはずだ。話合って、一緒に乗り越えてほしいんだと思う。

彼はひたすら謝るだろう。
ただ、繰り返される謝罪の言葉を、どう受ければいいかわからない。
受けたところで、何をすればいいかわからない。

笑顔で許せばいい?
物を壊すぐらい暴れて怒ればいい?
目を腫らして、過呼吸になってしまうほど泣けばいい?

⏰:11/04/30 20:32 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#700 [向日葵]
そうやって考えるうちに、考えているのがもう面倒になってきて、頭がぐらぐらとゆれる。
だから、逃げるように家事をする。

助けて……。

なにに対してそうしてほしいのがわからないまま、馨はそう心の中で呟いた。

茉里も……きっともう知ってる。
きいたんだと思う。
あの会話を。

その証拠に、裕之がリビングにいると、なるべく顔を出さないようになった。

⏰:11/04/30 20:32 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#701 [向日葵]
馨はギュッと目を閉じて、ゆっくり開ける。

もう、考えても仕方ないなら、終わらせよう。
あやふやなままにせず、綺麗さっぱり、終わらせよう。

馨はゆっくりと裕之の元へ行く。
庭を見ると、まだ少ししか進んでいないが、裕之は真面目に草を抜いていた。

この背中を、ずっと見ていたかったけど……。

「裕之さん」

そっと呼ぶと、ぎこちなく微笑みながら裕之は振り返る。

⏰:11/04/30 20:32 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#702 [向日葵]
彼ももしかしたら、同じことを願っているのかもしれない。

庭に続くガラス戸によりかかりながら、馨はそう思った。

庭と家では段差が少しある。
今は馨の方が高い位置にいる。
けれど元々背が高い裕之はそれで馨と同じくらいになった。

「どうかした?」

優しく裕之が問う。

まるで普通の会話のように馨が言葉をつむぐから、次に出てきた言葉を裕之は危うく頷きそうになった。

⏰:11/04/30 20:33 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#703 [向日葵]
「別れましょう」

「う…………。…………え?」

馨の表情は、あの時ぐらい静かだった。

「このままいても、あなたが楽しく私たちと過ごすことは無理だと思うの。ずっと、罪の意識に苛むなら、別れたほうがきっといいわ」

「馨、なに言って……」

「あなたはもしかしたら花形さんの方がいいのかもしれないわ。仕事の大変さをわかってくれそうだもの。だから……」

「嫌だ」

自分でも驚くぐらい、強く否定した。

⏰:11/04/30 20:33 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#704 [向日葵]
「他の女(ヒト)に心うつりを一瞬でもしてて、こんなこと言っても信じてもらえないかもしれない。でも僕は、君を、茉里を愛してる。絶対に離れたくない。離れたなら、今以上に僕は苦しむよ」

「離れれば、その想いも風化していくわ」

「しないよ」

即答すると、馨の瞳が揺れる。
水面が、風で波立つように。

「僕の心にはずっと君しかいない。花形のことだって……、君を求めすぎたことが、原因だった。……いや、これは別に責めてるわけじゃないよっ。ただ……いつも僕には君が」

「うそつき……」

駄目……。
抑えなきゃ……駄目。
困らせたくない。
面倒なことには、したくない……。

⏰:11/04/30 20:35 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#705 [向日葵]
そう思う度、涙があとからあとから落ちて、フローリングに染み込む。

あの時は、涙なんてすぐ止まったのに、今になってどうして……?

「じゃあどうして3年も続くのよ!!それは……っ、あなたがあの人に気があったって証拠じゃない!!」

「かお……」

「私は苦しいことは嫌!こんな思いするのは嫌なの!楽しくのんびり過ごしたかった!!ごちゃごちゃ家族がバラバラになるようなことは嫌なの!!」

「僕だって嫌だよ……」

⏰:11/04/30 20:35 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#706 [向日葵]
「した人がな……っなに、言ってるの、よ……っ!!」

しゃっくりが出てきて、うまく喋れない。
せき止めていた沢山の思いは、もうとまらない。

「むかつく……っ!!」

気づかなかった自分が。
彼を3年も魅力していた花形を。
花形が彼の全てを手にいれたことを。

崩れ落ちた馨は、フローリングを拳で何度か叩く。
指の骨がぶつかって痛いけど、どうでもよくなった。

⏰:11/04/30 20:36 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#707 [向日葵]
「別れてよ!!わか……っれてくれたら、いいじゃない……っ!!私は風化出来……るわっ!!」

「じゃあ……もう僕が嫌い?」

「だ……だい……っ嫌っい!!」

「目を見て言って」

大きな手が、顔を包む。
30代になっても、裕之の綺麗な顔は変わらない。

甘い言葉をつむぐ唇は、キスすればもっと甘くて。
笑った顔は、心に明かりが灯ったように暖かくて。
大きな手で茉里の頭を撫でる姿が、微笑ましかった。

⏰:11/04/30 20:37 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


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