こいごころ
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#713 [向日葵]
「裕之さん」

優しい声に、裕之はうつむいていた顔をあげる。

馨が、優しく微笑んでいた。
涙はまだ、とめどなく流れていたけれど、もうなにもかもがわかったように、微笑んでいた。

「また……イチから、始めましょう。なにもかも……」

届いた。

そう思った瞬間、裕之は馨を力いっぱい抱きしめた。

髪に顔を埋めるようにすれば、あの甘い香りが胸を満たす。

⏰:11/05/07 22:19 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#714 [向日葵]
花形とは、全然違うと思った。

裕之が求めているのは、この空気、この香り、このやわらかさ、この細さだ。

自分が本当に間違っていたのだと思えば、情けなくも嗚咽を漏らしながら泣けてしまった。

馨も久々に触れる裕之のぬくもりに身をよせる。

そこでようやく彼女は、裕之が帰ってきたのだと思った。

まだあなたが、こんなにも力強く抱きしめてくれるなら、きっと大丈夫だわ。

震えてる体が、どちらのものかはわからなかったけれど、その震えがとまるように、二人はお互いを抱きしめあった。

⏰:11/05/07 22:20 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#715 [向日葵]
ーーーーーーーーー…………

時計はもう7時をまわっていた。

喫茶店にいるのは、裕之と宗助だけになっていた。
遠くで流れるクラシックが耳に入ったことで、宗助は話が終わったことに気がつく。

「じゃあ、奥さんとは仲はもう……」

「うん。元に戻ったし、今でもラブラブだよ」

⏰:11/05/07 22:20 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#716 [向日葵]
ラブラブ……。

今までのシリアスな話に、その単語が正しくない気がして、宗助は椅子からこけそうになった。

あれ……?

「浮気……、あ、すみません。他の人との関係は、その1回だけですか?」

「もちろん。と言っても信用されないかな。でも僕は馨しか見えてないし、馨を傷つけたくないし、馨が世界……いや宇宙一可愛いと思っ……」

「いや、信用します……」

お腹いっぱいとはこのことだ。

「茉里の話だと、何回かしたって……」

⏰:11/05/07 22:21 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#717 [向日葵]
夏休みの時、確かに言ってた。
茉里自身、相手からも電話がかかってきたのを知ってる。

「花形がね、実は一筋縄では別れてくれなくてね。当たり前だよね、3年も続いたんだ。代わりでもなんて言ってたけど、1番にだれだってなりたい」

別れをもちだせば、それはそれは取り乱した。
仕事の時間外だとはいえ、ヒステリックな声をあげていた。

裕之はそれを軽蔑するように見たが、自分にはそういう目をする権利などないから、なんとかなだめようとした。

⏰:11/05/07 22:21 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#718 [向日葵]
諦めたかのような態度をとった彼女だったが、電話で嫌がらせをしていたらしい。
それがわかったのは、馨が茉里の様子からわかったらしい。

馨自身も何度か電話をとったが、その度に毅然とした態度で言葉を倍返しされていたらしく、花形が裕之によりを戻してほしいと何度かまたヒステリックに声をあげていた時、馨との電話の内容をしゃべっていた。

『あの女、電話でなんて言ったと思います!?「これ以上、娘や裕之さんを傷つけたら許しません」!!違うでしょ!!あの女が加賀さんを傷つけてたんじゃないですか!!』

そんな馨の言葉が、裕之はいとおしくて仕方がなかった。

⏰:11/05/07 22:22 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#719 [向日葵]
何ヶ月かそんなことを繰り返していたが、花形は疲れたようにいつも通りになった。
裕之には、どこか冷たかったが、裕之は気にはしなかった。

最初はどこかげっそりと、そして全身がトゲでもまとっているのではないかという雰囲気だったが、それも次第になくなっていき、元の花形らしい空気に戻っていった。

その頃には、裕之とも普通に接していた。

そしてしばらくして、花形は会社を辞めていった。
理由は知らないが、噂によれば、田舎に帰るとのことだった。
そこで結婚もするらしい。

⏰:11/05/07 22:23 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#720 [向日葵]
花形は去る時、裕之に言った。

「今思えば、芸能人みたいな憧れがあったんですよ、加賀さんに。だから離したくなかったんです。だって芸能人を手放すなんて、勿体ないじゃないですか」

「だから好きではなかったんですよ」と、申し訳なさそうに言う花形に、「今の相手とはどうなんだ?」と訊くと、花が咲いたように笑った。

「大好きしか、出てこないですね!」

その笑顔を見た時、裕之は泣きそうになった。

そして心の中で、沢山の「ごめん」とそれより沢山の「ありがとう」を言ったのだった。

⏰:11/05/07 22:24 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#721 [向日葵]
「それを、茉里には話さないんですか?」

裕之はにこりと笑って、椅子にかけてあったジャケットを手にとった。
帰る支度だと思えば、宗助は冷めきったコーヒーを一気飲みする。

冷めても美味しかったコーヒーを、暖かいまま飲みたかったと少し悔やみながら、伝票に手を伸ばす前に伝票をとられる。

「僕が誘ったんだ。長話にも付き合ってもらったのに、君に出させるわけないじゃないか」

「でも、あの」

「いいのいいの」

⏰:11/05/07 22:24 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#722 [向日葵]
会計を済ませ、車に乗る。
シートベルトをしめながら、裕之は口を開く。

「茉里にはね、恨んでもらったままでいいんだ」

「え……」

車がゆっくり発進する。
ここにくる時の運転を抜きにすれば、裕之の運転は丁寧なものだった。

「茉里にまで許してもらったんじゃ、僕はただの幸せ者になる。僕がしたことは、決して許されることじゃない」

宗助はそれをきいて、うつむく。

茉里と付き合うまで、宗助は茉里に対してひどいことをした。
それでも彼女は手を広げて待っていてくれた。

⏰:11/05/07 22:24 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


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