こいごころ
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#898 [向日葵]
―――――――――…………
あれ?あれ?
教室で忘れたデジカメを取りに来た茉里だが、あると思っていた場所にデジカメがない。
もう一度鞄を探すもなく、ひっくり返してもやっぱりなく、辺りを見回してもない。
根本的に家に忘れちゃったのかしら……。
でも学校に来て鞄を見た時にはデジカメのケースは見た。
見た気がした……。
時間が経つにつれ、だんだんと忘れた場所よりも持ってきたかどうかのほうが心配になってきた。
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#899 [向日葵]
ううん……、どうしようか……。
もしかしたら落とし物として預かってます的な感じかしら!
茉里の学校は携帯以外は大抵許されているのでそういうものも職員室に忘れ物として預けられる。
どちらにしても携帯も持って来ているというのは誰しもがわかっているが、暗黙の了解で見つかってしまうまではお咎めはなしだ。
頭の上でぐるぐると渦巻きが浮いてる時、携帯のバイブが鳴ってびくりとした。
:11/09/10 01:25
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#900 [向日葵]
もしかしたら綾香か宗助かもと、携帯を入れているブレザーの内ポケットに手を突っ込む。
「加賀さん」
と同時に声をかけられたものだから、茉里は文字通り飛び上がる。
「ごめんなさいごめんなさい!ちょっと気を緩めて持ってきただけなんです!」
と一息で謝りながら振り向くと、教師ではなかった。
一方的にああだこうだ言われた相手は、何を言われたかわからなかったのか、茉里の勢いにおされたのか、ポカンとしていた。
「あ……えと……どなたで……」
今さらながら訊く。
胸元を見れば、小さな一輪だけのコサージュがつけてあった。
卒業生だ。
:11/09/10 01:26
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#901 [向日葵]
「えと、前川っていうんだけど……。あの、3年の、卒業する」
「はい、前川先輩ですね。私たちのクラスになにかご用でも?」
前川と名乗る卒業生は、照れるように頭をかきながら、教室に入り、茉里に近づいていく。
「実は、前から可愛いなって気になってたんだ。良ければ、付き合ってくれないかな」
茉里は瞬きを素早く何回か繰り返す。
宗助と付き合う前は、何回かこういうことがあったが、久しぶりにばったり遭遇すると、対応の仕方を忘れてしまった。
声も発せられずに、今度は茉里がぽかんとしていたら、前川はもうそこにいた。
「えと、私に彼氏がいることはご存知ですか?なので私は先輩と付き合うことは出来ないんです」
:11/09/10 01:26
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#902 [向日葵]
「有名なやつ?」
「さ、さあ……。人っていつの間にか有名なってたりならなかったりしてるんで」
「誰?名前は?」
引き下がらない。
この人面倒くさいタイプだ。
名前を言ったところで、信じる人ではないだろう。
「有名な人だと、納得いきます?」
「いくかいかないかって言うならいかないけど」
うう……。
「同じクラスの笹部くんって人ですけど」
:11/09/10 01:27
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#903 [向日葵]
「知らないなあ。本当にいる人なの?適当に名前言ってない?」
適当で「笹部」って名字が出てくるって、どんだけ発想力というか想像力豊かだよ私。
ツッコミを入れつつ、縮められた距離を密かにひろげ、茉里はこの場からどうにか逃げようとした。
「とりあえず、私は先輩とはお付き合い出来ません。ごめんなさい」
鞄を持つと同時に、その手がつかまれた。
思わず「ひっ……」と声が出る。
「人が真剣に告白してるのに、逃げようなんてしないでくれる?」
:11/09/10 01:27
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#904 [向日葵]
前川が言ってることは確かにもっともな意見だが、彼の告白はだんだんと意地が入ってきているようで、これは最早告白ではなく、欲しいものが手に入らないと気に入らないという駄々っ子のようなものだ。
そんなオモチャのような扱いをうけて、真剣もなにもないと思うが、多分正論を言っても通じやしないだろう。
だから余計にややこしい。
茉里は内心頭を抱えた。
「お返事はしました。そちらが納得いってもらわなくても、私はあなたと付き合うつもりはないんです。手を、離してください。叫びますよ」
きっと、まだ他の教室に残ってる人はいるはず。
声や物音をきいたから。
:11/09/10 01:28
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#905 [向日葵]
「叫んでもいいけど、一体何人が君が助けを呼んでるって思うかな」
今日は卒業式。
卒業生がふざけてるのではと考えるか、在校生がふざけてると考えるか。
誰が本気で助けを呼んでるなんて気づくのだろう。
たちが悪いのに捕まったものだと悔やむが、悔やむより今は恐怖のほうがはるかに大きい。
「な、なにをする気……?」
訊いても仕方ないことを訊く。
いや、むしろ訊かなければよかったと後悔するか。
前川が意味深に、そして怪しく笑うから、茉里は怯えそうになるのをこらえて毅然と前川をにらむ。
それでも、もう膝は小刻みに震えている。
宗助。
助けて、助けて、助けて。
お願い、助けて……っ。
:11/09/10 01:28
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#906 [向日葵]
足を後ろに移動させても、机の足にガタリとあたる。
茉里はつかまれていないほうの手で鞄を持ち直すと、素早くそれで前川を殴った。
弱い攻撃だったとはいえ、怯んだ隙に茉里は教室を出る。
「テメェ……っ!!」
ドアから出て、全速力で走ろうとした時、なにかにぶつかる。
よく知る匂いと共に。
「茉里!?どうした!」
「宗助!!」
茉里は安心して腰が抜ける。
それを宗助が支える。
ふと前を見ると、宗助たちの数メートル先に、息を切らせた前川がいた。
「……あなたは?」
:11/09/10 01:29
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#907 [向日葵]
「おれは……」
「彼女になにをした?」
いつもより更に低い声で宗助が問う。
支えてる茉里の体が震えているとわかれば、声は凄みを増した。
「訊いてるんだ。なにをした。答えろよ」
それでも、前川は答えなかった。
眉間にしわを寄せ、悔しそうに押し黙っている。
宗助は茉里をやさしく離す。
茉里は壁に背を預け、ずるずると廊下に座り込んだ。
宗助はつかつかと前川のそばまでいくと、胸ぐらをつかみ、肘をつかって前川を壁に思い切り押しつけた。
:11/09/10 01:29
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