こいごころ
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#2 [向日葵]
一途であればあるほど、私はいいと思っていたの。

だって一人をずっと思っているなんて素敵じゃない。

なのに、付き合っていた相手が別れを告げる時、必ずこう言う。

「お前は重い」

重いの意味が、まったくわからない。
どうしてそんな事いわれなくちゃならないのか。
好きな相手には全ての愛情をそそぐのが当たり前でしょ?

⏰:09/04/10 00:25 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#3 [向日葵]
でも私、君に出会って知ったよ。

一途って、とっても重いんだって。
そして、苦しいんだって……










*こいごころ*

[1] だれかの代わり

⏰:09/04/10 00:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#4 [向日葵]
「笹部っ!おっはよーっ!」

「……はよ……」

「もーっ!元気ないなあっ。ま、いーや」

ある高校のある教室。
時刻は8時12分。

教室に入ろうとした、笹部 宗助(ささべ そうすけ)は、朝っぱらからハイテンションで挨拶してくる、ある女の子にたじたじだった。

そのある女の子こそ、この物語の主人公である、加賀 茉里(かが まつり)だ。

「笹部、今日も大好きだよーっ!」

「……」

⏰:09/04/10 00:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#5 [向日葵]
惜しみなく好意を示してくれるのは悪い気はしないが、宗助は脱力するほか、何も出来なかった。

なにせ、彼女からの告白は、最早日常茶飯事なのだ。

―――――――――…………

[笹部、私、笹部が好きなの]

そう告白されたのは、丁度2週間前程。
茉里と宗助は、同じクラスで同じクラブ。
ちなみに剣道部で、茉里はそのマネージャーだ。

たまたま道場で2人になった時、茉里が告げた。

その時は、今ほど軽い言い方ではなく、真剣に言われた。

⏰:09/04/10 00:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#6 [向日葵]
茉里は学年では結構モテる部類で、断るのがもったいないほどだが、宗助は眉を寄せて訊いた。

[俺の、何が好きになったの?]

剣道の腕は確かで、運動神経には優れている宗助だが、性格は地味に近かった。
そんな自分を、彼女はどこが好きなのか分からなかった。

訊かれた茉里は、キョトンとしていた。

[理由って、いるの?]

そう言われると、宗助も訊いたくせに困った。
でも、理由が言えないのは、大して好きではないのではともとれた。

だから、告げた。

⏰:09/04/10 00:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#7 [向日葵]
[悪いけど、俺、好きな人いるから]

[誰?]

[……秘密]

茉里は1歩、宗助に歩み寄る。

[フラレるなら、その相手教えてくれなきゃ、納得出来ないんですけど]

押された宗助は、一瞬口ごもるが、ゆっくりと口を開く。

[……ち、千早先輩]

千早先輩とは、1つ上の先輩で、男子とも互角に戦える人だ。
気さくで、人からの信頼も厚く、茉里も慕っていた。

先輩の名を聞いた茉里は、ピタリと静止している。

⏰:09/04/10 00:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#8 [向日葵]
[だから、ゴメン。……じゃあ、俺先に帰るから]

と、踵をかえそうとした時、道着を引っ張られた。
何事かと宗助は振り返る。

[私、諦めたりしないんだから]

[は、はあ?]

[先輩は来年の3月で卒業でしょ?私が猛アピールしたら、私の事好きになるかもしれないじゃない!]

何を言ってるか分からない。

宗助の頭はハテナだらけになった。
そんな事はお構いなしに、茉里はにっこり笑う。

⏰:09/04/10 00:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#9 [向日葵]
[いいじゃないっ。私が勝手に好きでいるだけだから。それにね、先輩の事で、笹部が何か傷ついたりしたら、私を利用して慰めてもらうって手もあるんだよっ]

利用してと、あまりに明るく言うものだから、宗助は更に頭が混乱する。

一体、彼女は何を考えているんだ。

―――――――――…………

「ねぇミュー。笹部はどうしてあんなに素っ気ないんだろ」

昼時。
机を合わせて昼食をとっていた茉里は、幼なじみの親友である久瀬(くぜ) ミュシャに話しかける。
ミュシャは日英ハーフで、美術鑑賞を趣味とする両親が、画家のミュシャからとって名付けた名前。
茉里だけが、ミューと呼ぶ。

⏰:09/04/10 00:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#10 [向日葵]
金に近い柔らかな髪を耳にかければ、小さなピアスがキラリと光る。

「茉里はね、素直すぎるって言うか、直球すぎるから、相手がその好意を照れて、受けにくいんだと思うよ」

「ミューは照れないの?」

「慣れたよ」

茉里は嬉しそうに笑う。
買ってきたパンをひとかじりしたところで、ミュシャが訊ねた。

「あたしも分かんないな。笹部 宗助のどこがいいの?」

「好きになるのに理由っている?」

⏰:09/04/10 01:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#11 [向日葵]
「知らない」

「私はね、直感を信じるの。笹部は絶対私の運命の相手なのっ」

茉里はいつもそうだけど、と口には出さず、ミュシャは代わりにため息を出す。

「それにしても、利用してもいいだなんて言っちゃ駄目だよ。本当にされたらどうするの?」

「それはそれ、これはこれ」

ミュシャは何も言えず、椅子の背もたれに背を預けて、ペットボトルの蓋を開けた。

「あ、ジュース買ってくるよっ」

「一緒に行こうか?」

⏰:09/04/10 01:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#12 [向日葵]
「いいよっ」

茉里は1人、自販機に向かった。

足取りは軽く、すぐに自販機に近く着いたところで、ある2人を発見した。

宗助と、千早先輩だ。

茉里は足を止める。
そして姿を隠す。

本当は、間に割り込んで、今すぐ邪魔したい。
宗助は私のモノだって言いたい。

でも、そうすれば、宗助が悲しむから。
自分より、宗助が幸せの方が嬉しい。

⏰:09/04/10 01:11 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#13 [向日葵]
ただ、宗助が、いつかこっちを向いてくれたらって、好意を全面に出している。

なんだか矛盾してるなって、茉里は自分でも思った。

2人を影から見れば、胸は痛むけれど……。

分かってるのかもしれない。
毎回告げられる、“重い”の意味。

宗助にはそう思って欲しくない。
そう思うのは、この猛アピールを、宗助が“重い”と言わないからかもしれなかった。

茉里はそっと、その場を後にした。

――――――――…………

⏰:09/04/10 01:17 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#14 [向日葵]
「ねえ笹部、そろそろ宗助って呼んでもいい?」

半ば強制的に一緒に道場に向かってる時、茉里が言った。
宗助はまた眉を寄せて、茉里を見る。

「なんで」

「みんな気軽に呼んでるじゃん。だからいーかなーって」

「……駄目」

「ケーチーッ」

そう言いながら、道場のドアをくぐる。

「宗助ーっ!聞けよーっ!」

入るなり、1つ上の先輩で、主将の笠井先輩が宗助の肩を掴んだ。

⏰:09/04/10 01:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#15 [向日葵]
笠井先輩は若干興奮している。

「ちょっと、笠井やめてよっ」

慌てて後ろから、千早先輩が来る。
迷惑そうにしながら首を傾げる宗助に対し、茉里は嫌な予感がした。

「せ、先輩、早く練習しないと、先生に怒られちゃいますよっ」

話を中断させようとするも、笠井は大きな口を笑みの形にする。

「大丈夫だって。今日先生出張だから」

最悪だ。

「なんなんですか」

いい加減うっとおしいとばかりに、宗助は先輩と距離をとった。

⏰:09/04/10 01:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#16 [向日葵]
「千早、彼氏出来たんだとっ!」

宗助の体が、小さくピクリと動くのを、茉里は見逃さなかった。

嫌な予感は必ず的中する。
茉里は宗助の顔を伺う。
宗助は、目を見開いていた。

「……え」

小さく呟きが漏れる。

「もーっ!笠井は口が軽すぎっ!」

千早先輩は顔を赤くしながら、笠井先輩の頭を叩いた。

嘘じゃないんだ……。

茉里は冷静にそう思った。

⏰:09/04/10 01:30 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#17 [向日葵]
宗助をまた見れば、元の宗助の顔に戻っていた。
でも、茉里は分かっていた。

これ以上ないほど、傷ついている。

「それだけっすか。俺、トイレ行きたいんで」

鞄を雑に置いて、宗助は道場を出る。
そんな宗助にお構いなしに、先輩達は話題に盛り上がっていた。

茉里も鞄を置いて、宗助を追いかけた。

宗助はゆっくりと、渡り廊下を歩いていた。

「笹部っ」

呼べば、宗助は立ち止まる、
すぐ後ろまで、茉里は追いつく。

⏰:09/04/10 01:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#18 [向日葵]
「あの……。先輩に、彼氏がいようと関係ないよっ。笹部の気持ち伝え続ければ、もしかしたら彼氏に勝つかもしれないじゃないっ!」

どう言ったらいいか分からない。しどろもどらしながら、茉里は話していた。

「そ、それに、私がいるよっ。今が利用するチャンスって言うか、気をまぎらわす材料って言うか……」

「うるさいっ!」

鉄の柱を、思いきり殴る。
殴った音が、鉄から鉄へと伝わって、エコーのように響く。

茉里はただ驚いて、宗助を見るだけだ。

⏰:09/04/10 01:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#19 [向日葵]
こちらを向いた宗助は、今まで以上に眉を寄せて、睨み付けているのに近い目で、茉里を見る。

「俺は、アンタみたいに軽い気持ちで好意を示したりしない、アンタに、俺の何が分かるんだよ」

軽い……?

「下手な慰めなんて、俺はいらない」

それだけ言って、宗助はどこかへ行ってしまった。
茉里は、立ち尽くすしかなかった。

それ以上にショックだった。
今まで伝えてきた好きの気持ちを、“軽い”と言われた。

まだ、足りなかった?
何が、足りなかった?

⏰:09/04/10 01:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#20 [向日葵]
あれ?
好きって伝えるのって、こんな難しかったっけ?

―――――――――…………

言いすぎた。
宗助は反省していた。

あれから、道場に戻ったが、茉里の姿は無かった。

“軽い”だなんて、言わなければ良かった。

彼女のあからさまな好意は、確かに疑う時もあるけれど、好きな人がいると言っている自分に毎日好きだと言ってくるガッツはすごいと思った。

あんな風に、自分も表現出来ればいいなと、羨ましく思う程。

教室前で、宗助は一旦立ち止まる。

⏰:09/04/10 01:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#21 [向日葵]
ドアを開ければ、いつもみたいに彼女は声をかけてくるだろうか?

ガラッと開ければ、まだクラスメイトがちらほらいる程だった。

やっぱりいない。

「入んないの?」

後ろからの声に、宗助は勢いよく振り返る。

そこにいたのは、茉里だった。
茉里はにっこり笑う。

「おはよー笹部っ!」

「……はよ…」

「低血圧だね、笹部はっ!」

宗助の背中を強く叩く。

⏰:09/04/10 01:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#22 [向日葵]
衝撃で宗助はむせる。

そして呆然とした。

なんだ、心配なんてしなくて良かったじゃないか。
傷つけてすらいないみたいだ。
明るい、いつも通りの彼女だ。

そうだ、あれは、無神経に、彼女が言うから悪いんだ。

そう思えば、昨日失恋した事を思い出して、胸の傷が疼く。
でも、だからと言って、諦める事なんて出来なかった。

そんなに、簡単に諦めるほど、簡単な気持ちじゃなかったのだから。

そう思いながら、宗助は席に着く。

⏰:09/04/10 01:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#23 [向日葵]
一方、少し離れた席から、茉里は宗助を観察していた。

やはり元気がない。
昨日の今日じゃやはり駄目か。

「利用してもいいって言ったのに……」

「茉里も元気ないね」

ミュシャが話かけてきた。

「いつもの朝一での公開告白大会がなかったじゃない」

言われて、茉里は苦笑いした。
ミュシャには、何もかもバレてしまうから厄介だ。

⏰:09/04/10 02:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#24 [向日葵]
「私の好きは、軽いんだって。言われてから、どうやって好きって伝えたらいいか、分かんなくなっちゃった……」

重いは、言われ慣れた。
言葉の意味は、掴みあぐねているけれど、それが自分の好きの形だから、今まで通りですんだけど。

軽いなんて初めて言われたから、どう対処すればいいかなんて、茉里は分からなかった。

「ホント、茉里はバカだね」

「バカだもん」

大好きなのに、猛アピールするくせに、相手の幸せを願う自分は、本当にバカのほか、何者でもないと思う。

⏰:09/04/10 02:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#25 [向日葵]
でも絶対。

「諦めないから」

なんと言われようと、本当の本当の決定打が打たれるまで、諦めたりしない。

茉里は曲がっていた背筋をしゃんと伸ばし、強く思った。

今、諦めてしまえば、この気持ちだって軽いって思われる。

けれど茉里は、軽いと言われた事に、さほど傷ついてはいなかった。
自分みたいな猛アピールを、軽いと言う人が、珍しいから、驚きの方が大きかったのかもしれない。
やっぱり宗助は、今まで好きになった人とは、どこか違うのだった。

⏰:09/04/10 10:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#26 [向日葵]
―――――――――…………

「あ」

声が重なる。
自販機の前に来たとき、たまたま宗助とばったり会った。

「笹部もなんか買うの?あ、奢ってあげよっか!」

「……いらない」

「そんな遠慮しなくても……。笹部?」

会話中、笹部の視線が茉里から外れた。
外れた視線の先には……。

「千早先輩……」

とその彼氏。

⏰:09/04/10 10:51 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#27 [向日葵]
中庭のベンチで、仲良く喋っている。
顔を少し赤らめて喋る先輩は、道場で見せた事のない、恋する乙女の顔をしていた。

でも、茉里が気になったのは、宗助だ。
宗助は、昨日と同じように、表情にはあまり出さず、心の中に、いくつもの傷を作っていそうだった。

茉里は、突然平手で自販機のボタンを乱暴に押した。
紙パックのジュースが1つ落ちてくる。

宗助は茉里の行動にびっくりして茉里を凝視していた。

その視線を気にせず、また茉里はボタンを押す。

⏰:09/04/10 10:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#28 [向日葵]
「あげるっ!」

宗助に押し付けられたのは、イチゴ牛乳だった。

こんな物は飲まないと返そうとした宗助の腕を、茉里は引っ張った。
連れて行かれたのは道場の中。

「……何がしたいの」

道場に置いてある椅子に力なく座って宗助が茉里に問う。

「だって、辛いじゃない。無理して見る必要なんてない」

「……アンタ変だよ。俺がフラれて、万々歳なんじゃないの?」

「好きな人の傷ついてる顔なんて見たくないのは当たり前でしょっ!!」

⏰:09/04/10 11:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#29 [向日葵]
ただでさえ、声が響く道場。
茉里の声は、少しエコーがかる。

「笹部は、私の気持ちを信じてないかもしれないけど、私は笹部が本当に好きだもん。理由なんてないよ、分かんないし。そうゆうの、笹部だって一緒じゃない」

まっすぐに見つめられて、宗助は何も言えなくなった。

「私は分かるもん。その気持ち。笹部だって、先輩が幸せそうに笑うから、横取りしたくないんでしょ?」

「……」

「でも諦められないなら、私と同じじゃない」

宗助は、まるでふて腐れているように口を閉ざしたままだ。

⏰:09/04/10 11:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#30 [向日葵]
聞いてるのか聞いてないのか、手の中にあるジュースをじっと見ている。

「……違うなら、否定してもいいんだよ……?」

何も喋らなくなった宗助が少し怖くなって、茉里は恐る恐る言ってみる。
でも、やはり反応はない。

1人になりたいのかもしれない。

気をきかせて、茉里はそっと出ていこうとした。

「ゴメン」

⏰:09/04/10 11:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#31 [向日葵]
宗助が口を開いた。
茉里は足を止め、振り返る。

「八つ当たりだったんだ、昨日のは……。だから気にしなくていいから。軽いだなんて、言う気はなかったから」

今度はちゃんとこっちを向いている。
少し長すぎる前髪から見える目元は、いつもより柔らかい気がしたから、茉里の胸はドキリとした。

「ありがとう……。庇ってくれて……」

そんな事を言われては、茉里の恋する思考回路は暴走し始める。

宗助の前まで行くと、目線を合わせる為、膝をついた。

⏰:09/04/10 11:13 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#32 [向日葵]
「ねえ、提案なんだけど」

「ん?」

「私を、仮彼女にしてくれない?」

宗助は目を見開いて固まった。
口は半開きになって、焦点はどこに定まっているのやら。

そんな宗助に構わず、茉里は嬉々として続ける。

「先輩を好きなままでいいのっ。でも、やっぱり私の方も見て欲しいじゃない?だから、彼氏がいる先輩が、もし彼女になってたらしてみたい事を、私でしてくれたらいいよっ!そしたらお互いの欲求は晴れるでしょっ!」

とんでもない事を言う。
2週間前と、まったく変わらない。

⏰:09/04/10 11:18 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#33 [向日葵]
「あ、アンタを好きになる保証なんてないぞっ!」

「だーかーら、仮彼女じゃない。好きになってくれたら彼女にしてっ!もし途中で先輩が彼氏と別れて、先輩の彼氏になりたいと思ったら、私はまた片思いに戻るからさっ」

どこからそういう発想が出てくるんだ……。

宗助は持っているジュースで額を冷やす。

茉里は本気らしく、顔を近づける。

「ね、お願いっ!」

「今答えだすのか!?」

「じゃなきゃ、毎日時間あれば問い詰めるわよ」

⏰:09/04/10 11:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#34 [向日葵]
顔を益々近づける。

いくら好きでなくても、目と鼻の先に顔が迫れば自然と顔は赤くなる。

「ど、どうせ……断ったって、また突飛でもない事言い出すんだろ……」

「私は思ったままに言ってるだけよ」

しばらく間近くで睨み合う。

やがて、諦めたように宗助がため息をついた。

「……どうなって、俺は責任とれないぞ……」

それはつまり……。

「オッケー……?」

⏰:09/04/15 01:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#35 [向日葵]
宗助は距離をとれと言わんばかりに茉里の肩を押す。
そして立ち上がり、洗面台があるところまで歩いていく。

茉里の顔が徐々に明るくなっていく。

「やったーっ!」

「仮だからなっ。それを忘れるなよっ?」

「うん!じゃあ宗助って呼んでいいっ?」

話を聞いてない。
茉里は大はしゃぎしている。

ぴょんぴょん跳び跳ねている茉里を見て、今は何を言っても無駄だと思った宗助は、洗面台に手をついて脱力する。

⏰:09/04/15 01:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#36 [向日葵]
この選択が、お互いにとって吉と出るか凶と出るか、まだ分からない。

手探り状態のまま、茉里と宗助の偽りカップル生活の幕が開いた。
「私頑張るからねっ!」

―一途の力、見せたかった。
ただそれだけだったの。

きみを苦しめるだなんて、この時の私は分かってなかったの。

ゴメンネ、自分勝手で……。

⏰:09/04/15 01:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#37 [向日葵]
[2]

桜も散り、緑が青々とすれば、その草木を癒すように今度は梅雨の季節になる。

茉里が所属している剣道部の道場では、県大会に向けて、一際気合いが入った練習が行われていた。

体育館の1階にある道場は、風の通りが悪く、湿気も多い。
剣道部にとって、夏場と湿気は敵。

たった少しの時間で道着は洗濯したように汗を吸って重くなる。

それでも、1つでも勝ち進もうと頑張っている部員の為、茉里はヤカン2つに冷たいお茶を用意する。

⏰:09/04/15 01:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#38 [向日葵]
もうすぐ練習が終わるので、コップにお茶を淹れて待つ。

「10分休憩」

面をとった後、キャプテンがそう告げる。
皆いっぺんにお茶を用意したところまでやって来る。

しかし、1人だけ、面をとったまま窓際でぼんやりしている人物がいるのに気付いた。

茉里はお茶を持って、その人物がいるところまで行く。

「ほら、宗助、お茶っ」

宗助はゆっくりと茉里をみる。
そしてこれまたゆっくりした動作で、お茶を受け取る。

茉里はそのまま宗助の隣に座る。

⏰:09/04/15 01:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#39 [向日葵]
「雨、やまないね」

「……まあな」

「暑くて嫌になるね」

「……まあな」

「試合までもう少しだね」

「……まあな」

「千早先輩いなくてさみしい?」

「まあな……って何言わせてんだ!」

即答だった……。

茉里はこっそり頬を膨らませる。

千早 麻衣、通称千早先輩は、昨日から風邪で学校を休んでいる。そのせいで、宗助は元気が無かった。

⏰:09/04/15 01:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#40 [向日葵]
いや、そう気付いていたのは茉里だけだ。

他の人からの見れば、いつものクールで少し無愛想な宗助のまんまなのだ。

自分だけが分かっている。

それが茉里はちょっと誇らしかった。

「まあ、“仮彼女”なわけですから?文句は言いませんけど?」

“仮彼女”

一種の賭け事だ。

彼氏持ちの先輩を諦めれない宗助に、好きになってもらう為に提案した。

その代わり、宗助は先輩を想ったままでも良く、先輩としてみたい彼氏彼女の色んな事を茉里にして、少しでも気を紛らわすよう利用しても良いとまで言った。

⏰:09/04/15 01:30 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#41 [向日葵]
期間はない。

ただ、どうしても宗助が先輩を諦められないと言うなら、茉里はまた片思いに戻る。

宗助は言った。

[好きになる保証なんてない]

そんなのやってもないのに分からない。

それに日頃の宗助を見ていれば、意外といけるんじゃないかと思う。

無理にじゃなく、徐々にこっちに向いてくれれば……。

「別に言ってもいいけど。自分で言うのもなんだけど、俺はアンタに酷なことしてるだろうし……」

ほらね。こうやってさりげない優しさをくれる。

⏰:09/04/15 01:30 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#42 [向日葵]
顔がニヤけてしまうのを抑えるため、そっぽを向く。
そして宗助の方を見る。
だが、宗助はもうこちらを向いてなかった。
窓の外を見て、物思いにふけっている。

考えてることが、丸分かり。
まあ……すぐにこっちは向いてはくれないだろうしね……。

立ち上がるついでに、宗助が飲み干してしまったお茶のコップを取り上げる。

「あと1時間、頑張ってね」

背を向けながら、ちょっとスネ気味に言ってみる。

「加賀」

呼ばれたら、止まってしまう。

⏰:09/04/15 01:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#43 [向日葵]
宗助の声っていいな……。
低すぎず、高すぎず、ちょっとエロい……。

なんて思いながら、茉里は背を向けたまま返事をする。

「なに?」

「わざわざ持ってきてくれて、ありがとう……」

先に惚れた方はつくづく損だと思う。
たった、その一言で、機嫌を直してしまう。

「宗助の為だもんっ」

笑顔で言ってから、いつも座っているパイプ椅子に座りに行った。

―――――――――…………

「終わります、礼」

「ありがとうございました」

⏰:09/04/15 01:32 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#44 [向日葵]
今日の練習が終わった。
整列したまま、先生が話をする。

「お疲れさんでした。この時期、変質者がよく出るから、気をつけろ。男子、女子と出来るだけ帰るように。以上」

一緒に……か……。

「茉里ちゃん、大丈夫?」

「え?あ、多分。今まで1人で帰ってもなんともなかったですし」
剣道部の女子部員はマネージャーの茉里を入れて9人。
3年が3人、2年が2人、1年が4人だ。

自転車通学や家が近くの人が多く、電車でも違うのを使う子もいたりで、結果茉里はいつも1人だった。

⏰:09/04/15 01:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#45 [向日葵]
「そういえば、千早先輩、茉里ちゃんと同じ方向じゃなかった?」

もう1人の2年生、木部 綾香(きべ あやか)が言う。

「千早先輩は反対のホームだから、結局は別れちゃうの。それに、先輩よく部活終わったら授業のこと先生に訊きにいってるし……」

千早は文武両道を心がけている。
その為、やっぱり茉里は1人で帰るようになっていた。

女子全員で唸る。

「ねえ、男子で、茉里ちゃんと同じ方向の人っていなかったっけ?」

⏰:09/04/15 01:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#46 [向日葵]
女子の副キャプテンが男子に訊く。

男子はそれぞれの顔を見合わせて、首を傾げる。

「加賀さんて、何駅で降りるの?」

「海岸前駅ですよ」

「あ、なんだ、宗助途中まで同じじゃん」

えっ!

宗助の家がどこか、茉里は知らなかった。
更衣室に荷物を取りに行き、戸締まりをする頃にはもう帰っているからだ。

一緒に……帰れるの……?

目を輝かしながら宗助を見れば、やっぱり自分に白羽の矢が立ったかと片手で顔を抑えていた。

⏰:09/04/15 01:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#47 [向日葵]
「宗助ー、一緒に帰ってやれよー。加賀さん危ないし」

「……早く準備してこいよ」

「うん……っ!」

――――――――…………

「おまたせ!」

「ほんと待った……」

だって、宗助と帰れるなんて嬉しくて、何度も鏡で自分の姿をチェックしてたから……。

「せっかくだから……手、つないじゃう?」

「仮彼女さん。別に今は何もしたくないんだから黙って歩きましょう」

⏰:09/04/18 02:42 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#48 [向日葵]
スタスタと行ってしまうから、茉里は口を尖らせる。

「そんなに一緒が嫌なら1人で帰るっ。デパート側通れば明るいし安全だもんっ!」

駅まで行くには道が2つある。
1つは茉里が言うデパート側。
もう1つは少し暗いが駅までの近道である方。

変質者はよく後者に出るらしい。

茉里の声に、離れていた宗助が立ち止まり、また戻ってくる。

「……ゴメン。嫌とかじゃないから」

「どうだかね……」

⏰:09/04/18 02:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#49 [向日葵]
「……アンタのその……直球な感じが、俺には苦手なんだ……少し。どう反応すればいいか、わからないだけだから」

そろりと、宗助の顔をうかがう。
いつもの、不器用な笑顔を浮かべていた。
つくり笑われるより、ずっといい。

「手はつながないけど、アンタになんかあったら嫌だから、帰ろう?」

その好きな笑顔のまま言うからずるい……。
許すしか、ないじゃないか……。

でも一緒に帰れるのが嬉しいから、茉里は満面の笑みで頷く。

⏰:09/04/18 02:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#50 [向日葵]
「ねえ、宗助は先輩のこと、どうして好きになったの?」

「……別に。気がついたら好きになってたの」

「そう。私と一緒だっ」

「だからさ……」

宗助は眼鏡をしている。
前髪も長いので、口元を手で隠せば、表情がほぼ分からない。

それでも、声音で照れているのが丸分かりだ。

可愛いな……。

こっそり笑いながら歩いていく。

「じゃあ話を変えようっ。宗助が住んでるのはどこ?」

⏰:09/04/18 02:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#51 [向日葵]
「西町駅降りて自転車で15分」

「それって答えになってない」

「個人情報には口が堅いもんでね」

そう言って、意地悪そうに笑う。

ああ……そうやって笑ったりするんだ……。

胸がきゅっと鳴る。

「その内調べてやるんだから」

「ご自由に」

踏み切りを渡り、駅に向かって歩く。
ふと、宗助が場所を移動した。
宗助を見るが、気にしてないように前を向いたままだ。

⏰:09/04/18 02:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#52 [向日葵]
そして車が通った時に気づく。

あ……車道側だったから……?
もうどうしよう……。どんどん好きになってしまうよ。

照れ隠しに、宗助の腕を軽くはたく。
いきなり叩かれた宗助は、明らかに嫌そうな顔をしていた。

「なに……?」

「紳士だね……」

「は?」

何の事だと言わんばかりに眉を寄せる。

「ありがとっ」

分からなくてもいいから、お礼が言いたかった。

⏰:09/04/18 02:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#53 [向日葵]
やっぱり、宗助には伝わらなかったけど。それでもいいから言いたかった。

「宗助はずっと剣道してたの?」

「中学の時から」

「ああ、だから強いんだ」

改札を通って、階段を上がる。

「俺なんてまだまだだよ。もっと強くなりたい。そしていつか……」

言いかけて、宗助は口を閉ざす。
茉里は首を傾げる。
宗助は気まずそうにして息を吐く。それが微かに腹立たしげだったのは、気のせいだろうか。

⏰:09/04/18 02:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#54 [向日葵]
「ホントに、アンタはいいのか?」

「え?何が?」

「仮彼女の事だよ」

「何を今更」

茉里は笑うが、宗助はそうもいかなかった。

「……俺じゃなくても、アンタなら他にいるだろ」

「あ、今カチーンときた」

ムカついたのか、茉里の目が据わっていた。

「じゃあ訊きますけどっ!宗助は他に好きな人作れって言われたら実行出来るのっ!?」

それを言われた宗助はハッとして、うつむく。

⏰:09/04/18 02:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#55 [向日葵]
「無理強いはしない。だから好きなままでいいって言ったの。2度も説明させないでよっ!分かった!?」

宗助はすまなそうに更にうつむく。
そして呟くように「うん」と言った。
茉里も強く言いすぎたかと困って、視線を泳がす。

自分はこんなにも怒る権利なんてない。
無理強いはしないと言ったが、この提案自体が無理強いしてる事ぐらい自覚はしている。

なんか……宗助を好きになってから、恋愛がドンドン難しいものに思えてきた……。
そう思っても、宗助を諦めるなんて、絶対出来ないのだけど。

⏰:09/04/18 02:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#56 [向日葵]
「千早先輩越したいなら、もっと練習しなきゃね」

その言葉に、宗助はがばっと顔を上げる。

「どうして分かったんだ」

「分かるわよ」

君の事なら……。

どんな動作も、ゆっくりしてるくせに、先輩が絡めば早くなる。

それでもいいよ。宗助が笑ってくれるなら。

宗助と目が合う。
微笑めば、またあの不器用な笑顔を返してくれた。

そう、今はこれだけでいいの。

⏰:09/04/18 02:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#57 [向日葵]
――――――――――…………

「不毛」

「へ……」

休み時間のお喋り中。

昨日の出来事をミュシャに喋ったところ、今のような返事が返ってきた。

予想外の返事に、茉里は目が点になる。

「最後に茉里が泣くに1票」

「そ、そんなのわかんないじゃない」

「今までのどんな恋愛よりも今回のが1番分かりやすいよ」

ミュシャは冷たく言う。
茉里は口を尖らせる。

⏰:09/04/19 01:51 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#58 [向日葵]
不毛……か……。

まだ始まったばかりなのに、そんな事を、しかも1番の友達であり親友であるミュシャに言われてしまっては、やっぱりヘコむ。

今までどんなことも、なんだかんだ言いながら応援してくれたのに、どうして今回ばかりはそんなに冷たいのか。

「じゃあ、私が泣き言言っても慰めてくれない?」

「さあね」

やっぱり冷たいの。

「でも……」

ミュシャが言葉を続ける。

「失恋決定の時は、一緒に泣いてあげる……」

⏰:09/04/19 01:51 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#59 [向日葵]
茉里は顔を明るくさせる。

やっぱりミュシャは好きだ。
自分を突き放したり、薄情な事をしない。
性格はクールだけど、心はあったかい。

「ありがとうっ」

机から乗り出して、ミュシャに抱きつけば、いい香りがした。
まるで、お花のような。

千早先輩も、時々いい香りがする。

ふわりと、嫌味のない、シャンプーか、洗剤の香り。

他人の匂いというのは、意外にも鮮明に覚えているもので、その人を思い出せば、同じく匂いも思い出す。

⏰:09/04/19 01:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#60 [向日葵]
宗助も、思い出すのだろうか……。

ちらりと、窓際の席に座っている宗助を見る。

降るか降らないか、不安定な曇り空をぼんやりみあげている。

今日こそ、先輩が来てたらいいなとか、考えていれのかもな……。自分の事も、思い出してくれればいいのに……。なんて、贅沢か……。

「そうそう、昨日、うちの学年の女子が、変質者に会ったって」

「うそ!その子大丈夫だったの?」

「通りすがりの人が助けてくれたんだって。でも、茉里も気をつけてね」

⏰:09/04/19 01:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#61 [向日葵]
「私は大丈夫だよ」

宗助がいるし。

―――――――――…………

「ってわけで、今日も護衛お願いしますっ!」

その日、やっぱり千早先輩は休みだった。

宗助はまた元気をなくしていたけれど、茉里は一緒に帰れる事が楽しみで仕方がなかった。

「……護衛って……」

「間違ってる?姫を助けてね、王子様っ」

「とんだじゃじゃ馬姫だな……」

「なんて今」

「別に?」

⏰:09/04/19 01:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#62 [向日葵]
背を向けながら、クスリと笑っているのを見逃さなかった。
それを見れば、茉里の心も躍る。

この時間だけは、2人の特別な時間。だから誰にも邪魔されたくない。

そう思っていた矢先だった。

「千早先輩!」

次の日の放課後、千早先輩が来た。
女子部員は皆して声をあげる。

「ごめんね休みがちで。今日から復帰するからさっ」

ニカッと笑う。元気そうで何よりだ。

⏰:09/04/19 01:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#63 [向日葵]
でも、1番に喜んでいるのは……。

茉里は宗助を見る。
興味が無いように道着に着替え始めているけど分かる。
その背中は、うきうきしている。

分かりやすいんだから……。

宗助が楽しければいい。嬉しければいい。
それなのに……悲しくなるのは何故だろう……。

―――――――――…………

練習が終わる少し前、雨が降ってきた。

折りたたみ傘持ってきてて良かった……。

「雨降ってんじゃーんっ!」

⏰:09/04/19 01:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#64 [向日葵]
千早先輩が叫ぶ。

「どうしたんです先輩」

話しかけたのは、宗助だ。

「傘忘れてたんだよねー……。ま、いっか」

「何言ってんですか。病み上がりのくせして」

茉里は聞き耳をたてながらも、窓を1年生と共に閉めまわる。

窓の鍵を、かけた時だった。

「俺の傘に入ってください」

茉里は鍵に手をかけたまま静止する。

「いいの?わっるいねー。じゃあ待っててね」

先輩は出ていった。
私はゆっくりと立ち上がり、皆が飲んでしまったコップを洗面台で洗う。

⏰:09/04/19 01:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#65 [向日葵]
スポンジに洗剤をつけた時、宗助がすぐ近くに立った。

「あの……今日、千早先輩と帰るから……」

スポンジを握りしめる。

帰りの、あの瞬間、隣にいていいのは……私だけのはずだったのに……。

「そうなの?丁度良かった!」

茉里はわざと明るい声を出して、宗助の方を見る。
宗助は、なんだか驚いていた。

「今日ね、先生から、帰り買い出し行ってくれって頼まれてたんだ!だからさ、今日は1人で帰るって言おうと思って!」

「……そっか。……気をつけてな」

⏰:09/04/19 01:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#66 [向日葵]
そう言うと、宗助は着替える為に行ってしまった。

それだけなんだ……。
先輩には、病み上がりだからって心配してたくせに……。

コップを磨く手に、力が入ってしまう。
涙がながれないように、必死に歯を食いしばった。

――――――――――…………

ウォータークーラーの前に、茉里は身をかくしていた。
駅でばったり会うなんて嫌だし、デパートに行って、もしも先輩が寄りたいって言って会うのも嫌だから、ここでしばらく時間を潰すことにした。

様子をうかがえば、宗助と先輩が相合い傘をして帰るところだった。

⏰:09/04/19 01:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#67 [向日葵]
宗助の歩き方に、緊張で力が入っているのが分かった。

きっと、先輩は気がついていない。
自分だけ。自分だけが分かる。
分かっているのに……。

どうして敵わないんだろう。

にじむ視界。
泣きたくなんかない。
自分が望んだ結果なら、尚更。
仮彼女でいいと自分で言ったのだから、それを貫き通す。

たとえ、それが不毛であると、言われたって……。

しばらくぼんやりとして過ごした。
雨足が、少し増した。
折りたたみ傘で間に合うかちょっと心配だ。

⏰:09/04/22 03:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#68 [向日葵]
それでも、帰らなければ……。

茉里は立ち上がる。
雨の音が、より自分を惨めだと表している気がした。

今日は近道して帰ろう。
今時分なら、まだそんなにも暗くないし、変質者だって出ないだろうし。
いざとなれば傘を武器にする事だって考えている。

とぼとぼと歩いていく。
高架下に差し掛かった時、ぞくりと嫌な感じがした。

空はまだ暗くはない筈なのに、ここだけが異様に暗く、不気味な気がした。

「……大丈夫……大丈夫……」

まるで呪文のように呟く。

⏰:09/04/22 03:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#69 [向日葵]
駅が見えてきた。

茉里は安堵の息を吐く。

もう大丈夫。
大体、変質者がそう毎日出るわけ……。

「お嬢さん、1人……」

びくりと、足が止まる。

どうして……?
私の馬鹿っ!止まらなくていいじゃない……っ!
早く、進んで……っ!

そう念じても、足は言うことをきいてくれない。

「服、濡れちゃってるね……。おじさんも濡れちゃったんだ……。あっちで、一緒に乾かそうか……」

目深にかぶったキャップから、口元が見える。

⏰:09/04/22 03:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#70 [向日葵]
その口が、奇妙にニヤリと曲がった時、茉里は思わず「ひっ」と声を漏らす。

「さあ、おいで……」

汗で粘着質になった手で、茉里の腕を掴む。

気持ち悪い……っ!

「や……っ!放してっ!」

持っていた傘を振りかぶり、思いきり変質者目掛けて殴る。

しかし、開いたままだったので、大したダメージにはならなかった。

キャップの鍔で影になった目が、妖しく光る。
変質者はまたニヤリと笑みを浮かべる。

⏰:09/04/22 03:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#71 [向日葵]
「元気だね……。おじさん、元気な子は好きだよ……」

強い力で引っ張られる。
こんな時に限って人が通ってくれない。

「い、嫌ったら……っ。誰かーっ!誰か、助け……」

助けを呼ぼうとした。が、抱え込まれるようにして口を塞がれた。
耳元に、変質者の生ぬるい息がかかる。

「叫ばないでよ……ひどいこと、されたいの……?」

逃げられない。
どうなるの……?
私どうなっちゃうの……?

⏰:09/04/22 03:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#72 [向日葵]
茉里は足ががくがくと震え出す。

お願いだから、誰でもいいから助けて……っ!

助けて……助けて……お願いっ!
宗助……っ!

「加賀っ!」

声がした。
恐くてギュッと閉じていた目を開けたら、竹刀袋をふりかざす宗助がいた。

竹刀袋は変質者の頭に、鈍い音と共に命中。

脳震盪でも起こしたのか、変質者はふらあっと後ろに倒れた。

その姿を、茉里は呆然とみつめる。

⏰:09/04/22 03:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#73 [向日葵]
「今、警察を呼んだから、もう大丈夫。……加賀?」

茉里はまだ変質者を見たままだ。
宗助は眉を寄せ、首を傾げる。

「おい、加賀?」

ハッとしてビクリと体を震わしてから、茉里は宗助を見る。

「……し……ない、持って帰ってたんだ……」

「ああ。組み立てる為にな」

「そっか……」

茉里の頭は真っ白になっていた。

何から話せば……。
と言うより、どうして宗助はここに?

⏰:09/04/22 03:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#74 [向日葵]
「け……警察、早く来たらいいのにね。あ、傘壊れてるっ」

「加賀」

「困るなー。おニューなんだよこれえっ!もしかして弁償とか……」

「加賀っ」

傘を持つ手が、ビクンと震える。
茉里は口を閉ざし、宗助の足元を見つめる。

「無理しなくていいから」

「別に、無理なんて……」

「もう怖くないから」

そう言われて、茉里は宗助の顔をゆっくりと見上げる。

⏰:09/04/22 03:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#75 [向日葵]
気遣うように、少し憂いを含んだ優しい目を見れば、手が震え出した。

耐えていた色んなものの糸が一気に切れて、その場にへたり込む。

「お、おい、そんなトコに座ったら……」

「ありがとう……」

かすれた声で、茉里は呟く。
頬に雨粒ではない雫が流れ出す。

さっきは耐えれたのに……。

「気持ち悪くて……どうなるかすごく怖かった……っ。すごく……こわ……か……っ!」

⏰:09/04/22 03:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#76 [向日葵]
行き場のない手を、どうすればいいのか分からなくて、自分を抱くようにして腕をかかえる。

そういえば、腕、触られたっけ……。

雨をシャワーのようにして、腕をを洗うように何度もこする。

「寒い?」

しゃがんだ宗助が訊く。
茉里は首を横に振った。

「触られたトコ……なんだか気持ち悪くて……」

さするところを、宗助はジッと見る。
すると、さすっていた手をとる。どうするのかと目で追えば、さすっていた掌を、優しく撫でる。

⏰:09/04/22 03:05 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#77 [向日葵]
驚いた茉里は、思わず手を引き抜く。
しかし、宗助は強引にまた茉里の手をとる。

「な……なに……?」

「そうやってさすったら、今度は掌が気持ち悪くなるだろ?だから、俺が綺麗にしてやる」

なんだかどこかズレてる気がする。

でもそのちょっと違った優しさが、今はとても嬉しい。

気持ちの悪かった感触全てが、掌を撫でてくれているだけで浄化されていく気すらした。

⏰:09/04/25 01:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#78 [向日葵]
そう思えば、涙がまたあふれた。

しばらくして、警察官が近くにパトカーを止め、こちらへとやって来た。

――――――――――…………

「え?また一緒に帰ってくれるの?」

次の日。
雨の中いたにも関わらず、茉里も宗助も風邪を引かずピンピンしていた。

そして珍しく、教室で呼び出されて、今は廊下の窓際で話している。

「昨日のは俺の責任だし、先輩も、これからは彼氏と帰るって言ってんだ。だから一緒に帰れる」

⏰:09/04/25 01:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#79 [向日葵]
それは嬉しい。
……嬉しいのだけど。

「なんか……責任感で一緒に帰られるって、微妙かも……」

「……なら、1人で帰れ」

教室に入るのか、背を向ける。
しかし、その時、すねているような顔をしている宗助を見た。

もしかして、昨日の事、謝る気持ちもこもってるのかな……。

素直じゃないな。
お互いに……。

茉里は笑う。

「宗助ありがとう!喜んで一緒に帰るよ!」

「……勝手にしろ」

⏰:09/04/25 01:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#80 [向日葵]
「勝手にするっ」

そして、私はまた一段と君を好きになるんだ……。





―――こんなに好きになるなんて、しらなかった。

この気持ちが、君を苦しめた原因。

早く、気付いて向き合っていれば良かったね……。

⏰:09/04/25 01:55 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#81 [向日葵]
[2]の題名ありませんでしたね

[2]は仮彼女発動
です

⏰:09/04/25 01:55 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#82 [向日葵]
[3] 敵と特別の間

今日は県大会最終日。

団体は男女とも3回戦で敗退した。
今日は個人戦。
本当の本当に先輩たちの最後の試合。

宗助は、複雑な顔をしていた。

学校にはまだいるわけだし、永遠の別れではないけれど、学年が違うから会うのは難しい。

そういう面では、宗助にとって、この日が来るのは嫌だったかもしれない。

「宗助、冊子見せて」

後ろの席にいる宗助に手を伸ばす。
宗助は無言で渡してくれた。
視線は、先輩が試合するコートを見て

⏰:09/04/25 01:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#83 [向日葵]
一瞬でも目を離したくないってことね。

冊子を見れば、千早先輩までは時間があった。

茉里は立ち上がる。

「茉里ちゃん、どこに?」

同い年の綾香が話しかける。

「トイレ」

本当は嘘だ。
だって思ってしまった。
面白くないと。

宗助は、ここ3日間、ずっと千早先輩ばかり。
一緒に帰る時だって上の空。
仕方ないのは分かってても面白くない。

だから気分を変えたかった。と、思い立ったまでは良かった。

⏰:09/04/25 01:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#84 [向日葵]
県大会だから、進んでも進んでも、人。
こんなのトイレにたどり着く前に先輩の試合が始まってしまいそうだ。

悩みながらも、なんとか通路から出る事が出来た。

下に行くスロープ近くは、通路に比べれば人が少ない。

少ししたら帰ろう。

「あの……」

誰かに話しかけられる。
振り向けば、180センチくらいある男子が2人いた。
おそらく同い年だろう。

「はい?」

「加賀さんだよね?西校の」

⏰:09/04/25 01:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#85 [向日葵]
そういう男子は、北高校の制服を着ている。

どこかで見たことがあると思えば、北校の次期キャプテンと噂されてる人だった。

名前はまったく覚えてないけれど。

フェミニストっぽい甘いマスク。
髪の毛は猫っ毛そうで、天然パーマなのか少しクリクリと波立っている。
さらに茶色いのが、彼の雰囲気の柔らかさを際立てる。

で、何の用だろうか。

「なにか?」

「これ、良かったらもらって」

⏰:09/04/25 01:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#86 [向日葵]
渡してきたのは紙切れ。

大体分かる。
ここにはメールアドレスでも書いてるのだろう。

「誰に渡せばいいの?」

にっこり笑って言ってみる。

「違うよ。加賀さんに」

困った顔も優雅に見える。
王子様然とした彼の頭上には王冠でも見えそうだ。

「なんで?」

告白めいたものなら、即効で断るつもりだ。
なんてったって自分には宗助という人がいるのだから。

「友達になって欲しいなって」

⏰:09/04/25 01:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#87 [向日葵]
こちらの空気を読んだように、彼はそう言った。

この人、百戦錬磨っぽい……。

「携帯が新しいの?あ、メモリーを増やしたいんだっ!」

無邪気に言って、探りをいれる。
やんわりと断りの意味もいれてえく。

しかし、あちらも簡単には引き下がらない。

「違うよ。北と西じゃ、会える機会も少ないし、じゃあまずメールでってこと」

要するに、そういうことだ。

「あ、先輩の試合が始まるんだった!」

⏰:09/04/25 01:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#88 [向日葵]
と言って逃げる。

大体、県大会にナンパするなんて、遊びに来たんじゃないんだから。
なんだか不謹慎な気がする。
あの人嫌だ。

それが茉里が抱いた第一印象だった。

人の間をぬって、また元の位置に戻ってくる。

「あ、茉里ちゃんおかえり」

綾香が言ってくれる。

「ただいま。先輩まだだよね?」
「前の人が延長してて、長引いてるの。調子狂わなきゃいいけど……」

席に座ると、綾香が何かに気づいたように、茉里の襟元辺りを見つめる。

⏰:09/05/02 22:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#89 [向日葵]
「茉里ちゃん、なんか髪の毛に引っかかってる」

「え?うそ、取れそう?」

綾香の方に背中を向ける。
カサッと音が聞こえた気がした。

「取れたよ。なんか……紙切れ?」

取った紙切れを茉里に渡す。
その紙切れは、茉里がよく知るものだった。

……っ!
あのフェミニスト……っ!
いつの間にこんなところにっ!
いやらしいっ!!

中を見れば、やはりと言うか、メールアドレスと、ご丁寧に高校名、名前まで書いていた。

⏰:09/05/02 22:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#90 [向日葵]
「北高校……沢口……優真ーっ!?」

綾香が声を上げれば、どうしたと男子までもが寄ってきた。

「沢口さんって、確か北高で超モテてるって聞きますよ!」

女子の後輩が言う。

「加賀さんすごいねー。目つけられちゃったんだー」

同級生の男子が言う。

だから興味ないってば。

紙切れをたたんで、適当に鞄へ入れる。

「あんまりうるさいと、周りから注意受けますよ」

⏰:09/05/02 22:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#91 [向日葵]
そういえば、そそくさと皆自分の場所に戻った。

「やっと次、先輩ですよ」

やっと口を開いた宗助は、それだけ言った。
彼だけは、さっきの騒ぎに入ってこなかった。

ああそうですか。
仮彼女はなんて言おうと仮だから、どうでもいいんですか。

なによなによなによっ!

宗助のばーっか!

―――――――…………

先輩は、ベスト8決めの試合で負けてしまった。

⏰:09/05/02 22:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#92 [向日葵]
延長まで持ち込んだが、面を打ち込んだ時、胴を抜かれた。

それでも、先輩のそれまで、いや、この3年間の剣道は立派だと、誰もが拍手をおくった。

応援側にいる先輩では、涙するものもいた。
茉里も、少し涙ぐんだ。

宗助を見れば、やっぱり複雑な顔をしていた。

先輩に賛辞をおくりたい。

でもそうすれば、先輩が引退するという現実がすぐそこに迫ってくる気がするから、喜んでいいのか悪いのか……。

でも、気持ちは分かるかもしれない。

もし、立場が逆ならば……。

⏰:09/05/02 22:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#93 [向日葵]
―――――――――…………

男子の先輩は、1回戦で負けてしまった。
下の階に行って、試合に出た人を迎える。

「お疲れ様でしたっ!」

「お疲れ麻衣ーっ」

「なに泣いてんのよ」

千早先輩は笑う。

男子は男子で、「あれは入っていた」とか、「あの相手はやりにくい」とか、さっきの試合を分析している。

「先生どこだろう?」

後輩が言う。

⏰:09/05/02 22:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#94 [向日葵]
「バスの前に集まってくれればいいって。だからとりあえず着替えてくるよ」

千早先輩は回れ右をする。

「一緒にいこうか?」

千早先輩は笑って「いいよ」と足早に行ってしまった。

負けてしまったのに、清々しいほっ、あっさりしているなと茉里は思った。
きっと割りきるのが早いのだろう。

皆が帰る準備にと、また上の階へと向かう。
スロープを上がろうとした時、宗助がまださっきの場所で立ち止まっていた。

⏰:09/05/02 22:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#95 [向日葵]
「宗助ー」

呼んでも返事をしない。
もう1回呼ぼうと口を開きかけた時、宗助はスロープと逆の方へ行ってしまった。

困った茉里は、皆の方と宗助とを交互に見るが、悩んだ末に宗助を呼びに行く事にした。
宗助は段々と人が少ない方に行く。

一体どこにいくの?

曲がったところは、あまり使われていない自販機の前。
休憩場みたいに、長椅子が置かれている。
そこには、千早先輩が座っていあ。
宗助が、そばへ行く。

茉里は、なんとなく隠れた。

⏰:09/05/02 22:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#96 [向日葵]
「隠れて泣かなくてもいいじゃないですか」

「もう……追いかけてこないでよー……」

宗助は先輩の隣に座る。

「悔しい……。もっと練習しとけばよかった……」

先輩は割りきってなんていなかった。
さっきみたいに、皆が泣いてくれるから、我慢していたのだ。
最後まで、しっかりとしたキャプテンでいる為に。

「十分してましたよ。俺は知ってます……」

「アンタ……いっつもそういうね」

⏰:09/05/02 22:25 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#97 [向日葵]
いつも、言ってるんだ。
宗助は知ってたんだ。
そうやって、完璧なキャプテンでいる為に頑張ってきた千早先輩を。
ううん、違う。
そんな千早先輩を見て、好きになったんだ。

「ねえ、頭撫でて……」

「はいはい……」

宗助は、先輩の汗に少し濡れた頭を優しく撫でる。
その手つきは、この前、変質者に襲われた時に撫でてくれた手とは違った。
明らかに、茉里の時には足りなかった何かが、そこにはあった。

息苦しい……。見るんじゃなかった。

茉里は静かにその場をあとにした。

⏰:09/05/02 22:25 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#98 [向日葵]
―――――――――…………

先生の話も終わり、茉里たちはバスに乗り込む。

茉里はバスの下の荷物置きに皆の防具やらをつんでいく。

「手伝おうか?」

振り向けば、宗助がいた

嫌な気分を、胸の中を覆いつくす。
感情のない笑みが、茉里の顔に作られる。

「いつもやってるからいいよ。先に乗れば?」

「いつもやってるから大変だろ?たまには俺がやるよ」

先に乗って、先輩の近くの席に陣取ればいいじゃない。

⏰:09/05/07 23:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#99 [向日葵]
茉里の心に、宗助のさりげない優しさが入る隙間はなかった。

あるのは嫉妬、独占欲、そしてそれと戦う理性。

「今更……。また今度にして」

「暑いし、加賀はもうバスに入れよ」

そう言って腕を引っ張られる。

やめてよ。
さっきはあんなに優しい手つきだったくせに。
私のこと、乱暴に扱わないでよ。

触らないでよ……っ!

⏰:09/05/07 23:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#100 [向日葵]
気づいたときには、宗助の手を思いきりはたいていた。

宗助は驚く。

「……加賀?」

「本当に……いいから……」

それからは、宗助は何も言わなかったし、茉里も黙々と作業していた。

作業が終わったときには、もう宗助の姿はなかった。

自分から突き放したくせに、茉里の胸に鋭い痛みが走る。

でもこれでいい。

むしろ宗助があそこで引き下がってくれて良かった。

⏰:09/05/07 23:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


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