こいごころ
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#301 [向日葵]
こんな顔をさせるのを、茉里は望まない。
いつだって、相手に罪悪感を抱かせないように、笑ってた。

頑張って、本当に欲しいものを我慢した。

それでめ、ミュシャの怒りがおさまるわけではない。

「自分が許せないなんて被害者ぶらないで。一番、中途半端な事をして、辛い思いをさせるだけさしたのはアンタよ!」

宗助はなにも言わない。
口を真一文字に結んで、下を向いている。

「結局、アンタは茉里を利用したのよ」

宗助の肩が、少しだけピクリと動く。

⏰:09/07/31 03:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#302 [向日葵]
「自分の心の傷が少しでもいたくならないように、どうでもいい奴に甘えて、自分を守ったのよ」

「どうでもいいなんて俺は……っ」

「言い訳なんてしないでっ!」

宗助の言葉は遮られた。
ミュシャを見ると、蜜色の目が少しだけ潤んでいた。
口も少し、わなわなと震えている。

そんなミュシャに、宗助はもう口を開く事は出来なかった。

茉里とミュシャがどれだけ仲が良いのかは知らない。
でも2人もいつも一緒にいるから、親友だと言えるくらい仲が良いのだろう。

⏰:09/07/31 03:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#303 [向日葵]
そんな大切な友達が傷つけられて、しかもそれをそばで見ているのは、辛いだろうと分かるから、宗助はミュシャを見つめるしか出来なかった。

「どんなに茉里に対して贔屓だと思われたっていい……。とにかく私はアンタを許さない。2度と、茉里に思わせぶりなことしないで。アンタに次なんて……ないんだからね」

最後にドンと宗助の胸を軽く拳で叩いてから、ミュシャは教室に入った。

宗助はその場から動けず、ただあの日、最後に見た茉里の悲しそうな笑顔を思い出した。

⏰:09/07/31 03:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#304 [向日葵]
この先、彼女の悲しみを癒してあげられるのは、誰なんだろう。

何故かその事ばかり、頭の中を回る。

そんな事、思う権利なんてないのに。

どうかしてる……。

―――――――――…………

一足早く、道場に来た茉里。

宗助はしばらくの休みで友達と別れるのが寂しいのか、茉里と2人きりになるのが気まずいのか分からないけれど、宗助とは別々にきた。

今11時半。練習は12時半からだ。

⏰:09/07/31 03:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#305 [向日葵]
きっとまだ誰も来ていない。
お昼ご飯を買いに行ったり、まだ教室にいたり。

だから自分が一番だろうとおもっていた、が、道場の戸が開いていた。

誰か来てるの?

道場に入る茉里。
しかしそこにいたのは、今一番、会いたくない人物だった。

「あ、茉里ちゃん、こんにちわ」

爽やかな笑顔に、茉里の胸はかき乱される思いがした。

「……どうしたんですか……」

「皆とご飯食べたいなって思って。練習は何時から?」

⏰:09/07/31 03:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#306 [向日葵]
「……あと1時間くらいです」

「そっかー。じゃあもうちょって待とっと」

茉里は一緒にいたくないので、更衣室にでも行こうと思って、踵を返した。

「あ!茉里ちゃん、この前はごめんね」

足を止める。

この前?

思い当たる事がいっぱいありすぎて、もうどれの事を言ってるかすら分からない。

謝ってほしいというか、嫌な思いをしたことなんて何度もあったから。

⏰:09/07/31 03:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#307 [向日葵]
「何がですか……」

「一昨日。宗助と一緒に帰ってるのに宗助取っちゃって」

「べつに……私は……」

「いつ頃から?付き合ってるんでしょ?」

耳を疑った。

何を言ってるの?

茉里の胸が、怒りで熱くなる。
その熱をくすぶらせたまま、言葉を発する。

「付き合ってません」

それだけを言うのが精一杯だった。
感情をコントロールする事に目一杯意識を集中させる。

⏰:09/08/06 21:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#308 [向日葵]
「そうなの?てっきり……」

先輩は心底驚いた顔をする。
先輩はそんなつもりないのかもしれないが、わざとらしささえ感じるその態度に、茉里は拳を握りしめる。

そんな茉里に気づかず、先輩は子供のように好奇心に満ちた目で茉里を見る。

「でも茉里ちゃんは好きなんだよね?見てたら分かるっていうかさー」

見てたら……分かる……?

茉里は小馬鹿にされたように感じた。

気づいてるくせに、宗助に抱き締められたり、相談してたって言うの?

⏰:09/08/06 21:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#309 [向日葵]
なにそれ。

人の気持ちを知っておきながらそんな態度をとるなんて……。

信じられない気持ちでいっぱいになる。
握りしめた拳が、震えはじめる。爪が掌に食い込んでも、痛いと感じない程に、茉里は全身怒りで覆い尽くされていた。

「宗助もまんざらでもないと思うんだよねー。いつも茉里ちゃんの事を気にしてるし」

宗助がいつ、自分の事を気にしていただろうか。
彼の視線の先には、いつでも先輩がいた。

あの雪の中で言った、宗助の悲痛な声。

⏰:09/08/06 21:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#310 [向日葵]
今でも耳に残っているくらい、忘れられないものだった。

それを、この人は知らない。

知らずに、気持ちをもてあそぶようにして無邪気に接して、無邪気に傷をえぐる。

もう出そうになりそうだった「待って」や「行かないで」といったいくつもの言葉を飲み込んだ私を、この人は……知らずに、笑っているんだ。

「宗助、優しくていい子だよね。きっと茉里ちゃんとお似合い……」

音が道場に響く。

え……。何の音……?

目の前に、頬をおさえてる先輩。

⏰:09/08/06 21:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#311 [向日葵]
茉里の視界には、自分の右手があった。

そこで初めて、平手をかました自分に気づいた。

どうしよう、と一瞬戸惑うが、胸の中に残るこれまでためていた怒りは、それだけで済むはずがなかった。

「知らないくせに……」

なにも知らないくせに。
宗助の気持ちも、自分の気持ちも、これまでになにがあって、どうやってきたかなんて、なに1つ、知らないくせに……。

悔しい……。
どうして私じゃない。

どうして私はいつも、1番にはなれないんだろう。

⏰:09/08/06 21:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#312 [向日葵]
「先輩なんて大嫌いっ!私に無いものいっぱいあるに贅沢ばっかり言って……人の気持ちを踏みにじるばかりしてるくせに……っ!!」

目が潤む。
先輩がどういう顔をしているか分からない。
でも吐き出してしまえば、それまでなんとか必死に抑えていた感情が、一気に涙となって流れてきた。

「分かったように……理解者みたいに語らないでくださいっ……」

宗助のこと、分かったように言わないで。
一番、先輩が分かってない。
どれほど、宗助が先輩を好きか。
どんなに辛い思いをしたか。

⏰:09/08/06 21:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#313 [向日葵]
その一因に、自分も入ってしまっているけれど、でも、自分なんか本当に小さな存在だった。

宗助の悩みのほとんどは、先輩だったから……。

「そんなに宗助を気に入ってるなら……、付き合えばいいじゃないですか」

言い終わると同時に、戸が開く。
振り返ると、そこに立っていたのは、宗助だった。

茉里は冷静さを取り戻したはいいが、さあっと血の気が引く音を聞いた。

余計な事を言ってしまったのと、先輩を殴った犯人は明らかに自分で、幻滅されると思ったからだ。

⏰:09/08/06 21:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#314 [向日葵]
いや、もう幻滅されようとなにされようて、自分には関係ないか……。

「え、どうか……したん……すか?」

宗助の問いかけに、茉里は口を結んだ。
ちらりと先輩を見れば、頬が赤くなっていた。

しかし先輩は苦笑するだけだった。

やがて鞄を持って、茉里の横を通り過ぎた。

「ちょっと用があって、茉里ちゃんと話してただけ。試合明日なんだし、今日は気合い入れて練習しなよっ。じゃあね、宗助、茉里ちゃん」

⏰:09/08/06 21:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#315 [向日葵]
笑顔と同じように、先輩は爽やかに出て行った。
まるで、わだかまりなんてないかのように。

しかし、茉里はそうもいかないから、そのまま立ち尽くしている。
ギシッと床が軋む音がしたかと思えば、すぐ後ろに気配を感じる。

でも茉里は振り返らず、それ以前に微動だにしなかった。

「……なにかあったのか?」

「……」

「……加賀?」

突然、茉里は方向転換して、駆け出した。
驚いた宗助は、一拍おいてすぐに身を翻した。

⏰:09/08/06 21:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#316 [向日葵]
「か、加賀……っ!ちょっと待って!」

思わず宗助は茉里の腕を掴む。
茉里の顔を見ると、今にも大声で泣いてしまいそうな顔をしていて、宗助は驚いた。

こんな顔をしているのは先輩と何かあったからか?
それとも自分が……?

何も言えず、静寂が2人を包む。

「……ごめん」

しばらくして、茉里が呟くように言った。
ちゃんと耳をすまさなければ、聞こえないくらいの音量だ。

「なにが……?」

出来るだけ怖がらせないよう、宗助は茉里に優しく問いかける。

⏰:09/08/06 21:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#317 [向日葵]
しかし、茉里は答えない。

「加賀?」

「……ごめん……」

2回謝った茉里は、静かに宗助の手をほどいた。
自分の鞄から小さめのタオルを取り出し、洗面所で濡らした。
ゆるめに絞って、それを宗助に渡した。

「なに?」

「先輩のほっぺ……。わたしてくるといいよ」

鞄を持った茉里は、道場を出ようとする。

「加賀っ!」

再び宗助が茉里をとめる。

唇をかみ、茉里は出来るだけ明るい声を出そうとする。

⏰:09/08/14 03:25 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#318 [向日葵]
声が震えてしまわないよう、意識しながら。

「綺麗な顔に、傷つくっちゃったから、早く冷やしてあげて」

惨めな気持ちが、胸を埋め尽くす。
きっと今、ひどい顔してるに違いない。
でも、笑顔になれなんて、そんなことできっこなかった。

―――――――――…………

今日は練習少なめで、後は明日の準備に時間を費やした。

「加賀」

先生が茉里を呼び、メモを渡す。

「コールドスプレーとテーピング、きれてるから買っといてくれ」

⏰:09/08/14 03:25 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#319 [向日葵]
「はい、帰りに防具屋さんに寄ります」

メモを片手に、道場をあとにする。
すると戸を出たところで、宗助がまた茉里を引きとめた。
早いことに、もう着替えている。

「なに?」

さすがに茉里は眉を寄せた。

「……一緒に、帰らないか」

「私、買い物が」

「ついて行く」

「なんで?なにがしたいの?」

「なにがって……」

困惑する宗助を見て、茉里の心は嫌な気分でいっぱいになった。

⏰:09/08/14 03:25 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#320 [向日葵]
罪悪感があるとかで優しくするならやめてほしい。
そんなのいらない。
欲しいのは……そんな事、今更か……。

気持ちが欲しくても、欲しがることは宗助を傷つけるだけだと分かったから、自分は引き下がった。

いっそ、冷たく引き離した方が、宗助にも、自分にも、為になるかもしれない。

「一昨日のことをまだうじうじ悩んでるわけ?」

それは自分だ。

「馬鹿じゃない?」

それも自分だ。

⏰:09/08/14 03:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#321 [向日葵]
「そんなこと心配してる時間があるなら、先輩と付き合う作戦でも考えなさいよ!」

宗助の顔が、痛そうに歪む。
だから茉里も怯むが、これも自分たちの為だと思えば、心を鬼に出来た。

宗助にもう苦しんでほしくはない。
そんな悲しい目でもう見ないで。
悲しい声で呼ばないで。

その度、流したりない涙が流れそうだから。

「私たちはただのクラスメート兼同じ部の仲間。ただそれだけ。これ以上、私に変な気まわさないで」

⏰:09/08/14 03:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#322 [向日葵]
それだけ言うと、茉里は逃げるように宗助から離れた。

茉里の姿が見えなくなるまで、宗助はそこにたたずんでいた。

宗助には分かっていた。
素っ気ない態度の理由も、強い喧嘩腰の口調の理由も。

父親のことで傷ついた茉里。

彼女はその痛みを表には出さなかった。
しかしそれは耐えていたのだとあとから分かった。

彼女のそういった態度は、心の深いところで傷ついてる証拠なのだ。

胸が軋む。

⏰:09/08/14 03:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#323 [向日葵]
それだけ自分は彼女を傷つけたということだ。

傷つけたくない、利用なんかしていない。
そう言っても、最終的にはそういう結果になってしまったのかもしれない。

でも加賀。
昼間のゴメンは、一体なんの謝罪……?

――――――――…………

見事な晴れ具合。
そして腫れ具合……。

鏡を見て驚いた。

目が、いつもの1.5倍……。

昨日、帰ってきてからほぼ部屋で泣いていた。

⏰:09/08/14 03:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#324 [向日葵]
そしていつの間にか寝てしまって、起きたらこれだ。

某ドラマの人物ではないが「なんじゃこりゃ」と言わずにはいられない事になっていた。

そしてこの嫌味な程の快晴ぶり。寒い体を温めてくれる太陽すらうっとおしく感じる。

しかも今日、出がけに母が言った。

[お父さんが今日ディナー行こうって。茉里は?]

行くわけがない。

「試合なのに無理に決まってるでしょ。2人で行ってきなよ。外で食べるし」

って、んなわけない。

⏰:09/08/14 03:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#325 [向日葵]
何が悲しくてクリスマスを祝うカップルで溢れかえっている街にご飯を、しかも1人で食べなきゃならんか。

家でも1人、自分は1人か……。

苦笑しながら、集合時間に間に合うように行った。

駅周辺は自分たちと同じように防具を持った人がちらほらいた。
そして待っていれば、だんだんと皆が集まる。

宗助も、やってきた。

でも茉里は気づかないフリをした。
目を合わせば、自分がどんな顔をしているか容易に想像出来る。

フと、鞄の中を見る。

⏰:09/08/14 03:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#326 [向日葵]
そこに、小さな袋が入っていた。

中身は、宗助の面紐だ。

前にもらったものを、小さく切って、リボンのように結んで、袋にお守りのようにいれた。

宗助だけでなく、皆の必勝祈願の意味も込めて……。

でも誰を1番応援したいかなんて、もう分かっていた。
でも、応援出来るだろうか。

応援してほしいのは、いつだって……。

「茉里ちゃん?」

綾香の声に、茉里がハッと我に返る。

⏰:09/08/14 03:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#327 [向日葵]
「あ、ごめん」

会場近くまで行くバスに乗り込む。
バスで10分ほどだ。
着けば他校の人たちもいて、茉里たちは挨拶する。

その中に、見慣れた人物がいた。

「おはよう、加賀さん」

「沢口くん……」

夏祭り以来、口をきくのは久々だ。
地区大会もあったりしたが、姿を見ても喋ることはなかった。

⏰:09/09/13 17:39 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#328 [向日葵]
「おはよう」

「寒いね、山奥だから余計に」

無邪気に微笑まれれば、罪悪感が胸をよぎった。
そんな茉里に気づいた沢口は、少し困ったように笑う。

「フラれたくせに、喋りかけるのは、迷惑だったかな?」

「ち、違うの!普通に喋ってくれて、すごく嬉しいから」

そういえば、沢口はまたいつもの微笑みにもどり、茉里はホッとした。

「先生がいた。行くぞ」

⏰:09/09/13 17:39 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#329 [向日葵]
宗助が皆に言った。
タイミング的に、沢口との会話を遮ったような気がしたが、自分の良いように考えすぎだと頭を切り替える。

沢口に「また」と言って、茉里はその場を後にした。
茉里の背中を見ていた沢口は、視線を感じたのでその方を見る。

その視線の先には、宗助がいた。

沢口をじっと見つめる。
確か茉里は彼の事が好きだったはずだ。

彼も、彼女が?と首をひねるが、なんだか違う気がする。

⏰:09/09/13 17:40 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#330 [向日葵]
恋人同士にしては、2人に距離を感じた。

そして茉里も、夏休みに、彼女に会いに行ったときのような雰囲気をまとっていた。

つまり、恋人がいるから、幸せという感じではない。

あの2人は、一体どういう関係なんだ?

沢口はそう思いながら、会場へと入っていった。

―――――――――…………

試合が始まれば、応援にスコアの記録に、水分の用意。
マネージャーとしての仕事に、茉里は忙しく動いていた。

⏰:09/09/13 17:40 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#331 [向日葵]
何人かは負けてしまったが、綾香と宗助、そして男子副キャプテンは残っている。
そして沢口も。

決勝までいけば、宗助と沢口はあたることになる。
「私たちの勘違いだったんだね」

試合待ちをしている綾香が言った。

茉里は綾香のたすきを赤から白に変えている途中で、綾香の言葉に首をひねる。

「なにが?」

「先に帰るね」

「笹部くんと付き合ってると思ったら、沢口さんと付き合ってたんだ」

茉里は口を閉ざす。

⏰:09/09/13 17:41 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#332 [向日葵]
たすきを袋に入れていると、異変に気づいた綾香が恐る恐る尋ねる。

「違った……?」

「……うん」

また気まずい空気が流れる。

「怒った?」

さりげなく微笑み、茉里は首を横に振る。

「でも正直に言っちゃうと、私は宗助が好きだったよ」

驚いて振り向く綾香だが、茉里の顔を見て状況を悟ったのか、小さく「そう」とだけ言った。

⏰:09/09/13 17:46 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#333 [向日葵]
何も言えなくて、また2人は黙る。
会場の体育館に、竹刀や声援が響くのをしばらく聞いていた。

「綾香ちゃんは好きな人いる?」

静かな問いに、綾香は茉里の隣に座り直し、こくりと頷いた。

「片思いだけどね。でも、そばにいれて、何気ない会話が出来たら、それだけでもう満足って言うか、嬉しいの」

少し頬を染めて笑う綾香は、なんて可愛らしいんだろうとぼんやり思う。

こんな風に、綺麗な気持ちで好きでいられたら良かった。

⏰:09/09/13 17:49 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#334 [向日葵]
いつだって、独占欲や嫉妬心でいっぱいで、泣きじゃくって、足掻いて……。

私の心は、こんなにも汚い……。

「フラれたくせに、まだ好きだなんて、格好悪い……」

「どうして?」

「見込みないから」

あの日の宗助が、瞼の裏によみがえる。
泣きそうになる。

「無理に諦めなくてもいいんじゃないかな」

竹刀の音の隙間に、綾香の声を聞いた。

体育館に響いている音に比べれば、微かな音量なのに、何故かはっきりと聞こえた。

⏰:09/09/13 17:54 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#335 [向日葵]
「茉里ちゃんが一途なのは見てればわかるよ。それを急に諦めろなんて無理な話だよ。それに好きだった人を思い続けるのは、格好悪いの?」

過去の茉里であれば、一途なことは素敵なことで、自分にとって、恋で一番大事だと思った。

でもあの日、宗助にフラれた日、一途の重さや苦しさを知ってしまってから、一途なことが大事なのかわからなくなった。

というか、恋愛自体がなんなのかがわからなくなったのかもしれない。

「でも一番大事なのは、無理に気持ちを封印させないことだと思うよ。気持ちを押し込めるのは、とても苦しいから」

⏰:09/09/13 17:59 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#336 [向日葵]
そう言って、綾香は面をつけ始めた。

気持ちを押し込める……。

でも気持ちをさらけ出しても苦しいときは、どうしたらいいんだろう。

「あっ!」

綾香が面越しに声をあげる。

「どうしたの?」

「笹部くんが倒れた!」

えっ?!

宗助の試合場を見れば、確かに誰か倒れていた。
そして動かない。

茉里は慌ててそこへと向かう。

⏰:09/09/13 18:02 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#337 [向日葵]
>>331

「先に帰るね」の言葉は、操作ミスですんで、気にしないでください

⏰:09/09/13 21:04 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#338 [向日葵]
「どうしたの?」

宗助を応援していた男子の後輩に茉里は訊いた。

「相手に無理矢理、場外に押し出されたんですが、バランス崩したみたいで、頭打ったみたいなんです」

宗助はやっぱり動かない。
どうやら脳震盪らしく、気を失っている。

防具を取り、宗助は医務室に運ばれることになった。
他の部員は試合がある為、スコアなどを任せて、茉里は宗助についていく事になった。

⏰:09/09/23 16:40 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#339 [向日葵]
頭の打ち所が悪くなければいいんだけど……。

無意識に、スカートに入れていた、面紐が入っている袋を取り出し、握りしめる。

今日、初めて宗助の顔をまともに見た。
眼鏡を外せば、整った顔がそこにある。
顔を見てしまえば、やっぱり切なくなってしまう。

涙がじわりと、出てきてしまう。
[好きだった人を思い続けるのは、格好悪いことなの?]

⏰:09/09/23 16:40 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#340 [向日葵]
綾香の言葉が、頭をよぎる。

今までは、フラれたら「またか」とすぐにではなくても諦めることが出来た。

フラれる理由が一緒だからだ。

でも宗助は違うから。

茉里の中身をちゃんと理解してくれる人なんて、初めてだったから……。

諦められない。……いや、諦めたくない。

依存だとか、往生際が悪いって言われても、これが本当の気持ち。

宗助を諦めるなんて、絶対出来ないんだ……。

⏰:09/09/23 16:41 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#341 [向日葵]
叶わない恋なのにと、自分で呆れる。
素晴らしいくらいに馬鹿だ。
この目に、自分が映る日なんてこないのに。

いつの間にか、涙が頬を伝う。
袋を握りしめている手に、ぼたりと雫が落ちる。

すると、その音にまるで気づいたかのように、宗助が目を開けた。
その瞬間を見逃していた茉里は、起きた事に驚き、涙を拭く余裕がなかった。

そして涙を流している茉里に気づいた宗助は、驚いて目を見開く。

「あ……アンタ、なんで泣いて……」

⏰:09/09/23 16:41 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#342 [向日葵]
そこまで言ったはいいが、頭を打ったせいで痛みが宗助の頭を鋭く突き抜ける。

その隙にとばかりに、茉里は急いで先生を呼びに行こうとした。

「待て!」

しかしそれを宗助が止めた。
痛みに耐えながらも起き上がり、茉里の手を力強く握る。
振りほどこうと立ち上がる茉里。その反動で何かがパサリと落ちる。

それに気づいた茉里と宗助は、2人してその落ちた物を見た。

⏰:09/09/23 16:42 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#343 [向日葵]
それを見て、茉里は凍りついたまま頬を赤らめ、宗助は見覚えのあるそれを見入るようにじっとしている。

茉里の膝の上に乗っていた袋は、床に落ちた事によって紐が解け、中にある面紐が出てしまっていた。

「これ……」

「違う!宗助のじゃないっ!」

赤い顔をしながら言っても説得力がない。
茉里の腕を握る手に、さっきより力が加わる。

「は……放して……っ」

⏰:09/09/23 16:42 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#344 [向日葵]
「加賀、少し話をしよう」

「話す事なんてないっ!」

「俺はある!」

強い言葉にびくりとした茉里は、動きをとめる。

宗助の強い眼差しに、クラクラした。

「話、させてくれるな……?」

⏰:09/09/23 16:43 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#345 [向日葵]
[10]霧の中の答え

気を失ってる間、暗闇の中で誰かいた。
座り込んで、泣いているのか、顔を両手で覆って、うつむいている。

どうした?

声をかけても反応がない。
気になって近づこうとすれば、それを拒否するかのようにその姿がまた遠のく。

何回かそれを繰り返していると、その誰かは立ち上がり、くるりとこちらを向いた。
その顔は、よく知る人物だった。
「加賀……?」

――構わないで。

⏰:09/09/23 16:43 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#346 [向日葵]
口を動かす茉里だが、その動きはひどく遅く、声が聞こえる速さと合わなかった。

――なぜ放っておいてくれないの?

それは……。

自分でもわからない。
その華奢な肩を、どうしても抱きしめてあげなければ、守ってあげなければって。

心の深いところで、叫んでいる。

――残酷だね。

茉里の目から一筋、涙が伝う。

――先輩がいるからって言ったの、宗助でしょ?

言った。そして
茉里を深く傷つける結果になった。

⏰:09/09/23 16:44 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#347 [向日葵]
わかっていた。
ああ言えば、心の傷を封印して、笑顔で何もないように振る舞うだろう彼女のことを。

先輩の所へ行く足を止めて振り返れば、小さくなっていく茉里の背中が、とても痛々しかった。

――都合がいい奴が去るのは、そんなに名残惜しい?

そんなこと、思ったことはない。
自分の背中を、茉里が傷ついてでも押してくれて、そんな自分をずっと好きでいてくれた。

優しい細い腕に、いつも励まされた。
子供みたいに笑う茉里に、気づかないところで癒されていた。

⏰:09/09/23 16:44 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#348 [向日葵]
調子を狂わされていても、一緒にいれば楽しかった。

そんな彼女の弱さを、守ってやりたいと思った。

――それでも、先輩がいれば、先輩を優先させるでしょ?

それは……。

――結局そういうことだよ。

そういうこと?

――先輩がこちらに向かない虚しい気持ちを、私で補ってたんでしょ?

「違う!」

――利用したんでしょ?

「そんなこと、1度もしたことない!」

⏰:09/09/23 16:45 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#349 [向日葵]
――それはさぞかし罪悪感がいっぱいでしょうね。

「違う!アンタが言ってることは何もかも違う!」

容赦ない茉里の言葉を、宗助は全否定した。

違う、そんなんじゃない。
利用したなんて、そんなことない。
先輩の代わりだなんて、考えたことはない。

ずっと、茉里自身を見ていた。

――そこまでいうなら、なにか示して。

なにか?

――そろそろ、フラフラした考えに決着をつけて。

その言葉を聞いた途端、意識が急に現実に戻されたのがわかった。

⏰:09/09/23 16:45 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#350 [向日葵]
吐き出す息が、少し震えている。

どうして泣いているんだ?

目を瞑っているのに、誰が泣いているかがわかった。

俺が悪いのか?
だったら謝るから、泣かないでくれ。
アンタに泣かれたら、俺どうしていいかわからなくなるんだ。

おかしな話だよな。
先輩には、すぐに頭でもなんでも触れられたのに、どうしてアンタは、壊れそうだからって、触れることすら出来ないんだろう。

ゆっくり目を開ける。

⏰:09/09/30 02:40 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


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