こいごころ
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#351 [向日葵]
どこかに横たわっているのがわかる。

首を動かせば、茉里が口をきゅっと閉めて、嗚咽が漏れないように泣いていた。

その姿が、胸を締め付ける。

少し見入っていると、茉里がこちらに気づいた。

「あ、アンタ……、なんで泣いて」

痛い。
頭が痛かった。

そういえば、自分は確か試合中で、相手に押され、宙に浮いたと思えば、もうそこから記憶がない。

⏰:09/09/30 02:40 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#352 [向日葵]
どうしたものかと、ゆっくり起き上がろうとすれば、茉里がその場から逃げようとした。

痛いのも忘れてしまうくらい早く起き上がって、その腕を掴む。

「待て!」

しっかり起き上がりきると、また痛みが頭を突き抜ける。

それでも逃げようとする茉里の腕を強く握ると、何かが落ちる音がした。

何かと見れば、それは袋で、中に見た事があるものかだあった。

もっともそれは、元は長いものだったはずなのだが、どうやら彼女が短く切ってしまったらしい。

⏰:09/09/30 02:40 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#353 [向日葵]
「これ……」

「違う!宗助のじゃないっ!」

そんな赤い顔で言われれば、宗助の物だと言ってるようなものである。

話そう。

今の気持ちを、聞いてもらいたい。

傷つけたかったわけじゃない。
利用してもいいと言われたが、利用した事なんてない。

信じてくれ、それだけは。

「話、させてくれるな」

まっすぐ見つめれば、赤い顔をしたまま茉里は固まる。

しかし、その顔は怯えている。

⏰:09/09/30 02:41 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#354 [向日葵]
わからない。
自分の何が彼女を怯えさせているのだろうか。
せめてもと、宗助は握っていた手の力を緩めた。

「どうして、泣いてんの……?」

とりあえず、手始めにその事を訊いてみる。

茉里の顔は更に赤くなる。
下唇を噛み、答えたくなさそうにしている。

「……関係。どこで泣こうが、私の勝手でしょ」

「勝手だけど、俺の事が関係ないなら喋れるでしょ?」

「どうして……。私の事なんてどうでもいいでしょ」

⏰:09/09/30 02:41 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#355 [向日葵]
カッとなって、宗助は茉里の腕を引いた。
あっけなく、茉里は宗助がいるベッドの上、いや、膝の上に座ってしまうこととなった。

思いがけず、2人の顔が近づく。その距離に驚く間もなく、宗助が口を開いた。

「利用したとか、どうでもいいとか……もう聞き飽きた……。確かに、アンタには最低な事をした。自分でも、そんな事わかってる」

あの時のように、苦しげな声。

無意識のうちに、宗助を傷つけたのは、また私なの?

⏰:09/09/30 02:42 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#356 [向日葵]
「けど、アンタがどうでもいいから傷つけたんじゃない!いや、違う、傷つけたくなかった、絶対に!」

強い言葉が、胸に突き刺さって溶けていく。
まるで告白されてるような感覚になる。

まだそんな事思う自分に呆れたけれど、こんなに間近に鋭く見つめられては、勘違いしても仕方がないのかもしれない。

「あの時は、ああ言ったけど、今はわからない」

宗助は少し目をそむける。

「……何が」

⏰:09/09/30 02:43 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#357 [向日葵]
小さな声だと自分でも思うくらいの声で訊いた。

「アンタの事」

「……どういう……こと……」

怖い。そう思う。
もう自惚れるのはこりごりだ。

散々痛い思いをしてきた。
心に傷を作って、闇色に染まるのはもう嫌だ。

だから、宗助の一挙一動、一言一句、それが全部怖い。

走馬灯のように、一瞬瞼の裏に、幼い頃の自分が映る。

枕に顔を埋め、中途半端に成長した心が、大声で泣くのを許さないように、声を押し殺して泣く。

⏰:09/09/30 02:44 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#358 [向日葵]
もう大好きな人に、心を潰されるのは嫌だ。
奥深いところに隠された茉里の闇は、深いと言うよりは濃いのだろう。

その闇の色が。

再び目を合わせた宗助の目つきは、先ほどよりも切なく、けれど強いものだった。

「アンタに対する気持ちと、先輩への気持ちが」

耐え切れなくて、身を引こうとしたら、捕まれている腕に力を入れられて、引いた分宗助が近づく。

⏰:09/09/30 02:44 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#359 [向日葵]
「頼む、逃げないで。嫌なんだ。アンタの後ろ姿を見るのは……辛い」

「そんな事言って……」

きっと、先輩ん選ぶ時なら、たとえ私の後ろすがたを見たとしても躊躇なき先輩の方にいくくせに。

「気持ちがわからない上で、俺から頼みがある」

「……なに」

言いよどむように、宗助は視線を泳がす。
時計の音と、少し離れた場所で試合の音が聞こえる。

そして宗助は驚く事を口にした。

「俺を……「仮彼氏」にしてくれないか」

驚きのあまり、目が落ちそうなほど目を見開く。

「なにを……い、言って……んの?」

⏰:09/09/30 02:45 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#360 [向日葵]
「アンタが言ってた「仮彼女」の制度とはまた違うけど、俺は自分の気持ちがはっきりとわかるまで、「仮彼氏」にしてほしい……」

しばらくは宗助の言葉に耳を傾けていた茉里だが、驚きに満ちていた顔が、宗助の言葉が最後に向かうにつれて今度は段々とその表情を曇らせていく。

途中から首をゆっくりと小さく横に振り、最後まで言った瞬間強く振った。

そして言う。

「いやよ」

強くはっきりと茉里が言うものだから、宗助は言葉を失う。

⏰:09/10/12 03:25 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#361 [向日葵]
正直に言えば、否定はされないだろうなどと甘く考えていた。

きっと、茉里の気持ちはまだ完璧には離れていないはず。
ならばもう1度2人一緒にゆっくりと歩み寄ることを望めば、茉里はその思いに同意してくれるものだと思っていた。

しかし彼女の返事は、その甘い考えを見事に崩し、「何故?」と言う言葉すら宗助から奪った。

「気持ちがはっきり……ってことは、私じゃない可能性だってあるんでしょ?」

そう言われて宗助はハッとした。
茉里が言った事を、何も考えていなかった。
つまり、自分の提案は、茉里をまた傷つけることになるかもしれないのだ。

⏰:09/10/12 03:26 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#362 [向日葵]
「……その時、私はどうすればいいの?」

「……それは」

「その可能性がないにしても、考えさせて。……私、今すぐ答えを出せない。……無理だよ」

せき止めていた涙がおさえれず、1粒、2粒と落ちていく。

「そんな簡単に決められるほど、いい加減な気持ちで宗助のこと好きになったんじゃない……っ!」

掴まれていた腕を乱暴に振り払って、茉里は医務室を出た。
背中でドアを閉めて、もたれたままズルズル座り込む。

⏰:09/10/12 03:26 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#363 [向日葵]
胸がズキズキと痛い。

どういう痛みかはわからない。
それでも涙は流れる。

喉も、嗚咽をこらえればこらえるほど、焼けるように熱くなる。

自分が相変わらず馬鹿だと思った。

あんな真剣な顔をされて、真剣な声で話されて、もしかしたら先輩よりも自分を選んでくれたのかと期待した。

なのに彼から出た言葉は、「仮」彼氏にしてほしいだった。

しかもその内容にも、失望した。

⏰:09/10/12 03:27 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#364 [向日葵]
茉里の場合は、1人をこちらに向かせる事を目的としたことだった。

でも宗助は違う。

想う人が2人いて、もし1人の人に気持ちがしぼられれば、どちらかはもう……。
そうなれば、もしかすれば友達にすら戻れないほど立ち直れないかもしれない。

宗助は、そこまで考えてくれていたのだろうか。

いや、考えてくれてなかったよね、あれは……。
それなら私の気持ちは……。
届いてなんか、いなかったんだ。

涙はしばらく止まってくれなかった。

⏰:09/10/12 03:27 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#365 [向日葵]
――――――――…………

「頭は平気?」

もう大丈夫だろうと医務室を出た宗助に話しかけてきたのは、皆から王子様と呼ばれている沢口だった。

肌の色の白さが、余計に王子様のような顔を際立たせ、制服を着れば、きって剣道で激しく動く沢口を想像出来ないだろう。

男同士ですら、声をかけられれば戸惑ってしまう。

「ああ、大丈夫」

「そう、それは良かった。……ところで訊くけど、医務室から出てきた加賀さんは、どうして目を腫らしているの?」

息を吸って、止めた。

沢口を改めてみると、微笑んでいるのに、まとっている空気は寒さすら感じるほど冷たいものだった。

「わからない。君は何を迷っているんだ。もう答えは出ているのだろう?でなきゃ他の男に喋りかけられている加賀さんを見て、あんな敵意丸出しの態度はとらない」

⏰:09/10/12 03:27 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#366 [向日葵]
今朝、茉里が沢口と話していた時のことだろう。

「……お前に、関係ないだろう」

「あるよ。僕は加賀さんに好意があるし」

治ったはずの痛みがまた復活しそうで、宗助は頭をおさえた。

「認めたくないんだ……」

小さい声は、沢口に届いたのだろうか。
沢口は片方の眉をひそめて、怪訝そうな顔をする。

他に向くほど、自分の気持ちが軽かったのかと、認めたくなどなかった。

そうだ。そんな自分勝手な気持ちが、彼女を追い詰めたのだ。

⏰:09/10/12 03:28 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#367 [向日葵]
最低だなんて、わかっているんだ。
そうやって責められても、まだ足りないと思うほどに……。

「こらー。私の可愛い後輩をいじめないでくれるかなー」

流れている空気を無視するように、聞き慣れた声が茶化して入ってきた。

その方をみると、千早先輩がそこに立っていた。

制服ではなく、今日は私服だ。

そんな先輩を見ても、宗助の胸が高鳴ることはない。
しかし、そんな自分に宗助は気づいていない。

「沢口くんだっけ?」

⏰:09/10/12 03:28 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#368 [向日葵]
2人の間に入るように、それでいて当たり障りないように微笑みながら、宗助を助ける。

「あんまり責めないでやって。この子それでなくても自分追い詰めちゃう子だから」

その笑顔に、引き下がるべきだと感じた沢口も、少しだけ作ったような笑顔を見せてからその場を去った。

「まったく。アンタは何を落ち込んでんだか」

千早先輩は、宗助の頭を軽く叩く。
されるがままの宗助は、さらに悲しい顔をする。

⏰:09/10/12 03:29 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#369 [向日葵]
「先輩……、俺……」

「ん?」

「……先輩が、好きです」

先輩は口に笑みを浮かべたまま、宗助の頭から手を下ろした。

「……うん、わかってる。でもね宗助、その好きはどんな好きだろう?」

宗助は小さく「え……」と呟く。

そんなの、決まっているじゃないか。

「1人の女の人としてです」

「そうかな」

⏰:09/10/12 03:29 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#370 [向日葵]
訊かれて、ますます宗助の頭にハテナが舞う。

「最初は確かにそうだったかもね。宗助の想いを否定はしないよ。でもね、慕っているっていうのと、好きって気持ちを間違えちゃダメだよ」

慕っている……。

「目をけらしてよく見てみなさい。大切にしたいのは……笑顔がみたいのは、誰?」

自分でも驚くぐらい、その笑顔を浮かべるのは早かった。

彼女の心からの笑顔を、ここ最近見れていない。
宗助の瞼の裏に映った、彼女の新しい記憶での顔は、泣いている。

⏰:09/10/12 03:30 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#371 [向日葵]
「宗助は優しいから、慕ってくれてる私の事を気にしてくれてたんだよね。そのせいで、見つけるべきものを見つけられずにいたね。……それは、私のせいだ」

そう言われて、改めて考えた。

彼氏とケンカした先輩を見たとき、自分はどう思った?

――早く元気になって、彼氏と仲直りしてくださいと思った。

彼氏と別れた時、あれほど泣いている先輩を見て、どう思った?

――大丈夫。また新しい恋が出来るはずだと思った。

どうして、先輩に自分が彼氏になると、守ると、思わなかったんだ。そして、言わなかったんだ。

⏰:09/11/01 17:29 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#372 [向日葵]
そこでもうわかってしまった。
霧は晴れた。

そこにあるのは……。

宗助の様子に、千早先輩は頭を撫でた。

「大丈夫、わかったならまだ間に合う。精一杯、伝えれば、きっと願いは叶うから」

試合頑張れ。そう言って、先輩は回れ右をした。

―――――――――…………

この人はよく現れるな、と思う。

さすがに今回の試合は地元から離れているから、来ないと思って射たのに。

⏰:09/11/01 17:30 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#373 [向日葵]
昼休憩にはいり、後輩が群がる原因の人物を見て、茉里はそう思った。
その光景を遠めで見ながら、茉里は午後からの試合の為の準備をする。

外に置いてあるヤカンに用があったので、外に出ると、しばらくして声がかけられた。

「大変だね、手伝おうか?」

手を止めて、ゆっくり顔を上げれば、それと同時に千早先輩がしゃがみこみ、茉里と目線を合わせた。

ニコニコしている先輩に、茉里は思わず戸惑う。

「……いえ」

「ごめんね」

⏰:09/11/01 17:30 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#374 [向日葵]
唐突に謝られて驚くが、この間のことだということはよくわかった茉里も完璧に作業をとめて、先輩に向き直る。

「私も、手を出しました……。ごめんなさい……」

「いいの。おかげで目が覚めたでていうかねっ」

ぺたりとコンクリートの2、3段ほどしかない階段に座る。
茉里もその隣に座ることにした。

「ねえ、茉里ちゃんから見てさ、私ってどんな性格?」

「えっと……。しっかりものっていうか、潔いっていうか……」

「そう、そのイメージが1番強いでしょ?だからさ、どうしても誰にも寄りかかることって出来なかったのよ。それは私のわがままで、どうしても、皆の求めてる自分でいたかったっていうか、ね」

⏰:09/11/01 17:30 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#375 [向日葵]
先輩は空を見上げる。

寒いが、その寒さゆえか、空はとても澄んでいて綺麗だ。
ときどきトンビなんかが微かに翼を動かして飛んでいるのが微かに見えるくらいの高さで見える。

そんな空を見上げる先輩は、どこか清々しい感じがして、綺麗で、茉里は少し悔しくなる。

神様は平等じゃない、と。

「……でも、それを見抜いたのは、宗助だった」

その名前を出されて、反応してしまう。
しかし先輩は気づいた様子もなく、ただ淡々と話す。

⏰:09/11/01 17:31 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#376 [向日葵]
「それが嬉しくてね。私はつい、宗助に甘えちゃったの。宗助はわかってくれる、宗助にだけなら本当の自分を出しちゃえってね……。でも、これだけはわかってね」

スカートの上に置いていた茉里の冷えた手の上に先輩の手が重なり、優しく包む。

「宗助が好きなのは、やっぱり茉里ちゃんなの」

それを聞いて、茉里は一瞬固まるが、すぐに勢いよく首を横に振る。

「そんな、わけな……っ、宗助はずっと……」

「ねえ茉里ちゃん、茉里ちゃんが変質者に襲われそうになった時のこと覚えてる?」

丁度、梅雨の頃の話だ。

⏰:09/11/01 17:31 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#377 [向日葵]
間一髪で、宗助が助けてくれたあの時。

しかし、茉里はアレ?と思った。変質者に襲われたのを知っているのは助けてくれた宗助、そして友人のミュシャ。

どうして先輩が?

そう顔に書いてあったのか、先輩は答えてくれた。

「実はね、私たまたまそれ見たのよ。ほら、駅のホームって途中から屋根がなくなって、壁が鉄格子になってるところあるでしょ?」

茉里たちの最寄り駅は、電車の先頭に乗車する場所のホームは、先輩がいうような状態になっており、鉄格子越しには、学校から駅までの通学路が見える。

⏰:09/11/01 17:32 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#378 [向日葵]
「最初見たとき、雨降ってるわ暗いわ遠いわで、何をしてるかわからなくてね。でもよくよく見れば様子がおかしくて、思わず助けようと鉄格子登ろうと思ったのよ。……そしたら」

「宗助が……来てくれた」

先輩の続きを茉里が繋げ、先輩は頷いた。

「じゃあ宗助は、先輩よりも早く鉄格子を……?」

その茉里の問いに、先輩はきょとんとした。
確かその時、宗助と先輩は一緒に帰ったはずだった。

「え?宗助から聞いてない?宗助、私を駅までの送ってくれた後、道を引き返したのよ」

え……。

⏰:09/11/01 17:32 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#379 [向日葵]
「でも、私、あの日デパートに行くって……」

「あれ、茉里ちゃん気づかなかった?自転車置き場の前通り過ぎた時、私たち丁度その向かいの外にいたのよ」

デパート側ではないもう1つの通学路は、道と自転車置き場が平行にあり、その間をフェンスでしきっているだけのため、学校の中が見えるようになっている。

傘と、落ち込んでいたので足元しか見ていなかったのが重なり、茉里は2人に気づけなかったらしい。

「私、先生に用事があったのを思い出して、正門近くから引き返して校舎に一旦帰ったのよ。だからその時間差も……。って、茉里ちゃん私より早く更衣室出てなかったっけ?」

⏰:09/11/01 17:32 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#380 [向日葵]
更衣室に先輩が入ったのが早くても、もともと着替える必要のない茉里の方が早いのは当たり前で、その時の茉里の複雑な気持ちなんて知る由もない先輩は、デパートに行ったはずの茉里が校内に残っているのが、ただただ不思議だった。

ああ……なんてあほらしいの……。

思わず茉里は頭を抱える。

「……それは、いずれ話ます……」

「うん、ありがとう。だからね、きっと宗助はその時から茉里が気になって仕方なかったのよ。だって、宗助言ったもの」

[先輩、加賀が心配なので、戻ってもいいですか?]

その言葉に、、茉里は目を真ん丸に見開く。

勘のいい宗助だから、茉里がデパートに行かない事もお見通しだったのかもしれない。

⏰:09/11/01 17:33 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#381 [向日葵]
なによ……。
心配なんてしてないみたいに言ってたくせに……。

県大会の帰り道、宗助が何故あの場所にいたかを訊いた時のことだ。
宗助は、嘘でも心配なんて言ったら、茉里が調子のる、だから内緒だと言ったのだ。

なによ……なによ……。
結局宗助は、いつもそうやって自分を気にかけてくれてたんじゃないか。
うそつき。
好きになる保障なんてないって、断言したのは、誰よ。
そんなに心配してもらってただなんて、私……。

「知らなかった……」

宗助の気持ちを、1番理解出来ていなかったのは、自分だ。

⏰:09/11/01 17:34 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#382 [向日葵]
「あの子の気持ち、もし伝えてきたら、受け止めて、茉里ちゃんなりの正直な気持ちを答えてやってね」

そうやって笑う先輩の笑顔は、今度は悔しいなんて思わず、心から綺麗だと思えた。

―――――――――…………

試合も終わり、全員解散した後、またバスに乗って帰る。

街はイルミネーションで彩られ、そこで今日がクリスマスだったことを思い出した。

きっと今頃、茉里の両親はディナーで幸せなひとときを過ごしているのだろう。

⏰:09/11/23 23:18 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#383 [向日葵]
娘はボロボロなのに……。
少し恨めしい……。

「ねー、皆でなんか食べて帰ろうよー」

駅に着いてから綾香が言った。

私も帰ったところでな……

「行く人おー」

ほとんどが手を挙げる。
もちろん茉里も挙げる、つもりだった。
挙げるつもりだった手は、途中で止められた。

「悪い、俺たち用事があるから」

そう言って、止められた手をそのまま握られ、引っ張られる。

⏰:09/11/23 23:18 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#384 [向日葵]
茉里は思考がついていけずにいた。
だって引っ張ってるのは。

「そ、そうすけ……っ!」

さっさと切符を買い、帰る方面のホームへ、宗助は一言も話さず引っ張っていく。
少し強引なくらいに。

一同は口を開けてポカンといった風な表情で2人を見送る。

こんな事をしてしまえば、きっと次の稽古ではからかわれる。
宗助が好まない状況になる。

それでも宗助は止まってくれず、あまり人が乗らないだろう乗車位置の場所で、ようやく止まってくれた。

⏰:09/11/23 23:19 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#385 [向日葵]
息があがる茉里。
男子と女子とでは歩幅が違う。
そんな些細な事すら気にしないくらい、何かに没頭していただろう宗助は、未だ茉里の手を握ったままだ。

「……な、なに……」

「言わなきゃ、ならないことを、言っておかなきゃならないと思ったから……」

息と共に、動悸も早くなってくる。
じっと見つめられれば、息が止まる。

そんなにじっと、みつめないでほしい。
ちゃんと目が見れないじゃない……。

「今日言ったことは、忘れて」

⏰:09/11/23 23:19 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#386 [向日葵]
「い……いつの……」

「医務室。“仮彼氏”のこと」

「……わかった」

不安がよぎる。

また違うの?考えすぎなの?
自惚れすぎなの?
もう……気持ちが通じることはないの……?

「そのかわり、別の頼みがある」

握ってる手が、さらに強く、けれど痛くならない程度に力をこめられる。

「こっち、向いてくれない?」

自分でも気づかないほど、茉里はうつむいていた。

⏰:09/11/23 23:20 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#387 [向日葵]
でも期待と、期待を裏切られないかの不安で、頑なにうつむいたままだ。

すると握っていた手が放された。急に温かさがなくなったので、手の温度が下がる。

なんで放したのかと疑問に思う暇もなく、その手が、頬にきた。
触れられて一瞬ビクッと震えてしまう。
その手が、そのまま上を向かせる。

宗助と目があってしまう。
顔が赤くなっていくのが自分でわかる。

「俺を……加賀の彼氏にしてほしい」

⏰:09/11/23 23:20 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#388 [向日葵]
茉里は目を見張る。

「……え」

かすれた声しか出ない。
ここには止まらない電車が通り過ぎていく。
その風で、2人の髪が巻き上がる。

前髪が長く、表情がわかりにくい宗助の顔が、それによってわかるようになる。

せつないその表情はは、今言った事が嘘ではないことを物語っていた。

「もう絶対に傷つけない。約束する。だから……」

一途であることは、とても罪だと思ったあの日。

⏰:09/11/23 23:20 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#389 [向日葵]
もう諦めるしかないと思った。
諦めて、恋愛の仕方を変えようと思った。

だって自分のこの想いは、人を苦しめたり、傷つけるしか出来ない。
そんな気持ち、いらないと思ったから。

でも。

見開いた目から、一筋の涙が落ちる。
それはクリスマスで飾られたイルミネーションで綺麗に光る。
その光に、宗助は眩しそうに目を細める。

⏰:09/11/23 23:21 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#390 [向日葵]
一途であれば、通じる想いがあるのを、こんな自分を求めてくれる人がいるのを、今わかった。

重いなんて思わない人が、こんな自分を1番だと言ってくれる人が、ここにいる。

それが、なにより嬉しくて、茉里は唇を震わせる。

喉が詰まり、声にならない嗚咽が漏れる。

「私が……それをどれだけ望んでたか……知ってるでしょ?そんなこと、訊かないでよ……っ」

⏰:09/11/23 23:23 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#391 [向日葵]
その可愛くないOKサインに、宗助は柔らかく笑った。
頬に触れていた手が、頭にきたかと思えば、宗助の胸に引き寄せられる。

自分から触れたことはあっても、宗助から触れるのは初めてで、ドキドキと高鳴る心臓とは裏腹に、涙が次から次へと溢れて、止めることが出来ない。

宗助も安堵しているのか、抱きしめる腕に力をいれる。

⏰:09/11/23 23:24 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#392 [向日葵]
キンとした、肌を切るような寒さの中、まるで暖めあうように2人はしばらくそのまま抱き合っていた。

茉里にとっても、宗助にとっても、忘れられないクリスマスになった。

⏰:09/11/23 23:24 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#393 [向日葵]
[11]いとおしい

試合が終われば、もう年末で、試合後の休みが明けてから1日しか練習はなく、早めの長期休暇に入った。

茉里の予想とは違い、部活に来ても、2人をからかったり騒ぎ立てたりする事はなかった。

もしかすると、たまたまあの日に茉里の複雑な想いを知った綾香が注意してくれたのかもしれない。

その気遣いに感謝しつつ、茉里は宗助と仲良く手を繋いで帰っていた。

「明日から来年の4日まで部活休みだねー」

⏰:09/12/10 23:53 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#394 [向日葵]
「冬休みの課題終わらすチャンスだな」

色気のない会話だなー……。
デートに誘うとかしてくれなうのかなー……。

「年末は何してんの?」

宗助が訊く。

「片付けとかかな。あとは1人で夜になるまで出かける」

「なんで?」

「くそ馬鹿親父が家にいるから」

にっこりと笑って嫌味を言う茉里に、宗助は苦笑する。

⏰:09/12/10 23:53 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#395 [向日葵]
毎年29日に茉里の父は休みに入り、家にいる事が多くなる。
顔を合わせるのが嫌なので、茉里はいつも出かけるか部屋にこもるかしていた。

幸い部屋にはテレビもDVDレコーダーもあるので、見たい映画をレンタルで貸りたりすれば、すぐに飽きることもない。

それに茉里は本好きで、部屋に行けば本があるので、1度見たものでもまた読んだりしている。

「でも夜までなんて危ないだろ。冬場は日暮が早いし」

「大丈夫よ。別にそんな危ないところに行くわけじゃないんだから」

「変質者に襲われかけた奴がなにを偉そうに」

⏰:09/12/10 23:54 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#396 [向日葵]
「ちょっと、なにその言い方」

「心配してんだよ」

あっさりと言われて、思わず立ち止まる。

「なに?」

「宗助ってそんなキャラだった?」

「キャラって……なんの話?」

「そんなことサラッと言うタイプだっけ?」

ムッと眉を寄せ、少し顔を赤らめる宗助は、ふてくされたように横を向く。

「じゃあもうなにも言わない」

⏰:09/12/10 23:54 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#397 [向日葵]
「えー!ヤダヤダ!ごめんごめん!」

「じゃあさっさと歩く!」

繋いでいた手をグンと引っ張られ、前につんのめる。
キャハハと茉里は子供のようにはしゃぐ。

「で、話戻すけど」

「え、なんの話してたっけ?」

「アンタの話だろ!」

「もー怒んないでよー!」

片耳を繋いでない方の手でふさぎ、うるさいとアピールする。

⏰:09/12/10 23:54 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#398 [向日葵]
そんな茉里に宗助は角を生やす。

「アンタが脱線させるわ忘れるわのせいだろ!」

「脱線ついでにいいかしら?」

もう突っ込む元気もなくなった宗助は、脱力しながら「なに」と訊いた。

「いつになったら私の名前を呼んでくれるの?」

「呼んでるだろ、加賀って」

「それは苗字でしょ、それ」

「別にいいだろ名前なんて」

⏰:09/12/10 23:55 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#399 [向日葵]
「名前なんてえ?!ちょっと聞き捨てならないわよ!」

それきり、本題はどこかへ行ってしまい、ずっと名前のことで言い争いながら帰ってしまった。

―――――――…………

次の日。
茉里は朝早くから家を出ていた。

父が仕事が終わって、朝に帰ってくると母から聞いたからだ。

ばったり会いでもすれば、その日1日は最悪な日になると茉里は思っている。

⏰:09/12/10 23:55 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#400 [向日葵]
なのでそうならないように外に出た。

朝9時なのに、街中は若者がそれなりにいるのは、冬休みで皆浮かれているせいかもしれない。

ただ困るのは、この時間では、茉里が入るような店が開いていない。
開いているとすれば、コンビニか、流行りのカフェぐらいだ。

仕方ないので、その流行りのカフェで、キャラメルラテを買って、呑気に近くの公園で過ごすことにした。

うーんこれからどうしようかな……。

その時、どこからともなく、バドミントンの羽が飛んできた。

⏰:09/12/10 23:56 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


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