こいごころ
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#362 [向日葵]
「……その時、私はどうすればいいの?」
「……それは」
「その可能性がないにしても、考えさせて。……私、今すぐ答えを出せない。……無理だよ」
せき止めていた涙がおさえれず、1粒、2粒と落ちていく。
「そんな簡単に決められるほど、いい加減な気持ちで宗助のこと好きになったんじゃない……っ!」
掴まれていた腕を乱暴に振り払って、茉里は医務室を出た。
背中でドアを閉めて、もたれたままズルズル座り込む。
:09/10/12 03:26
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#363 [向日葵]
胸がズキズキと痛い。
どういう痛みかはわからない。
それでも涙は流れる。
喉も、嗚咽をこらえればこらえるほど、焼けるように熱くなる。
自分が相変わらず馬鹿だと思った。
あんな真剣な顔をされて、真剣な声で話されて、もしかしたら先輩よりも自分を選んでくれたのかと期待した。
なのに彼から出た言葉は、「仮」彼氏にしてほしいだった。
しかもその内容にも、失望した。
:09/10/12 03:27
:SH05A3
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#364 [向日葵]
茉里の場合は、1人をこちらに向かせる事を目的としたことだった。
でも宗助は違う。
想う人が2人いて、もし1人の人に気持ちがしぼられれば、どちらかはもう……。
そうなれば、もしかすれば友達にすら戻れないほど立ち直れないかもしれない。
宗助は、そこまで考えてくれていたのだろうか。
いや、考えてくれてなかったよね、あれは……。
それなら私の気持ちは……。
届いてなんか、いなかったんだ。
涙はしばらく止まってくれなかった。
:09/10/12 03:27
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#365 [向日葵]
――――――――…………
「頭は平気?」
もう大丈夫だろうと医務室を出た宗助に話しかけてきたのは、皆から王子様と呼ばれている沢口だった。
肌の色の白さが、余計に王子様のような顔を際立たせ、制服を着れば、きって剣道で激しく動く沢口を想像出来ないだろう。
男同士ですら、声をかけられれば戸惑ってしまう。
「ああ、大丈夫」
「そう、それは良かった。……ところで訊くけど、医務室から出てきた加賀さんは、どうして目を腫らしているの?」
息を吸って、止めた。
沢口を改めてみると、微笑んでいるのに、まとっている空気は寒さすら感じるほど冷たいものだった。
「わからない。君は何を迷っているんだ。もう答えは出ているのだろう?でなきゃ他の男に喋りかけられている加賀さんを見て、あんな敵意丸出しの態度はとらない」
:09/10/12 03:27
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#366 [向日葵]
今朝、茉里が沢口と話していた時のことだろう。
「……お前に、関係ないだろう」
「あるよ。僕は加賀さんに好意があるし」
治ったはずの痛みがまた復活しそうで、宗助は頭をおさえた。
「認めたくないんだ……」
小さい声は、沢口に届いたのだろうか。
沢口は片方の眉をひそめて、怪訝そうな顔をする。
他に向くほど、自分の気持ちが軽かったのかと、認めたくなどなかった。
そうだ。そんな自分勝手な気持ちが、彼女を追い詰めたのだ。
:09/10/12 03:28
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#367 [向日葵]
最低だなんて、わかっているんだ。
そうやって責められても、まだ足りないと思うほどに……。
「こらー。私の可愛い後輩をいじめないでくれるかなー」
流れている空気を無視するように、聞き慣れた声が茶化して入ってきた。
その方をみると、千早先輩がそこに立っていた。
制服ではなく、今日は私服だ。
そんな先輩を見ても、宗助の胸が高鳴ることはない。
しかし、そんな自分に宗助は気づいていない。
「沢口くんだっけ?」
:09/10/12 03:28
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#368 [向日葵]
2人の間に入るように、それでいて当たり障りないように微笑みながら、宗助を助ける。
「あんまり責めないでやって。この子それでなくても自分追い詰めちゃう子だから」
その笑顔に、引き下がるべきだと感じた沢口も、少しだけ作ったような笑顔を見せてからその場を去った。
「まったく。アンタは何を落ち込んでんだか」
千早先輩は、宗助の頭を軽く叩く。
されるがままの宗助は、さらに悲しい顔をする。
:09/10/12 03:29
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#369 [向日葵]
「先輩……、俺……」
「ん?」
「……先輩が、好きです」
先輩は口に笑みを浮かべたまま、宗助の頭から手を下ろした。
「……うん、わかってる。でもね宗助、その好きはどんな好きだろう?」
宗助は小さく「え……」と呟く。
そんなの、決まっているじゃないか。
「1人の女の人としてです」
「そうかな」
:09/10/12 03:29
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#370 [向日葵]
訊かれて、ますます宗助の頭にハテナが舞う。
「最初は確かにそうだったかもね。宗助の想いを否定はしないよ。でもね、慕っているっていうのと、好きって気持ちを間違えちゃダメだよ」
慕っている……。
「目をけらしてよく見てみなさい。大切にしたいのは……笑顔がみたいのは、誰?」
自分でも驚くぐらい、その笑顔を浮かべるのは早かった。
彼女の心からの笑顔を、ここ最近見れていない。
宗助の瞼の裏に映った、彼女の新しい記憶での顔は、泣いている。
:09/10/12 03:30
:SH05A3
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#371 [向日葵]
「宗助は優しいから、慕ってくれてる私の事を気にしてくれてたんだよね。そのせいで、見つけるべきものを見つけられずにいたね。……それは、私のせいだ」
そう言われて、改めて考えた。
彼氏とケンカした先輩を見たとき、自分はどう思った?
――早く元気になって、彼氏と仲直りしてくださいと思った。
彼氏と別れた時、あれほど泣いている先輩を見て、どう思った?
――大丈夫。また新しい恋が出来るはずだと思った。
どうして、先輩に自分が彼氏になると、守ると、思わなかったんだ。そして、言わなかったんだ。
:09/11/01 17:29
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