こいごころ
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#501 [向日葵]
「ミュー……」

茉里がミュシャの腕の中で呟く。
「ただ好きってだけで、そばにはいれないの?いてくれないの?好きなだけじゃ、皆、去っていってしまうの……?」

そんなことないと言いたかった。
でもそれこそ安っぽい言葉になると思った。

「それだけで、好きってだけで、そばにいてくれたらいいね……。いつか茉里に、そんな人が出来たらいいね……」

しばらくの間、お互いの鼻をすする音しか聞こえなかった。
茉里がミュシャの胸に擦り寄るように顔をうずめる。

⏰:10/06/09 00:21 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#502 [向日葵]
「ありがとう……ミュー……」

涙で濡れた、か細い声で、茉里はそう言った。

―――――――――…………

それからは一緒に帰るようになったし、何かあれば私に絶対言うようになったわね。

回想から戻ってきたミュシャは、未だ華名から質問責めをうけている宗助を見ながら思う。

「宗兄ったら宗兄いーっ、いい加減言って頂戴よおー」

⏰:10/06/09 00:21 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#503 [向日葵]
「男のくせにだらしないぞ彼氏ー」

ミュシャも茶々をいれる。

すると宗助はぴたりと動きを止め、急に立ち上がった。

「あーわかったよ!言えばいいんだろ!好きだからだよ!好きだからそばにいたいってただそれだけだよ!悪いかこの野郎!」

半ばヤケを起こして言ったように思うが、屋台からの灯りでわずかに照らされた宗助の顔が徐々に赤らんでいくのを見れば、言ったことは嘘ではないようだった。

華名は頬に手を添えて、「まあっ!」とでも言うように驚きながらも、自分ではまだ想像も出来ないような恋人たちに対し、憧れの眼差しを向ける。

⏰:10/06/09 00:21 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#504 [向日葵]
一方でミュシャは、軽く驚いていた。

あ……、そうか、だから茉里は惹かれたんだ。
笹部はそういう奴だから、諦めようとしても、諦めなかったんだ。

たとえ今この言葉を茉里が聞いていなかったとしても、何かを感じとっていたのかもしれない。

フッと、落とすように笑む。

自分が思っているよりも、案外この2人は大丈夫なのかもしれないな。

⏰:10/06/09 00:22 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#505 [向日葵]
茉里が大好きだ。
同性愛とかではなく、友達として、親友として、大切な人として……。

だから、たとえ不安を取り除くことが出来るのが、不器用な宗助でも心からの安心は出来なかった。

けれど、自分は案外心配症だったらしい。

空を見上げれば、綺麗な星が瞬いていた。
それに向かうように、白い息を吹きかける。

あれからずいぶん時が進んだんだなあ……。

⏰:10/07/07 02:27 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#506 [向日葵]
そしてはたっと気づく。

「茉里ったら、遅いわね」

―――――――――…………

「あー、やっぱり電話かかってきてたー……」

一方茉里は、やっと携帯を見て、ミュシャからの電話通知と、受信メールに気づいた。

人の群れから離れ、今はおみくじが沢山ついている木の下にいる。

宗助と手が離れていたことにまったく気づかず、お参りをした後これからどうするかを訊こうとしたら、後ろは知らない人たちばかりで、しばし固まった。

⏰:10/07/07 02:28 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#507 [向日葵]
「茉里ちゃん……?」

がやがやとうるさい人声の中に、澄んだ声が茉里を呼んだ。
茉里はその方を向く。

「やっぱりぃ!久しぶりだねえっ」

「千早先輩!」

千早先輩は駆け寄ってくると、嬉しそうに満面の笑みを浮かべ、茉里の手をとってぶんぶんと振り回した。

されるがままになっていた茉里は、後ろに視線をずらすと、誰か男の人が立っていた。

「彼氏さん……ですか?」

「え?あ、うんそう。元カレ。まあ今カレだけどね。より戻したの」

⏰:10/07/07 02:28 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#508 [向日葵]
照れながら笑う千早先輩は幸せそうで、茉里も笑顔になる。

「茉里ちゃんも、宗助とうまくいってる?」

「宗助があんな感じなので、あんまり今までと変わらないと言うか……」

「まあ宗助がいきなり甘々になってもねえー」

キャラキャラと笑う千早先輩を、後ろの方にいた彼氏が呼ぶ。
それに返事した千早先輩は、「じゃあまたね」と爽やかに去っていった。

⏰:10/07/07 02:28 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#509 [向日葵]
先輩には沢山迷惑をかけた。
引っ張たいたり、暴言を吐いたり。
それでも、こんな後輩を許してくれる先輩が、茉里はすごく素敵に見えた。

「あちらはどなたですか?」

急に背後から栞が出てきた。
驚いた茉里は、文字通り跳びはねる。

「び、びびびっくりしたー!」

「先輩なんですか?仲がずいぶんと良いんですね」

「う、うん、色々とお世話になってて……」

「宗助が好きだった人ですよね?」

⏰:10/07/07 02:29 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#510 [向日葵]
なんでそれを?

驚きを隠せず、栞をじっと見れば、にこりと微笑まれる。

「宗助のことはなんでも知ってますよ。何歳までおねしょしてただとか、初恋は誰だとか」

「は、はあ……」

「でも不思議。あれだけ一途な宗助が、何故茉里さんと付き合うようになったんですか?」

何が言いたいのかわからないが、とりあえず自分がアピールしまくったと茉里は説明した。
アピールして、宗助が振り向いてくれたんだと。

しかし栞は、理解出来ないように首をかしげる。

⏰:10/07/07 02:29 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#511 [向日葵]
「なんかそれって、誰でも宗助にアピールしたら、宗助は誰にでもオーケー出してた感じですよねー」

その解釈に、茉里は眉を寄せる。
あまりに失礼な解釈の仕方だ。
例えばそこまでの道程になにかあったのかとか考えないのだろうか。
それとも茉里の説明がだめだったのか?

「茉里さん。宗助は、本当に茉里さんのこと、好きなんですか?」

神社に少しだけある灯りが、彼女の笑みを悪魔に見せる。
そして茉里は気づく。

これはもう、いい子でいるつもりがないと言っているんだ。

⏰:10/07/07 02:30 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#512 [向日葵]
だからわざと、意地悪なことを言ってくる。

「栞ちゃんって……私が嫌いなのね」

自分でも驚くほど冷静な声を出して、茉里は栞の勝負を真っ向から受ける。

「茉里さん、誤解しちゃいけませんよ。嫌いなんじゃないんです。―――大嫌いなんです」

笑みを浮かべていた栞の顔が、冷たいものに変わる。

「消えてほしいと思うくらいに……ね。だって、邪魔なんですもの」

言い返さなきゃ。
そう思うのに、過去の記憶が邪魔をする。

⏰:10/07/07 02:30 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#513 [向日葵]
電話に出れば、相手はクソ親父の浮気相手で、茉里を邪魔扱いした。

[あなた、ついて来ないでね]

胸の中が、煮えるように熱くなる。
醜い汚い感情が覆いつくし、それはやがて、自分を追い込むものとなる。

私は邪魔者。
私さえいなければ、宗助は、先輩を。
いや違う。そうじゃない。
宗助は、私を好きだと想ってくれたからそばにいてくれる。

そばに……。
―――――――いてくれるのかな……。

⏰:10/07/07 02:31 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#514 [向日葵]
だって父さんだってそうだった。

私たちが世界でいちばん大好きだって言ってくれてたのに。
大好きだって、愛してるって……。

なのに、裏切った―――――。


裏切った。
裏切った。

裏切り者。
うらぎりもの。
ウラギリモノ。

お前なんか―――――――…………。

「そういうアンタだって邪魔者で消えてほしいのよ」

⏰:10/07/07 02:31 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#515 [向日葵]
声が聞こえた。

この声……。
そうだあの時も、救われた。
その凛とした声が、闇に一筋の光を与えてくれた。

茉里は、栞の少し後ろに立っているミュシャを見た。
茉里があまりに遅いから、探しに来てくれたらしい。

茉里はぼんやりとミュシャをみつめる。
ミュシャはその美しい顔を怒りで歪めていた。
怒った顔は、尚も美しい。

「アンタだっていなけりゃ、今頃は茉里と、下で待ってるヘタレ彼氏と可愛い妹で年越してるわよ」

⏰:10/07/07 02:32 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#516 [向日葵]
「……宗助を悪く言わないで」

「アンタもアイツを侮辱してるようなもんよ。アイツが選んだ彼女を邪魔扱いしてるんだからね」

言い負かされた栞を放って、ミュシャは茉里のそばまでくると手を繋ぎ、待ち合わせの場所へと向かった。

茉里は、まだぼんやりとしている。

「しっかりなさい」

ミュシャが言う。

「茉里もアイツも間違ってなんかない。茉里は、アイツを信じなさい。アイツとアンタの父親は違うんだから」

その言葉に、茉里は醜く汚い感情を砂のようにさらさらと消せるようになった。

「うん……ありがとう、ミュシャ」

⏰:10/07/07 02:33 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#517 [向日葵]
そう言ったあと、茉里はちらりと後ろを伺う。
栞がちゃんとついて来てるかどうか確かめたかったのだ。

距離は少しあいてはいるが、ちゃんとついてきているようだった。

なんとなくホッとしている茉里を、ミュシャはお人よし、とため息をつく。

笑っていてね、茉里。
茉里が笑っていると、私はそれだけで嬉しいから。

誰よりも幸せでいて。

そしていつも、耳にタコが出来るくらい、のろけ話を聞かせてね。

⏰:10/07/07 02:33 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#518 [向日葵]
――――――――…………

「じゃあまたね」

「うん。またメールするからっ」

そう言って、ミュシャと別れた茉里たちは、宗助の家へ帰っていた。

少し前を華名と栞が歩き、茉里の横には宗助がいる。

「ったく、アンタはよくどこかに消えるな。夏祭りといい……」

「だって、いつの間にか宗助が手を放してたんだもん」

頬を軽く膨らませながらも、茉里はさっき言った栞の言葉が頭を離れてはいなかった。

⏰:10/07/28 01:03 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#519 [向日葵]
今はこんなに親しげでも、宗助がいつか離れてしまったら……。

考えれば考えるほど悲しくなり、足どりが重くなった。
同じ歩調で歩いていた宗助は異変に気づき、華名たちと茉里を交互に見て、ふうとため息をつく。

「華名、先に帰っててくれ」

「どうしたのお?」

「散歩に行ってくる」

「ならあたしも!」

栞の言うことに、宗助は無言で首をふる。
無言であった為に、いつもより強く拒否された気がして、栞は近づいてこようとした足を止めた。

⏰:10/07/28 01:03 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#520 [向日葵]
茉里の手を優しくとると、少し前に通った交差点まで戻り、曲がった。

歩いて少しすると、右手側に公園が見えてきた。
滑り台とブランコと砂場しかない、簡素な公園だ。

ブランコ前にある鉄棒のような場所に、2人で腰をかける。

「また、栞がなんか言った?」

それもあるが、栞にああ言われるまでもなく、茉里はずっと宗助に対して不安を抱いていた。
今までのような恋人ではない宗助だから不安になる。
決してそれは、宗助のせいじゃない。

いつまでも弱い、自分の心のせいだ。

⏰:10/07/28 01:04 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#521 [向日葵]
「クソ親父のことは……前話したよね?」

なんの前触れもなく、茉里が言った。
それでも宗助は、何も気にしていないかのように返事をした。

「ああ」

「私、何回も裏切られるうちに、心を黒い霧みたいなのに覆われていったの」

許せない。
裏切り者。
どうして。
何故。

いくつもの疑問や罵倒を頭の中で思う度、真っ黒になっていった。
その時は、そんな自分がひどい事を言っても許されると勝手に思い込んでいた。

「私ね、アイツに言ってしまったことがあるの。それは絶対言っちゃいけないこと」

⏰:10/07/28 01:04 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#522 [向日葵]
「なんて言った?」

「お前なんか死んじゃえって」

茉里は無表情で、遠くを見つめるように言った。

「言ってから、ひどく嫌な気持ちになった。裏切られて、自分の心がこんなにも真っ黒になってたんだって思うと、私こそ、死んじゃえばって思えたわ」

だから、なおさら怖い。
しかも、最悪なことが起きた。

「言葉は言霊だってよく言うじゃない?あれ本当よ。その次の日、夜帰ってこようとしたアイツが、事故にあって、死にかけたのよ」

心臓の音がやけに早く聴こえた気がした。
血の気が引く音さえわかった。
無我夢中で病院まで行った茉里が見たのは、赤く光ったランプと、ソファで座る若い女性だった。

「でもアイツ……、その時すら浮気してたのよ……っ!その女と、今から……っ。――――っ!」

⏰:10/07/28 01:05 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#523 [向日葵]
言葉が出なかった。
出そうとしていた言葉を飲み込み、代わりに息を吐き出す。
しかし宗助はわかっていた。

きっと、茉里の父は、その女性と、夜の一時を過ごす気だったんだ。

「……また黒い影が迫ってきた。それを必死に抑えたわ。もう、こんな嫌な気分と、惨めな思いになりたくなかったから……」

茉里は下を向いて、ぎゅっと目を閉じた。
その顔は、必死にあの時の感情を飲み込もうとするような、苦悶に満ちた表情だった。
手は宗助から放れ、まるで誰かを殴るのを止めるように、強く組み合わされていた。

⏰:10/07/28 01:05 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#524 [向日葵]
「……もしいつか、宗助に同じことを言ったら、私は前以上に自分を許せない。宗助だけじゃない、ミュシャや、華名ちゃんにだって……。本当にそれが現実になったら、私はきっと…………」

大好きな人達が、裏切り1つで死ねばいいと思えるほどになる自分が怖かった。

なんて自分勝手な感情だろうか。

ずっとずっと大好きでいたいのに、またいつか……。

「あんな思い……もうしたくないのに……」

声がかすれだす。

こんな事言ったら絶対重いって思われる。
いくら何も思わない宗助でも、絶対思う、
でも言わずにはいられなかった。

⏰:10/07/28 01:06 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#525 [向日葵]
離れないでと、思ってしまったから。

宗助が、組み合わせている茉里の手に、優しく触れる。

「じゃあ、もう別れたいって、思うの?」

「……そうじゃ……」

「うん。そうだよな。でも……そうやって、不安にさせるのは、栞じゃなく、俺のせいだよな」

「ちが……っ」

「前まであれだけ先輩を追い回して、何回もアンタを傷つけたくせに、急にアンタを好きだって言うし。交際経験がないから色々上手く出来ないし」

「違うの……!宗助は悪くないの!私が……っ」

⏰:10/07/28 01:06 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#526 [向日葵]
「茉里」

急に、宗助が名前を呼ぶものだから、驚いて宗助の方へ振り向く。
温かさが唇にともる。
控えめに押しつけるように重なっているのは、宗助の唇だった。

一瞬だけ触れて、すぐ離れる。

「どうやったら、アンタをその不安から救い出せる?俺だって、アンタから離れたくないんだ。もう、あのクリスマス前みたいに、傷つけたくなんかないんだ」

宗助は、重いとは言わない。
その思いすべて受け止めて、茉里を認めてくれる。

だから、茉里は甘えてしまう。

「もっと……キスして……」

どちらからともなく唇を寄せる。

⏰:10/07/28 01:06 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#527 [向日葵]
繋がれた手を、お互いに強く、しかし優しく握る。

ぎこちなく触れる唇がいとおしい。
心がとかされていく。
黒い闇が、なくなっていく。

またあなたを好きになる。
好きで好きで、大好きになって、それから……。

ううん、この言葉を使うのは、きっとまだ早い。

まだ、その言葉の意味を知ってはいない。
だからいつか言わせて。
そして言って欲しい。

あなたを、愛してます。

⏰:10/07/28 01:07 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#528 [向日葵]
[14]ヒロイン

いつだって、漫画の主人公は幸せになる。
お伽話さえも。

だから、主人公なんか、大嫌いなんだ。

―――――――――…………

1年生のある教室が騒がしい。

ざわざわと声が飛び交うなか、チョークが黒板をかする音がきこえる。

その黒板には、栞の名前が書かれていた。

⏰:10/08/13 19:59 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#529 [向日葵]
冬休みがあけ、栞は茉里たちの学校へと転校してきた。

我ながら周りをコントロールする力には長けていると思っているので、とくに媚びをうってまで友達は作ろうだなんて思ってないし、作る前に寄ってくることはわかっている。

ただ、宗助とは別々なのが嫌だ。

そんな不満を、あの2人にぶつけてみた。
今頃騒いでいるのだろうと思えば、少しだけ胸がすく気がした。

―――――――…………

「しんっじらんなあーい!」

一方、こちらは茉里たちのクラス。

⏰:10/08/13 19:59 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#530 [向日葵]
いつもどおりの毎日がまた始まると思いきや、なにやら事件が勃発していた。

「何事……?」

茉里よりも少し遅れて登校してきたミュシャが、馴染みのバカップルを見て呟く。
その顔には、「朝からうっとうしい」と書かれているように見える。

ミュシャに気づいた茉里は、持っていた漫画らしい本を宗助に投げつけると、駆け寄ってミュシャに抱き着いた。

「ミュー!宗助ったら私というものがありながらねー!」

⏰:10/08/13 19:59 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#531 [向日葵]
ミュシャに潤ませた目を向けながら、宗助の方を忙しい動きで指差す。

「違う!本当に違うんだ!俺はあんなの興味ないし!」

「ちょっとバカップル、話が見えないから順を追って話をしなさい」

話はこうだった。

茉里と宗助の共通して好きな漫画があった。
宗助はその漫画の最新刊を茉里から借りていたらしい。
読み終えた宗助は、さっき茉里に返したのだが、茉里が好きな場面を話そうと、漫画を開いたところ、中に描いていたのは茉里が好きな場面ではなく、見覚えのない絵で描かれた男女が裸で絡まっている場面だった。

⏰:10/08/13 20:00 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#532 [向日葵]
いわばその本は、思春期の男子が家族に見られないようベッドの下に隠し持っているバイブルだったのだ。

カバーだけは、茉里たちが知っている漫画であり、中身だけが変わっていたのだ。

茉里はそれはカムフラージュで宗助が仕込んだもので、そのカムフラージュをとくのを忘れたのだと思い込んでいる。

しかし、宗助は一般男子のそういったバイブルには興味がなく、それは自分のではないと主張している。

それが、今の騒ぎの全てだった。

ミュシャは呆れ半分、宗助に軽蔑の眼差し半分で話をきいていた。

⏰:10/08/13 20:00 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#533 [向日葵]
「まあ……流れから言えば笹部、アンタはクロだわね」

「ちっがう!俺は本当に知らない!」

「私に手出さないくせに、そういうのは進んで見るとかどういうこと!?」

「だーーかーーらっ!」

だが、ミュシャは宗助のことは半分信じていた。

見るからに奥手で、どちらかと言えばそういった本を見せれば恥ずかしがる、いや、もしかしたら軽蔑するぐらい嫌がりそうな宗助だ。

⏰:10/08/13 20:01 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#534 [向日葵]
興味があるならもっと茉里に対しても積極的だろうに。

それにもう1つ、思いあたる節がある。

―――――――――…………

「栞ちゃん」

すでに友達が出来た栞は、6人ほどのグループの中にいた。

「なあに?」

「彼氏とかいるの?」

「えー、いるわけないじゃん!あたしなんて可愛いくないもん!」

「えー!何いってんのー!めちゃめちゃ可愛いじゃん!」

うそつけ。

⏰:10/08/13 20:01 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#535 [向日葵]
栞は心の中で悪態づいた。

女子の定番台詞だ。
可愛いと褒めればいいと思ってるのが馬鹿らしい。

結局は

「皆の方が可愛いよ!」

と言って欲しいだけ。
そしてまた否定しながら他人を褒める。
無限に続く言葉のループは、退屈なだけだ。

栞は女の子が嫌いだ。

昔、好きな人を巡って、いじめられた経験があった。
好きでもない男子が、栞を好きと言ったからと、栞が悪者にされ、仲間はずれにされたのだ。

⏰:10/08/13 20:02 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#536 [向日葵]
理不尽な出来事は栞の心を歪ませ、宗助の妹である華名以外、女の子は皆敵と見るようになった。

それならば、アンタたちなんか利用してやるんだから、と。

それに女の子は、宗助を好きになる。
それも、女の子を嫌いになる原因の1つだった。

あたしの方が、宗助をずっと好きだったのに。
横取りなんて許さない。

主人公は、それを許される。
だから嫌い。

例えば、好きな人に恋人がいる。主人公は、好きな人に好きになってもらえるよう努力する。
好きな人はやがて主人公に惹かれる。

⏰:10/08/13 20:02 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#537 [向日葵]
待って。
ねえ待って。

じゃあ恋人は?

もし恋人が主人公なら、そんな人は嫌われるのに、どうして主人公が変われば、それを応援出来るようになるの?

[アンタだって邪魔者で、消えて欲しいのよ]

正月、ミュシャに言われたことを思い出す。

主人公は、どうして悪者にはならないの?

「―――――っ!」

体を少し震わせて、栞はお腹をおさえながらゆっくりと立ち上がった。

⏰:10/08/13 20:03 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#538 [向日葵]
「ん?栞ちゃん?」

「ごめんね話の途中に。ちょっとトイレに行ってくる」

にこりと笑ったが、その顔は少し青くなっていた。

…………………………

水を流すと共に、栞はため息をつく。

月のものはこれだから嫌だ。

栞は人よりも痛みがひどく、薬でいつも和らげていたが、今日はたまたま薬を飲むのを忘れていた。

⏰:10/09/06 23:59 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#539 [向日葵]
仕方ない、保健室で貰うか。

休み中、学校へ入り、ある程度どこに何があるかを把握している為、誰にも頼らず保健室を目指すことが出来た。

歩く度に鈍痛がひどくなっていく気がして、速度がだんだんと落ちていく。

保健室のプレートを見た瞬間は、安堵で倒れそうになった。

「失礼しまー……」

途中で口を閉じる。
中に見知った人物がいたからだ。

おそらく学校一綺麗とうたわれているだろう人物だ。
少しピンク色が入った金髪はフワッと柔らかそうで、それを際立たせるような白い肌は透き通り、手足はすらりと長い。
目は憧れるような蜜の色をしていて、唇は触れたくなるくらいふっくらとしている。

⏰:10/09/07 00:00 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#540 [向日葵]
「あら」

声は凛としていて、栞を更に嫌な気持ちにした。

ミュシャの顔を出来るだけ見ないようにしながら、栞は戸を後ろ手に閉め、その場に立ちつくす。

「具合でも悪いの?」

「あなたには関係ないことですから……」

「そんな顔色してる子に攻撃なんかしないから安心なさい。で、どうかした?」

「体調のことなら保健医に言います」

正月のこともあり、警戒の気配を漂わせる。
しかしミュシャは本当に攻撃する気はないらしく、なんの感情もなく、至って事務的に栞に話す。

⏰:10/09/07 00:00 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#541 [向日葵]
「保健医ならしばらく帰ってこないわよ。職員室に呼ばれて、仕事言い渡されてたし。なんか必要なもんでもある?アンタよりはここを熟知してるわよ」

このまま話していても仕方ないと思った栞は、生理痛に効く薬をと頼んだ。
棚を見れば、ちょうどいつも服用している薬と同じものがあったので、それを指差す。

棚の開き戸を開け、薬を取ったミュシャは2錠出し、ついでにコッブに水を入れてやった。
それを栞の立っている近くにある机に置く。

「こっち、ストーブあるから早く座ったら?暖めたら少しは楽になるだろうから」

⏰:10/09/07 00:00 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#542 [向日葵]
敵に指示されるのは抵抗があったが、痛みが楽になるのならばもうなんだっていいと思い、ストーブ前にある長椅子に座る。

薬を飲むのはいいが、水が冷たくて、体を震えが駆け巡る。

飲み終えると同時に、ミュシャがクスクスと笑い出したので、眉根を寄せてミュシャを見る。

「アンタでしょ。笹部にあんな本仕込んだの」

「…………なんのことですか?」

「別に怒ってるわけじゃないの。どちらかと言えば褒めてやりたいわ」

⏰:10/09/07 00:01 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#543 [向日葵]
「なんでです?」

「バカップルがしょうもないことで騒ぐ様が面白いから。特に笹部あたりはうぶで、動揺っぷりがまた一興」

ドS……。

そう思わずにはいられなかった。

「でも、あんなのよく買う勇気あるわ。男もんでしょ、あれ。男の方がリアルに描いてる気がして、女の子が買うような夢いっぱいな感じなさそうなのに」

「どうってことないですよ。買っちゃえばこっちのもんなんですもん。それに、いちいち他人の様子なんか伺ってたら、こっちが不利にまわりますよ」

冷たく嘲笑う栞に、ミュシャは眉根を寄せる。

⏰:10/09/07 00:01 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#544 [向日葵]
「他人のことは、どうでもいいって、思ってるってこと?」

「そうですよ。当たり前じゃないですか。他人なんか気にしてたら、自分がどんどん後回しになっちゃうんですから」

「そんなんだから、好きな人をとられるんじゃないの?」

ミュシャにそう言われた栞は、お腹に添えていた手に、グッと力を入れた。

うるさい。
うるさい。

アンタはあっちの味方だから、そう言うくせに。
あたしの味方なんて、これっぽっちもしようとしないくせに。

⏰:10/09/07 00:01 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#545 [向日葵]
あたしの気持ちなんて、わからないくせに。

「あなたに……あたしの何が分かるって言うのよ!」

叫びながら、栞は立ち上がった。
ミュシャは薬を取り出した棚に寄り掛かって、栞を静かに見る。
その冷静さが、また栞の怒りに火をつける。

「ずっと……ずっとずっとずっと見てたのに、横取りされる気持ちが、あなたにわかるっていうの!?」

振り向いてくれるまで待って待って待って……。

⏰:10/09/07 00:02 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#546 [向日葵]
あたし、いつまで待ってればいいの……。

もう栞はわかっていた。
わかっていたけれど、わかりたくはなかった。
諦めたくはなかった。

だから見て見ぬふりをした。
現実を。
見てしまったら、向き合ってしまったら、残っているのは惨めな自分だから。

「仕方ないじゃない……」

なのに、どうしてこんな形で向き合わなきゃならないのだろう。

惨めな自分を見てしまったら、惨めな自分を誰が包んでくれるの?

⏰:10/09/07 00:02 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#547 [向日葵]
「振り向いてくれないってわかっちゃったら、邪魔するしかないじゃない!宗助がいっちゃわないように引き止めるしかないじゃない!」

泣きたくなかった。
なのに吐き出してしまったら、一緒に何年分かの押し止めていた思いまでもが溢れ出た。

止まることを知らないかのように、涙が顎から胸元へ、そして床へと落ちていく。

「どうせ茉里さんだってそうでしょ!?振り向いてくれないと思ったから宗助の想いを邪魔したんでしょ!?だってあの2人の在り方は、おかしいもの!」

お腹の痛さも忘れ、肩で息をしながらミュシャをにらむ。
ミュシャは静かにそのふっくらとした唇を開いた。

⏰:10/09/07 00:02 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#548 [向日葵]
「私が茉里のこと話すと、アンタは信じないでしょ」

「当たり前じゃない」

「それでもいいわ。私は話すだけ。アンタは……そうね、先生が教科書を朗読してるとでも思っておきなさい」

吐き出すものを吐き出して、栞は少し楽になったのか、また椅子に座る。

「茉里はね、邪魔なんてしなかったわ。本心はしたくてしたくて仕方なかったでしょうね。でも、好きな気持ちには、色々と敏感な子だから」

⏰:10/10/11 12:48 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#549 [向日葵]
「敏感……?」

栞は鼻声の小さな声でおうむ返しした。
でもミュシャは質問を受け付けないのか、人差し指を唇にあてて、続きをきけと示した。

「何があっても、手出しはしなかったわ。いつも笹部の背中を押しながら、いつも心の中で泣いてた。茉里はね、自分が例えどうなろうと、相手が幸せであればいいって子なの」

「そんなの……っ!」

「いい子ちゃんぶってるって思う?でも本当なの。だからアンタは信じないだろうって言ったのよ。朗読は続けてもいいかしら?」

⏰:10/10/11 12:48 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#550 [向日葵]
まだ言いたいことはたくさんあったが、黙ることにした。
ミュシャには口では勝てないと悟っているからだ。
それでも勝ちたいと思うのは、ただの負けず嫌いな自分。

「100パーセント、相手の幸せを願えるのは無理でも、あの子は願うでしょうね。むしろ100パーセント願えない自分が嫌になってきて、結局は100パーセント願っちゃうのよ。だから、心の傷も深い」

そんなの建前かもしれない。
でも栞はわかっていた。

大晦日の時、茉里は複雑な顔はしても、栞を責めることはなかった。

⏰:10/10/11 12:49 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


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