こいごころ
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#551 [向日葵]
泣いてもいたけど、それはヤキモチなだけで、栞に面と向かってやめてくれとは言わなかった。

それは憐れみからくるものなのかもしれない。
それでも茉里は、栞の気持ちをわかって、我慢して、黙っていたのかもしれない。

でも栞は、自分がそんな同情的になることを許せなかった。

「馬鹿馬鹿しい!悲劇のヒロインきどり?そんなので気を引こうだなんて、計算高い人だこと!」

「じゃあ訊くけど」

⏰:10/10/11 12:50 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#552 [向日葵]
ミュシャの凛とした声が、やけに保健室に響いた。
その荘厳とさえ言える空気が、栞の口を閉じさせる。

「アンタは笹部の幸せを願ったことはあるの?」

栞は目を見開いた。

「誰だって、色んな生き方があるから否定はしない。でもそんな風に私の友達を否定するなら言わせてもらう。アンタは、自分が犠牲になってでもいいと思えるぐらい、誰かの幸せを、願ったことはあるの?」

ない。
ないに決まっている。

⏰:10/10/11 12:50 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#553 [向日葵]
だって宗助は、自分と結ばれると思っている。
結ばれなきゃいけないと思っている。

だって、ずっとずっと好きだったから。
宗助が自分を好きになってくれないなら、邪魔をして、し続けて、最後までそばにいた自分と、一生いればいい。

そう思っていた。

例え宗助が、悲しい思いをしていようとも。

「じゃあ教えてよ……」

⏰:10/10/11 12:51 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#554 [向日葵]
栞はうつむく。

大粒の涙が、スカートにいくつも吸い込まれていく。
嗚咽が漏れそうになる。
我慢すれば、唇が震えた。
食いしばれば、まるで寒いかのように、歯が小さくカタカタと鳴る。

「あたしどうすれば良かったのよ……」

小さい頃から、宗助と結婚するのは自分だと思っていた。
その宗助が、自分ではない人を選んだ。

⏰:10/10/11 12:51 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#555 [向日葵]
そして自分を好きにはなってくれないことを知ってしまった。

もう、どうすることも出来なかった。
幸せなんて、祈りたくもなかった。

「あたしばっかりが取り残されて……、これ以上あたしに惨めになれって言うの……?」

ミュシャは黙ったまま栞を見つめる。
栞にとってその沈黙が助けになった。

⏰:10/10/28 13:11 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#556 [向日葵]
ミュシャがこれ以上言葉を投げかけてきて、それを言い返せば、まるで子供のように大声をあげて泣いてしまいそうだったから。

今なら、少しのプライドと、見栄で、しゃんと立つことが出来る。
栞は少しフラついた足で、保健室を出た。

―――――――………………

[アンタは笹部の幸せを願ったことはあるの?]

さっきからミュシャの言葉が頭をぐるぐる回っている。
離れてくれないそれは、まるで呪いのようにも感じた。

⏰:10/10/28 13:11 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#557 [向日葵]
泣き腫らした顔では教室に帰れないので、栞は屋上にいた。
残りの授業をサボって、ただここで涙を流していた。

下では、生徒が下校している。

仲のよい友達同士、笑い声をあげて、楽しそうに帰っている。

自分も、素直にああして帰れない。
出来ないのは……恐がってる自分のせいだ。

栞はひそかにここへ来たことを後悔していた。

⏰:10/10/28 13:12 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#558 [向日葵]
もう何も出来ないではないか。
宗助とのことも、もう無駄だということと向き合ってしまった。
あとは、それを認めるか、それでも邪魔をするかしかない。

そうして考える度に、ミュシャの言葉が頭をよぎり、さっきからもう何度も同じことを繰り返していた。

「栞?」

聞き慣れた声がした。
振り返ると、そこには宗助がいた。

「どうしたんだ?その顔っ!」

⏰:10/10/28 13:12 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#559 [向日葵]
心配そうに栞のもとに駆け寄る。その姿を見るだけで、胸がいっぱいになる。

こんなに好きなのに、どうして届かないの……っ。

「宗助の馬鹿ぁ……っ!!」

心配したのに、いきなり罵声を浴びせられて、宗助は目が点になった。
宗助が近くまで来た途端、栞は理性というタガが外れて、思ったことしか口に出せないようになった。

⏰:10/10/28 13:13 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#560 [向日葵]
「勝手に彼女なんて作らないでよ!あたしのこと、妹みたいにしか思ってないのわかってるけど、いい加減気づいてよ!あたし、あたし……っ、宗助が好きだったのに……っ!」

宗助は少し驚いたような顔をしてから栞の声に静かに耳を傾けた。

「大好きで……、いつか、宗助のお嫁さんになるって本気で思ってたあたしって……ただの馬鹿じゃない!ただのガキじゃない!どうして……っ、どうしてあたしじゃダメなのよ!どうして、突然出てきたあの人なのよ!」

「栞……」

⏰:10/10/28 13:13 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


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