こいごころ
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#541 [向日葵]
「保健医ならしばらく帰ってこないわよ。職員室に呼ばれて、仕事言い渡されてたし。なんか必要なもんでもある?アンタよりはここを熟知してるわよ」
このまま話していても仕方ないと思った栞は、生理痛に効く薬をと頼んだ。
棚を見れば、ちょうどいつも服用している薬と同じものがあったので、それを指差す。
棚の開き戸を開け、薬を取ったミュシャは2錠出し、ついでにコッブに水を入れてやった。
それを栞の立っている近くにある机に置く。
「こっち、ストーブあるから早く座ったら?暖めたら少しは楽になるだろうから」
:10/09/07 00:00
:SH05A3
:☆☆☆
#542 [向日葵]
敵に指示されるのは抵抗があったが、痛みが楽になるのならばもうなんだっていいと思い、ストーブ前にある長椅子に座る。
薬を飲むのはいいが、水が冷たくて、体を震えが駆け巡る。
飲み終えると同時に、ミュシャがクスクスと笑い出したので、眉根を寄せてミュシャを見る。
「アンタでしょ。笹部にあんな本仕込んだの」
「…………なんのことですか?」
「別に怒ってるわけじゃないの。どちらかと言えば褒めてやりたいわ」
:10/09/07 00:01
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:☆☆☆
#543 [向日葵]
「なんでです?」
「バカップルがしょうもないことで騒ぐ様が面白いから。特に笹部あたりはうぶで、動揺っぷりがまた一興」
ドS……。
そう思わずにはいられなかった。
「でも、あんなのよく買う勇気あるわ。男もんでしょ、あれ。男の方がリアルに描いてる気がして、女の子が買うような夢いっぱいな感じなさそうなのに」
「どうってことないですよ。買っちゃえばこっちのもんなんですもん。それに、いちいち他人の様子なんか伺ってたら、こっちが不利にまわりますよ」
冷たく嘲笑う栞に、ミュシャは眉根を寄せる。
:10/09/07 00:01
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:☆☆☆
#544 [向日葵]
「他人のことは、どうでもいいって、思ってるってこと?」
「そうですよ。当たり前じゃないですか。他人なんか気にしてたら、自分がどんどん後回しになっちゃうんですから」
「そんなんだから、好きな人をとられるんじゃないの?」
ミュシャにそう言われた栞は、お腹に添えていた手に、グッと力を入れた。
うるさい。
うるさい。
アンタはあっちの味方だから、そう言うくせに。
あたしの味方なんて、これっぽっちもしようとしないくせに。
:10/09/07 00:01
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:☆☆☆
#545 [向日葵]
あたしの気持ちなんて、わからないくせに。
「あなたに……あたしの何が分かるって言うのよ!」
叫びながら、栞は立ち上がった。
ミュシャは薬を取り出した棚に寄り掛かって、栞を静かに見る。
その冷静さが、また栞の怒りに火をつける。
「ずっと……ずっとずっとずっと見てたのに、横取りされる気持ちが、あなたにわかるっていうの!?」
振り向いてくれるまで待って待って待って……。
:10/09/07 00:02
:SH05A3
:☆☆☆
#546 [向日葵]
あたし、いつまで待ってればいいの……。
もう栞はわかっていた。
わかっていたけれど、わかりたくはなかった。
諦めたくはなかった。
だから見て見ぬふりをした。
現実を。
見てしまったら、向き合ってしまったら、残っているのは惨めな自分だから。
「仕方ないじゃない……」
なのに、どうしてこんな形で向き合わなきゃならないのだろう。
惨めな自分を見てしまったら、惨めな自分を誰が包んでくれるの?
:10/09/07 00:02
:SH05A3
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#547 [向日葵]
「振り向いてくれないってわかっちゃったら、邪魔するしかないじゃない!宗助がいっちゃわないように引き止めるしかないじゃない!」
泣きたくなかった。
なのに吐き出してしまったら、一緒に何年分かの押し止めていた思いまでもが溢れ出た。
止まることを知らないかのように、涙が顎から胸元へ、そして床へと落ちていく。
「どうせ茉里さんだってそうでしょ!?振り向いてくれないと思ったから宗助の想いを邪魔したんでしょ!?だってあの2人の在り方は、おかしいもの!」
お腹の痛さも忘れ、肩で息をしながらミュシャをにらむ。
ミュシャは静かにそのふっくらとした唇を開いた。
:10/09/07 00:02
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#548 [向日葵]
「私が茉里のこと話すと、アンタは信じないでしょ」
「当たり前じゃない」
「それでもいいわ。私は話すだけ。アンタは……そうね、先生が教科書を朗読してるとでも思っておきなさい」
吐き出すものを吐き出して、栞は少し楽になったのか、また椅子に座る。
「茉里はね、邪魔なんてしなかったわ。本心はしたくてしたくて仕方なかったでしょうね。でも、好きな気持ちには、色々と敏感な子だから」
:10/10/11 12:48
:SH05A3
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#549 [向日葵]
「敏感……?」
栞は鼻声の小さな声でおうむ返しした。
でもミュシャは質問を受け付けないのか、人差し指を唇にあてて、続きをきけと示した。
「何があっても、手出しはしなかったわ。いつも笹部の背中を押しながら、いつも心の中で泣いてた。茉里はね、自分が例えどうなろうと、相手が幸せであればいいって子なの」
「そんなの……っ!」
「いい子ちゃんぶってるって思う?でも本当なの。だからアンタは信じないだろうって言ったのよ。朗読は続けてもいいかしら?」
:10/10/11 12:48
:SH05A3
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#550 [向日葵]
まだ言いたいことはたくさんあったが、黙ることにした。
ミュシャには口では勝てないと悟っているからだ。
それでも勝ちたいと思うのは、ただの負けず嫌いな自分。
「100パーセント、相手の幸せを願えるのは無理でも、あの子は願うでしょうね。むしろ100パーセント願えない自分が嫌になってきて、結局は100パーセント願っちゃうのよ。だから、心の傷も深い」
そんなの建前かもしれない。
でも栞はわかっていた。
大晦日の時、茉里は複雑な顔はしても、栞を責めることはなかった。
:10/10/11 12:49
:SH05A3
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