こいごころ
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#51 [向日葵]
「西町駅降りて自転車で15分」

「それって答えになってない」

「個人情報には口が堅いもんでね」

そう言って、意地悪そうに笑う。

ああ……そうやって笑ったりするんだ……。

胸がきゅっと鳴る。

「その内調べてやるんだから」

「ご自由に」

踏み切りを渡り、駅に向かって歩く。
ふと、宗助が場所を移動した。
宗助を見るが、気にしてないように前を向いたままだ。

⏰:09/04/18 02:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#52 [向日葵]
そして車が通った時に気づく。

あ……車道側だったから……?
もうどうしよう……。どんどん好きになってしまうよ。

照れ隠しに、宗助の腕を軽くはたく。
いきなり叩かれた宗助は、明らかに嫌そうな顔をしていた。

「なに……?」

「紳士だね……」

「は?」

何の事だと言わんばかりに眉を寄せる。

「ありがとっ」

分からなくてもいいから、お礼が言いたかった。

⏰:09/04/18 02:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#53 [向日葵]
やっぱり、宗助には伝わらなかったけど。それでもいいから言いたかった。

「宗助はずっと剣道してたの?」

「中学の時から」

「ああ、だから強いんだ」

改札を通って、階段を上がる。

「俺なんてまだまだだよ。もっと強くなりたい。そしていつか……」

言いかけて、宗助は口を閉ざす。
茉里は首を傾げる。
宗助は気まずそうにして息を吐く。それが微かに腹立たしげだったのは、気のせいだろうか。

⏰:09/04/18 02:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#54 [向日葵]
「ホントに、アンタはいいのか?」

「え?何が?」

「仮彼女の事だよ」

「何を今更」

茉里は笑うが、宗助はそうもいかなかった。

「……俺じゃなくても、アンタなら他にいるだろ」

「あ、今カチーンときた」

ムカついたのか、茉里の目が据わっていた。

「じゃあ訊きますけどっ!宗助は他に好きな人作れって言われたら実行出来るのっ!?」

それを言われた宗助はハッとして、うつむく。

⏰:09/04/18 02:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#55 [向日葵]
「無理強いはしない。だから好きなままでいいって言ったの。2度も説明させないでよっ!分かった!?」

宗助はすまなそうに更にうつむく。
そして呟くように「うん」と言った。
茉里も強く言いすぎたかと困って、視線を泳がす。

自分はこんなにも怒る権利なんてない。
無理強いはしないと言ったが、この提案自体が無理強いしてる事ぐらい自覚はしている。

なんか……宗助を好きになってから、恋愛がドンドン難しいものに思えてきた……。
そう思っても、宗助を諦めるなんて、絶対出来ないのだけど。

⏰:09/04/18 02:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#56 [向日葵]
「千早先輩越したいなら、もっと練習しなきゃね」

その言葉に、宗助はがばっと顔を上げる。

「どうして分かったんだ」

「分かるわよ」

君の事なら……。

どんな動作も、ゆっくりしてるくせに、先輩が絡めば早くなる。

それでもいいよ。宗助が笑ってくれるなら。

宗助と目が合う。
微笑めば、またあの不器用な笑顔を返してくれた。

そう、今はこれだけでいいの。

⏰:09/04/18 02:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#57 [向日葵]
――――――――――…………

「不毛」

「へ……」

休み時間のお喋り中。

昨日の出来事をミュシャに喋ったところ、今のような返事が返ってきた。

予想外の返事に、茉里は目が点になる。

「最後に茉里が泣くに1票」

「そ、そんなのわかんないじゃない」

「今までのどんな恋愛よりも今回のが1番分かりやすいよ」

ミュシャは冷たく言う。
茉里は口を尖らせる。

⏰:09/04/19 01:51 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#58 [向日葵]
不毛……か……。

まだ始まったばかりなのに、そんな事を、しかも1番の友達であり親友であるミュシャに言われてしまっては、やっぱりヘコむ。

今までどんなことも、なんだかんだ言いながら応援してくれたのに、どうして今回ばかりはそんなに冷たいのか。

「じゃあ、私が泣き言言っても慰めてくれない?」

「さあね」

やっぱり冷たいの。

「でも……」

ミュシャが言葉を続ける。

「失恋決定の時は、一緒に泣いてあげる……」

⏰:09/04/19 01:51 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#59 [向日葵]
茉里は顔を明るくさせる。

やっぱりミュシャは好きだ。
自分を突き放したり、薄情な事をしない。
性格はクールだけど、心はあったかい。

「ありがとうっ」

机から乗り出して、ミュシャに抱きつけば、いい香りがした。
まるで、お花のような。

千早先輩も、時々いい香りがする。

ふわりと、嫌味のない、シャンプーか、洗剤の香り。

他人の匂いというのは、意外にも鮮明に覚えているもので、その人を思い出せば、同じく匂いも思い出す。

⏰:09/04/19 01:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#60 [向日葵]
宗助も、思い出すのだろうか……。

ちらりと、窓際の席に座っている宗助を見る。

降るか降らないか、不安定な曇り空をぼんやりみあげている。

今日こそ、先輩が来てたらいいなとか、考えていれのかもな……。自分の事も、思い出してくれればいいのに……。なんて、贅沢か……。

「そうそう、昨日、うちの学年の女子が、変質者に会ったって」

「うそ!その子大丈夫だったの?」

「通りすがりの人が助けてくれたんだって。でも、茉里も気をつけてね」

⏰:09/04/19 01:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#61 [向日葵]
「私は大丈夫だよ」

宗助がいるし。

―――――――――…………

「ってわけで、今日も護衛お願いしますっ!」

その日、やっぱり千早先輩は休みだった。

宗助はまた元気をなくしていたけれど、茉里は一緒に帰れる事が楽しみで仕方がなかった。

「……護衛って……」

「間違ってる?姫を助けてね、王子様っ」

「とんだじゃじゃ馬姫だな……」

「なんて今」

「別に?」

⏰:09/04/19 01:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#62 [向日葵]
背を向けながら、クスリと笑っているのを見逃さなかった。
それを見れば、茉里の心も躍る。

この時間だけは、2人の特別な時間。だから誰にも邪魔されたくない。

そう思っていた矢先だった。

「千早先輩!」

次の日の放課後、千早先輩が来た。
女子部員は皆して声をあげる。

「ごめんね休みがちで。今日から復帰するからさっ」

ニカッと笑う。元気そうで何よりだ。

⏰:09/04/19 01:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#63 [向日葵]
でも、1番に喜んでいるのは……。

茉里は宗助を見る。
興味が無いように道着に着替え始めているけど分かる。
その背中は、うきうきしている。

分かりやすいんだから……。

宗助が楽しければいい。嬉しければいい。
それなのに……悲しくなるのは何故だろう……。

―――――――――…………

練習が終わる少し前、雨が降ってきた。

折りたたみ傘持ってきてて良かった……。

「雨降ってんじゃーんっ!」

⏰:09/04/19 01:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#64 [向日葵]
千早先輩が叫ぶ。

「どうしたんです先輩」

話しかけたのは、宗助だ。

「傘忘れてたんだよねー……。ま、いっか」

「何言ってんですか。病み上がりのくせして」

茉里は聞き耳をたてながらも、窓を1年生と共に閉めまわる。

窓の鍵を、かけた時だった。

「俺の傘に入ってください」

茉里は鍵に手をかけたまま静止する。

「いいの?わっるいねー。じゃあ待っててね」

先輩は出ていった。
私はゆっくりと立ち上がり、皆が飲んでしまったコップを洗面台で洗う。

⏰:09/04/19 01:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#65 [向日葵]
スポンジに洗剤をつけた時、宗助がすぐ近くに立った。

「あの……今日、千早先輩と帰るから……」

スポンジを握りしめる。

帰りの、あの瞬間、隣にいていいのは……私だけのはずだったのに……。

「そうなの?丁度良かった!」

茉里はわざと明るい声を出して、宗助の方を見る。
宗助は、なんだか驚いていた。

「今日ね、先生から、帰り買い出し行ってくれって頼まれてたんだ!だからさ、今日は1人で帰るって言おうと思って!」

「……そっか。……気をつけてな」

⏰:09/04/19 01:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#66 [向日葵]
そう言うと、宗助は着替える為に行ってしまった。

それだけなんだ……。
先輩には、病み上がりだからって心配してたくせに……。

コップを磨く手に、力が入ってしまう。
涙がながれないように、必死に歯を食いしばった。

――――――――――…………

ウォータークーラーの前に、茉里は身をかくしていた。
駅でばったり会うなんて嫌だし、デパートに行って、もしも先輩が寄りたいって言って会うのも嫌だから、ここでしばらく時間を潰すことにした。

様子をうかがえば、宗助と先輩が相合い傘をして帰るところだった。

⏰:09/04/19 01:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#67 [向日葵]
宗助の歩き方に、緊張で力が入っているのが分かった。

きっと、先輩は気がついていない。
自分だけ。自分だけが分かる。
分かっているのに……。

どうして敵わないんだろう。

にじむ視界。
泣きたくなんかない。
自分が望んだ結果なら、尚更。
仮彼女でいいと自分で言ったのだから、それを貫き通す。

たとえ、それが不毛であると、言われたって……。

しばらくぼんやりとして過ごした。
雨足が、少し増した。
折りたたみ傘で間に合うかちょっと心配だ。

⏰:09/04/22 03:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#68 [向日葵]
それでも、帰らなければ……。

茉里は立ち上がる。
雨の音が、より自分を惨めだと表している気がした。

今日は近道して帰ろう。
今時分なら、まだそんなにも暗くないし、変質者だって出ないだろうし。
いざとなれば傘を武器にする事だって考えている。

とぼとぼと歩いていく。
高架下に差し掛かった時、ぞくりと嫌な感じがした。

空はまだ暗くはない筈なのに、ここだけが異様に暗く、不気味な気がした。

「……大丈夫……大丈夫……」

まるで呪文のように呟く。

⏰:09/04/22 03:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#69 [向日葵]
駅が見えてきた。

茉里は安堵の息を吐く。

もう大丈夫。
大体、変質者がそう毎日出るわけ……。

「お嬢さん、1人……」

びくりと、足が止まる。

どうして……?
私の馬鹿っ!止まらなくていいじゃない……っ!
早く、進んで……っ!

そう念じても、足は言うことをきいてくれない。

「服、濡れちゃってるね……。おじさんも濡れちゃったんだ……。あっちで、一緒に乾かそうか……」

目深にかぶったキャップから、口元が見える。

⏰:09/04/22 03:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#70 [向日葵]
その口が、奇妙にニヤリと曲がった時、茉里は思わず「ひっ」と声を漏らす。

「さあ、おいで……」

汗で粘着質になった手で、茉里の腕を掴む。

気持ち悪い……っ!

「や……っ!放してっ!」

持っていた傘を振りかぶり、思いきり変質者目掛けて殴る。

しかし、開いたままだったので、大したダメージにはならなかった。

キャップの鍔で影になった目が、妖しく光る。
変質者はまたニヤリと笑みを浮かべる。

⏰:09/04/22 03:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#71 [向日葵]
「元気だね……。おじさん、元気な子は好きだよ……」

強い力で引っ張られる。
こんな時に限って人が通ってくれない。

「い、嫌ったら……っ。誰かーっ!誰か、助け……」

助けを呼ぼうとした。が、抱え込まれるようにして口を塞がれた。
耳元に、変質者の生ぬるい息がかかる。

「叫ばないでよ……ひどいこと、されたいの……?」

逃げられない。
どうなるの……?
私どうなっちゃうの……?

⏰:09/04/22 03:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#72 [向日葵]
茉里は足ががくがくと震え出す。

お願いだから、誰でもいいから助けて……っ!

助けて……助けて……お願いっ!
宗助……っ!

「加賀っ!」

声がした。
恐くてギュッと閉じていた目を開けたら、竹刀袋をふりかざす宗助がいた。

竹刀袋は変質者の頭に、鈍い音と共に命中。

脳震盪でも起こしたのか、変質者はふらあっと後ろに倒れた。

その姿を、茉里は呆然とみつめる。

⏰:09/04/22 03:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#73 [向日葵]
「今、警察を呼んだから、もう大丈夫。……加賀?」

茉里はまだ変質者を見たままだ。
宗助は眉を寄せ、首を傾げる。

「おい、加賀?」

ハッとしてビクリと体を震わしてから、茉里は宗助を見る。

「……し……ない、持って帰ってたんだ……」

「ああ。組み立てる為にな」

「そっか……」

茉里の頭は真っ白になっていた。

何から話せば……。
と言うより、どうして宗助はここに?

⏰:09/04/22 03:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#74 [向日葵]
「け……警察、早く来たらいいのにね。あ、傘壊れてるっ」

「加賀」

「困るなー。おニューなんだよこれえっ!もしかして弁償とか……」

「加賀っ」

傘を持つ手が、ビクンと震える。
茉里は口を閉ざし、宗助の足元を見つめる。

「無理しなくていいから」

「別に、無理なんて……」

「もう怖くないから」

そう言われて、茉里は宗助の顔をゆっくりと見上げる。

⏰:09/04/22 03:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#75 [向日葵]
気遣うように、少し憂いを含んだ優しい目を見れば、手が震え出した。

耐えていた色んなものの糸が一気に切れて、その場にへたり込む。

「お、おい、そんなトコに座ったら……」

「ありがとう……」

かすれた声で、茉里は呟く。
頬に雨粒ではない雫が流れ出す。

さっきは耐えれたのに……。

「気持ち悪くて……どうなるかすごく怖かった……っ。すごく……こわ……か……っ!」

⏰:09/04/22 03:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#76 [向日葵]
行き場のない手を、どうすればいいのか分からなくて、自分を抱くようにして腕をかかえる。

そういえば、腕、触られたっけ……。

雨をシャワーのようにして、腕をを洗うように何度もこする。

「寒い?」

しゃがんだ宗助が訊く。
茉里は首を横に振った。

「触られたトコ……なんだか気持ち悪くて……」

さするところを、宗助はジッと見る。
すると、さすっていた手をとる。どうするのかと目で追えば、さすっていた掌を、優しく撫でる。

⏰:09/04/22 03:05 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#77 [向日葵]
驚いた茉里は、思わず手を引き抜く。
しかし、宗助は強引にまた茉里の手をとる。

「な……なに……?」

「そうやってさすったら、今度は掌が気持ち悪くなるだろ?だから、俺が綺麗にしてやる」

なんだかどこかズレてる気がする。

でもそのちょっと違った優しさが、今はとても嬉しい。

気持ちの悪かった感触全てが、掌を撫でてくれているだけで浄化されていく気すらした。

⏰:09/04/25 01:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#78 [向日葵]
そう思えば、涙がまたあふれた。

しばらくして、警察官が近くにパトカーを止め、こちらへとやって来た。

――――――――――…………

「え?また一緒に帰ってくれるの?」

次の日。
雨の中いたにも関わらず、茉里も宗助も風邪を引かずピンピンしていた。

そして珍しく、教室で呼び出されて、今は廊下の窓際で話している。

「昨日のは俺の責任だし、先輩も、これからは彼氏と帰るって言ってんだ。だから一緒に帰れる」

⏰:09/04/25 01:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#79 [向日葵]
それは嬉しい。
……嬉しいのだけど。

「なんか……責任感で一緒に帰られるって、微妙かも……」

「……なら、1人で帰れ」

教室に入るのか、背を向ける。
しかし、その時、すねているような顔をしている宗助を見た。

もしかして、昨日の事、謝る気持ちもこもってるのかな……。

素直じゃないな。
お互いに……。

茉里は笑う。

「宗助ありがとう!喜んで一緒に帰るよ!」

「……勝手にしろ」

⏰:09/04/25 01:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#80 [向日葵]
「勝手にするっ」

そして、私はまた一段と君を好きになるんだ……。





―――こんなに好きになるなんて、しらなかった。

この気持ちが、君を苦しめた原因。

早く、気付いて向き合っていれば良かったね……。

⏰:09/04/25 01:55 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#81 [向日葵]
[2]の題名ありませんでしたね

[2]は仮彼女発動
です

⏰:09/04/25 01:55 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#82 [向日葵]
[3] 敵と特別の間

今日は県大会最終日。

団体は男女とも3回戦で敗退した。
今日は個人戦。
本当の本当に先輩たちの最後の試合。

宗助は、複雑な顔をしていた。

学校にはまだいるわけだし、永遠の別れではないけれど、学年が違うから会うのは難しい。

そういう面では、宗助にとって、この日が来るのは嫌だったかもしれない。

「宗助、冊子見せて」

後ろの席にいる宗助に手を伸ばす。
宗助は無言で渡してくれた。
視線は、先輩が試合するコートを見て

⏰:09/04/25 01:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#83 [向日葵]
一瞬でも目を離したくないってことね。

冊子を見れば、千早先輩までは時間があった。

茉里は立ち上がる。

「茉里ちゃん、どこに?」

同い年の綾香が話しかける。

「トイレ」

本当は嘘だ。
だって思ってしまった。
面白くないと。

宗助は、ここ3日間、ずっと千早先輩ばかり。
一緒に帰る時だって上の空。
仕方ないのは分かってても面白くない。

だから気分を変えたかった。と、思い立ったまでは良かった。

⏰:09/04/25 01:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#84 [向日葵]
県大会だから、進んでも進んでも、人。
こんなのトイレにたどり着く前に先輩の試合が始まってしまいそうだ。

悩みながらも、なんとか通路から出る事が出来た。

下に行くスロープ近くは、通路に比べれば人が少ない。

少ししたら帰ろう。

「あの……」

誰かに話しかけられる。
振り向けば、180センチくらいある男子が2人いた。
おそらく同い年だろう。

「はい?」

「加賀さんだよね?西校の」

⏰:09/04/25 01:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#85 [向日葵]
そういう男子は、北高校の制服を着ている。

どこかで見たことがあると思えば、北校の次期キャプテンと噂されてる人だった。

名前はまったく覚えてないけれど。

フェミニストっぽい甘いマスク。
髪の毛は猫っ毛そうで、天然パーマなのか少しクリクリと波立っている。
さらに茶色いのが、彼の雰囲気の柔らかさを際立てる。

で、何の用だろうか。

「なにか?」

「これ、良かったらもらって」

⏰:09/04/25 01:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#86 [向日葵]
渡してきたのは紙切れ。

大体分かる。
ここにはメールアドレスでも書いてるのだろう。

「誰に渡せばいいの?」

にっこり笑って言ってみる。

「違うよ。加賀さんに」

困った顔も優雅に見える。
王子様然とした彼の頭上には王冠でも見えそうだ。

「なんで?」

告白めいたものなら、即効で断るつもりだ。
なんてったって自分には宗助という人がいるのだから。

「友達になって欲しいなって」

⏰:09/04/25 01:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#87 [向日葵]
こちらの空気を読んだように、彼はそう言った。

この人、百戦錬磨っぽい……。

「携帯が新しいの?あ、メモリーを増やしたいんだっ!」

無邪気に言って、探りをいれる。
やんわりと断りの意味もいれてえく。

しかし、あちらも簡単には引き下がらない。

「違うよ。北と西じゃ、会える機会も少ないし、じゃあまずメールでってこと」

要するに、そういうことだ。

「あ、先輩の試合が始まるんだった!」

⏰:09/04/25 01:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#88 [向日葵]
と言って逃げる。

大体、県大会にナンパするなんて、遊びに来たんじゃないんだから。
なんだか不謹慎な気がする。
あの人嫌だ。

それが茉里が抱いた第一印象だった。

人の間をぬって、また元の位置に戻ってくる。

「あ、茉里ちゃんおかえり」

綾香が言ってくれる。

「ただいま。先輩まだだよね?」
「前の人が延長してて、長引いてるの。調子狂わなきゃいいけど……」

席に座ると、綾香が何かに気づいたように、茉里の襟元辺りを見つめる。

⏰:09/05/02 22:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#89 [向日葵]
「茉里ちゃん、なんか髪の毛に引っかかってる」

「え?うそ、取れそう?」

綾香の方に背中を向ける。
カサッと音が聞こえた気がした。

「取れたよ。なんか……紙切れ?」

取った紙切れを茉里に渡す。
その紙切れは、茉里がよく知るものだった。

……っ!
あのフェミニスト……っ!
いつの間にこんなところにっ!
いやらしいっ!!

中を見れば、やはりと言うか、メールアドレスと、ご丁寧に高校名、名前まで書いていた。

⏰:09/05/02 22:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#90 [向日葵]
「北高校……沢口……優真ーっ!?」

綾香が声を上げれば、どうしたと男子までもが寄ってきた。

「沢口さんって、確か北高で超モテてるって聞きますよ!」

女子の後輩が言う。

「加賀さんすごいねー。目つけられちゃったんだー」

同級生の男子が言う。

だから興味ないってば。

紙切れをたたんで、適当に鞄へ入れる。

「あんまりうるさいと、周りから注意受けますよ」

⏰:09/05/02 22:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#91 [向日葵]
そういえば、そそくさと皆自分の場所に戻った。

「やっと次、先輩ですよ」

やっと口を開いた宗助は、それだけ言った。
彼だけは、さっきの騒ぎに入ってこなかった。

ああそうですか。
仮彼女はなんて言おうと仮だから、どうでもいいんですか。

なによなによなによっ!

宗助のばーっか!

―――――――…………

先輩は、ベスト8決めの試合で負けてしまった。

⏰:09/05/02 22:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#92 [向日葵]
延長まで持ち込んだが、面を打ち込んだ時、胴を抜かれた。

それでも、先輩のそれまで、いや、この3年間の剣道は立派だと、誰もが拍手をおくった。

応援側にいる先輩では、涙するものもいた。
茉里も、少し涙ぐんだ。

宗助を見れば、やっぱり複雑な顔をしていた。

先輩に賛辞をおくりたい。

でもそうすれば、先輩が引退するという現実がすぐそこに迫ってくる気がするから、喜んでいいのか悪いのか……。

でも、気持ちは分かるかもしれない。

もし、立場が逆ならば……。

⏰:09/05/02 22:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#93 [向日葵]
―――――――――…………

男子の先輩は、1回戦で負けてしまった。
下の階に行って、試合に出た人を迎える。

「お疲れ様でしたっ!」

「お疲れ麻衣ーっ」

「なに泣いてんのよ」

千早先輩は笑う。

男子は男子で、「あれは入っていた」とか、「あの相手はやりにくい」とか、さっきの試合を分析している。

「先生どこだろう?」

後輩が言う。

⏰:09/05/02 22:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#94 [向日葵]
「バスの前に集まってくれればいいって。だからとりあえず着替えてくるよ」

千早先輩は回れ右をする。

「一緒にいこうか?」

千早先輩は笑って「いいよ」と足早に行ってしまった。

負けてしまったのに、清々しいほっ、あっさりしているなと茉里は思った。
きっと割りきるのが早いのだろう。

皆が帰る準備にと、また上の階へと向かう。
スロープを上がろうとした時、宗助がまださっきの場所で立ち止まっていた。

⏰:09/05/02 22:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#95 [向日葵]
「宗助ー」

呼んでも返事をしない。
もう1回呼ぼうと口を開きかけた時、宗助はスロープと逆の方へ行ってしまった。

困った茉里は、皆の方と宗助とを交互に見るが、悩んだ末に宗助を呼びに行く事にした。
宗助は段々と人が少ない方に行く。

一体どこにいくの?

曲がったところは、あまり使われていない自販機の前。
休憩場みたいに、長椅子が置かれている。
そこには、千早先輩が座っていあ。
宗助が、そばへ行く。

茉里は、なんとなく隠れた。

⏰:09/05/02 22:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#96 [向日葵]
「隠れて泣かなくてもいいじゃないですか」

「もう……追いかけてこないでよー……」

宗助は先輩の隣に座る。

「悔しい……。もっと練習しとけばよかった……」

先輩は割りきってなんていなかった。
さっきみたいに、皆が泣いてくれるから、我慢していたのだ。
最後まで、しっかりとしたキャプテンでいる為に。

「十分してましたよ。俺は知ってます……」

「アンタ……いっつもそういうね」

⏰:09/05/02 22:25 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#97 [向日葵]
いつも、言ってるんだ。
宗助は知ってたんだ。
そうやって、完璧なキャプテンでいる為に頑張ってきた千早先輩を。
ううん、違う。
そんな千早先輩を見て、好きになったんだ。

「ねえ、頭撫でて……」

「はいはい……」

宗助は、先輩の汗に少し濡れた頭を優しく撫でる。
その手つきは、この前、変質者に襲われた時に撫でてくれた手とは違った。
明らかに、茉里の時には足りなかった何かが、そこにはあった。

息苦しい……。見るんじゃなかった。

茉里は静かにその場をあとにした。

⏰:09/05/02 22:25 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#98 [向日葵]
―――――――――…………

先生の話も終わり、茉里たちはバスに乗り込む。

茉里はバスの下の荷物置きに皆の防具やらをつんでいく。

「手伝おうか?」

振り向けば、宗助がいた

嫌な気分を、胸の中を覆いつくす。
感情のない笑みが、茉里の顔に作られる。

「いつもやってるからいいよ。先に乗れば?」

「いつもやってるから大変だろ?たまには俺がやるよ」

先に乗って、先輩の近くの席に陣取ればいいじゃない。

⏰:09/05/07 23:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#99 [向日葵]
茉里の心に、宗助のさりげない優しさが入る隙間はなかった。

あるのは嫉妬、独占欲、そしてそれと戦う理性。

「今更……。また今度にして」

「暑いし、加賀はもうバスに入れよ」

そう言って腕を引っ張られる。

やめてよ。
さっきはあんなに優しい手つきだったくせに。
私のこと、乱暴に扱わないでよ。

触らないでよ……っ!

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#100 [向日葵]
気づいたときには、宗助の手を思いきりはたいていた。

宗助は驚く。

「……加賀?」

「本当に……いいから……」

それからは、宗助は何も言わなかったし、茉里も黙々と作業していた。

作業が終わったときには、もう宗助の姿はなかった。

自分から突き放したくせに、茉里の胸に鋭い痛みが走る。

でもこれでいい。

むしろ宗助があそこで引き下がってくれて良かった。

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