こいごころ
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#517 [向日葵]
そう言ったあと、茉里はちらりと後ろを伺う。
栞がちゃんとついて来てるかどうか確かめたかったのだ。

距離は少しあいてはいるが、ちゃんとついてきているようだった。

なんとなくホッとしている茉里を、ミュシャはお人よし、とため息をつく。

笑っていてね、茉里。
茉里が笑っていると、私はそれだけで嬉しいから。

誰よりも幸せでいて。

そしていつも、耳にタコが出来るくらい、のろけ話を聞かせてね。

⏰:10/07/07 02:33 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#518 [向日葵]
――――――――…………

「じゃあまたね」

「うん。またメールするからっ」

そう言って、ミュシャと別れた茉里たちは、宗助の家へ帰っていた。

少し前を華名と栞が歩き、茉里の横には宗助がいる。

「ったく、アンタはよくどこかに消えるな。夏祭りといい……」

「だって、いつの間にか宗助が手を放してたんだもん」

頬を軽く膨らませながらも、茉里はさっき言った栞の言葉が頭を離れてはいなかった。

⏰:10/07/28 01:03 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#519 [向日葵]
今はこんなに親しげでも、宗助がいつか離れてしまったら……。

考えれば考えるほど悲しくなり、足どりが重くなった。
同じ歩調で歩いていた宗助は異変に気づき、華名たちと茉里を交互に見て、ふうとため息をつく。

「華名、先に帰っててくれ」

「どうしたのお?」

「散歩に行ってくる」

「ならあたしも!」

栞の言うことに、宗助は無言で首をふる。
無言であった為に、いつもより強く拒否された気がして、栞は近づいてこようとした足を止めた。

⏰:10/07/28 01:03 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#520 [向日葵]
茉里の手を優しくとると、少し前に通った交差点まで戻り、曲がった。

歩いて少しすると、右手側に公園が見えてきた。
滑り台とブランコと砂場しかない、簡素な公園だ。

ブランコ前にある鉄棒のような場所に、2人で腰をかける。

「また、栞がなんか言った?」

それもあるが、栞にああ言われるまでもなく、茉里はずっと宗助に対して不安を抱いていた。
今までのような恋人ではない宗助だから不安になる。
決してそれは、宗助のせいじゃない。

いつまでも弱い、自分の心のせいだ。

⏰:10/07/28 01:04 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#521 [向日葵]
「クソ親父のことは……前話したよね?」

なんの前触れもなく、茉里が言った。
それでも宗助は、何も気にしていないかのように返事をした。

「ああ」

「私、何回も裏切られるうちに、心を黒い霧みたいなのに覆われていったの」

許せない。
裏切り者。
どうして。
何故。

いくつもの疑問や罵倒を頭の中で思う度、真っ黒になっていった。
その時は、そんな自分がひどい事を言っても許されると勝手に思い込んでいた。

「私ね、アイツに言ってしまったことがあるの。それは絶対言っちゃいけないこと」

⏰:10/07/28 01:04 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#522 [向日葵]
「なんて言った?」

「お前なんか死んじゃえって」

茉里は無表情で、遠くを見つめるように言った。

「言ってから、ひどく嫌な気持ちになった。裏切られて、自分の心がこんなにも真っ黒になってたんだって思うと、私こそ、死んじゃえばって思えたわ」

だから、なおさら怖い。
しかも、最悪なことが起きた。

「言葉は言霊だってよく言うじゃない?あれ本当よ。その次の日、夜帰ってこようとしたアイツが、事故にあって、死にかけたのよ」

心臓の音がやけに早く聴こえた気がした。
血の気が引く音さえわかった。
無我夢中で病院まで行った茉里が見たのは、赤く光ったランプと、ソファで座る若い女性だった。

「でもアイツ……、その時すら浮気してたのよ……っ!その女と、今から……っ。――――っ!」

⏰:10/07/28 01:05 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#523 [向日葵]
言葉が出なかった。
出そうとしていた言葉を飲み込み、代わりに息を吐き出す。
しかし宗助はわかっていた。

きっと、茉里の父は、その女性と、夜の一時を過ごす気だったんだ。

「……また黒い影が迫ってきた。それを必死に抑えたわ。もう、こんな嫌な気分と、惨めな思いになりたくなかったから……」

茉里は下を向いて、ぎゅっと目を閉じた。
その顔は、必死にあの時の感情を飲み込もうとするような、苦悶に満ちた表情だった。
手は宗助から放れ、まるで誰かを殴るのを止めるように、強く組み合わされていた。

⏰:10/07/28 01:05 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#524 [向日葵]
「……もしいつか、宗助に同じことを言ったら、私は前以上に自分を許せない。宗助だけじゃない、ミュシャや、華名ちゃんにだって……。本当にそれが現実になったら、私はきっと…………」

大好きな人達が、裏切り1つで死ねばいいと思えるほどになる自分が怖かった。

なんて自分勝手な感情だろうか。

ずっとずっと大好きでいたいのに、またいつか……。

「あんな思い……もうしたくないのに……」

声がかすれだす。

こんな事言ったら絶対重いって思われる。
いくら何も思わない宗助でも、絶対思う、
でも言わずにはいられなかった。

⏰:10/07/28 01:06 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#525 [向日葵]
離れないでと、思ってしまったから。

宗助が、組み合わせている茉里の手に、優しく触れる。

「じゃあ、もう別れたいって、思うの?」

「……そうじゃ……」

「うん。そうだよな。でも……そうやって、不安にさせるのは、栞じゃなく、俺のせいだよな」

「ちが……っ」

「前まであれだけ先輩を追い回して、何回もアンタを傷つけたくせに、急にアンタを好きだって言うし。交際経験がないから色々上手く出来ないし」

「違うの……!宗助は悪くないの!私が……っ」

⏰:10/07/28 01:06 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#526 [向日葵]
「茉里」

急に、宗助が名前を呼ぶものだから、驚いて宗助の方へ振り向く。
温かさが唇にともる。
控えめに押しつけるように重なっているのは、宗助の唇だった。

一瞬だけ触れて、すぐ離れる。

「どうやったら、アンタをその不安から救い出せる?俺だって、アンタから離れたくないんだ。もう、あのクリスマス前みたいに、傷つけたくなんかないんだ」

宗助は、重いとは言わない。
その思いすべて受け止めて、茉里を認めてくれる。

だから、茉里は甘えてしまう。

「もっと……キスして……」

どちらからともなく唇を寄せる。

⏰:10/07/28 01:06 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


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