こいごころ
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#651 [向日葵]
な……なにを……言ってるの……?

「僕のことは嫌いかな?」

「お話してるぐらいなら……別に。こんなことされるのが嫌いなんです」

「そう……。でもこうしなきゃ、いつまでも君が捕まらない気がする」

「私は鳥かなにかですか。鑑賞したいのなら美術品に価値を見出だしてはいかが?私は価値などないの。こんなことされるのは、不愉快だわ!」

裕之の手をたたき落として、馨はその檻から脱走する。
もういつでも逃げられやすいように、棚と棚との間の通路へと出る。

⏰:11/03/26 22:11 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#652 [向日葵]
周りを注意深く見て、だれもいないかを見る。
じゃないと本を選ぶ場所にいて、棚ではなく通路で突っ立って怒っている自分が、なんだか浮いてて、見られたら変な子だと思われそうだったからだ。

「きっとすぐに気づきますよ。私じゃなくてもいいことに」

「気づくことがないから君がいいと言ってるんだよ」

もうやめて……っ!

馨は、思わず逃げだした。
いてもたってもいられなかった。

⏰:11/03/26 22:12 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#653 [向日葵]
馨は実は、裕之が好きだった。
馨も一目惚れだった。

入学時、校内で迷った馨を案内してくれたのが裕之だった。

初めてだった、こんなに素敵な人を見るのは。
しかし入学してから知るのだった。

裕之は女の子なら誰でも好きなことに。

そんな人の、特別になりたいだなんて、無理にきまっている。
裕之はああ言ってくれているが、絶対に信じてはいけない。
信じてはこちらが痛い目にあうのだ。

⏰:11/03/26 22:12 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#654 [向日葵]
そうやって泣いている子を、何人、何十人と、見てきたから。

本当は、もうあのやさしい檻に閉じ込められたままでよかった。
その考えに、このまま委ねてしまおうとして、ハッと気づいた。

傷つくのはこわい、と。

真剣な彼の目が、心臓の音を早めて苦しかった。

どれくらい走ったかは知らないけれど、いつか彼と座った木陰のベンチを見つける。

ゆっくりと近づき、ゆっくりと腰をおろす。

⏰:11/03/26 22:12 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#655 [向日葵]
傷つきたくないから恋をしないだなんて……。

「私は臆病なのかしら……」

傷ついて、ひとつ成長するのも恋だと思う。
それでも、自分は傷つく勇気なんてない。

「きっとあの人も、そこまで私を好きじゃないでしょうしね」

「そんなことないよ」

頭の上からふってきた声に、馨は驚いて振り向く。

⏰:11/03/26 22:13 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#656 [向日葵]
自分は走ってここまで来たというのに、後ろにいた裕之はまるで最初からいたかのように、先程と変わらない、涼しい顔をしてそこにいた。

そして少し汗ばんだ馨の頬に手を触れる。

「もうずっと、君に夢中なんだ。君しか考えられない。それぐらい、君を想ってる。こう言っても、まだ信じてくれない?」

美貌が近くにあれば、それだけで顔が熱くなるのに、更に強く、情熱的な言葉が出てくるものだから、馨はもう顔を熱くするどころか固まってしまった。

⏰:11/03/26 22:13 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#657 [向日葵]
「もう逃げないで。君を絶対に悲しませたりしない。だから僕を、受け入れてくれ」

真剣な目が、声が、言葉が、全てが馨に突き刺さって、思ってることすら口に出来ない。
わずかに動く目が、彼を避けるように泳ぐ。

「言葉に出来ないっていうなら、態度でしめして。今から君にキスをする。嫌なら今すぐに逃げて」

キ……キス……!?

更に馨は固まる。
しかし固まってる場合じゃない。

今は周りに人影がないといえ、いつ通るかわからない。
こんなとこ見られたら友人にどう言えば……っ。

とほんの数秒のうちに考え、馨はあれ?と思う。

⏰:11/03/26 22:14 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#658 [向日葵]
私……逃げることを考えてない……。

そう思った瞬間、柔らかなものが、唇におしつけられる。

ああ……、私もう、自分でもわからないうちに、覚悟を決めてたんだわ。

傷ついてもいい。
この人の気持ちに答えたい。
そして自分の気持ちを伝えたい。

どれくらい長い間キスをしていただろう。
離れてはまたしてを繰り返して、馨は息が少し荒くなっていた。

そんなキスをしたのは初めてだったから、恥ずかしくて困った顔になりながら、ちらりと裕之を見ると、今までに見たことがないくらい、眩しく、美しい笑顔で、馨を見つめていた。

⏰:11/03/26 22:14 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#659 [向日葵]
ーーーーーーー…………

話ながら茉里の父、裕之は、一口二口、コーヒーを飲んでいた。

宗助は手付かずのまま、裕之の話をきいていたので、きっともうコーヒーは冷めてしまっているだろう。

懐かしそうに笑う裕之は、コーヒーにうつる自分に微笑む。

「話をきかせて頂くと……、随分と奥さんに夢中みたいにきこえますが……」

宗助は眉を寄せて、まるで難解をつきつけられたような表情をする。

⏰:11/03/26 22:14 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#660 [向日葵]
そう言われて、裕之は寂しそうに笑った。

持っていたカップをかたりとソーサーに戻し、足を組みかえ、下を向いて静かに目を閉じる。

そう、夢中だった。
馨さえいれば良かった。
茉里さえいれば良かった。
2人がいり家があれば、それだけで幸せだったんだ。

なのに……。
自分でも許せない。
後悔してもしきれない。
いっそ殺してほしいぐらいに苦しい。

馬鹿だ。
馬鹿だったんだ。

⏰:11/04/02 22:50 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#661 [向日葵]
[17]上げることの出来ない頭

帰ってこない……。

茉里はリビングで全身に力を入れて座っていた。

なにをしてるの?
宗助になにをしてるの?
関わらないでよ。
私の大切な人に、関わらないでよ……っ!

ことりと音がしたかと思い、いつの間にかかたく閉じていた目を開く。
目の前に、白く少し大きめのカップに、ココアが入っていた。
甘い匂いに、体の力が緩む。

⏰:11/04/02 22:51 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#662 [向日葵]
「色々考えすぎると、可愛い顔に変なシワが入るわよ」

からかうように笑う母、馨は、茉里から見ても美人の類に入る人だと思う。

そんな母なら、他にいい人なんてたくさんいるはずなのに、どうして父にこだわるのだろう。

「今年で結婚何年目になる?」

「3月でー……17?18?それぐらいね。あら?19だったかしら?」

「まあ約20年ね……。」

⏰:11/04/02 22:51 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#663 [向日葵]
少しだけとろみがついたココアに口をつける。
甘い味が口の中をいっぱいにする。

「アイツのなにがよかったの?」

「もう……。いい加減お父さんって呼びなさいよ。お父さん茉里にどう接したらいいかわからなくてオロオロしてるわよ」

「自業自得じゃない。私やお母さんがどんな思いしたかわかってんの?」

馨は苦笑いして、茉里の頭をふわりと撫でた。
茉里をなだめる為に撫でたのだが、茉里はなんだか叱られてる気分になって、肩を落とす。

⏰:11/04/02 22:52 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#664 [向日葵]
そんな茉里を見ながら、馨は昔を思い出した。

ーーーーーーーー…………

大学を卒業した裕之は、有名ではないが社名を言えばみんなが「ああ……アレね」というぐらいのところへ就職出来た。

馨はまだ1年ある為、大学にまだ通っていたが、裕之は休みなど暇が出来れば馨に連絡するというマメぶりだった。

「馨は就職はどうするの?」

何回かのデートの時に、裕之がきいた。

「デート中の台詞がそれですか?」

⏰:11/04/02 22:52 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#665 [向日葵]
ぶにっと、裕之の頬を軽くつねる。
そんなことさえ嬉しいのか、裕之はにこにこしている。

「あんまり忙しかったら会えないから、それなりのところがいいな」

「そんなの勝手に決めないでくださいよ。確かにそんな年がら年中バタバタ走り回ってるようなところには行きませんけど」

「じゃあもう働かずくる?」

「どこに?」

「僕のとこ」

⏰:11/04/02 22:52 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#666 [向日葵]
「冗談はやめてください」

もうっ、と馨はそっぽを向く。

裕之は冗談ではないのにと思いながら、そうやって雰囲気に流されない真面目な馨がいとおしくなる。

「まあ、そのうち嫌だって言っても結婚してもらうからね」

「なんですか。その脅迫めいたプロポーズは」

しかしその日もそう遠くはなかった。
大学を卒業し、半年ほどが過ぎた時、待ちきれないかのように裕之がまたプロポーズをした。

⏰:11/04/10 22:33 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#667 [向日葵]
車で出かけてた2人は、暗くなり、そろそろ帰ろうかという時に、海岸沿いに車をとめて、指輪を出した。

馨は嬉しくて涙を流すことで「はい」と答えた。

色んなことが足早に過ぎていき、気がつけば茉里が生まれて、毎日が本当に幸せだった。

そしてーーーーーーーー

裕之は間違ったのだった。

・・・・・・・・・・・

⏰:11/04/10 22:34 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#668 [向日葵]
「加賀」

上司から呼ばれた裕之は、足をとめて振り返る。

「はい?」

「この前のプレゼン良かったって評判だぞ。もしかしたらおれたちので決まるかもしれないって」

「本当ですか!」

もともと、なにをやっても器用にこなす裕之は、上司からの信頼も厚く、若くして色々な重要企画に加わっていた。

嬉しくて笑顔を隠せない裕之は、ふと、上司の後ろにいる影に気づく。

⏰:11/04/10 22:34 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#669 [向日葵]
「田辺さん、後ろにどなたかいらっしゃいますか?」

「あ、そうだった。ホラ、挨拶」

出てきた相手に、裕之は息を呑んだ。

「馨……?」

呟くように名前を呼ぶ。

しかし、馨ではない。
それはわかった。

ただその雰囲気、顔立ち、ほとんどが馨にそっくりだった。

控えめに笑う彼女は、裕之に向かって頭を下げる。

⏰:11/04/10 22:34 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#670 [向日葵]
「はじめまして、加賀さん。私、花形香と申します。部署が変わりまして、加賀さんとお仕事させて頂くことになりました」

名前までそっくりだ。

しかし自分と仕事?

「田辺さん。話がみえないのですが……?」

「ああ、今言ったとおり、コイツ部署が変わってな。仕事は結構優秀だって言われてるんで、おれたちのチームに入ることになったんだ。で、一番新人のコイツを、チームの中で一番新人のお前が、面倒みるってこと」

ああ、なるほど。

⏰:11/04/10 22:35 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#671 [向日葵]
ちらりと見ると、花形はふわりと微笑む。

そして彼女からは、懐かしくも感じる、あの香りが漂ってきたのだった。

ーーーーーーーーー…………

「そんなに似てたんですか?」

家に帰ってきて、裕之は花形のことを話した。
3歳になった茉里を寝かしつけ、リビングに戻ってきた馨は、台所に立って、食器を洗っている。

「うん。職場に馨がいたらって僕の願いが叶ったのかって一瞬疑ったよ」

⏰:11/04/10 22:35 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#672 [向日葵]
「それは良かったですね」

「でさー」と続けようとしたが、馨の後ろ姿から、さっきと雰囲気が変わったのがわかった。

気になった裕之は、おずおずと馨の隣に立つ。
馨を見ても、何も変わらないかのように見えるが、馨の機敏を読み取るのは、裕之は得意だった。

「なにか……怒らせた?」

泡だらけの手が、ぴたりととまる。

「ずいぶんと……、彼女が気に入ったんですね」

小さな声だった。

「私を、求めてくれてるのはよくわかりますけど、彼女は別人なんですよ」

⏰:11/04/10 22:35 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#673 [向日葵]
蛇口をひねると、騒がしい水の音が台所に響く。

シンクに洗った皿を置く。

「片付けの邪魔なので、あっちに行っててください」

その声が震えていたからいけなかった。

裕之は馨の腕をひいて、自分の腕の中に閉じ込めた。
少し抵抗があったが、裕之が抱く力を強くすると、ゆっくりと馨の力が抜けた。

「僕には馨だけだよ」

「わかってますよ。これは……私の勝手でわがままな嫉妬ですから」

「嫉妬なんて、僕を喜ばせたいの?」

⏰:11/04/10 22:36 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#674 [向日葵]
少し屈んで、唇を寄せる。
ちょっと抵抗するように馨は顔をそらそうとするが、顎に指をかけられては、そらしようがない。

熱いくちづけに馨はいつまでも慣れなくて、裕之を引き離そうとするが、裕之はそうすると余計に体を密着させる。

「ひ……ろ、ゆきさ……っ」

「もう少し黙ってて……」

口ごと食べられてしまいそうなキスに、馨もだんだんと酔いしれる。
息苦しい、でもそれが気持ちよくもある。

⏰:11/04/17 00:20 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#675 [向日葵]
キスの間に、裕之は何度も愛の言葉をささやく。

後に思い出す。

『あまり口にはしないで』

ーーどうして?嬉しくない?

『嬉しいの、とっても。でもね、あまり言ってしまうと、あなたの私への気持ちが、なくなってしまいそうで、とてもこわいわ』

なくなったわけじゃない。
むしろ増していた。
好きで、大好きで、いとおしくて、愛していて……。

⏰:11/04/17 00:20 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#676 [向日葵]
なのにーーーーーーーー






ドコデ間違エタ…………?

⏰:11/04/17 00:20 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#677 [向日葵]
ーーーーーー………………

「お前たちって仲良いな」

上司の田辺が言う。

裕之と花形、2人して田辺を見る。

「普通じゃないですか?なあ花形」

「ねえ加賀さん」

「そういうのほほんとした会話が仲良いって言ってんだよ」

実際に仲は良かった。
彼女はやっぱり馨に似ていて、会話から動作まで似ているから、どうしても、馨と接しているようになってしまう。

⏰:11/04/17 00:21 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#678 [向日葵]
裕之はそれでも、馨と花形は違うと思っていたから、ただの同僚としてしか思っていない。

「あ、そうだ加賀、この資料まとめといてな」

「え、昨日やりましたよね?」

「訂正の部分が出たんだ。悪いな」

肩を叩いて去っていく上司は、ちっとも悪いと思っていない。
ちぇっと、訂正しなくてはならなくなった書類を苦々しくみつめる。

残業決定か。

最近こんなことが多くなって、茉里と遊べないし、馨ともゆっくり出来ない。

⏰:11/04/17 00:21 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#679 [向日葵]
茉里ももう小学3年生になった。
この前も、父の日だからと、少ないお小遣でネクタイを買ってくれた茉里は、裕之にあげるのを楽しみにしていたのに、裕之はその日残業で、結局あげたのは次の日だった。

「気に入った?これを見てたまには茉里のことも思い出してね」

幼く、いじらしいその言葉は、裕之は胸を痛めた。

だから早く帰って、力いっぱい抱きしめてやりたいのに。
少し疲れ気味の裕之は嘆息する。

「あの加賀さん、私も手伝いますよ」

明らかに肩を落としている裕之を気遣ってか、花形は控えめに申し出た。

⏰:11/04/17 00:21 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#680 [向日葵]
「ああ……悪いな……。頼む」

「任せてください!」

にっこりと微笑む。
その笑顔が、馨と重なる。
疲れた心が、癒される。

手を伸ばした裕之は、何か迷って、花形の頭を撫でた。

「ありがとな。ちょっとコーヒーでも飲んでくるわ」

花形の隣を通れば、あの香り。

裕之は頭を撫でるつもりなんてなかった。
そして自分のしようとしてたことを、歩きながら心の底から戒めた。

撫でるつもりなんてなかった。
本当はーーーーーー。

⏰:11/04/17 00:22 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#681 [向日葵]
ーーーーー抱きしめようとした。

⏰:11/04/17 00:22 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#682 [向日葵]
「なにを……してるんだ……っ」

疲れて頭がおかしくなったか!
いくら馨に似てるといっても彼女は違うではないか。

代わりにしようとするなんて、最低な男のやることだ。

ーーーーーーーー………………

「あーっ!!やっと終わりましたねー!!」

残業してから3時間。
2人共椅子の背もたれにもたれきって背伸びをする。

もう目がチカチカして、しばらくはパソコンの画面とにらめっこしたくはない。

⏰:11/04/17 00:23 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#683 [向日葵]
「あー……。なんで僕ばっかり……」

「珍しい。加賀さんが愚痴ってる」

おっとっと。
みっともないところを見せるとこだった。
こういうところは、愛する人しか見せたくない。

「帰る前に一息つきましょうか。コーヒーいれますね」

立った花形は、裕之のデスクの左側にある、コーヒーメーカーがある場所へと歩いていった。

しかし、急にめまいが彼女を襲い、ぐらりと体が傾く。
いち早く気づいた裕之は、花形の体を支える。
裕之は椅子から立ち上がって支えたが、バランスを崩して、また椅子に座ることとなった。

⏰:11/04/17 00:23 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#684 [向日葵]
そしてその上に花形が座る形になった。

「だ……大丈夫か……?」

「ご……ごめんなさ……。最近けっこうこんなのがよくあって……」

「ちゃんと休めているのか?」

「はい……。助けて頂いて、ありが……」

花形が顔をあげれば、裕之との距離は、数センチしかなかった。
2人共、離れようとしない。

「…………好きです」

こぼれ落ちるように、花形の口からそうきこえた。

「加賀さんが好きです……。ずっとずっと……好きでした……っ」


やめてくれ。

⏰:11/04/17 00:24 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#685 [向日葵]
「奥さんがいてもいいんです……。私、代わりでもいいんです」

やめてくれ。
彼女と同じような顔で、香りで、声で、僕を求めないでくれ。

彼女ですら、こんなに情熱的に求めたことはない。
いつも裕之が求めて、馨がそのふんわりとした空気で受け止めてくれる。

それはもちろん、馨が嫌がっているのではなく、それが2人の愛し合い方だから、裕之は幸せに満ちあふれていた。

「好き……。加賀さん……。好きなの……。」

頭が、疲れているから、働かない。

馨……。

⏰:11/04/23 20:29 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#686 [向日葵]
僕は今、君を、こんなにも欲している。

働かない頭のせいにする。
なにもかも。

気づけば、花形に唇を寄せていた。
今すぐ、自分を癒してほしくて、無我夢中で、花形を抱いた。

「加賀さん……」

「……花形。ーーーーーっ!?」


裕之は、ハッとした。

今、誰の名を呼んだ?

わからなくなった。
僕は馨を愛してるのか、花形を愛しているのか。

あんなに馨を欲していたのに、紡いだ名前は、違う名だった。

⏰:11/04/23 20:30 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#687 [向日葵]
「加賀さん、私はいいんです。私は、ずっと、あなたのそばにいますから」

その言葉は、甘美な呪縛だった。

月日を重ねる度、裕之の評価は上がり、更に仕事は増え、家に帰れない日が続いたこともあった。

家に帰れば、自分が元の自分に戻った気がして、茉里と馨を力いっぱい抱きしめた。

同時に、懺悔をしたくなった。

僕は、君と似た女性と、肌を重ねた。
君と似た女性と関係をもっている。
許してくれ、君を求めた結果だったんだ。
君が……君が……。

⏰:11/04/23 20:30 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#688 [向日葵]
許しを請う言葉は、最早、言い訳にしかきこえなくて、裕之は吐き気がした。

殴りたい。
殴れるなら、もう顔がわからないくらい、自分の顔を殴りたい。

そして、3年の月日が過ぎた。
あの甘美な呪縛に甘えて、疲れた体を、花形で癒していた裕之は、もう、いい加減関係を切らなければと、久々に早く帰りながら考えていた。

早いといっても、もう11時だったが。

「ただいま」

玄関をあけて、そう言っても、馨がこなかった。
いつもなら、たとえ手が泡だらけだろうと、ふんわり笑って「おかえりなさい」というのに。

⏰:11/04/23 20:30 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#689 [向日葵]
リビングにはまだ光があった。

「馨……?」

リビングのテーブルに、疲れたような背中があった。

馨は声をかけられると、ゆっくり立ち上がり、同じ動作で裕之を見つめた。
その目が、恐ろしいほど澄んでいて、裕之は息を呑む。

「花形さん」

出てきた言葉は、「おかえりなさい」でも「お疲れ様」でもなかった。

「って方から、今日、電話があったわ」

⏰:11/04/23 20:31 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#690 [向日葵]
裕之はもう終わりだと思った。
すべてバレた。

「あなたと別れてほしいんですって」

「…………すまない」

なんとか出た言葉が、そんな陳腐な言葉で、裕之は逃げ出したくなった。

暴れまわるくらい、怒られた方がまだマシだ。
馨はどこまでも静かで、冬の夜みたいに、しん……と冷たい。

「どれくらい付き合ってるの?」

「3年……」

終わった。
なにもかも、失った。

⏰:11/04/23 20:31 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#691 [向日葵]
「疲れたあなたに気づいてあげられないのなら、私が彼を癒します、って言われたわ」

裕之は、馨を見れなかった。
顔を伏せ、目をギュッととじる。

「あなたをそうさせたのは、わたしなのね……」

違う。

「別れたい?」

「そんなわけ……っ!!」

そんなわけないと言うため、顔を勢いよくあげる。
裕之は馨をみて、むしろもう別れたくなった。

⏰:11/04/23 20:32 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#692 [向日葵]
それでも馨は、裕之を責める気にはなれなかった。
いや、責めたかったのかもしれない。

でも、誰が正しいとか正しくないとか、悪いとか悪くないとか、考えだしたらキリがなくて、もう馨も自分がどうしたいのかわからなくなっていた。

でも裕之が、自分を心の底から愛してくれているのはわかっている。

しかし、3年間も自分しか知らない裕之を、他の誰かが見たのかと思えば、胸が痛むのは仕方がなかった。

⏰:11/04/23 20:33 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#693 [向日葵]
涙流すくらいは、ちゃんと感情は働いているんだわ……。

裕之をみつめて、頬を流れる涙を感じながら、馨は思った。

「ご飯は、食べる?」

涙を拭いて、口元に少しの笑みをたたえながら、裕之にたずねた。
裕之はしばらく黙って馨を見ていたが、彼女が今何を思っているかわからないので、小さく頷く。

静かに食器がテーブルに並べられる。

その日は、裕之の好物ばかりだった。

⏰:11/04/23 20:33 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#694 [向日葵]
ーーーーーーーー…………

「お母さん、なにか手伝うことある?」

茉里がひょこりと顔をだす。
昔に意識を飛ばしていた馨は、少しぼんやりと茉里をみる。

「え……。あ、ああ、大丈夫よ。もうあとは煮込むだけだから」

「カッレー!カッレー!」

茉里は馨が作ったカレーが大好きだった。
甘すぎず辛すぎず、でも少しピリッとする。
大きめに切ったジャガ芋はほくほくしてておいしい。

「玉ねぎを飴色になるまでいためるとおいしいらしいけど、お母さんどうしても面倒くさくなるのよね」

⏰:11/04/30 20:29 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#695 [向日葵]
そんな母の言葉に、茉里はきょとんとする。

「お母さんって、面倒くさがりだっけ?17、18年一緒にいるけど、そんな感じはしないな」

「じゃあ上手くごまかせてるのかしらね」

2人して、アハハと笑う。

笑いながら馨は気づく。

自分でも、知らなかった。
自分は、面倒くさくなることを、きっと避けてたんだわ。

⏰:11/04/30 20:29 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#696 [向日葵]
あの時も…………。

ーーーーーーーー…………

「馨、どこか出掛けないか?」

裕之はしばらく有休をとった。
有休をとっても、仕事の電話はかかってきたが、ゆっくりするのは久しぶりだった。

あれから、馨に触れていない。
触れさせてくれない。
それは当たり前なのだが、裕之は触れたくて仕方なかった。

「今日は掃除する日なんです。お風呂もカビがはえてたところが気になるし」

⏰:11/04/30 20:30 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#697 [向日葵]
「昨日もそう言ってたじゃないか……」

「ほこりは毎日たまるんです!」

馨は次の日にはもう何事もなかったかのようにしている。
あの日は、近くにいてほしくなかっただろうと思い、いつも一緒に寝ているが、裕之は客間で寝た。

馨はいつものように茉里を送り出し、買い物に行き、洗濯をし、きびきびと働く。

でも裕之には全部わかっていた。
馨は平気なふりをしているだけだということ。

彼女はこうみえて、感情をあまり顔に出さない。
なにもなかったように演じろと言えばきっと出来るぐらい。
いや、今現にしているのだけど。

⏰:11/04/30 20:31 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#698 [向日葵]
「茉里は、今日はミュシャちゃんの家に泊まるんだろ?なら丁度いいじゃないか。遠くまで車を走らせて……」

「裕之さん、そんなこと言ってる暇があるなら、庭の草抜きでもしてきてください!」

言い返す前に、ゴミ袋と軍手、熊手を押し付けるようにして渡される。
何か言おうとする前に、洗濯が終わった音が鳴って、馨は行ってしまう。

裕之はため息を吐く。

こうも避けられては、為す術がない。
しかしそれは自業自得なのであった。

⏰:11/04/30 20:31 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#699 [向日葵]
・・・・・・・・・・・・

なにかしていないと、足元がおぼつかなくなりそうだった。

裕之はきっと話をしたいはずだ。話合って、一緒に乗り越えてほしいんだと思う。

彼はひたすら謝るだろう。
ただ、繰り返される謝罪の言葉を、どう受ければいいかわからない。
受けたところで、何をすればいいかわからない。

笑顔で許せばいい?
物を壊すぐらい暴れて怒ればいい?
目を腫らして、過呼吸になってしまうほど泣けばいい?

⏰:11/04/30 20:32 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#700 [向日葵]
そうやって考えるうちに、考えているのがもう面倒になってきて、頭がぐらぐらとゆれる。
だから、逃げるように家事をする。

助けて……。

なにに対してそうしてほしいのがわからないまま、馨はそう心の中で呟いた。

茉里も……きっともう知ってる。
きいたんだと思う。
あの会話を。

その証拠に、裕之がリビングにいると、なるべく顔を出さないようになった。

⏰:11/04/30 20:32 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


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